趣 味


「カニを沢山頂いてからの海の幸セット…」

夢のようなひと時だった。思い出すとちょっとお腹がすいてしまうくらい。
スーパーでたまに見るような足の細い奴でなく太く中まで身がぎっしりのカニ。
それが目の前に山盛りで次から次へと。ついテンションが上がり貪りついてしまった。
ちょっと恥かしいが傍にいたのは嬉しそうな総司と勝手に飲んでいる義弟2人。

「ユカリちゃん何してるん?」

箱を冷蔵庫に仕舞って、その場でため息なんかつきながら物思いに耽っていると後ろから声。
振り返ると休日とあってとてもラフな格好をしている旦那さま。予定では買い物に付き合ってもらって
お昼を食べて穏やかにのんびりと家で過ごす。そこへ先ほど届いた海の幸セット。
懸賞で当たった初めての高価な品物ですごく嬉しい。のだが、やはりカニをたんまりと食べた後だとやはり霞むというか。

「あの、お昼の買い物をするついでに家に寄りたいんですが」
「ええよ。それやったら早めにでよか」
「すみません」

自分ばかり美味しい思いをするのも気が引ける。ということで、母にあげようと決めた。
中身を見たわけではないが3人前くらいはありそうな箱。兄夫婦と一緒に食べてもいいかもしれない。
総司はこのままでは悪いと着替える為に部屋へ戻った。その間に百香里も出かける準備。
洗濯もしたし掃除も手早く終えた。弟たちはそれぞれに休日を謳歌している。
何時もと変わりない松前家の朝。


「それなに?」
「母にお土産です」
「重そうやね。持つわ」
「ありがとうございます」

そのままだと運び難いだろうと思い大きな袋に箱を入れたが結構な重量なのは変わりない。
いっそ中身だけにしたら良かったと思いながら玄関へ。先に来て待っていた総司は
百香里の重そうな荷物に驚きながらもそれ以上の質問はせず受け取った。

「なあユカリちゃん」
「はい」

上がってくるエレベーターを待っている静かな時間。
何となく話す事も無くて黙っていた百香里。
総司に呼ばれて何かと横を見たら。

「チューして」

そう言うとニコっと笑い顔を此方に向けてきた。身長差がかなりあるから総司は結構厳しい体勢。
それに箱を持っているから抱きしめてキスというのは出来ない。よって百香里からのキスを待っている、
のだと思う。この感じだと。でもここは室内ではないし何時誰が来るとも限らない。百香里は戸惑い。

「車まで待てません?」

と恐る恐る聞いてみるが。

「待てへん」

笑顔のままで即答された。

「はい。終わり」
「そんだけ?あかんよ。ちょっと触っただけやん」

仕方なく少し背伸びをして総司の唇に触れるくらいのキスをする。
それで満足するとは思えないがもうすぐエレベーターがこの階に到着する。何より恥かしい。
意地悪で言っているのか素で言っているのか総司は不満げにもっとちゃんとしてと強請るが。

「あん。だめですってば。もう。総司さん」
「大丈夫やって誰もこんよ」
「総司さ」
「あー…すみません、乗らないならどいてもらえますか」
「すいません!乗ります!」

いつの間にか後ろにスーツ姿の男性が居て。目の前にはちょうど開いたエレベーター。
急いで乗り込み1階へ。恥かしくて顔を赤らめて俯く百香里。総司は特に変化なし。
男性も同じく1階でおりて時計を気にしながら高そうな車に乗り込み去っていった。
休日なのに仕事なのだろうか、百香里は少し興味がわいて車が去ったほうを見ていた。

「ユカリちゃん?」
「皆はお休みなのに、大変ですね」
「ええんちゃう?真守もビックリな仕事人間っつー顔してたし。結婚もしてないみたいやし」
「え」
「指輪、してへんかったから」
「じゃあ1人でこんな広い部屋に…お掃除大変そう」
「もうええやろ。車乗り」
「はい」

