甘い生活 3


「あ、あの、真守さん。どうしましょう、あの、ど、どうしましょう」
「義姉さん落ち着いて、どうしたんですか」

いつものように仕事から帰ると渉の姿はなく。代わりに何時になくうろたえた様子の百香里。
何か紙を握り締めてオロオロ。真守の顔を見るなり近づいてきて同じことばかり言う。
とりあえず深呼吸をしてもらい、何が起こったのかを話してもらう。

「あ、あの、当たったんです」
「懸賞ですか?良かったですね」
「う、生まれて初めてなんです。こんな凄いの」
「そんな高額なものが?」

毎度何か応募しては落胆している顔ばかりみていたから、こんなに慌てているとなると。
よほど高額なものだろう。彼女の場合その基準が普通とはまた少し違うが。
真守が帰ってきて落ち着いたのかようやくソファに座って、握っていた紙を彼に見せる。

「私もう今年分の幸運を使い果たしちゃったかも」
「海の幸セットご当選おめでとうございます…ですか」
「ずっと欲しかったんです。この前渉さんに鍋を買って頂いたし。これって運命だったのかな。なんて」

興奮収まらぬ様子でニコニコ顔。よほど欲しかったものが当たって嬉しいらしい。
笑うと年相応のまだまだ幼い顔を見せる百香里。真守もつられて微笑む。
懸賞に応募して居る事は内緒だからいきなり夕飯が豪華になって兄も弟も驚くだろう。

「良かったですね」
「はい。あの」
「分かってます、内緒、ですね」
「お願いします。…ふふっ」

ご機嫌な百香里。夕飯を準備する間も鼻歌まで聞こえてきて。
ビールを出してくれる時も常に笑顔。総司が帰ってきたらビックリするだろう。
彼女の話では渉は今日は恋人の部屋に泊まるそうだ。


「ただいまぁ。もーやーだー」
「何ですかその喋り方」
「お帰りなさい」
「ただいまー」

それから少しして総司が帰ってきた。真守より遅いのは珍しい、つまりは残業。
彼の場合真面目に取り組むようにがっちりと社員に脇を固められているから逃げられず。
ビシバシ容赦なくされるものだから帰ってくると毎度こんな生気のない顔。

「総司さん、今日も1日ご苦労様です」
「なぁに?今日は何やご機嫌やね。何かええことあったん?」
「総司さんが無事に帰ってきてくれたから」
「もう!可愛い〜」

百香里の笑顔で元気を取り戻し3人での夕食。
終始笑顔でご機嫌な彼女。それとなく何かあったのかと真守に聞いたが
彼もさあ?としらを切った。何にせよ機嫌がいいのは良いことだけど。


「なあ、ユカリちゃん。俺にも教えてよ。何かええことあったんやろぉ」

食後、片づけを終えた百香里をソファに座らせて肩を抱く。
いい事があったなら自分も知りたい。一緒に笑顔になりたいと思って。
なあ、と耳元に唇を近づけると百香里はくすぐったそうにして。

「あの、明日お母さんの所に行きたいんですけどいいですか?」
「え?かまんけど、何かあったん?」
「様子を見に行きたいんです、最近電話もあまりしてないから」

いきなり話が変わってビックリしたけれど、拒む理由はない。
とりあえず顔を離して抱きしめる。

「それやったら俺も」
「昼間のうちに行きますから」
「ええよ、休む。俺もお義母さんの様子気になるし。それとも、おらんほうがええかな」
「そんな事ありません、喜びます。嬉しいです」

母は総司の事を認めてくれているし、援助にも感謝もしている。
唯一自分たちの事を反対している兄は居ないから平和だろう。明日は2人で行く事にした。
少し前までは電話をしてくれていたのに、気を使っているのかここの所は静かなもので。
こちらから電話しても大丈夫だよと直ぐに切られて。それが逆に気になっていた。

