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「たまにはこういうのも刺激があってええな」
「私は普通がいいです」
「ユカリちゃぁん」

外は真っ暗。駐車場は道路からは少し離れているから見られることはないと思う。
でも窓にカーテンは無いし高級車だけに座席の質がいいとはいえ寝転ぶと背中が痛い。何より狭い。
長身で体格もいい総司に乗られると小柄な百香里はちょっと大変。

「ん……あぁ…なた」
「観念し」

まだ納得できていない様子の百香里を下に寝かせ、深いキスをしながら胸を弄り、
ショーツ越しに割れ目に沿って指でソコを上下に優しくなでる。何度目かの行き来で突起を見つけ。
そこをツンツンと突いたら百香里の声色が吐息のようなものに変わった。

「ぁあん…」
「可愛いな。見たことないパンツやけど、もしかして下着までおめかし?」
「……そ、そういうんじゃ」
「ほな次はめっさ食い込み入った奴で。何やったら俺買ってくるわ」
「えぇ…ぁんっ」

ショーツを脱がせると直に刺激がしてさっきよりもまた大きな声を上げる。
幾らでもだしたらいい、ここは誰にも聞こえないから。そう耳元で囁く総司。
百香里は我慢する余裕もなくなって何時ものように声を上げる。

「さあユカリちゃん。そろそろ…」
「総司さん痛い…」
「あ。ごめんな、まだ足りへんかったかな」
「そうじゃなくてこの体勢がその、ちょっと」

最初は嫌がっていた百香里を少々強引にだが満遍なく愛撫し、その気にさせて。
こちらも準備万端なモノを入れようとする総司。先っぽまでいった所で思いのほか妻は嫌そうな顔。
痛いのは愛撫が足りなかったのかと思ったがそうではないらしい。
一旦体を離して暫し考える。

「それやったら俺が下にくるから」
「大丈夫ですか?腰」
「あ。俺の事おっさん扱いしたな」
「そ、そういう意味じゃないです。ここ寝心地あんまりよくないから」
「大丈夫大丈夫、ほら、ユカリちゃんおいで」
「……総司さん」

そういうと百香里の変わりに下に来て自分の膝をパンパンと叩いて百香里を待つ。
その姿がちょっと可笑しくて。クスクス笑いながら総司に跨った。
少しずつ熱いものが入ってくる。ちらっと見ると総司も感じているのか声が漏れる。
完全に座り終えるとこっちおいでと抱き寄せられ軽くキスをして。
どちらかともなく腰を動かし始める。

「う…気持ちええけど…ちょっと痛い」
「でしょう?」

百香里は総司に跨っているから辛くない。下手なりに腰を振り甘えた声を出す。
下ではやはり少々苦しいのか時折突き上げを休憩する総司。

「ああ、ユカリちゃんのおっぱいに癒してもらお」
「ん。…あなた」

大丈夫ですか?と顔を近づけた百香里の胸を揉み。

「百香里」
「ずっと、一緒に居てくださいね」
「居るよ。居る」
「あ…あん…あぁっ」
「百香里…」

少し前に出てもらってぷるんぷるんと揺れる胸に顔を埋める。それが良かったのか突き上げは強くなり。
パンパンッとお尻に当たる音がして、その度に限界が近づき息も荒くなる。
最後の方ではもう自分から腰を動かすことができなくてされるがままの百香里。

「あぁ…あぁ…ぁ」
「百香里……」

ほど無くして果てる。今回も避妊具は使わず全てを受け止めた。

「年甲斐もなく車でやるもんやないな」
「……だから言ったじゃないですか」
「ユカリちゃんに若ぶってもしゃぁないのにな。はは」

そのまま暫く抱き合っいたけれど、ここで夜を明かす気はない。素早く衣服を整えて帰りの車内。
百香里はもちろん総司も足腰が痛そう。明日はもしかしたら筋肉痛かもしれない。
だから言ったじゃないですか、と苦笑する百香里。ほんまやな、と総司も同じように笑った。

