過去とこれから


「それじゃ行ってきますね」
「いってらっしゃい」

元妻との再会と百香里の宴会。
それぞれ別の日だったのだが娘から連絡が入り同じ日になってしまった。
もちろん相手が百香里の予定を知っているわけがないから偶然だろう。
一緒に出て行くのは何となく憚られて百香里は先に出て行く。少し間を置いて総司も出る。
その途中リビングに居た渉はどこか不愉快そうな顔をして、此方に見向きもしない。
真守も自室から出てこない。恐らくは仕事をしているのだろう。

「いってくるわ」
「……」

弟に笑って見せて頭をなでようとするが当然跳ね除けられる。

「真守とエエ子にしとるんやで」
「ユカりん、お持ち帰りされないように気をつけろよ」

渉の捨て台詞に笑って気にしてないそぶりを見せ玄関を出る。
本当は百香里が気になる。様子をこっそり見に行きたいくらいに。
だけど自分も予定はあるしあんなにも楽しみにしていた宴会を邪魔するのも。
とりあえず此方を片付けようと車に乗り込んだ。


「お父さん」
「唯?こんなとこで何しとるん?」
「ただ座って待ってるのソワソワしちゃって」
「そうか」
「行こう行こう!」

車を止めて約束した店へ向かう途中の道で此方の様子を伺っている少女。
前妻との間に生まれた一人娘の唯。此方の顔を見て嬉しそうに近づいてきた。
せかされるように店内へと入り奥の座敷へ。

「元気そうやな」
「…貴方も」
「もう。そんな他人行儀な会話しないで。ね!」

娘に促され席につく。離婚して何年も経ったというのに妙な気分だ。
唯はお互い気を使って黙ってしまった父と母を取り持つようによく喋った。
少々気は強いが根は明るくいい子。元とはいえ家族が揃って嬉しそうにしている。
その顔を見てこれから切り出すことを躊躇われる総司。だが、決めた事だ。



「…総司さん」

その頃百香里は総司に手配してもらった車に乗り宴会のある店のすぐ傍で降ろしてもらう。
久しぶりに皆の顔を見れるのは嬉しいことだけど、やはり総司の事が気がかり。
もう終わっているとはいえ過去愛した女性とそしてその間に生まれた娘と3人で会うなんて。
表情には出来るだけだしてないつもりだけど、もしかしたら暗い顔をしていたかもしれない。

「百香里奥さまー」
「……」

電話してみようかな。

「社長夫人さまー」
「……」

メールくらいならいいかな。

「ちょっと百香里!無視すんなよー」
「あ。絵美。ごめん」
「顔色悪いけど大丈夫?気分悪いとか?」
「ううん。ちょっと緊張してるだけ」
「そんな劇的な変化なんてないってば」

貴方の体型の変化は中々の変化だと思うけど。と言いかけて飲み込む。
幹事をしている彼女はちょっと早めに来て今まさに様子を見に出てきたらしい。
今の所お座敷には3人ほど集まっていて楽しく昔話なんかをしているとか。

「……」
「彼が居るか気になってるんでしょ」
「え?」
「百香里にとっちゃあ初めての彼氏だもんね。気になるよね」
「え。あ。ち、ちがうよ?私は別に」
「後から来るってさ」

気にしてないはずなのに元彼の名前が出るとちょっと動揺している自分がいた。
そんな百香里を見て別にいいじゃんと絵美は笑って言うけれど。
店に入り皆が待っている座敷に案内されて席につく。お酒は飲めないからとお茶。
百香里が結婚したという話はもう皆知っていて質問攻めにされた。

「やっぱり豪邸住まい?メイドとか執事とか居たりして」
「超広い庭とか?噴水とか狩猟犬とか?すごーい」
「何処の国の金持ちだよそれ」
「だってイメージ湧かないんだもん」
「そんなんじゃないよ、マンション住まいだし」

総司の実家はまさに豪邸で庭も広くそれはもう立派で腰が抜けたけど。
今自分が住んでいるマンションは彼らが想像しているものよりは大人しい。
メイドも執事も居ないし庭も噴水もないし狩猟犬なんてものも居ない。けれど、
百香里が謙遜しているのだと思ったのかもっと教えてよと言われっぱなし。

