第6話
愛しい妻との別れを惜しむ間もなく強制的に会社へ向かえば怖い顔をした弟に難しい顔した社員たち。
目の前には難しいことが書かれた報告書に新しいプロジェクトがどうとか予算がどうとかの会議。
ちょっと百香里の声を聞こうと電話をしただけで怒られる。美人だけど冷たい秘書には尻を叩かれるし。
そんな総司が待ちにまった日曜日。
「ユカリちゃん…」
日曜日なのだから仕事は休み。誰が何と言おうと休み。心置きなく妻に甘えられる。
という事で朝から奥様にちょっかいを出そうと起きるなりベッドでモゾモゾする総司。
昨日も遅くまで寝かせてもらえなかった百香里はまだ眠っていて。
ちょっかいを出されても少し反応するだけで寝返りをうっている。
「……ん」
「ユカリちゃん」
そっぽを向いてしまった百香里を後ろから抱きしめ彼女の黒く艶やかな髪に顔を埋める。甘い香り。
何と言うシャンプーなのかしらないが彼女が選んできたものだからそう高価なものではないだろう。
自分も同じシャンプーなのに、彼女のは特別甘く感じる。
「……ん。…ぁ…いけない。…ごはん」
「飯はええよ。自分らで食べる」
その心地よさにグリグリと顔を埋めていると流石に起きたらしく部屋の計を見て慌てて起き上がろうとする。
せっかく甘える気満々だったのにそれは嫌だ。日曜日くらい休もうとその体を抱きしめて止めた。
そのまま再び暖かな布団の中へ百香里を閉じ込める。
「…でも洗濯」
「ええって。日曜日やし、ユカリちゃんも休み」
「総司さん」
朝食の準備も洗濯も観葉植物への水やりも身に染みている事だからしないと何だかモヤモヤする。
でも総司にがっちりと抱きしめられて身動きが取れない。甘えてくれるのは嬉しいけれど。
名前を呼ばれながら頬にキスされる。もしかしたらこのままえっちに入るつもりなのか。
「ユカリちゃん…子作りしよ」
「今ですか?」
「うん。今やったらめっちゃ元気な子が生まれる気がする」
「それ毎回言ってませんか?」
「なあ、…百香里ぃ」
6日間耐えてやっと甘えられる日が来たのだからそう簡単には逃さない。行かせない。
朝の準備がしたくて乗り気でない百香里を自分の方へ向かせてギュっと抱きしめる。
どうせ弟たちの朝食の事も考えているんだろう。優先されるのは夫のはずなのに。
「あっ…ちょっと…総司さん」
「嫌か?」
少々乱暴に百香里のパジャマを脱がし始める。昨日裸にしたはずなのに朝になるとパジャマ。
もしかして寝ている間に着替えているのだろうか。自分は終わるとすぐ寝てしまうから分からないけど。
強行突破にでた総司の手を慌てて止める百香里。これは本気で拒否しているのか。
「今日は一緒にお出かけするって言ったじゃないですか」
「そう…やったっけ」
「そうですよ。忘れちゃったんですか」
「歳かなぁ」
ムッとした所で彼女から今日の予定を聞かされる。そんな約束をしたっけ?ととぼけた顔。
それを見て百香里は暫し言葉を失い、ため息をして、総司の首に手を回した。
ちゅ
「もう、いいですから。しましょ」
未だ記憶が戻らない総司の唇に軽くキスして微笑む。
「あかん。…ユカリちゃんと出かける」
「何処行くかも覚えてないでしょう」
「……」
しかし、一体何処へ出かけるんだったろうか。出かけると言ったものの未だに思い出せず。
そんな総司を見てまた呆れた顔。彼女に嫌われたくないし物覚えの悪い奴とも思われたくない。
百香里を抱きしめたままうーんと唸る。
「もう」
「…怒らんで…な?な?なー??」
「ふふ。…怒ってません。ちょっと困った顔見たかっただけですから」
「ユカリちゃん」
「だから、…子作り」
「それは帰ってからやな」
絶対に思い出す。百香里にキスしてベッドから起き上がった。
「…で?朝飯って何時できんの?」
「その辺のものでも食べたらどうだ」
「食パンって焼かないと食えないんだっけ?」
「お前な」
その頃リビングでは。何時もなら朝一番に起きてきて笑顔で挨拶する百香里がおらず。
かわりに顔も洗わずだらしないパジャマ姿で現れた渉をガミガミ叱る真守がいるだけだった。
彼は以前はコーヒー一杯で済ませる男なのでコーヒーの入れ方は分かる。が、当然朝食など用意できず。
キッチンも主がおらず薄暗いまま。