「若いとか若くないとか関係ありません。総司さんかそうじゃないかの違いだけです」
「うれしいな」
「貴方もそうですよね?」
「あたりまえやん」

体は痛いけど、心は満たされたから。乱暴なのは嫌いだけど今回はよしとしよう。

「すいません、何だか偉そうに」
「俺の唯一の女やで、百香里は」
「総司さん」
「ユカリちゃんの笑顔をみとったらまた疼いてきたわ。こりゃ帰ったら鎮めてもらわなあかんわ」
「もうですか!?」
「僕こっちはマダマダ若いみたい」
「……ですね」

百香里は引きつった微笑を浮かべる。総司は冗談めいて言っているけど、帰ったら本気で続きをする気だ。
そんな妻の気分を盛り上げる為にと交際していた頃の思い出の音楽をかけて昔の話をしながら、
車はあっという間に家であるマンションに到着。

「どないしたん?入ろ」
「手」
「え?手?」
「繋いでくれなきゃいやです」

何度見てもこんな高級マンションに自分が住んでいるという実感が湧かない。
家賃を聞いた時は倒れそうになった。住民とは大して交流は無いけど皆確実にお金持ちだ。
総司と一緒なら平気だが自分1人だけど未だにすれ違うたびに身が縮まる。

「これでええ?」
「はい」

そんな事を考えながらボーっとマンションを眺めていた百香里を車を駐車場にとめて来た総司が呼ぶ。
甘えた声を出して手を伸ばすと笑いながらも総司も手を伸ばす。すぐに手を握り締めて部屋へ。
カードと暗証番号で入り口のロックを解除してエレベーターに乗り最上階へ。

「ユカリちゃん」
「あ…ちょっと…ここ監視カメラついてますから」
「ちょっとチューするだけ。チューや。な?」
「開きましたよ。行きましょう」
「はーい」
「チューは後で沢山しますから」
「うん」

ニコニコしている総司に顔を赤らめる百香里。意地悪しないでください、と呟くがきっとまたされる。
愛妻の困った顔や恥かしがる顔が好きな困った旦那さまだから。手を繋いだまま自分たちの部屋へ。
この時間なら真守は部屋で仕事、渉はリビングで寛ぎながらテレビを見ている頃だ。

「お帰り」
「おう。ただいまー」
「ただいま戻りました」

入ってみると百香里の想像通り。広いリビングでまたしてもビール片手にテレビを見て笑う渉。
真守は部屋に居るらしく静かなものだ。
2人が帰ってきて少し驚いた様子の渉だったが直ぐに視線をテレビに戻す。
百香里は彼らが食べた夕食の片付けをする為にキッチンへ。総司はソファに腰掛ける。
疲れているだろうし明日でいいと言われたが明日は明日の準備がある、と総司を説き伏せた。

「真守さんはお部屋ですか?」
「ああ、何が楽しいんだか。部屋に篭ってお仕事お仕事」
「じゃあ何か差し入れを」
「コーヒーをいただけますか」
「あ。真守さん。はい」
「お帰りなさい」
「ただいま戻りました」
「聞こえてたぞ渉」
「あーそー」

帰ってきた音を聞きつけたのか真守が部屋から出てきた。その表情は疲れていて顔色もよくない。
総司と百香里に挨拶するとソファに座ってテレビを見ている渉を睨みつける。
渉は聞こえない見えないフリで無視しているが。

「顔色ええないで?大丈夫か?」
「誰の所為ですか」
「う。……お、お前か渉」
「あんただろ社長さま」

コーヒーを貰うと椅子に腰掛ける。3兄弟でソファに座る気はないようだ。
後ろで醜い責任の擦り付け合いをする兄と弟に苛立ったのか。怖い顔をして。

「両方だこの馬鹿兄弟」

と普段は口汚い事は決して言わない真守の攻撃。

「真守に馬鹿言われたぁ〜ユカリちゃん!」
「本当だ。あまり顔色よくありませんね。今日はもうお休みになったほうがいいです」
「大丈夫です」
「駄目です。お願いします、今日はもう休んでください」
「義姉さん」
「ゆ、ユカリちゃん!?」
「総司さんだって渉さんだって真守さんのこと心配ですよね!ね!!」

