家族


重い沈黙が続く車内。女性が居てくれたら少しは明るくなったかもしれないけれど。
残念な事に暑苦しく男が3人。
今日は祝日。会社も休みでそれぞれに思う休日の過ごし方があったはずだったのだが。

「……何で俺まで」
「お前にも責任があるからだ」
「予定あんだけど」
「どんな」

後部座席を1人陣取って寛ぐ渉。とはいえ、兄2人と一緒では全くと言っていいほど面白くない。
欠伸をして退屈そうに外を眺める。まだ朝早いからか人気は少ない。

「何でもいいだろ」
「何でもいいような予定なら諦めろ」
「は?ムカツク」
「お前の喋り方も社会人としてどうかと思うが?」
「あーもーなんでお前らは5分と静にできんのじゃ!映画館のガキか!」

また隣と後ろでギャーギャーと喧嘩を始める真守と渉。黙れと怒るが全く効果のない総司。
何故か運転手をさせられているし、どうしたものかと呆れた様子。
そもそもこの仲のよくない3人で出かけるという事がまず間違っている。

「それよりも、情報は確かなんでしょうね」
「ああ。千陽ちゃんから連絡あった。間違いない」
「……でも、どうしてそんな所に」
「なあ、DVD観ていい?」
「お前は少し黙っていろ」

悪態をついてはいるが渋々黙る。これで少しは安心して運転が出来るだろう。
とはいえ、目的地へはまだあと40分ほどかかる。それまでこの重く煩く暑苦しい密室で我慢とは。
総司の中で思い起こされる記憶、それはついさきほどの出来事。



「昨日の夜、僕の部屋に勝手に入り込み不適切なものを放り込んだのはお前だろう」
「ああ、AVの事?いきなり梨香が来てさ。泊めろって言うから。あいつそういうの煩くて」

休みの朝とあってのんびりしたリビング。相変わらずパジャマ姿で朝食を食べに来た渉。
キッチンでは百香里が忙しそうに朝食の準備に追われている。そこに怖い顔をした真守。
その様子を見て何となく察したのか悪い悪いと軽い調子で返事する。

「そもそも恋人が居ながらそんな如何わしいものを買うなんて…信じられない」

昨日は帰りが何時もよりだいぶ遅くなり部屋に入ったのは12時を過ぎてから。
風呂にも入れずパジャマに着替える事もできず。何も考えられなくて疲労だけが体を支配して。
そのままベッドに倒れこんだ。翌朝、起きてみたら部屋にぽつんと見慣れぬDVD。

「買ったんじゃない、借りたんだ」
「……とにかく、早く引き取ってくれ」

手にとって見て顔を真っ赤にする。女性の裸が堂々と載っていて、タイトルもなんだか変。
これが俗に言うアダルトDVDだと寝起きのぼやけた脳でもすぐにわかった。
もちろんこんなものを買った覚えはない。すぐ犯人は分かった。

「観た?」
「観るか!」

からかうように笑う渉。あきらかに馬鹿にした顔だ。

「何ですか?そんな大きな声を出して」
「あ、いえ」
「ねえねえ、女でもAV観るの?」
「やめろ!」
「ま、真守さん?」

自分をからかう分には構わない。でも何も知らないであろう百香里まで巻き込むのは我慢ならない。
気が付いたら椅子に座っていた渉の首元を掴みあげていた。
いきなりの事でビックリする百香里。渉もここまで怒るとは思って居なかったようで驚いた顔。

「……何でもありません」
「そ、そう、ですか…?」
「何かこげているような匂いがします」
「あ!」

いけない!とキッチンへ戻る百香里。彼女が去るのを見てから手を離し席につく。

「そこまで怒る話しかよ」
「朝からする会話じゃない」
「真面目だよなあ、あんた」
「お前が不真面目なだけだ」

柄にもなく無く声を荒げ乱暴な事をしてしまった。何て恥かしい行為をしたのだと反省する。
静かになったものの、何となく手持ち無沙汰で目の前においてある新聞を読む。
すぐに百香里からコーヒーをもらって一息。渉もテレビを観て。