見た目もそう歳がいっているように見えなかったから、よほど給料のいい仕事をしているのだろう。
よく昼のワイドショーでやっているような。エリート。成功者。勝ち組。色んな言葉で表現される人。
そんなのが身近に住んでいるなんて。もしかして他にも居るのだろうか。
コツがあるならちょっと話を聞いてみたい。何て想像を掻き立てられながら車に乗り込む。

「まずはお義母さんのとこやな」
「はい」
「の前に」
「あ。だめ、溶けちゃいますから急いでください」
「とける?」
「はい。荷物」
「通りでひんやりした訳や」

座るなりキスしようとした総司だったが土産が溶けてしまっては大変とせかされて。
彼女の柔らかな唇が名残惜しいけれど車を発進させる。目指すは百香里の家。
音楽をかけて他愛も無い会話をしながら。

「運転に集中してください」
「まだ赤やん」

百香里にちょっかいを出すのも忘れずに。


「あ」
「どないしたん急に」

到着した我が家。自分で言うのも何だがかなりのボロアパート。
それでも結婚する前は十分に生活できる城だった。今でも部屋に戻ると安心する。
荷物を持ってもらい車から降りるとすぐに目に付いた車。百香里は見覚えがあった。
いきなり立ち止まった彼女に総司もとりあえず止まって何事かと尋ねた。

「お義姉さんの車」
「ユカリちゃんの兄さんの嫁さん?」
「はい。様子みに来たんでしょうか」

兄だったら自分の車で来るはずだ。
仕事で忙しかったりして母の元へ来れない代わりに義姉が来る事もある。
だからおかしくはないが、事前に母に連絡したときはそんな事言ってなかったのに。

「俺、おらんほうがええやろか」

総司は尋ねる。彼女の兄は居ないようだがもしその奥さんも同じく反対なら。
荷物を玄関まで持っていって自分は車に戻ろう。出来るだけ争いは避けたい。

「お義姉さんは大丈夫です」

心配する総司に百香里は笑顔で返す。
兄の手前何も出来ないし言えないけど、結婚を報告した時に義姉はこっそりと
百香里に祝いの品をくれて、笑顔でおめでとうと言ってくれた。優しい人。

「そうか。それやったらご挨拶しとこかな」
「鼻の下長いですよ」
「なに?妬いてるん?まだ何もしてへんで」
「まだ?これからする予定ですか?」
「意地悪やなあ」
「もう。顔がニヤついてます」

一瞬緊張が走ったが大丈夫と聞いてむしろ浮かれた様子の総司。
もちろん何も起こるわけが無い。けど、ちょっと気になる様子の百香里。
階段をあがり通路を歩き玄関をノックした。返事は若い女性の声。

「いらっしゃい百香里ちゃん」
「こんにちは享子さん」

出てきたのは義姉。お帰りなさい、と優しげな笑みを浮かべている。
どうやら母からもうすぐ百香里が来ることを知らされていたようだ。
奥からはその母が出てきて総司にいらっしゃいませと挨拶をする。

「こちらが」
「はい。夫の総司さんです」
「こうしてお会いするのは初めてでしたね。初めまして、享子です。
主人から聞いてたんですけど、思っていたよりもお若いんですね…」
「え?ほんまですか?いやぁそうでもないんですけど〜」
「総司さん」

美人の義姉に褒められて嬉しかったのかやたらデレデレしている総司。
ちょっと不満を感じながらも部屋にあがるとまず母に土産を渡す。享子はお茶の準備。
話を聞けば今日は一家で来て母と過ごす予定だったのだが急な仕事が入ったとかで兄は来れず。
子どもたちはさっきまで居たがこう狭くて何もない部屋では退屈だろうと母が言って、
既に友人の家に遊びに行き義姉だけが母の相手をすべく残っているのだという。