「家族は大事にせなな」
「はい」
「ということで。ユカリちゃん。素直に白状しい〜」
「お風呂入りましょうか」
「……」
「私1人でもいいですけど」
「いややぁ」

なんとか総司を言いくるめその日は終了。明日は一緒にお昼を食べて母の所へ向かう事になった。
久しぶりに母に会うからか、なんだか妙な気分。自分の母親なのに。
それだけ自分が松前家に染まっているという事なのかもしれない。


「何でそんな重要な事を当日に仰るんですか!」
「堪忍や。なあ?」
「堪忍できません!専務も何か仰ってください!」
「人の上にたつべき人としてはどうかと思いますが、事情が事情ですし」
「専務!そんな事でいいんですか?今日は昼からだって予定が」

翌日の社長室はいきなり秘書の怒声から始まった。
いきなり昼からまるっと休むなんて訳の分からない事を言うものだから、頭に血がのぼる。
いつもなら一緒に怒ってくれる専務も義姉が絡むと強くでないというか、甘くなってしまうから困る。
千陽だって鬼ではない、何とかしたいと思うけど。当日の朝なんて。泣けてくる。

「2時間もあればなんとかなるでしょう」
「えー2時間ー?」
「それ以上は御堂さんにも僕にも庇いきれません、嫌なら僕が義姉さんに連絡して今日は」
「ああああ分かった。分かった。ユカリちゃんに電話したら嫌やぁ…めっさ気にするやん」
「2時間です、帰ってこない場合は分かってますね」
「……はぁい」

1人苦しむ千陽に、真守がやっと助け舟を出してくれた。2時間。
なんとか社長不在を乗り越えねば。専務も助けてくれるだろうから。助かった。
総司はもう少し一緒に居たいとゴネたかったけれど、流石に無理と見て大人しく了解した。

「ありがとうございます」
「いえ、此方こそ。毎度ご迷惑をおかけします」
「いえ、そんな」

社長室からでると直ぐにお礼を言って頭を下げる。
彼がここに居なかったらどうなっているのか。考えるだけでも怖くなる。
専務は少し笑って、お疲れ様ですと言ってくれた。

「今回は義姉さんの実家に行くとの事ですので、急な事で申し訳ありませんがどうか」
「あの、何かあったんでしょうか」
「分かりません、様子を見にいくとだけ聞いています」
「そう、ですか」
「兄の事です、義姉さんについて行きたいだけなんでしょう」
「ああ」

お互いに苦笑いして部署に戻る。
昼まではきっちりとお仕事していただくために。今日はいつもより厳しく。
総司もそれを分かっているのか弱音は吐かずに黙々と続けた。


「あ、お母さん?私。百香里」
『どうしたの急に』
「昼からそっちに行こうと思うの、いいよね」
『え?まあ、いいけど』
「総司さんも一緒に」
『ええ!?松前さんも!いや、どうしましょう!何か買ってこなきゃ』
「いいの、気にしないで。私たちはお母さんの様子を見に行くだけだから」

総司たちを見送ってすぐ母に電話をかけた。思いついたのがいきなりだから母も驚いた様子。
おまけに総司も来るとあってなおさら慌しい音が受話器の向こうから聞こえた。
退院してからは以前のように活発に外には出ていないらしいと兄に聞いた。
だから少しでも顔を見せてやってくれとも。

『でも、こんな部屋に』
「私の実家だよ?」
『お前はもう松前さんの』
「そんな事ない。お母さんの娘だよ、ずっと。ずっと」
『百香里。ありがとう、じゃあ待ってるよ』
「うん」

母の声が前よりか細く感じるのは気のせい?久しぶりだから?
静かに受話器を置いてため息。今自分に出来る事はなんだろう。暫し考えて。
母が好きなおかずを作って持って行こうと台所にたった。少ししてまた電話が鳴る。