「おはよーさん」
「……ぁあ」
「おはようございます」

そこに背伸びをしながらおりて来た総司。彼もまたパジャマ姿のままだ。
席につくなりテキパキと準備をする百香里を飽きずに眺めている。他から見ればかなり間抜けな顔。
それももう慣れてきたから各自無視を決め込んだりニッコリ微笑んで返したり様々。

「なあ」
「ん?何や?」

珍しく話しかけて来る渉に何処か嬉しそうに返事する総司。

「もしあんたとユカりんの間に子が出来たらそいつが社長になるんだろ」
「んー?何やお前社長したいんか?それやったら」
「僕は速やかに会社を辞めさせていただく」
「誰もそんな事言ってないだろ。ただ…なんとなく、思っただけ」
「せやけど珍しいな。渉が会社の話し自分からするやなんて」

気付けば兄弟3人でコーヒー片手に会話。こんな風に話すのは何年ぶりだろうか。
両親が健在だった頃だってこうはできない。年月のお陰なのか。
兄2人の視線を受けて気持ち悪いと視線を外に向ける。爽やかないい天気。
自分でも何でそんな事を思ったのか、言ったのか。謎。

「総司さーんちょっと手伝ってくださーい」
「はいはいはいーー」

視線をキッチンに向けると何やらビンのフタをあけようと必死に力む百香里。
でも女の力では駄目で。呼ばれた総司がそれを受け取り簡単に開けてしまう。
嬉しそうに微笑む百香里に得意げな総司。朝からバカップル。

「人妻ものでも借りてくるかなぁ…」
「……」
「なあ、あんたもさ。そんな年がら年中気ぃはって生きても意味ないだろ。楽しまないとさぁ」
「……」
「何なら女紹介してもいいし」
「いい加減にしろ。お前の頭の中は女しかないのか?それこそ無意味な人生だな、嘆かわしい」
「そうさしたのは誰だよ」

何やらイチャイチャしている新婚夫婦を他所にまたしても険悪な空気。
普段ならからかい半分で適当に切り上げる渉も不機嫌そうに真守を睨みつける。

「言いたいことがあるなら言えばいいだろう、黙っていたら何も伝わらないぞ」
「偉そうに。あんたはいいだろうさ、仕事さえしてりゃそれで満足なんだから。
それさえこなしていれば誰からも何も言われずにいい子で居られるんだからさ。問題は無い、面倒もない」
「人にはそれぞれに役割があるんだ。お前も松前家の三男としての自覚を」
「あーあー。あんたと話ししてると頭が痛くなる、そうだ、高校ん時の数学教師みたいな。クソ忌々しいハゲ野朗」
「僕もお前と話をしていると頭と胃が痛くなる」
「じゃあ何で一緒に住んでんだ?」
「さあ」

こんなにも合わないなんて思いも寄らなかった。これでも同じ両親から生まれた子どもか。
お互いがお互いの繋がりを信じられない。
話すのも嫌になって静かになった所でようやく百香里が朝食をテーブルに置く。総司も手伝って。
4人そろっての朝食。でも、さっきまであれだけ険悪だったのだからここで笑顔になるわけもなく。

「総司さん。何かあったんでしょうか。2人とも…」
「ああ、ええんや。何時ものことやし。それよりもこれからの予定やけど」
「……」

黙々と食べる真守と渉。確かに何時も喧嘩をしているけど。でも。
今日はお互いに苛々しているように見える。

「ごちそうさん」
「自分で片付けろ」
「命令すんな」
「常識だ」
「は?」

今日は何だかその何時もと違う。百香里にはそう見えて心配でならない。
これじゃ何時殴り合いの喧嘩するかわかったもんじゃない。そんな雰囲気。さっきも何処かおかしな感じだった。
心配になって止めてくださいと総司に言ってもまあまあとかそれよりも、とか。中々腰が重くて。
そうしている間にもさらに険悪になる空気。