「百香里ちゃん、素敵な旦那さまね」
「はい」

ただでさえ狭い居間に大人が4人居るというのはあまりにも窮屈で息苦しい。
お茶を出すと享子は海の幸セットを箱から出しお昼に向けての下処理を始めた。
百香里も義姉にばかりさせては申し訳ないと一緒に手伝う。
昼には遊びに行った子どもたちもここに戻ってくるからこの量は丁度いい。

「あの人も本当は分かってると思うんだけど。頑固というか。妹に過保護すぎるのよね」
「お兄ちゃんずっとお父さんの役もしてくれたから」
「ああ。だから歳の割りにおじさんぽい所あるのかも」
「はは、そうかもしれませんね。…私は、とても幸せなのに」

総司を褒められて嬉しい反面、今も反対して分かってくれない兄に落ち込む百香里。
今でも電話をすれば帰って来いといってくる兄。普段はとても優しい人なのに、
総司の前ではあんなにも攻撃的になるのだろう。思い出すとついため息がでて、
大丈夫?と隣の享子に聞かれ慌てて何でもないですと笑って返事した。

「ねえ、総司さんって大きな会社の社長さんなんでしょう?もう全部セレブって感じ?」
「セレブ…ですか」

チラっとふり返り母と話している総司を見て興味ありげに聞いてくる義姉。
百香里は朝の様子を思い浮かべた。彼が着ていたのは百香里がバーゲンで買ってきた安いパーカー。
キャラクターの絵が描いてあって、それが総司のお気に入りのようで休日はよく着ている。
でもってその格好でバーゲンとか売りつくしとかに出陣する訳だから。テレビで見るようなセレブ生活とは
微妙に違うような気がする。何て言ったら義姉の夢を壊すだろうかと笑ってごまかした。


「すみません、散らかり放題で」
「子どもはヤンチャなもんですから」

台所で何やら楽しそうに語り合っている2人を他所に総司は何時になくゴチャゴチャしている部屋で
義母に座布団を敷いてもらいそこに座った。恐らくは子どもらが縦横無尽にはしゃいだ名残だろう。
恥かしそうにしている義母だが子どもや孫に囲まれて嬉しそうでもある。やはり身内が傍に居るのは良い。

「松前さん、その、変な話ですがお子さんは」
「はい。…娘が」
「女の子ならあまり手がかからないでしょうね、うちの百香里も小さい頃は大人しかったんです。
それが物心ついてからはなんといいますか。とにかく元気な子で。生傷が絶えなくて困りました」
「そうですか」

その頃の話をたまに彼女から聞いているから母の言う元気具合は総司も知っている。
正直困りましたというレベルではない気がしたが、ここは腰を折らずに笑うのみ。
孫や娘たちが来て気分がいいのか母は終始笑顔で昔話を続けた。今は亡き夫との事から
性別が逆だったら良かったと思うほど性格の反対な子どもたちの事、そして今の満ち足りた生活。

「すいません。こんな年寄りのつまらない話」
「話はするも聞くもどっちも好きです。ええ思い出聞かせてもらって、ほんま羨ましい」
「そんな大したことじゃ」
「うちにはそんな語れること何もないですし」

家族のする最低限の会話もなければ視線も合わせない冷め切った食卓。
それが唯一家族が顔を合わせる場所だったなんて、百香里の母親には言えない。
暖かく幸せな食卓だった彼女たちと比べてしまうとなお更。

「百香里との生活はどうですか?何も、ないんですか?」
「ユカリちゃんとはそらもう…ら、ラブラブで」
「よかった。あるじゃないですか。何も無いなんて母親としては困ります」
「ああ、すんません。…ユカリちゃんとの生活はほんま幸せです、語り尽くせんくらい」

義母の言葉に自分が過去ばかりみて今を忘れていた事に気づく。
自分にも暖かい食卓がある。愛する百香里と、彼女のお陰で距離が縮んだ弟たちとの。
喧嘩やすれ違いも多いけれどそれも十分に家族らしい。楽しい時間。