「まあまあ、そんな質問責めにしちゃ可哀そうでしょ。飲みましょうよ」
「それじゃあ乾杯でもしようか」
「そうだね」

大方揃って乾杯をして宴会開始。
百香里への視線は薄らいだもののそれでも色々と質問される。
何処で出会ったのかとかどうやったら社長夫人になれるかとか。
予想はしていたがここまでとは。旧友との再会は楽しいけれど、
何度も時計を見てしまう。もう総司は戻ってきただろうか。

「どうしたの?」
「私そろそろ」
「何言ってんの。もっと楽しもうよ。あ。…彼が来ちゃうとやっぱり居心地悪い?」
「そういうんじゃないけど、家の事もあるから」
「あー。人妻って大変だねえ」
「今日は楽しかった。ありがとう」

10時を回ったところで皆に挨拶をして宴会場を後にする。
もっと話をしたいという気持ちもあったけれど、時間と共に気になって仕方ない。
食事をするだけみたいだからきっともうマンションに戻っているはず。

「百香里?」
「……」

でも、もしまだ帰ってきてなかったらどうしよう。
娘が一緒だというけど、もし前妻と2人きりなんてなったら。
2人きりでお酒とか。思い出話に花が咲いて。

「百香里」
「……」

そのままいい感じになったりとか。

「おい百香里」
「……そんなの嫌だ」
「何が嫌なんだ」
「え?」

店を出た所で呼び止められる。その声に何処か覚えがあった。
驚きながらも振り返ると懐かしい人。

「もう帰るのか?せっかく来たのに」
「雅紀君」
「久しぶり。元気そうだな」
「そっちも」

何かと苦しかった高校時代で唯一の甘い思い出。
初めての彼氏というのは思いのほか覚えているものらしい。
出会いから告白された時や交際している間の事を鮮明に思い出した。

「結婚したんだって?」
「うん。そっちは?」
「まだ。てか、お前早過ぎるだろ。…経済力ついたら迎えに行くはずだったのに」
「ま、また。そんな事いって」
「本気だ。お前が俺に気兼ねして別れようって言ったのも分かってた」
「もういいじゃない。上で皆待ってるよ。ばいばい」

逃げるようにその場から去る。これ以上話をしたら不味い気がして。
百香里の中で封印したはずの苦い思い出が甦る。
卒業式の後、進学が決まっている彼に自分から別れを告げた。
最初は知らなかったけれど彼の家は代々医者の家系で彼も何れは医者になる。
そんな彼と今生きていくのにも必死な自分では負担になると諦めた。

「ずっと百香里の事想ってた!でも、…幸せになれよ!」

後ろの方で彼の声がした。たぶんもう聞くことは無いだろう。
お酒は飲んでないのにすごく顔が熱くなって少し涙もでそうで潤んできた。
このまままっすぐ家に帰っていいのだろうか。このザワついた気持ちは。

「総司さんに電話しよう…」

カフェにでも入って落ち着いてから帰ろうと総司に電話する事にした。
もうすぐ11時。流石にもうマンションに戻っているだろうと信じて。

「うわっ」

聞きなれた着メロが後ろから聞こえてきた。そして慌てた男性の声も。
何だろうと振り返ると物影に隠れているが体が大きくてあんまり隠れてない人。
人気はあるけれど暗くてちょっと怖い道だったから恐る恐る近づいていく。

「総司さん?」
「あ。…あははは」

見間違いじゃない、やっぱり総司だ。何時から後ろにいたのだろう。
携帯をしまうと一緒に歩き出す。近くに車を止めているらしい。
ばつが悪そうな彼にどう切り出していいか分からない百香里。
結局無言になってしまって車に乗り込む。

「……」
「……」

何か話したほうがいいのだろうが、何を話したら良いのか。

「あの」
「なあ」
「な、なんですか?」
「なに?ユカリちゃんから言いや」
「いえ総司さんから」
「えー恥かしい」
「そ、そんな」

妙な譲り合いをして、結局どちらとも話が出来ずまた沈黙。
でもお互いにこんな気の張った空気は嫌だと思っているから
何度も話しかけようとチャレンジをするがやっぱり無理で。
結局何の進展もなくマンションの駐車場にきてしまった。

「ユカリちゃん、あんな、…聞いてもええ?」
「はい」

エンジンを止めて、そのまま降りるのかと思いきやシートベルトをしたまま
真剣な表情で此方を見る総司。百香里もそのままの体勢で彼を見た。
何を聞かれるのだろう。心がまたざわめく。