「やめてください!」
「義姉さん」
「……」
「ユカリちゃん」

ついに百香里は声を上げた。一斉に此方を見る3人。

「そんなに喧嘩したいですか?傷つけあいたいんですか?もっとお互い歩み寄ってください、
兄弟なのに心が離れてるなんて。思い合えないなんて。私……そんなのいや!」
「ユカリちゃん、そんな、落ち着いて。な?」
「それを止めない総司さんも…嫌い!」
「う、うそー…あ、いや、これは、ほら、兄弟喧嘩の話やし。そんな真面目に受け取らんでも」
「……、……総司さんの馬鹿っ!」
「ユカリちゃ…ん……」

ドンと総司を押しのけ走り去る百香里。彼女が自分を拒むなんて始めてだ。嫌いも、馬鹿も。
一瞬の出来事で頭が真っ白になってしまって動きが止まってしまった。
だが玄関の閉まる音がして慌てて我に返る。百香里が出て行ってしまったのだから。
これはもう大事だ。慌てて追いかけようとして真守に止められる。自分はまだパジャマだった。
こうして出て行ってしまった百香里を追いかけるべく兄弟は街へ。
途中秘書から有力な情報を得て彼女が向かった先はすぐに分かった。



「……」
「月命日は今日と違うで」
「……総司さん」

車を飛ばして到着したのは街外れにある閑静な墓地。その中でも一際目立つ豪華な墓。
先に車を降りて向かったらやはり彼女は松前家が代々眠る場所に座って拝んでいた。
総司が来たことに特に驚いた様子は無く、静に名前を呼んだ。

「2回目やな。ここ来るんは。結婚の報告しに来た時いらいや」
「はい」
「で。今回は不甲斐ない兄貴の愚痴でも言いに来たんか」
「……そうじゃないです」

何時か自分もこの大きな墓に入るのだろうか。何もしてないのに。何だか不相応。
初めて総司と来た時はまだ19歳。緊張しっぱなしだった。
きっと総司の両親が健在だったなら結婚なんて絶対に認めてはもらえなかったろう。
自分だってそんな大企業の次期社長としっていたら付き合っていたかどうか。

「あいつらには言い聞かせる、もっとちゃんと話する。やから、帰ってきて。な?」
「私」
「何やったらあいつらに別んとこ移ってもらってもええし」
「勝手に理想の家族を押し付けてただけですから」
「百香里」

タクシーに乗り込んだはいいが記憶が曖昧で迷って千陽に連絡して教えてもらった。
そこから総司たちが来ることはわかっていたし、彼女にも口止めはしなかった。
思いのほかすぐに来てくれたのが嬉しい、なんて図々しいだろうか。

「家族が大好きなんです。団欒ってものに憧れてるんです。でも一度も揃ったことが無くて。
だから勝手に夢みて妄想しちゃってたんですよね。現実はそんなドラマみたいなものじゃないのに」
「……家族は、ええよな。わかる」

1度目は失敗してしまったけど、百香里との生活はかけがえの無いものだ。
こうして冷え切っていた家族というものを意識する事が出来るのも彼女のおかげ。
ただ、未だに微笑を見せず視線も合わせてくれない百香里が気になる。

「ご心配をおかけしました」
「そんなんええんや。百香里、まだ俺の事愛してるか?嫌になってへんか?」
「はい。こんなに早く我侭な私を迎えに来てくれる優しい旦那さまです」
「我侭やない。……ユカリちゃん」