「あの、松前さん」
「はい」
「最初は女の子でお願いします、部屋が本格的に破壊されそうで」
「え?」
「それにほら、一姫二太郎っていうでしょ?」

いきなり何を言い出すのかと総司は母を見て、あっと気づく。
彼女が言いたいこと。

「そ、そうですね」
「でしょう?」

孫だ。

「なに?何の話し?」
「百香里の話」
「ちょ、ちょっと。変な事言ってないよね?」

準備を終えた百香里が来て総司の隣に座る。
話題が自分の事だと知ってなにを話していたのか気になる様子。
ただどれだけ聞いても2人はただ笑っているだけだったけれど。



「そんな顔せんといて。なあ?」
「総司さんが意地悪するからです」
「堪忍して。な?ユカリちゃん」

土産にみかんを貰い車に戻ってきた2人。でも百香里は不機嫌そうにそっぽを向く。
とりあえず昼食の買い物に行こうと車を走らせるが会話はなくとても静かな車内。
たまらず総司が話しかけるがまだ怒っている様子の百香里。

「じゃあ、何か美味しいものでもおごってもらおうかな」
「何でも言うて」
「松田屋さんのたい焼きとか」
「よっしゃ決まり…で、松田屋さんってどこ?」
「ないしょ」
「あ。そんな意地悪するん?」

返事もせずぷいっと外を向いてしまった百香里。
彼女が怒っている原因はたぶん、やきもち。

「あ。総司さん降ろしてください」
「そんな。ユカリちゃん」
「違います!あのお店トイレットペーパーが安い!ああ!なくなっちゃう!ちょうど買おうと思ってたんです!」
「お、落ち着いて!ここで降りたら危ないから!待って!」

突然降りたいと言い出すからそこまで怒っているのかと驚いたが理由は何時もの百香里らしい事。
ちょっと安心したものの、赤信号で止まっている間にドアを開けようとする彼女を止めて安全な所で車を寄せる。
車が止まるや否や百香里は猛スピードで車を飛び出て、目当ての店で無事にトイレットペーパーを購入。
初めて来る店だったようで店内も物色してホクホク顔で帰ってきた。

「すいません」
「そんな笑顔で言われたら何もいえへんわ」
「あ。…怒ってるんだった」
「もう堪忍して。な?ずっとユカリちゃんに怒られたまんまやなんて辛い」
「……そこ、左に曲がってまっすぐ行くと商店街あります。そこに、…松田屋さんあります」
「よっしゃ」

お得な買い物が出来て気分がよくなったのか百香里は機嫌を直したようで。
彼女の指示に従い松田屋という歴史がありそうな佇まいの和菓子屋でたい焼きを買い。
昼前でちょっとお腹がすいた百香里は暖かいたい焼きを取り出す。

「総司さんはしっぽ?あたま?」

1人で食べては悪いと運転する総司にどちらがいいか尋ねる。

「ユカリちゃんは?いっつもどっちから食べるん」
「私はあたま」
「それやったらしっぽ貰うわ」
「ここのたい焼き凄く美味しいんです。小学生の頃に母が買って来てくれて。それ以来ファンで。
自分でもよく買ってました。80円でこんな大きなたい焼き食べられるんですよ?」
「ほんま。めっちゃ美味い。あったかいうちにあいつらに食べさしたかったなぁ」
「そうですね。やっぱり出来たてが1番美味しいですよね」

弾む会話。やっと何時もの流れになった所でスーパーに到着し買い物を始める。
ここで買う予定だったトイレットペーパーが安く手に入って満足げな顔をする百香里。
安くといってもほんの30円ほどの差だが彼女にしてみればとても大きな事らしい。

「これ食べたいなあ買うてええ?」
「はい。じゃあお2人の分も」
「何で?」
「喧嘩しないように」
「そんなせーへんてええ歳してそんなぁ」
「この前渉さんのぶどう食べちゃってそれで喧嘩してたじゃないですか」
「そーやっけ…あはは」