「さっき入口で話してた男はユカリちゃんの元彼か?」
「そんな所からみてたんですか!」
「うん。みてた」

もしかして店の玄関で待っていたのだろうか。
何処で何時から宴会があるというのを彼に報告していたから居てもおかしくは無い。
でも彼はその時間帯に元妻と会っているのだから来る事は無いだろうと思っていた。

「…元彼か?」

恥かしそうにしながらもそこはちゃんと確認したいらしい。

「はい。そうです」
「やっぱそうかーー!そんな気ぃしてたんやー!馴れ馴れしかったし!あー!」

百香里が素直に返事をすると総司は突然頭を抱え大きな声を出す。
車内だし人気のない駐車場だから大丈夫だとは思うけれどいきなりで驚いた。
どうしたんですかと聞いてみるがずっと頭を抱えたままで返事は無い。
もしかしてここは嘘をついたほうがよかったのだろうか。彼は違う、関係ないと。

「あの」
「でも俺のが男前やった」
「はい。男前です」
「ユカリちゃん」
「あの、シートベルト苦しいので外してからにしませんか?」

自由になった所で抱き合いキスする。
少しの間しか離れていないのに妙に懐かしく感じる温もり。
やっと唇が離れると百香里は総司の胸に顔を埋めた。

「その体勢キツいやろ。部屋に戻ろか」
「はい」

車をおり手を繋いでマンション入口まで来る。
友人にはそんな凄くないと言ってしまったけれど、やっぱり凄い。
以前もこうしてマンションを見上げてため息をしたのを思い出した。
こんな所逆立ちしたって百香里には無理だ。

「どした?」
「私も起業してみようかなと思いまして」
「ユカリちゃんが?いきなりやねぇ」

驚いた表情をしながらも満更でもない顔をする総司。
エレベーターを待つ間も何かブツブツ独り言。

「あの。冗談ですってば。止めてくださいよ」
「そうなん?別にかまんよ?やりたい事あるんならやってみたら?」
「総司さんみたいには出来ません、頭もよくないし」
「俺あんま頭えーないよ?」
「嫌味に聞こえます」

少し拗ねた顔をする百香里。総司は苦笑いしてホンマやでと言うけれど。
それはあまりにも説得力がなかった。
もちろん彼が故意に馬鹿にしているとも嫌味を言っているとも思わない。
自分の僻みのようなものだろうと分かっている。だから余計に拗ねる。

「ユカリちゃんそんな顔せんといて。なあ」
「私どんな顔してます?」
「え?めっちゃ可愛い顔してる」
「…じゃあ可愛くない顔にしたほうがいいと」
「あ。いや。意地悪せんといて。な。…ちゅーして」

エレベーターに乗り込み百香里にキスを強請る。
何時もなら恥じらいつつもしてくれるのに、やはり怒らせたか。
これは不味いと思っていた総司に百香里はアッチアッチと視線を向ける。

「……」

百香里に夢中で気づかなかったが後から乗ってきた人が居た。
相手は気まずそうに閉じられた出入り口を見つめている。
仕事帰りのサラリーマン。こんな時間まで仕事なんて大変だ。
自分たちの降りる階に到着するまでに男性は降りた。

「そうやユカリちゃん。俺ちょっと腹へった。何か作ってくれる?」
「え?食べて来てないんですか?」
「食べた。けどそれから何時間も経ってるし安心したら腹へった」
「簡単なものしか出来ませんけど」
「それでええよ」

玄関に入った所で頼まれる。
そういえば自分も質問攻めだったり時計が気になったりつまみばかり食べたりして
ちゃんとしたものは食べてなかった。思い出したらお腹が空いてきて2人分準備する事にした。
リビングへの扉を開けるとテーブルには何故か宅配ピザの容器とビールが。

「なんやこれ」
「真守さんというより渉さんっぽいですね」
「お帰り。何だ2人で帰ってきたんだ」
「渉。何やお前夜食か?」
「ああ。腹減ったから」

簡単に言うと椅子に座りふたを開ける。先ほど届いたとかで美味しそうな湯気。

「なあ俺らにもくれへん?」
「ユカりんならいいけど。あんたはガツガツ食うから嫌だ」
「じゃあもう一品何か作りますから。皆で分け合いましょう」
「ええね。俺もビール飲むわ」
「飲んでこなかったの?」
「飲めるわけないやん」