百香里の何時にない熱の入った言葉と視線。これで文句が言えようか。

「し、しんぱいに決まってるやろ。お前もう寝とけ、明日も昼からでええからな」
「……まあ、倒れたら大変だろうし。いう事聞いといたら」
「兄さん、渉…」

心にも無い事を、と思ってはみたけれど。やはり気にして貰うのは嫌ではない。
兄と弟、そして義姉に言われて今日はもう仕事はやめて眠ることにした。

「さ。寝る準備してください」
「え。あ。それは自分で」
「駄目です。真守さんにお任せすると見てないからって無茶なさるから」
「はは、見透かされてら」
「渉!本当に大丈夫です、だから」
「さ。行きましょう」
「ね、義姉さんっ」

困惑する真守を他所に失礼します、と彼の部屋に入っていく百香里。
何時も掃除や着替えを入れるので部屋には入りなれている。兄と弟に挨拶してそれに続く。
こうなればもう何もかも義姉の言う通りにするしかない。仕事は明日に持ち越して。

「無茶しないでください、たまには休憩する事も大事です。お忙しいでしょうけど総司さんが居ますし」
「……そう、ですね」
「総司さんはやってくれます。信じてください」
「義姉さん」

部屋に入るなり真剣な顔で訴える百香里。真守が真面目で仕事に一生懸命なのは分かっている。
でもこのままでは本当に倒れてしまうから。それだけは避けたいから。
その真剣な眼差しについに根負けした。以前ならありえない事だ。苦笑しつつベッドに入る。

「偉そうでごめんなさい。おせっかいなのは性分みたいです…」
「明日は休みを頂きます、僕はまだ倒れる訳にはいかないから」
「そうしてください」

部屋の電気を消す百香里。念入りに眠ってくださいねと真守に言う。
口うるさくてうざったい嫌な奴だと思われるだろうけど。それでもいい。
総司の大事な弟。そして家族なのだから。体を大事にして欲しい。

「ここはいいのでもう戻ってください。兄さんが貴女を奪われたと怒る」
「何かあったらすぐに呼んでくださいね」
「はい」
「お休みなさい」
「お休みなさい」

真守の部屋を出る。廊下には総司が心配そうな顔をして立っていた。2人を怪しんだ訳ではなくて、
純粋に真守が心配だったようだ。どう?と聞かれて大丈夫ですよ、と答えると安心したと微笑んだ。
ただ明日は休むそうです。と言ったらとても不味い顔をして自分も休むとか言っていたけど。
たぶん朝になったらまた何時ものように千陽に引っ張られて行くだろう。

休憩をとった専務の分も上乗せの仕事をする為に。



「ユカリちゃん僕おなかいたいぃ」
「痛くないです」
「全身筋肉痛やぁ」
「さっきまでぴんぴんしてたじゃないですか」
「ゴホゴホッ……風邪気味やねん」
「総司さん」

翌朝。想像通り駄々をこねる総司。柱である真守が休みとあって上乗せは確実。
体のほうは見たところ痛みはないようで。百香里も筋肉痛などは無かった。
でももしかしたら明日あたりに来そうなきもする。

「はい」
「お仕事頑張ってくれないと暫くえっち抜いちゃいますよ?」
「そ、それは!!!あかん!」
「じゃあ頑張りましょう」
「……頑張るわ」
「頑張る総司さんとっても素敵」
「あ。そうや、今日を会社の休みにし」

グイッ

「おはようございます社長。さー今日も元気よく参りますよー」
「いやや!ユカリちゃんに優しく見送られたい!」

いいタイミングで千陽が来た。さあ行きましょうと総司の首根っこを掴む。
何時もはそれで引っ張られてさようなら、なのだが。粘り強く嫌だと駄々をこねる。
よほど行きたくないらしい、真守の居ない会社へ。