総司にカートを押してもらいながら百香里は必要な食材をカゴに入れていく。
何にするか彼と相談しながら。1人の時は必要なものだけを入れてさっさとレジに向かうが
今日はのんびり。その所為か必要ないと思われるものまでカゴに入れてしまってパンパン。

「何時もはこうじゃないんですけど。やっぱり隣に総司さんが居るから気が大きくなるのかな」
「たまにはええんと違う?」

会計を済ませると荷物をダンボールに入れて行きと同じように総司に持ってもらい車に詰めた。
こんなにも買い物をしてしまっては先ほどのお得な買い物も意味がないような。
けど総司が言うようにたまにはこんな日もあっていいはずだ。そう気持ちを持ち直す。

「……」
「ユカリちゃん?眠い?」
「……すいません、ちょっと」
「朝から忙しかったしな。ええよ寝てくれて、家まですぐやし」

車に乗り込み最初は総司と話をしていたのだが途中からウトウトしだす百香里。
昨日少し夜更かしをしてしまったから朝から少し眠かった。それ何処ではなかったのだが、
すべての予定を終えて安心したからか一気に眠気が戻ってきて。
マンションにつくまではと我慢したけれどついには完全に意識が途切れてしまった。


「……ん」
「あ。起きた?」
「……総司さん」

目を覚ましたら総司の顔が間近にあった。
眠る自分にキスでもしようとしたのだろうかとおぼろげな意識の中思い。
特に抵抗する事無く微笑んでいたら軽くオデコにキスされる。

「後ろの荷物部屋に運んだから。あとはユカリちゃんだけや」
「すいません重いのに」
「ええよ。ユカリちゃん軽いし」
「え?…わ!?」

総司に抱きしめられたかと思うとそのまま抱き上げて車のドアを閉める。
お姫様抱っこされた状態でおろしてくれる様子はなくそのまま入口へと歩き出した。
幸運にも人気はないけれど、百香里は慌てておろしてくださいと頼む。

「大丈夫やって」
「だ、大丈夫じゃないです。おろしてください」
「しゃーないな。チューしてくれたらおろしたる」

見上げるとニコっと笑って百香里からのキスを待つ総司。朝と同じエレベーターの前。
ただし今回は運んでもらう荷物はなく代わりに自分を抱えているけれど。
百香里は恥かしそうに何度も周囲を確認をして、それから恐る恐る顔を近づけた。

「場所を考えてください」
「ええやんべつに」
「よくありません。どう考えても近所迷惑でしょう、いい歳をして呆れてものも言えない」

それとは別に運悪く1階におりて来た真守。エレベーターのドアが開いたと同時に
何故か兄が義姉を姫抱っこして熱烈なキスしている場面に出くわした。ここは兄夫婦の部屋か?
一瞬馬鹿な錯覚を起こしたがすぐに違うと振り切って声をかけた。怒り口調で。

「怖いなあ」
「当然です」

懲りていない様子の兄。義姉は顔を真っ赤にして部屋に入るなり台所へ逃げた。
恐らく彼女は強引に誘われただけだ。可哀そうに。
そう思うとなお更この全く反省の色が無い男が腹立たしい。

「何かあった?」

珍しく何処にも行かず先ほどまで部屋に居た渉。眠っていたのかまだパジャマ姿。
彼もまた百香里が買ってきた安いパジャマを着やすいからと愛用している。
欠伸なんかしながら会社みたいにピリピリしている上の兄を眺めて百香里に聞く。

「い、いえ。べつに」
「そう。まあいいけど。ねえ、昼飯あとどれくらい?」
「10分もあれば」
「そ。じゃあテレビでも観てるかな」

空腹な様子の渉は置いてあった土産のみかんを2つほど取りソファに座る。

「なあユカリちゃん真守が」
「知りません」
「あれ。また怒ってる?」
「怒ってないです」
「そうかあ?」

真守の説教に疲れたのか百香里に助けを求める総司だが、
彼女もまた怒っている様子。仕方なく渉の隣に座ったら、
来るなおっさんと細かいみかんの皮を投げつけられた。

「渉さん駄目ですよ皮なげちゃ」
「そうやそうや言うたって」
「片付けるの大変なんですから」
「そう…え。そこなん?」
「なあユカりんこのみかんすっぱいな」
「趣味で畑をしている人からのもらい物なので、甘さとかまちまちみたいです」
「へえ。すっぱいけど美味い」
「よかった。沢山あるので食べてくださいね」