『百香里か、俺だ』
「あ。お兄ちゃん」
『母さんはどうだった?話ししたか?』
「うん。今少し。昼から会いに行こうかなって」

兄の声も久しぶり。慌てて火を止める。

『そうか。喜ぶだろうな、悪いないけなくて』
「ううん。仕方ないよ」
『母さん、お前に遠慮してるんだ』
「遠慮?どうして?」
『自分みたいなのが傍に居ると百香里に迷惑をかけるって。お前には言うなって言ってたけど。
体の調子もまだ本調子じゃないようだしな。お前が傍に居てやるのがいいと思って』
「……うん」
『また3人で食事にでも行こう』
「うん」
『じゃあ、また』

すっかり慣れてしまって気づかなかった。ここは自分の家とは比べ物にならないほどお金持ちの家。
母が連絡をしてこなくなったのはそんな家に嫁いだ百香里に気を使っていたから。
受話器をおいたら涙が出てきて、暫しなにも出来なかった。


「ユカリちゃん」
「……」
「ユカリちゃん?」
「……」
「百香里?」

待ち合わせ場所はマンション前。
母に持っていくおかずを弁当箱に詰めて手提げ鞄に入れて総司を待っていた。
その間色々と考えてしまって、ボーっとして。彼が来ても気づかなくて。

「……あ」
「どないしたん?気分、悪い?」
「……いえ」

総司に抱きしめられてやっと気づく。でも反応は鈍い。

「何かあった?」
「あの、お昼は近くの公園で食べませんか?お母さんに食べてもらおうと思ったんですけど、
作りすぎちゃって。どうですか?」
「ええよ」

軽く頬にキスをして車に乗り込みまずは公園へ。平日の昼間に公園でランチも悪くない。
入ってみるとお母さんたちが小さな子どもたちと遊びに来ている光景も見えて。
いいですね、とやっと微笑む百香里。食べるのにいい場所を見つけて弁当を開く。
百香里らしい見た目も美味しそう。手拭をもらって、お茶も貰って。

「何だか遠足思い出しちゃいますね」
「はは、俺は何年前や?もう思い出すのも面倒やわ」
「3人でピクニックは私の夢なんですから」
「ああ、ええな」
「総司さん」
「ん」
「私は自分の家を誇りに思ってます。父も母も尊敬してます。優しい兄も好きです。
たとえ苗字は変わっても家族は大事にしたいから、たまに、家に帰ってもいいですか」
「もちろんかまへん。お義母さんをほっとけんもんな、ユカリちゃんは家族思いの優しい子やから」
「ありがとう。総司さん大好き」

ちゅ、と隣に座っている総司の頬にキスする。
可愛らしいキスに総司も照れているのか顔が真っ赤だ。

「も、もう、ユカリちゃん」
「総司さん。あーん」
「かなわんなぁ」

こんなに甘えてくる百香里を前にして2時間しか居られないなんて酷い。
弁当を食べ終えると土産にお菓子を買っていって百香里の実家へと向かう。
あまり綺麗とは言えない質素な佇まいのアパートの一角。

「あ、あの、何もお構いでしませんが…」
「こちらこそ、いきなりで」
「いえいえ。そんな」

明らかに綺麗な服に着替えた母。化粧も少しだけしていて驚いた。
中に案内されて用意されていた来客用の座布団に座る。
総司も来るときいて慌てて片付けたり準備したりしたのだろう。

「お母さん無理しないで」
「百香里こそ、こんなにお土産持ってきてくれなくても。私1人なんだし」
「いいの。保存が利くものばっかりだし。少しずつ食べて」
「それより、松前さんを1人にしていいの?」
「お茶なら私が持っていくから。お母さんは座ってて」

お茶の準備をしに台所へ向かった母を追いかけて土産を渡す。
こんなにしてくれなくてもいいのに、と少し困った顔をされたけど引っ込める気はない。
冷蔵庫に入れてお茶も百香里がもって一緒に総司の元へ。
1人ポツンと放置されて少々居づらそうな表情も百香里が隣に来て少しは緩む。