やっと微笑んでくれた。安心してギュッと百香里を抱きしめキスする。
ご両親の前ですよと彼女が言っても無視して。

「墓前で不謹慎だって怒ってこいよ」
「邪魔しては兄さんに怒られる」
「まあ、俺は最初からこーなると思ってたけどな」

駐車して急いで兄の後を追ってみれば抱き合ってキス。これでは近寄れないと苦笑。
仕方なしに車に戻る。またこの2人。でも喧嘩はせずに煙草をふかす渉。

「調子のいい」
「けどさ。何で旦那が喧嘩してるんじゃなくて俺らが喧嘩してるだけであんなに怒るんだ?
そんなもん関係ねぇだろに。ほんと変な女だよな」
「渉」

何が楽しんだろうなと何時ものようにケラケラとからかうように笑う。
真守はやめろ、と振り返るが煙草の煙が煙たくて。咳き込むとすぐに窓をあけた。

「息子の俺が何やらかしたって眉ひとつ動かさないで仕事に行ったどっかの誰かとは大違いだ」
「母さんは違ったろ。お前を大事にしてた」
「あの人が大事にしたのはあんただろ」
「あれだけ過保護にされていながら。貪欲な奴だな」

母の記憶は殆ど残ってない。兄たちはそれこそ山のようにあるだろうけど。
古い写真を見せられてこれが貴方の母親ですと言われて。
貴方は母親からとても大事にされていましたと言われて。何を思えというのか。

「そうだよ。だから兄貴のものとか欲しがったりする」
「……なるほど」
「でもあのウザい奴とあんたから貰いたいものは何もねぇわ」
「何なら専務という肩書きをやろうか」
「お古はいらねぇ」

暫くして総司と百香里が仲良く手を繋いで戻ってきた。渉は煙草を消して。
真守はすべての窓をあけた。彼女も煙草が苦手だから。少しでも綺麗な空気にしなければ。
弟たちも来ていた事を今頃思い出したのか2人の顔を見るなり堪忍や!と総司は詫びた。

「あの」
「なあ、あんたでも家出とかすんだな。斬新だわ」
「やめろ渉」
「あの、その、そんな大それた事をするつもりはなくて」

百香里もごめんなさいと謝る。もちろん2人ともお帰りなさいと笑顔で迎えた。
彼女を助手席に座らせ真守が後ろにまわる。
運転手である総司からはキツクもう喧嘩はするなよと言われた。

「でもさ。何でうちの墓?」
「その、心配しますから家にはいけませんし。かといって何処かで休むにしてもお金がいりますし。
気持ちを落ち着かせようと公園に行こうと思ったんですけど」
「けど?」
「……何ででしょうね」

笑ってごまかす百香里にこれ以上追求しても可哀想だと話はここで終了。
素直に家に帰ろうとする総司だが途中渉が止めてくれと言ってきた。
パチンコにでも行くのかと呆れる真守だが。

「あんたも降りるんだよ」
「は?」

意味がわからないが手を引っ張られて真守まで降りることに。
去っていく車を見送り。

「2人きりにさしてやろうぜ、それくらい気ぃまわせよ。新婚だぜ」
「なるほど。お前にしては気がきくな」
「それに俺たちも歩み寄る必要がある。だろう?」
「なんだ渉、お前この少しの間で…成長したんだな」
「こっちだ」

妙に感動している兄をある建物に案内する。ニヤリ、とほくそ笑み。

「……おい。これは」
「あんたの性癖がどんなのか知らないけど、俺のお勧めはこのナース系かな」

入ってすぐにヤマシイお店だと気付く。DVDの他にはグッズなども置いてある。
まだ朝とあって客は少ない。キョロキョロと不自然なくらい周囲を確認する兄に呆れつつ。
お勧めDVDを見せると見る見る、それこそ熟しきったトマトみたいに顔が赤くなっていく。

「な、何を…や、やめろっ見せるなそんなものっ」
「あんたまさか女のアソコみたこと」
「やめないかっ……か、帰るっ」
「邪魔しちゃ悪いだろ。それよりもさ。どうよこういう玩具とかあの美人秘書とさぁ」
「あ……頭が痛くなってきた」

こいつと歩み寄るのは絶対に無理だ。頭がクラクラしながらそれだけははっきりと悟った。
それからも執拗にヤラシイものを勧めてくる渉。外に出て喫茶店にでも入ろうという提案は無視。
どうやら相手も真守の趣向に少しでも合わせようとか歩み寄ろうという気はないらしい。