「美人秘書のお迎えの方がいいでしょう?ほら!しゃんとしてください!」
「いややー!ユカリちゃんのチュウで気合を」
「そんなにチュウしてほしいなら後で俺が嫌というほどしてやっから」

イヤイヤと首を振る総司を千陽よりも強い力で強引に連れ出したのはなんと渉。
あっという間に静かになる部屋。今日も頑張ってね、と言いたかったのだがタイミングを逃した。
でもまあ、いいか。どうせ昼になったら甘えた声を出して電話をかけてくるのだろうし。
自分もそれを楽しみに家事をする。なんていうのは内緒だけど。

「あほか何でおのれの…ああ気持ち悪いわ!」
「はいはい仕事仕事ー」
「珍しいわね、渉さんが協力的なんて」
「廊下で騒がれると寝てる奴がおきる」
「ああ。貴方って意外にお兄さん思いなのね」
「はぁ?…今あいつに倒れられると困るだけだ」

駐車場まで一緒におりて来た。まさか渉が手伝ってくれるなんて驚きだ。
兄弟であっても知らぬフリで通し絶対に手伝ってくれない人なのに。
千陽はブツブツ文句を言う総司を車に乗せ渉にありがとうございました、と礼を言った。
本人は別に、と無関心そうに自分の車に乗って先に行ってしまったけど。


「真守さんいけません」
「しまった」
「今日は休みをとったんですよね。これは必要ありません、寝てください」
「……厳しいな」
「ゆっくりしてください」
「はい」

洗濯を終えて、眠っているはずの真守の様子を見に行けば机に向かって何やら難しい顔。
何をしてるんですかと慌てて部屋に入ると真守も驚いた様子で手からペンが落ちる。
その後は問答無用で強制的にベッドに戻された。

「お昼何がいいですか」
「僕に気を使わないでください」
「何時も適当に冷蔵庫にあるものを食べちゃうので、あ。今のは総司さんには内緒でお願いします……」
「はい」
「じゃあ、お昼までに考えておきますので。真守さんはちゃんと寝ててくださいね」
「はい」

1日休んだくらいでなんとかなるとは思わないけど、何もしないよりはいい。少しでも休んでほしい。
キッチンむかうと冷蔵庫を開ける。実家のとは比べるのも失礼な巨大な冷蔵庫。
お昼は何にしようか、と悩む。何時もなら即決してしまうメニューだが今日は真守が居る。
下手なものは食べさせられない。

プルルル…プルル…

「はい、松前です」
『あ、あの、ユカリちゃん?私だけど』
「あ。どうも千陽さん。なにかありました?」

総司からだと思ったが意外にも電話の主は千陽。何かあったのだろうか。
また逃げ出したのかとヒヤっとしたが声の雰囲気は特に怒っているわけではない。

『専務…どうです?』
「真守さんですか?寝てます、一応」
『そう。あの、何か、出来る事ないかしら……あ、いや、秘書として色々と』
「特には…」

どうやら社長が逃げ出したのではなくて休んだ専務が気になるらしい。
さすが秘書そこまで気を使うのか。立派だな、と思いながら大丈夫ですよと返事をした。

『そ、そうよね。ゆっくり寝てもらうのが一番なんだから。ごめんなさい。ははは』
「あ、そうだ」
『なに!!!!』
「千陽さん…?」
『あ。いえ、なんでしょうか?』
「お昼何か栄養のあるものを食べてもらいたいんですけど、材料が」
『わかったわ。昼に買い物をしてお邪魔するから』
「でもお仕事」
『これも仕事ですから、それでは』

何だか何時もと違う千陽に暫し呆然。朝も何時ものようにクールに総司を連れて行ったのに。
やっぱり要である真守が居なくて大変なのだろうか。総司は頑張っていないのだろうか。
とりあえず受話器を戻す。部屋の掃除をしようと掃除機に手を伸ばした。