「あの、お仕事お忙しいんじゃ」
「うちは弟らがめっさデキがええもんで俺なんて…あ、いや、社員教育がしっかりしてますんで」
「そ、そうですか。さすが松前さん…」

そこはあんまり突っ込んだ話をしないほうが良さそうと笑ってごまかす。
それでも百香里の母は凄いですねと驚いた顔をした。

「ユカリちゃんが支えてくれてますから。ほんま、ええ嫁さんです」
「総司さん」
「今後とも百香里をどうぞよろしくお願いします」
「お母さんっ。ほ、ほら。…それより、お兄ちゃんから話し聞いてると思うけど」
「同居の話なら断わったよ」
「どうして?」
「今のままで十分。たまにお前たちが遊びに来てくれたらそれでいい」
「でも」
「残りの人生、あの人と2人で暮らすのも悪くないと思わない?」

そう言って母は父の仏壇を見つめた。写真に残る父ははまだ若い。
それから他愛も無い会話をして、たまには電話をしてねと言って部屋を出る。1時間ほどの滞在。
もっとたくさん母と話したいことがあったのに思いのほか本人を前にすると出ない。

「ユカリちゃんの両親はめっちゃ仲よかったんやろなあ」
「え?」
「あの時のお義母さん、めっさ穏やかな顔やった」
「優しい父でした。怒られたことなかったかも」

車に乗り込むと百香里をマンションまで送る為に走り出す。
もう少し一緒に居たいけれどタイムリミットが近づいているから。

「うちとは正反対やなあ」
「厳しいご両親だったんですか」
「ワンマンやからな、親父は。気に喰わん事があったら子どもでもビシバシ殴りくさってな」
「……」
「けど、今思い返したら親父がお袋を殴ってる所は1回も見たことないんや」
「じゃあ、うちと同じで仲よかったんですね」
「親子仲はめっさ悪かったけどな」

笑って言う総司に百香里も釣られて少し笑ってしまった。
深く家の事を知らないままにお互いの想いだけで結婚してしまったから。聞くこと全てが新鮮。
もしそういう所を詳しく知っていたら、総司の両親が健在だったら。
きっと百香里は結婚を戸惑ったと思うし下手をしたら彼のプロポーズも断わっていたかも。
何て、今のこの幸せを思うとそんなの吹っ飛んでしまうけれど。

「総司さん」
「ん?」
「何処か寄り道していきません?」
「ユカリちゃんからお誘いやなんて嬉しいなぁ」
「総司さんと…ね。…あなた」

はっきりとは言わないけれど、百香里のこちらを見る視線が色っぽい。
これは絶対に誘ってくれている。こんな日そうそうない。
ちらっと時計を見たら残りは後30分。馴染みのホテルに向かう暇はない。
マンションに戻っているのも勿体無い。何処かないか。何かないか。

「ま、まっとってな」
「総司さん?」
「あ。そこのホテ」
「そこのお店入りましょう。ケーキ美味しそう」
「え!…け、ケーキ…?」
「ダメですか?じゃあ他の」

ショック。でも、彼女が望むものは出来る限り与えたいので喫茶店の駐車場へ。
その何軒か隣にあるホテルに入りたいけど、彼女の色っぽい視線は今やケーキに向けられて。
諦めて店に入る。注文をして待っている間に総司の携帯が鳴って席を外す。

『社長、残り20分ですよ』
「わかってる」
『あら。今日は素直に』
「ほなまたねー」

勝手に盛り上がった自分にため息。考えてみたらさっきまで母親の所に居たのだから。
そんな気になるわけないか、なっていたのは自分のほうで。
煙草はやめたはずだったのについ傍にある自販機に目が行く。買ってしまおうか。

「総司さん」
「あ。いや、ちがうで?これはその」
「もしかして無理に来てくれたんですか?今の、会社から?千陽さん?」
「ち、ちがうよー?ぜんぜんー」

そこへ戻ってこない総司を心配して百香里が来た。
慌ててお金を持っていた手をポケットに仕舞う。

「あの、ごめんなさい、てっきりお休みいただいたんだとばかり」
「そんな気にせんで」
「私の事は気にしないで戻ってください、ここからなら歩いて帰れますし」
「ユカリちゃん置いては何処へもいかへん、何も心配せんでええよ。席戻るで」
「で、でも」
「百香里」
「……はい」