先に席につく総司はビールを受け取ると美味しそうに飲み始める。
百香里は台所に向かい冷蔵庫をあさって簡単なものを作り始めた。
いっきに賑わい始めるリビング。

「兄さん、義姉さんもお帰りなさい」

釣られてきたのか真守も顔を出した。

「あ。起こしちゃいました?」
「いえ、まだ起きてましたから。2人ともこんな時間に食べていいのか?太るぞ」
「ええやん。ユカリちゃんもはよおいで。美味いよ」
「わ、私は結構です」

真守の言葉に我に返る。確かにこんな時間に食べたら太る。
顔色を変えた百香里を不思議そうに見る真守。
総司は美味しそうにピザを食べ渉は呆れたように上の兄を見た。

「ほら。あんたが余計な事言うからユカりんが食えねえだろ」
「え?あ、すみません。義姉さんが太るとかそういう話では」
「夜食なんてヤバイですよね。…お茶にしときます」

料理をテーブルに置いていそいそとお茶を汲む。見れば見るほど食べたいけど
ここは我慢しよう。食べることに不自由しなくなってからサイズが1つ上がったばかり。
まだまだ標準値ではいるけれど、暴走しだしたら止まらない気がする。

「せやけど何でまたピザ?」
「たまに無性に食いたくなる時があるだけ」
「ああ、そういうの分かります。私も月に1回は望月屋のカステラが食べたいです」
「それってあれだろ、スーパーで売ってるやつだろ。別に月イチじゃなくてもいいんじゃね?」
「何言ってるんですか。望月屋のは530円もするんですよ?毎回はとても」
「じゃあ今度1本3500円のカステラ食わしてもらえば?」
「そ、そんなのあるんですか!!」

そんな恐ろしい値段のカステラがこの世に存在するなんて。お茶を飲みながら
思いっきり食べたそうな顔をする百香里。その分かりやすい態度に笑い始める渉。
真守は苦笑いをして総司は可愛いとご機嫌な様子。

「よっしゃ。俺の知り合いに詳しい奴がおるからめっちゃ美味いのご馳走するわ」
「いいんですか?」
「そんな顔されたらなあ」
「そ、そんな物欲しそうな顔してます?」

もしやヨダレでも出ているのかと手で口元を拭いて、
確認の為に2人の義弟にも聞いてみるが。

「すげえしてる」
「してますね…」

笑いながら言わなくても。真守は堪えてくれているが。
魅力的な高級カステラ。さぞかし美味いのだろうと想像するだけで。
駄目だ、また物欲しそうな顔をしてしまう。笑われるのは恥かしい。

「まかしとき」
「はいっ」
「いいお返事だこと」
「渉、あまり言ってやるな」

食べて飲んでして時刻は12時をまわり、片付けは明日に回して風呂へ。
渉は何も言わず部屋に戻り真守もお休みなさいと言って部屋に帰った。
体を洗って湯船につかる。総司は少し疲れた様子で足を伸ばし天井を見つめている。

「なあユカリちゃん」
「はい」
「俺な、娘に言われたんさ。自分勝手なろくでなしって」
「……」

百香里は総司の膝に座ると彼に身を任せる。
すぐに大きな手が抱きしめてくれたけれど、視線はまだ上。

「唯からしたら離婚したって俺は父親や。また母親と復縁させようとするんは当然かもしれん。
でも俺らは別の道を選んだ。んで俺はユカリちゃんと生きていくて決めた。
それを分かって欲しかったんやけど、難しい年頃みたいでなぁ。泣かれて騒がれて」
「無理はしないでくださいね」
「せやけどな。曖昧な態度もしたくないんや。ユカリちゃんと生きていくためにも」

過去を曖昧にして百香里にも唯にも甘えていた自分自身の為にも。

「その気持ちが何より嬉しいです。無理に引き離して深い傷を負わせてしまったら」
「ろくでなしやなあ。あかんわ、ほんま」
「何を失っても私は貴方のそばに残りますから」
「今日はゆっくり休んで明日から頑張ろうな。主に子作り」
「社長さん?」
「いやん」

キスをして風呂を出る。
何時もの総司だったらこのままえっちをしそうなところなのに。
今日は大人しく眠った。真っ暗な部屋の中総司の寝顔を見て
そっとそのオデコにキスする。心配していたことは何もなかった。
辛かったろうに娘に話をしてくれた。ろくでなし、と罵られても。