「…あれ?千陽さん、何を買ってきてくれるんだろ?」

まあ、栄養があればいいか。と気楽に考えて掃除をはじめた。
そして迎えたお昼。


「はい。どうぞ」
「……えっと、あの」
「なにか?」
「これ、ぜんぶ?」
「これだけあれば栄養満点でしょう!ね!」
「……は、はあ」

目の前には高そうな箱にはいったこれまた高そうな霜降り肉。それも切ったものじゃなくて塊で。
一瞬何が起こったのかわからずつい肉と千陽を交互に見てしまった。
早く冷蔵庫いれちゃって!とせかされて慌てて肉を取り出し冷蔵庫へ。その重い事。何キロあるのか。
いったい幾らするんだろう。そして何故肉だけなんだろう、聞きたいけど聞けないこのむずがゆさ。
でもって千陽は普段から料理しない人だと思う。

「義姉さん?」
「あ、専務大丈夫ですか?その、お加減は」
「ええ、少し休ませてもらったので。貴女がここに居るという事はまさか何か」
「差し入れを持ってきてくださったんです」
「差し入れ?……僕に?」

騒がしくなったリビング。それに気付いたのか眠っていた真守が起き上がり様子を見に来た。
まさかそこに秘書が居るとは知らずに。パジャマ姿で少々恥かしい。
気にしませんから!と千陽は笑顔。やっぱり何時もと少しテンションが違うような気がする。

「じゃ、じゃあ私はこれで」
「あ。あの、もうお昼ですし宜しければ一緒にご飯如何ですか?」
「でも」
「僕は構わないよ、現状報告してほしい」
「真守さん」
「聞くだけですから」

という事で3人での昼食となったわけだが。冷蔵庫を開けて唸る。この肉どうしよう、と。
後ろでは千陽に何やら難しげな報告を受けて真面目な顔で返事をする真守。
何時もああなんだろうな、と苦笑する。この調子なら多少時間が遅くなっても大丈夫そうだ。
気合を入れなおして本日のメニューを決定した。


「わかりました、とりあえず大きな動きもなく安定していて良かった」
「専務が1日いらっしゃらないだけで傾くようなら私は転職してます」
「はは、確かに。僕が居なくても会社は成り立つ、分かっていてもつい力が入ってしまって」
「社長がもっと自覚を持たれて先頭に立って指示してくだされば問題はないのに」

朝の光景が頭に浮かぶ。いい加減新婚気分はやめていただきたい。
若い嫁というのは嬉しいだろうけど。こちらにも生活というものがかかっている。
自分だけでない、数多くの社員のもだ。来る時もグダグダ何か文句を言っていたっけ。
まさに頭痛の種。

「有能な人なんですよ、兄も渉も」
「有能なのは専務じゃないですか」
「僕はただ目の前にある事を処理しているだけです。父さんの血を受け継いでいるのは兄さんと渉だ」
「それも使わなければ意味がありません。出来るくせにしないなんて。そんなの皆に失礼ですよ。
しかも専務に激務を押し付けて限界まで働かせて。……、最低じゃないですか」
「御堂さん」
「あ、いえ、すみません。口が過ぎました」
「義姉さんの居る前でそういう事を言うのは控えましょう、あの人は純粋に兄を見ているから」
「はい」

視線をキッチンに向けると何やら忙しそうに料理をする百香里。
気にするなといってもやはり手の込んだ料理を作るつもりらしい。あの人らしい、と苦笑しつつ。
さっきの会話が聞かれていないことに心から安心した。千陽は居づらくなったのかそわそわとして、
手伝ってきます!とさっさとキッチンへ向かった。

「もう出来上がりですから、運んでいただけますか」
「すご。え?これ、あの肉?」
「はい」
「は、ハンバーグになってる」
「嫌いじゃないですよね?」
「すごい」

12時を少し過ぎたがテーブルの上には店で出されてもおかしくない料理が並ぶ。
これを全部作ったのかと千陽は驚くがいつもの事なので真守は特に驚いた様子は無い。
いただきます、とひと口ほうばる。