手を繋いで席へ。そこには注文したコーヒーとケーキ。
座ると恥かしそうにしながらも勧められるままに食べ始める。

「なあ、ユカリちゃん」
「はい」
「同居、考えとるん?」
「あ。あの、それは兄が」
「まあ、うちはな。弟らも居るし。お義母さんも気ぃ使うやろから」

いきなりの環境の変化についていけないだろう。お互いに気を使うのは心にも体にもよくない。
他に家や広い部屋をまるまるプレゼントしたって頑として断わるだろう。
百香里を見ているからそこの所は言うまでもなく分かる。

「私の家族の事を考えてくれるだけでいいんです、それ以上は何も望んでませんから」
「ほんまそっくりな親子やね」
「よく言われます。顔はお父さん似なんですけどね」
「確かに、写真のお義父さん男前やったなぁ」
「今度総司さんのお家にお邪魔したら写真見せてくださいね」
「邪魔するんやないで。もう、ユカリちゃんの家でもあるんやから」
「じゃあ、あのアパートは総司さんの家?」
「うん。昔を思い出すなぁ」

コーヒーを飲み物思いに耽る。そんな総司を見て。

「……前の奥さんと暮らしてたアパート…とか」

何ていうものだから飲みかけたコーヒーをブッっと噴出す。
確かに前妻と暮らしていたのはあんな感じのアパート。何で知ってるんだろう。
もちろんそんな話してない。もしかして女のカン?それともそんな顔してた?

「ユカリちゃん…」
「いいんですよ。……私だって」
「な、なに?私だってなに?何が私だって?」

百香里の漏らした言葉に大いに反応をしてカップを戻し体を彼女にグッと近づける。
いきなり総司が顔を近づけてきて驚いた顔をする百香里。

「ま、まあ、……色々、です」
「い、いろいろって」
「えっと。明日の天気晴れかなー?」
「ユカリちゃんー」

咄嗟にそばにおいてあった新聞紙を開いて総司の視線をかわした。
そんな風にシャットアウトされると余計気になる。たぶん聞いてどうなるものでもないが。
聞いたところでまたガクっとするだけなんだろうが、総司の中にモヤモヤが残った。

「ご馳走様でした」
「ユカリちゃん」
「お仕事頑張ってくださいね」
「あの」
「それじゃ」

彼女をマンション前まで送るとさっさと行ってしまった。仕方なく総司も会社へ戻る。
最近、彼女に何か聞こうとしてもやんわりと確実にスルーされることが多いような気がする。
納得できないままに会社に入る。皆が自分を見て挨拶をして礼をして去っていく。

「何だよシケたツラして」
「渉」

社長と一緒のエレベーターには乗れないと皆が乗ろうとしない中、ひとり入ってきた渉。
いつもなら弟の顔を見て馴れ馴れしく声をかけてきたりするのにそれがない。
そのほうが良いけど何となく気持ちが悪くて。声をかけたら今存在に気づいたらしい。

「ユカりんがらみか?」
「……ええんやけどさ、ええんやけど、さ」
「何だよ気色悪い」
「俺なんて、俺なんて」
「病気か?」
「……なあ、渉。今夜は飲もうや」
「いやだ」
「そや、真守も誘って3人で飲もう。決まり」
「いやだってんだろーが」

そうとうショックな事があったんだろう、いつも以上に人の話を聞いてない。
とりあえず先に渉が下りる階になって、絶対に飲まないからなと言って出る。
総司はまだ何かブツブツ言っていて。気味が悪い。

「社長。お帰りなさいま」
「そうや…うん…まあ」
「社長?」
「…ん?…あ。…ああ、…千陽ちゃん」
「どうかなさいました?お加減があまり良くないようですが」
「人生について色々と考えとったんや、俺、…やっぱり、…地獄行きなんやろうか」