「ユカリちゃん。なあ、もっぺん言うて」
「総司さん大好き」
「ユカリちゃん」

マンションに戻るなり百香里を抱き上げて寝室へ向かう。百香里もなんとなく想像していたようで。
特に抵抗もなく抱きついて、ベッドに寝転びキスして服を脱がされる。
総司も服を脱ぎ散らかし百香里の胸に顔を埋め寂しかったと何度も言って甘える。

「お墓に行ったら身が引き締まりました。私が皆さんに甘えてたんだって。我侭だったんだって」
「そんな事ない。ユカリちゃんはめっちゃ頑張ってる…俺にはもっともっと甘えてええ」
「…何時か、立派に貴方を支えられる奥様になれたらいいな」
「そう思ってくれてるなら大丈夫や」
「あと総司さんの大事な家族も」
「いやや!僕だけのユカリちゃんやのにーー!」

駄々をこねるように顔を左右に動かす。柔らかな胸の感触を味わいながら。
百香里はくすぐったくて身を捩るけれど、しっかりとその頭を抱きしめてオデコにキスする。
総司を愛しているから、総司の家族も何より大事。だからこそ自分の夢を重ねてしまった。
松前家の墓前に立って、写真で見た義父の厳しい眼差しを思い出す。

「…総司さん」
「なに?ユカリちゃん」
「指」
「うん」
「あ…ん…まだ…はやい…」

心ここにあらずの百香里を引き戻すべく指をソコへ這わせる。何時もはゆっくりネットリと攻める場所。
でも今日は違う。指を一本上下に滑らせその刺激で姿を現した淫核を指で掴み。
こりこりと集中的に刺激する。いきなりは嫌、もっとゆっくり。と百香里は言うけど。

「嫌やないやろ?百香里」
「あ…ん」

耳に舌を這わせながら意地悪く囁く。開いたほうの手は胸を揉みしだき。
指を抜いたかと思えばすぐに足を広げさせ硬くなったモノが入ってくる。
もっと丁寧な愛撫をしてくれるのに。痛みはそれほどないが何時もと違う総司に戸惑う。
もしかして怒っているのだろうか。
そんな百香里の視線を感じたのか、目があうとニッコリ微笑みその唇にキスする。

「今はえっちに集中」
「はい」
「そうやなあ。今日は立ったままいこか」
「え?ど、どうやって…」

繋がったまま寝転ぶ百香里を抱き起こし壁へ連れて行く。よく分からない様子の百香里。
そこで一端総司が向きをかえる為体を離す。言われるままにとりあえず壁を向き両手をついて
少々お尻を突き出した。これってどういう事?何をするのだろう。

「これの難点はユカリちゃんの可愛いー顔が見れんちゅー事かな」
「んっ…これ…で…するんですかっ!?」

百香里の腰を掴みその柔らかなお尻の肉を掻き分けて再び中へと侵入する。
バックでの行為は何度か総司に乞われてベッドの中でやったことがある。正直あまり好きじゃない。
けど今回は壁に手を付いて立ったまま。軽いパニックになる百香里だが、後ろからの突きが始まる。

「そうや。ここにおっきなガラスはろ。そしたら見える」
「……や、やです…」
「恥かしい?」
「…はい」

始めは恥かしがって声を抑えていたけれど、パンパンと肉と肉がぶつかる音が響いて
尚且つ総司が彼女の体が好む場所を的確に突いてくるものだから感じてしまって。
体も熱くなり声も大きくなってきて、百香里もその気になる。

「それやったらこんなポーズしたらもっと恥かしい?」
「あっ」

やっとこの恥かしい体勢に慣れてきた所なのに。総司はさらに高めるべく百香里の片足を掴み上げた。
若くてしなやかな体。思っていたよりもすんなりと高く上がった。
足を上げたことでさらに中への攻撃を強め突き上げる。結構体力を使うのに止まらなくて。
百香里の方が20歳も若いのにもう息も絶え絶えで。倒れまいと必死に壁にしがみついた。