彼女がまだ起きてないのだとすぐに理解した。新婚夫婦の日曜日だ、想像するに安易なこと。
それが余計に朝から嫌な空気を醸し出す。
「冗談、…あ。降りてきた」
「おはようございます」
「おはよ」
「おはようございます、お2人とも早いですね」
来るなり真守と渉に見られて恥かしそうな百香里。とりあえずあいさつを交わす。
「僕は何時もの癖でつい」
「俺昨日寝るの早かったから」
「今朝ごはん用意しますね」
「待ってました」
「渉」
朝食をよく抜いていた2人に朝ごはんは大切なんですよ、なんて偉そうに言っておいて遅刻するなんて。
時間は大幅に遅れたが手抜きはしたくない。何時もよりスピードを速めて料理を開始する。
その間に洗濯もしなくてはならないのだが、忙しそうにする百香里を見て総司が引き受けてくれた。
「今日のご予定は?」
「僕は部屋でのんびりしようかと」
「あんたの部屋じゃ無理だろ、あんな資料だらけ」
「煩い」
「渉さんは?」
「パチンコ」
「…もっと有意義な事をしたらどうだ」
まずは真守と渉の分の朝食をテーブルに出す。コーヒーも一緒に。
百香里も流石に動き回って疲れたのか一緒にテーブルに座った。食事は総司と一緒にする。
彼はまだ洗濯をしにいってかえってこない。もしかしてやり方がわからないのだろうか。
「たとえば?」
「そうだな、まず美術館にでも行って」
「で。ゆかリンはどうすんの?」
聞いておいて無視されムスっとする真守。興味が百香里に移った渉は全く気にする様子も無い。
文句を言ってやろうかと思ったが質問された百香里が答えようとしているのを見て堪える。
彼女がいれてくれたコーヒーをひと口。自分のよりずっとおいしい。
「私は総司さんと出かけます」
「ふーん」
「いいですね。今日は天気もいい」
「はい。…でも」
実は何処に行くか忘れちゃったんです総司さん、とは言えない。
「ん?なに?」
「義姉さん?何かありましたか」
「いえ」
「言っちまえよ、何か面白そう」
「渉」
2人とも百香里の表情が一瞬翳ったのを見逃さなかった。
何かあったのだろうかと聞いてみる。でも義姉は苦笑するばかりで。
普段は人の事になんか興味の無い渉がそれを面白そうに突っ込んで聞く。
「おまたー」
「あ。総司さん。…ごめんなさい、洗濯もの」
「ああ。ええよ、…ちょっと…ユカリちゃんの…下着に目が」
「総司さん!」
変な空気になってきた所でやっと総司が戻ってきた。渉と一緒パジャマ姿。
しかも遅いと思ったらやり方がわからなかったのではなくて。百香里は顔を赤らめる。
そういえば総司は一通り何でも出来る人だった。心配して損した。
「じょ、冗談や!あー美味そう!」
「なあ、兄さんよ」
「何や?」
「あんた飯食ったらゆかリンと何処行くんだ」
「渉さん」
何も話してないのに渉は何となく察してるのだろうか。いきなり核心を突いた質問。
いや、もしかしたら特に意味がなく偶然聞いただけなのかもしれないけど。
百香里はちょっと驚いた。
「…、…お子様には教えたらん」
「へえ。お子様ねえ」
「もういいだろ、大人しく食事しないと。姉さんも困る」
「はいはい」
それからは何時ものように4人で朝食。日曜日とあってかなりだらけてはいるけれど。
楽しいことにはかわりない。やっぱり家族はいいな、と百香里は思う。
出来れば真守と渉がもう少し理解しあって仲良くなってくれたらもっともっといいな。
「日曜まで喧嘩しよる。ほんま元気な奴らやな」
「……」
「ユカリちゃん?」
「総司さん止めてくれないんですもの」
「…だって。この前止めようとしたら顔をグーでなぐられたんやで?」
「あれはタイミング悪く真ん中に立つからですよ」
「ひどっ!総司さん今ですー言うて俺押したんユカリちゃんやんかっ」
時折暴言やら兄弟喧嘩を挟みつつ、賑やかに朝食は終了。
「あの、出かける約束の話ですけど」
「あ。うん。大丈夫、ちゃんと思い出した」
片づけを終えて洗濯物も干してひと段落ついた所で総司の下へ。もしまだ思い出せないなら。
無理にどうこうしようなんて思ってない。忘れられたのはちょっと寂しいけれど。
けれど、意外にも総司は思い出したようでスッキリした顔。その手には彼のスケジュール帳。
「もういいんです、あの、…映画でも観に行きません?」