昼食を終えると真守はまた部屋に戻り渉はパチンコに行くと出て行き。
百香里は片づけをして総司はソファでふて寝。

「……」
「総司さんそんな所で寝たら風邪ひいちゃいますよ」
「風邪ひいたってえんやろ」

百香里が来ても不満げに顔を背けて寝てしまう。完全に拗ねた。

「そんな事ありません。昼からはのんびり過ごすんですから、起きてくれないと困ります」
「ユカリちゃん」
「はい」
「部屋で休もか」

けれど百香里が優しく頬にキスするとご機嫌になったようで静かに2階へ移動。
部屋に入ってしまえば何をしても誰に咎められることもないし百香里も恥かしくはない。
ドアを閉めると我慢できないのか後ろから抱きしめられて首筋にキス。

「ちょ、ちょと待ってください」
「もう待たへん」

それに続くように手は早々とスカートをめくりショーツの中へ。こうなるのは分かっていたけれど
せめてベッドに寝てからにしてほしい。移動しましょうとモゾモゾする百香里だが総司は構わず
スカートを脱がせその場に下ろした。

「総司さ…ぁ…ぁん…」

ショーツの中では総司の指が淫核を中心に激しく動く。じっくり高めるのではなくて
今すぐにでも百香里をイかせたいような。既にソコからはジュクジュクと淫らな水音が聞こえる。
激しい指に百香里の腰はわななき足を後ろの総司に絡ませなんとか立っている状態。

「ちょっと休憩」

百香里がもう限界という所で何故か総司の手が緩む。静かになった室内。

「え…」

イキそうだったのに止められて、つい切ない声で聞いてしまう。
後ろの総司は頬にキスすると今度は服に手を入れて胸を揉み始めた。
邪魔なブラはさっさと外しスカートと同じように地面に落として。

「ん?もうイクとこやった?」
「…意地悪」

わざとらしい言い方。

「堪忍。…ユカリちゃんあんまり可愛いから」
「…じゃあ…総司さん」
「続きな」

今度は唇にキスしてベッドへ。

「こ、こんな格好で…?」
「綺麗なお尻」
「…もう」

先に百香里が入り総司の指示に従い四つん這いになる。ブラはとったものの
上着はまだ着ていて下半身はショーツ1枚。そんな格好でお尻を後ろに立っている総司に向けている。
怖いくらい感じる夫の視線は恥かしい。でも手で隠すのは駄目だといわれて。

「恥かしい事ないやん。…ここは夫婦の寝室やで」
「あっ」
「お。ええ感じで濡れてる」

恥かしさに逃げそうなお尻を掴まれてゆっくりショーツを脱がされまた感じる熱い視線。
真っ赤な顔をした百香里が何か言う前にそれを阻止するかの如く生暖かい舌が割れ目に沿って入ってくる。
それは上下に大きく動き、普段は触れない危ない穴のほうギリギリまで来たりして。
腰をくねらせて抵抗する彼女を黙らせるかのように強めにソコへ吸い付いた。

「ぁああっ」

お尻がビクっと大きく震えそれだけで百香里が果てたのだと総司にも分かった。

「可愛いなあ。もっと見たろ可愛いところ」
「…そ…総司さん」
「ん?なに?」
「3時には洗濯物入れたいのでそれまでにお願いします」
「あん。もう。…それやったらもう入ったろ」
「あっ」