「めっさ足上がるなぁ。ユカリちゃんバレリーナになれるんと違う?」
「あ…あ…もう…やぁ…」
「嫌か?ユカリちゃんがこんなグデグデなってんの久しぶりやのに…ほら」
「あんっ!…もう…意地悪…」
「そか?それやったらもっと意地悪したろー」

分かっている癖にわざと焦らしてきたり、かと思えば思い出したように突いてきたり。
もう駄目ですと涙目になってお願いすると渋々ではあるが無事ベッドに戻れた。
総司曰く、イクなら顔をみないと嫌との事。壁にガラスが貼られる日はそう遠くない。

「あっ…あ……ぁっ」

何度目かの絶頂。部屋にある時計が12時を知らせるチャイムを鳴らせたのに。
旦那さまが許してくれることはなく。休憩を挟みつつ啼かされる。
よほど朝の出来事が堪えたらしい、今日はもう何処にも行きたくないとまた駄々をこねる。


「なあ、ユカリちゃん」
「はい」
「俺今めっさ腹へっとるんやけど」
「私だってぺこぺこです」

ベッドの中。百香里を抱きしめて時計を見れば1時。通りで空腹な訳だ。
その所為か百香里の返事も何処か不機嫌さが漂う。

「そういえば。あいつら今なにしてるんやろ」
「まだ帰って来てないみたいですね」
「まあ、ええ大人やし自分らで食べるやろ」
「問題は私たちですよ。総司さんのお陰でもう一歩も動けません」
「あん。ユカリちゃんが可愛いから〜」
「ですからお昼も夕飯も総司さんお願いします」
「ゆ、ゆかり?」

そういうと布団をかぶって眠ってしまった。出来たら起こしてください、と付け加えて。
冗談かと思い彼女を揺さぶってみるがお腹空きました早くしてくださいとのこと。
暫し考え。これはマジだと悟ると服を着てキッチンへと向かった。



「な?案外楽しいもんだろ?パチンコ」
「……僕はビリヤードがしたいと言ったはずなんだが」
「似たようなもんだって」
「全く違うものだ」

4時を過ぎたあたりで真守と渉が帰ってきた。結局DVDは買わずに。
今度は自分の趣味に付き合えとビリヤードに誘ったら最終的に案内されたのはパチンコ店。
あれよあれよと中へ引きずり込まれ意味も分からないままにどんどん玉を目で追って。
ルールも何もわからないまま渉は別の所へ行ってしまうし。煩いし。最悪だ。

「おかえりー」
「……」
「……」
「何や。おかえりー言うたらただいまーやろ?」

リビングへの扉を開けるとそこに居たのはエプロン姿の総司。

「何?まだプレイ中?」
「見てわからんか?夕飯つくっとる最中や」
「兄さん料理出来るんですか」
「これでも1人暮らし経験者や。任せとき」
「ムサイおっさんの手料理食うのかよ、マジ勘弁」
「あの、義姉さんに何か」
「買い物行った」

何時もなら百香里がせっせと料理の準備をしている場所に総司がいる違和感。
料理は得意らしいから味の方は安心していい、と思う。
ただ百香里が総司に料理を任せて買い物というのが引っかかる。
あれからまた何かあったのか。にしては総司は楽しそうに料理しているけれど。

「買い物ねえ」
「なあ、お前ら。家族に夢みたってええやろ?そんなアホみたいに仲良し家族でなくても。
ユカリちゃんはその、ちょっとばかし気ぃ張りすぎな所もあるけど。そこも可愛いし。好きや。
強制はせん。それが嫌やったら出てってくれてええし何やったら俺がユカリちゃんと出てく。
頼むわ、出来るだけでええから。百香里を泣かさんでくれへんか……ほんまに、頼むわ」