「ん。美味しい!やっぱりお肉が違うと格段に美味しいですね」
「すみません。その、手間をかけさせちゃって…」
「いえ。食べたい気分だったんです、丁度美味しそうなお肉を頂いたし」
「あはは…」

真守がありがとうございます、と言うと少し恥かしそうに微笑む千陽。
百香里にも何となく分かった気がした。彼女がここに来た理由。

プルル…プルルル…

「はい。寂しくて死にそうなユカリちゃんの旦那さまでぇーす」
『そういうふざけた事を言う歳ですか恥かしい』
「げ。何やお前か。ユカリちゃんの携帯からかけてくんなや」
『取次ぎなしで尚且つ居留守を使われずに貴方に直に話が出来るのはこの携帯だけなので』
「で。何や」

不機嫌そうに電話に答える。百香里だったら機嫌はもっとよくなったはずなのに。
此方は1人で昼を終わらせた総司。家では百香里と真守、そして千陽が3人で昼食。
それなら自分だって混じってもいいはずなのに。秘書曰く、会社に戻らなくなるから駄目とのこと。
その通りではあるが、それだけにいけなくて拗ねている。

『真面目に仕事をしているか確認してほしいと言われたので』
「しとるにきまっとるやろが。何処のドアホじゃんな事言うんは」
『……酷いです、確かに私あほかもしれないけど』
「い、いやん!ユカリちゃん?違うで、ユカリちゃん違う!」
『真守さんにお願いしたのは私ですから、間違ってません』
「いじめんといて……泣きそうや」

しかもそのタイミングで百香里にかわるなんて、絶対に悪意がある。

『じゃあ、お仕事頑張ってくださいます?』
「もちろん!今日も気合いれてやったる!」
『はい。じゃあ、待ってますね』
「うん!まってて!」

と、笑顔で答えるが通話が終わると苛々っとして携帯をマナーモードにする。
百香里に与えた携帯なのに。ちょっと嫉妬。いや、だいぶ嫉妬。もう帰ろうかな、くらいの勢い。
そこにブルルと携帯が震える。またか、と見るとそれはメールで。

『今夜は凄いですよ。楽しみにしててくださいね! 百香里 』

という期待してしまう内容。短い文章ながら画面を何度も見てニコニコ。
さっきまでの嫌な気持ちなど吹っ飛んでしまう。やっぱり百香里は可愛いなあとしまりのない顔。

「やる。絶対やる!」
「社長どうかなさいました?」
「まっとってな!」

気合を入れなおす総司。その後は遅れて来た千陽も驚く速さで仕事をこなした。
休みを取った専務の分も。愛する妻のために。凄い事の為に。



その夜。

「はい。どうぞ」
「おー。美味そう」
「でしょう?という事で暫くはお肉三昧です」
「げ。そりゃちょっと引くな」
「いいお肉もらっちゃったんですけど、結構量があって。男の人が3人も居るんだしすぐですよ」

目の前には鉄板の上で美味しそうにジュージュー焼けている肉。

「あの……凄いって、これ?」
「はい。凄いでしょ?こんなに美味しいお肉そうそう食べられませんって!」
「いいねえ肉ぐらいでそこまで喜べて。あんたのそういう所嫌いじゃない」

豪華ステーキを前にこういうオチか、と落胆するけれど。まあ百香里が喜んでいるしよしとしよう。
しかし何故大量に肉があるのか。百香里は高いものには手を出さないのに。謎だ。
真守には肉ではなく魚だし。まあそれはベッドの中でゆっくり聞くとして。
元気をつける意味でも美味しく焼かれた肉を食べた。


「あん」
「百香里…今夜は凄いんやろ…」
「総司さん…」
「俺も凄いで」
「あぁん……知ってます」
「百香里」
「……ぁ」

結局事情説明よりも先に愛妻とのえっちに走る総司であった。


おわり


2008/12/06