「それもええけど、ユカリちゃんの可愛い姿みたいなあ」
「そんなの持ってませんけど」
「俺に任せとき」
「…はあ」
思い出してくれたのは嬉しいけど。何だか別の事も考えていそうで百香里は心配になってきた。
聞いても「まあすぐ分かる」と笑顔で返されて教えてもらえない。
何も持たなくていいといわれたので特に服装など気にせず何時も通りの恰好で総司を待つ。
玄関で待っててといわれたけれど、気になって廊下を覗く。何処かに電話しているようだ。
「お待ちどーさん」
「はい」
「行こか」
電話を終えるとにこりと微笑み総司が来る。既に真守は自室にこもり渉はパチンコに行く準備をしている。
聞こえないだろうけど行って来ます、と言ってマンションを出て総司の車に乗りこむ。
それからは他愛も無い会話をしつつ目的地へと車を走らせる。
「…な、なんだか分からないけど。渡されてしまった」
自分のイニシャル入りスポーツバッグ。もちろん中身入り。そしてここは更衣室。
「み…みじかいっ!」
30分後。
「ユカリちゃん遅いなあ…迷ったんかなあ」
目の前には幾つものコートが見える。似たような作りだから初めてなら迷ってしまうかもしれない。
だから集合場所は分かりやすい場所を選んだ。でも、流石にこれは遅い。何かあったのか。
不安になって迎えに行こうとした総司の耳に聞き覚えの有る声。
「ですから結構ですっ」
「そう言わないでさ」
「ついて来ないでください」
「一緒に練習しようよ」
「あーーー。なるほど」
その光景を見て遅かった理由がわかった。確かに有りうる、なのに想定してなかった。
自分のミスを痛感しつつ急いで悲鳴をあげる妻の下へかけより。
「痛っ」
思いっきり強くナンパ男の肩を掴んだ。痛みで振り返った男にすかさず睨みを効かせ。
「兄ちゃん人の嫁に手ぇ出したらあかんなぁ。何するかわからんで」
「総司さんっ」
「1回目は警告ですましたら、次そのツラ見してみ?どうなるか」
「…す、すいませんでした」
百香里につきまとっていた若い男はさっさと逃げてあっという間に姿が見えなくなる。
安心したのか百香里は総司に抱きつく。怖い顔をすぐに引っ込めて抱きしめ返す。
「…あかんわ、めっさ可愛いわ、我慢できへん。百香里!」
「そ、総司さん駄目ですって!何処触って…いや…だから…こ、ここはテニスする所なんです!」
「はい」
総司から渡されたテニス用のユニフォーム。上はともかく下が短いスカート。
確かにそんなイメージは百香里にもある。でも自分は選手でも経験者でもなんでもない。
今日はじめてラケットに触るようなド素人なのに。でも旦那さまは大喜び。外なのに抱きしめてくる。
「こんな短いスカートはいたんですから。…ちゃんと教えてください、テニス」
「うん。教えたる」
「お言葉の割にはすっごくいやらしいお顔ですけど」
「まあまあ、コートいこ」
「はい!」
百香里の家は父が居らず貧しかった。兄妹は幼い頃から生活費や学費の為にバイトを幾つもした。
その一つにテニス練習場の清掃があって。テニスを楽しんでいる人たちを見てはちょっと羨ましかったものだ。
テニスの試合をテレビで観ていたらそれを思い出して。いいなぁ、何て軽く言ったら。
『それやったらテニスおしえたるよ!今度の日曜日でも!』
少し離れた所に居たのに総司には聞こえていたらしくそう言ってくれた。そして今。
こうしてラケットの握り方を教えてもらって。憧れのテニスを。
「でな。ここ握って」
「なんだか近くないですか」
「こんなんやで」
「そ…そうかなあ」
やけに腰がくっ付いている気がする。頬もくっ付いたりするし。
そんな百香里の後ろにまわってまさに手取り足取りのレッスン。顔が思い切りにやけているけど。
自分がバイトしてた時を思い出してみる。コーチが教えてるのを何度も見たけどここまで近くない。ような。
今のところちゃんと教えてくれていのでいいかな、とは思うけど。
「ああ…似合うわ。可愛いわ。…写真撮りたいな」
「総司さんも素敵。よくここには来るんですか?」
「今は来んな。余計な体力つかいたくないし、どうせ使うんやったらユカリちゃんと」
「も、もういいです。じゃあ、教えてください。コーチ」
「うっ。……もう、そんな刺激せんといて」
「はい?」