百香里が望む家族になるのは恐らく無理だろう。でも、少しだけでいい嘘も混じっていてもいい。
家族っぽさを醸し出してくれるだけでいいから。彼女の夢を壊さないでほしい。
深々と頭を下げて弟たちに頼みこむ。本気のお願い。こんな兄を見るのは恐らく初めて。

「じゃあ給料俺だけゼロ1個増やしてくれよ」
「そんな馬鹿な申し出を受ける必要はない。お前も図に乗るな!」
「うるせぇなあほんの冗談だろ?」
「あ、あのな。お前ら、言うたそばから」
「僕は特に異議ありません」
「……別に。俺もねぇけど」
「そ、そうか?」

にしては険悪な気がするのだが。とにかく、百香里の為にこれからは少し妥協する事に。
真守は多少許せない事があっても見ないフリをしてでも我慢。渉も余計な事は言わず黙る。
百香里に対しては2人ともいう事を聞くから問題はない。
と。生まれて初めての兄弟会議をして今後のプランが上手く纏まった所で玄関が開く音。

「ただいま戻りましたー!」
「お帰りユカリちゃん」
「そんだけか?思ったより少なかったな。何買ったんだ?」

ニコニコ笑顔で帰ってきた百香里。手には大きな紙袋。ドスン、と音を立ててソファに置いた。
3人はてっきり今日の気晴らしに自分の服を大量に買って来たのだと思った。
もちろんそれを咎める気はない。むしろもっと買って来たってかまわないとさえ思っている。

「少し予算オーバーしちゃいましたけど…」
「何こうたん?」
「はい。色違いのセーター」

袋から黒のセーターを出して総司に渡す。色違いと言っているのだから百香里とお揃いか。
夫婦でペアルックも悪くない、と素直に受け取る。

「あのさ、……俺何かいやな予感がしてるんだけど」
「何がですか?」
「あんたが持ってるその服、俺に渡そうとか思ってないよな」
「思ってますけど。はいどうぞ」

続けて真守と渉にもぽんぽんと服を渡していく。つい受け取ってしまったけど。
これは兄弟で同じ服を着ろということなのか。
つい今百香里の為に兄弟出来るだけ仲良くしようと決めたばかりだが。

「あんたの頭んなかどうなってんだ?」
「渉それは言いすぎだ」
「ユカリちゃんとペアルックならまだぁ…はは…は」

複雑な表情をする渉。真守も言葉につまり。総司もさすがにこれは嫌らしく引きつった笑み。
迷惑をかけたからお詫びに買って来たらしい。自分が結婚前に貯めていたお金で。
そう高価なものではないけど色の好はあっている。彼女らしいといえばらしい。

「駄目…ですか?」

3人の反応を見て俯く百香里。やっぱり安物はまずかったろうか。

「ユカリちゃんセンスええから、これ着たらなんぼか若返って見えるやろか」
「無理無理。……でも、まあ、悪くはないかな」
「ありがとうございます、義姉さん」
「あの、無理して…」
「ないない。ユカリちゃんありがと。…でも次はペアルックやで」
「あ。大丈夫です!私のもあるんですよ!」

頃合を見計らい最後の1枚を取り出す。4人色違いで同じセーター。
自分たちの歳を考えると苦笑いするけれど。百香里の笑顔を見て付き返すなんて出来ない。
何時か着るとだけ返事して各自の箪笥にしまった。放置は可哀想だから1回くらいは着よう。



「ほらほら。今日もユカリちゃんとペアルック〜」
「総司さん」
「な?可愛いやろー」
「……」
「……」

ただ総司だけは好んでその服を着てペアを喜び百香里に甘える。
よくやる、と呆れきった弟たちの冷めた視線にも何処吹く風。

「じゃあ俺が着たらどうなんだ?」
「面白そうだな。じゃあ僕も」
「あ!あかんって!今日はユカリちゃんとペア」
「いいですね」
「ゆ、ユカリちゃんー!」


おわり


2008/12/11