既に熱くなっていたモノを後ろからあてがう。果てたばかりなのにまた震える百香里。
のんびりするというには時間はあまり無い。腰を掴みゆっくりと打ちつけ始める。
シーツを掴み自分の名を呼び切なく啼く百香里を見つめながら。



「洗濯物なら僕が…あ、いや。義姉さんのはそのままですが」
「すみませんっ」

百香里が目を覚ましたのは4時。何度も確認したがやっぱり4時。夕方4時。
たしか洗濯物を入れるのでそれまでに終えてくださいと言ったのは3時だったはず。
総司は隣で自分を抱きしめて暢気に眠っていた。こんな状況で起こしてくれるわけもない。
慌てて服を着て下におりたら真守がコーヒーを飲んでいた。

「そう慌てることはないですよ、食事も何時もより遅くて構いませんし」
「すいません、ほんとうに」
「いえ。それより懸賞で当たったものは?今夜の夕食に出るんですか?」
「ああ、あれは…母に贈りました。カニを頂いたばかりなのに海の幸セットっていうのも…その」
「やはり。貴方らしい」
「すみません。お名前を貸してもらったのに」
「いえ。お役に立てて何よりです」

自分の洗濯物を取り込み片付けて夕飯の準備。
特に連絡は無かったと真守が言っていたから渉は真っ直ぐここへ帰る。
という事はお酒の準備もしておかなければならない。忙しい台所。
色々と買い込んでおいてよかった。何にしようか考えなくてすむ。

「今度はお肉なんていいかなって思うんですけど、倍率高いでしょうね」
「それでも可能性を信じて挑むのが懸賞の醍醐味でしょう」
「ふふ。真守さんも分かってきましたね」
「実は僕も応募してみたんです」
「え!そうなんですか?因みにどんな…」

動き回りながらも趣味の懸賞の話題で盛り上がる。この話が出来るのは彼しか居ないから。
そんな彼が懸賞に参加していたなんて。もっとも懸賞とは程遠い気がするが。
何に応募したのだろう。百香里はドキドキしながら聞く。

「そんな大したものではないんですが、今日届いたんです」
「え?あ。じゃああの時」
「はい。当たった品を取りに行ったんです」

不味いところで鉢合わせた理由が分かった。ますます気になる懸賞の品。

「そ、それで」
「券です」
「図書券…とかですか?」
「宿泊券です。箱根の旅館の。2泊3日」
「……」
「希望としてはB賞の万年筆が欲しかったんですけど。そう上手くはいかないものですね。
箱根には幾つかうちの別荘もありますし、仕事が忙しいので特に行く予定も。よろしければ義姉さん」
「……」
「義姉さん?どうかしましたか」
「……師匠」
「え?」
「師匠と呼ばせてください!」
「……あの、…意味が、よくわからないんですが」

真守が何気なく応募した懸賞。それは最近まで大々的に雑誌やCMなんかでも募集していて
倍率は計り知れない超難関。それだけ知れ渡ったものだからこそ真守でも知っていたのかもしれないが。
何時になくテンションをあげる義姉に不思議そうな顔をする真守であった。

「なあなあユカりんパチンコでこんなお菓子…なんだ?」
「お帰りなさい渉さん!」
「な、なんか怖いんですけど。何?あんた何かやらかしたの?」

そこへパチンコから帰ってきた渉。両手にはパチンコでの戦利品。
これだけあれば買わずに済むと百香里が喜ぶかと思ったら、
それ以前に妙なテンションの彼女が居て驚く。

「い、いや。別に何も」
「嘘つけ。明らかに妙だろ」
「何だか私今年の年末はいけるきがします!」
「年末?何処行くの?」
「ジャンボです!ジャンボ!」
「じゃんぼ?……て、宝くじ?」

終始頭上にハテナマークが浮かぶ渉。真守もピンと来ていない様子。
ただ百香里だけは今にも歌でも歌いそうなテンション。
とりあえず年末に真守を連れて宝くじ売り場へ行くことは決定した。


おわり


2009/12/03