それからやけに密着されつつのレッスンは続き。
「ん。上手上手」
「やった!」
「あー。…何時までもつかなぁ…俺」
「次いきますよ!」
「はいはーい」
慣れてきた百香里と軽く打ち合いなどして。総司の上手さに感激する百香里に何故か総司がドキドキして。
いっそここで百香里と…なんて思っているなど知らず初めてのテニスに無邪気にはしゃぐ20歳の娘。
我慢も限界になってきた所でお昼になった。施設内にあるベンチに座って休憩。
「テニスって楽しいですね!」
「うん」
「私には一生縁がないと思ってたんですけど」
「部活とか無かったん?」
「あの、その、…バイトがあって。部活入れなかったんです」
「そか、ごめんな」
未だテンションが上がったままの百香里。そんな彼女を見るのは此方も楽しいし悪い気はしない。
買って来たスポーツドリンクを飲みながら楽しかった練習を思い出す。
運動は好きだし結構得意な分野でもあったのだが、それを生かすことは結局出来なかった。
自分の境遇が悔しいとか辛いとかそんな感情を持ったことはないけれど、寂しさは多少あった。
「いえ。こうして総司さんのお陰でテニスできたから」
「何でもしたらええよ。何でも言うてな。あ。俺と一緒にやけどな」
「はい」
ちゅと唇にキス。外だけど、今は特別。
「どうする?もうちょいやる?それとも」
「そうですね。今日は確かスーパーで…」
「ん?」
「これからご飯を食べて」
「うん」
「こづくり」
「ほな、行こか」
「はい」
何処か嬉しそうな総司を他所に大胆な事を言ってしまったと顔を赤らめる百香里。
一旦別れて更衣室でシャワーを浴びて着替える。他にも利用客は居たが誰もが金持ちそうで。
何だか自分なんかは場違いなような身が縮む。逃げるように着替えをすまし出てきた。
待ち合わせの駐車場に行ってみるがまだ総司の姿は無い。
「ね、君さ。1人?」
「え?」
そんな百香里に声をかけたのは総司ではなく、見るからにお金持ちで自信過剰そうな青年。
百香里の事もどこか物を見る目。そんな態度に不愉快になりつつもその場を移動する。
何故だろう、今日はやたら声をかけられる。普段はそんな事ないのに。
「よかったら昼一緒にどう?」
「いえ、…人待ってますから」
「いい店しってるんだけどな」
「本当に、けっこうです」
何故かついてくる青年。関わりあいたくないのに、今日はついてない。
街を歩いている時に出会うキャッチでもここまでしつこくない。ティッシュもくれないし。
何て変な事を考えている場合ではない。総司さん早くきて、と願う。
「待てよ、俺が誘ってるんだから」
「何やねんおのれ」
「何だよおじさん」
「おじさ…。ええ度胸しとるなあ坊主」
遅れてやってきた総司。またしても愛妻をナンパされて、これはもう拳が飛ぶかもしれない。
百香里は慌てて総司の後ろに隠れる。もし彼が何かしようものなら止めなければならないから。
先ほどの男とは違って自信があるからか総司が来て凄んでも怯まない。
「ぼうず。…あのさ、人の邪魔しないでどいてくれる?おじさん」
「ええ加減にせえよ長谷川のボンボン」
「何で俺の名前…あんた誰だ?うちの取引相手?子会社か何か?」
まったく悪びれる様子も無い青年に呆れた顔をする総司。どうやら彼を知っているようだ。
ただ、当の本人は総司を知らないようだけど。
「おたくと取引させてもらってます松前のおっちゃんですわ」
「松…前…松前?あ!あの!?」
「つか、誰がおっちゃんやっつの」
「あんたの女だったのか」
「女ちゃう。嫁じゃ!」
総司の一喝に逃げるように去っていく青年。というより総司の方が上だと判断したから恐れたのだろう。
金持ちの世界でも上下関係があるらしい、ドキドキしながら事を見守る。自分には分からない世界だ。
安全を確認してからひょっこりと彼の後ろから移動する。
「総司さん」
「ごめんなー遅かったからな」
「お腹すきました」
「うん。いこ」
気分を取り直して昼は豪華にレストランへ。そんなお店に行くとは知らなくて普段着で来てしまった。
それだけでも緊張なのに、百香里は難解な説明のメニューというよりもその値段に目を丸くする。
自分では選べないので総司に選んでもらう。美味しい食事。値段を考えると何時もより多めにかみ締めた。