「ユカリちゃん」
「はい」
「やっぱりアカンわ」
「え?何がですか?」

翌朝、先に起きて洗濯と朝食作りを終えた百香里。
最後に総司を起こそうと寝室に戻ってきたら彼は既に起きていて、
でもベッドに座ったまま立ち上がろうとはしない。深刻そうな顔。

「昨日えっちせえへんかったからもうギンギン」
「え?…え…ええ!?」

心配になってみてみれば股間にありえない突起が。
これってもしかして。顔が真っ赤になる百香里。

「こんな状況で会社なんか行かれへん!ユカリちゃん!」
「ま、まって!総司さん」
「またれへん」
「お休みするなら電話をしてください」
「それで休めた試しらないし。千陽ちゃん厳しい…」
「お昼までとか」
「…やってみるけど。たぶんあかんと思う」

抱きしめてそのままベッドへ引き込もうとするが百香里に携帯を渡されて
渋々秘書に連絡を取る。昼まで休ませてくれるかどうか、
社長のスケジュールと彼女のご機嫌とが上手くかみ合った時でもないと。

『はあ?寝言は寝て言え。ですよ社長』

この有様だ。

「めっちゃ不機嫌やね…何かあったん?」
『何もないですよ。何か文句でもおありでしょうか。社長』
「い、いや何もないけど」

何ていいながら明らかに怒ってる不機嫌まるだしの声。
こんな状況下で休める可能性はゼロ。病気になるか誰か病院いったとか。
そんな緊急事態でもない限り無理だろう。
猛りきったモノを見せたりしたらそれこそそぎ落とされかねない。怖すぎる。

『30分後にお迎えにあがります。くれぐれも休みたいなんて愚かな考えはお捨てください』
「あ、あのな。あの、真守がな」
『専務がどうかしましたか?』
「ちょっと用事あるんで、俺も付きそうんで、昼から一緒に会社でるんでよろしく!」
『それはどうい』

途中だったけど切った。やった。やっちまった。
ドキドキしているのは総司だけでなく傍で聞いていた百香里も一緒。
携帯を握ったままどうしようどうしようと2人でオドオドしだす。

「大丈夫ですかそんな事言っちゃって」
「ユカリちゃんどないしよう」
「素直に謝ったほうが」
「せやけどこんなままで出ていかれへん」
「じゃあ、口で」
「ユカリちゃんの中に入りたい」
「私だって」

早く愛する人の子を授かりたい。


「義姉さんの頼みなら仕方ありません、今回だけですよ」
「え。ほんとうに!?あの、こんな勝手なお願いを」
「したのは兄さんでしょう。分かってます」

誘惑に負けて真守に作戦に乗ってもらえるか聞いてみる百香里。
彼は最初は呆れたような顔をしていたがすぐに持ち直し
意外にもあっさりと了承してくれた。てっきり却下されるかと思ったが。

「すみません」
「いえ。では御堂さんには僕から正式に電話をしておきます」
「お昼までどうなさるんですか?」
「散歩でもしてきますよ。せっかくですから」
「ありがとうございます」
「干渉するつもりは無いんですが、でも、…応援は、していますから」
「真守さん」

もしかして昨日のことを彼なりに心配してくれていたのだろうか。
だから昼までゆっくりさせてくれるのか。それが彼なりの優しさに思えて。
もう一度深く御礼をした。


「どやった?」
「お昼までならって。了承してくれました」
「そおか!よっしゃそんなら」
「あの」
「なに?」
「昨日の片づけをしてからでも」
「そんなん後回し!」

寝室に戻ると緊張の面持ちで待っている総司。
大丈夫だったと聞いて嬉しそうに百香里をベッドへ引き込む。
そこから全裸になるまでの早さといったら。あっという間。
器用に百香里の服も脱がせていってポイポイ床に落としていく。

「総司さん」
「なに?」

百香里の柔らかな胸に顔をうめて心地良さそうにしている総司。
甘える彼をぎゅっと抱きしめながら百香里は言う。

「これからもいい家庭を築いていきましょうね」
「そやね」
「…ぁん…もう…まだ…話が」
「ゆっくり聞くから」
「…もう」

遮るように胸の先を甘噛みして抱きしめていた手をお尻へ。
撫で方がだんだん怪しいものになっていき愛撫にかわる。
後はもう話なんて出来ずただ啼かされるばかりだった。

「ちゃんと聞いてるて」
「ぁあん…もう…うそ…ばっかりぃ」
「嘘やないよ。ユカリちゃんのエッチな声と音」
「ぁんっ」


おわり


2010/04/04