食後。
「きゃ」
「百香里」
「…総司さん…まだ…シャワーとか」
「我慢できへん」
車はホテルへ。子づくりなんて言ったのは自分だからか、恥かしそうに終始無言の百香里。
それを横目に総司が手早くチェックイン。そして部屋につくなり百香里を後ろから抱きしめて。
やや乱暴に舌を絡めての深いキス。手は既に百香里の体を弄る。
「んっ……ま、まだ入り口です…ベッドまで我慢しましょ?」
「脱がしながらいくで」
器用に彼女を脱がしながら歩くので床にはぽろぽろと服や下着が落ちていく。
「…百香里」
「あなた…その…まって」
「待てへん」
ベッドに倒れこむ頃にはすでにパンツのみ。ブラはその場で剥がされて指と舌の愛撫を乱暴に受ける。
百香里を愛撫しながら自分も脱ぐという器用な技を見せる総司。
でも、快楽に飲み込まれる前にと必死に声を出す。待って、と。だけどそれをも飲み込む総司。
「あぁっ…ん…総司さんお願い…」
「……」
必死に抵抗されては仕方ない、少しだけ手を休める。百香里は部屋の時計を見て。
「…4時…まで…ですからね」
といって総司の首に手をまわす。
「…了解や」
「あ…ん…噛んだらだめ…」
荒い愛撫、荒いキス。こんなに乱暴になる時は大抵えっちを我慢していた時だ。
出張などで1日でも会わなかっただけでこうなる。だから今ではある程度なれたけど。
経験の少なかった百香里には最初はそれが怖いと感じた。
「…百香里…百香里」
「ん…甘えん坊さん…」
「甘えさして…」
胸に顔を埋めてしゃぶりつく総司。百香里はその頭を優しく抱きしめて甘い声を出す。
「好きなだけどうぞ、あなた」
「可愛いこと言うて。それやったらちょっとイジワルしたろ」
「えー!うそ!ひどいです!」
甘えん坊の次は悪戯っ子。嬉しそうな顔をして百香里の足を思い切り広げた。
唯一残された下着ごしにソコを見ればすこし湿っていて。
「ここか?」
「あっ」
「んー。ちごたかな」
「んっ」
そのしみを指でなぞったり突っついたりして百香里の様子を見る。恥かしそうに頬を赤らめ感じているのを見て
さらに嬉しそうに指を動かす。もっともっと百香里の可愛らしい表情を見る為に。
途中から染みが広がっていって、指を動かすたびにクチャクチャと卑猥な音へ変化させながら。
「もうこんなんや。糸引いてるで?見える?」
「いじわる…」
「可愛いなあ」
「…あ…あぁ…」
最後の下着も取っ払い潤んだソコへ顔を埋める。わざと音をたてながら執拗に舌で攻めて。
でも百香里が果てそうになると顔を離す。落ち着いてくるとまた舌を動かして刺激する。
焦らされてうっすら涙がでてきた。
「ん。なに?」
「早く来て欲しいです」
「うん。いこか」
「はい」
「今やったら何時もの何倍もエエ子が産まれる気がする。無しでいくけど、ええか」
「…はい」
ちゅ
「…百香里」
「あっあっ…あなたっ」
初めて避妊具を無しにして愛し合う。百香里にとっては初めての行為。
どうなるのだろうかとドキドキしながら総司に抱きつく。
終了時間まであと30分、それまでに何度一緒に果てることが出来るだろう。
「まだまだっ」
「あぁっ」
「百香里っ」
それよりも今はこの温もりと快楽に浸ろう、愛する夫と共に。
「で。夕飯はまだ?」
「お前はそこに座ると食事の話しかしないな」
「あんたといったい何を話せっての?」
夕方、パチンコから帰ってみればまたしても辛気臭い顔した眼鏡が1人。
渉はもう少し粘ればよかったと思いながら自分の席につく。
自分の部屋に戻ってもいいのだが、もう直ぐ我慢していれば百香里が帰ってくる。
自分で酒の準備をするのは面倒。クソ真面目な奴と一緒は面倒だが我慢しよう。
「そうだな。会社の将来について是非お前の意見を聞きたいと思っていたんだが」
「そんなのあんたらでどうにかしろよ」
「僕は別にお前が専務をしたっていいと思ってるよ」
「ふざけんな」
「お前は父さんに一番似てるから」
「あんなのと一緒にすんな吐き気する」
「そうか」
素直すぎる弟に苦笑しつつ、真守も時計を見る。そろそろか、と。
「胸糞悪い、酒飲む」
「つまみ自分で作れるのか?」
「馬鹿にすんな」
「はは」
「……あーーーもーー。ゆかリンはやくかえってこねーかな」
おわり
2008/12/04