総司を見送ってから部屋に戻ると改めてこの部屋の豪華さに気づく。
今まであの狭くて質素なアパートに母と暮らしていたのだから、友人たちが冷やかすのも分かる。
でも自分の中では何もかわってない。今日まではそう思っていた。
だけど、本当は少なからず松前家の色に染まっていたのかもしれない。それでいいのかもしれないけど。

「よし。今日は総司さんの好物いっぱい作ろう」

気を引き締めて料理を開始。でもって、変な事を言ってしまったから夜はたっぷり。
何て思いながら忙しなく動いていると、1時間ほどしてインターフォンがなる。
もしかしてもう当たった海の幸セットがきたのだろうか。ワクワクしながら出てみると。

『あ、奥様。私です、千陽です』
「え。あの、どうかなさったんですか?」
『社長が』
「総司さんがどうかしたんですか!総司さんは今どこに?病院ですか!」
『いえ、お連れしています。開けていただけますでしょうか』
「は、はい!」

さっきまであんなに元気だったのに。何があったのだろうと慌てて玄関へ。
ドアを開けると顔色の悪い総司と困った顔の千陽。
とりあえず彼を寝室に行かせて、彼女から事情を聞く。といっても。
帰ってきたらああなっていて理由は分からないとか。真守の指示で家に帰したという。

「それではまた明日も調子が悪いようでしたら連絡を」
「は、はいっ」

千陽が去ったと同時に慌てて彼の元へ。

「あ。ユカリちゃん」

顔色が良くなかったから苦しんでいるに違いない。何かしてやれることはないか。
どうしてさっき気づいてあげられなかったのか。不安な気持ちでドアを開けたら。
そこに居たのは何故か上半身裸の総司が。ベッドに座っていて。今からズボンという所。

「総司さん何やってるんですか?」
「え。うん。まあ、…準備?」

よくわからないけど、さっきより元気そう?
あれ?と思いながらも彼に近づく。準備ってなんだろう。

「何処か悪いんじゃ」
「悪いよ」
「じゃあパジャマに」
「心の問題やから、ユカリちゃんと徹底的に話し合いが必要なんや」
「心の?」

こっちおいでと言われて指示されるままにベッドに座る。すぐに肩を抱かれて。
ここまできてもよく分かって居ない様子の百香里。何せ総司が何処か悪いと思って。
まだ不安で仕方ない。心の問題、と聞いてもそういう病気なんだろうかと不安で。

「ユカリちゃん」
「……あ、い、いや」
「何が嫌やの」
「だ、だって」

総司の手がスカートの中に入ってきて太ももを弄る。ビクっとして慌てて彼を見たが。
待ってましたと言わんばかりにキスで止められて。そのままベッドに倒れこむ。
可愛いエプロンをつけたままの百香里。スカートをめくりあげると恥かしそうな顔。

「ユカリちゃんがあかんのやろ」
「何かしました?」
「……俺を妬かせるから」
「そ、そんなの」

反抗しようとする百香里だが総司の力には勝てない。エプロンを簡単に取られ
上に来ていたシャツもめくり上げられたらあとはブラ。それも取られたら。
唇が解放されるとすぐに其方に手と舌が伸びて優しく吸い付く。

「勝手やろ」
「ん……あぁん」
「親父に似てもうた」

抱え込まれ身動きができないままただ愛撫を受ける。彼の開いた方の手はショーツを降ろし。
始めは太ももや内股を撫でて、百香里の様子をみつつゆっくり優しく指での愛撫に移動。
感じる部分に触れると彼女の腰がビクっと震えてさっきよりもまた甘い声。
ここまで来てしまうともう百香里としても止める力が出なくてただされるがままに喘ぐばかり。

「……総司さん」
「ん」
「全部脱がせてください、皺になっちゃいますから」
「うん。ユカリちゃん脱がすの好き」
「お加減はよくなりそうですか?」
「どうやろ。…ユカリちゃんしだいかなぁ」

キスしながら最後に残った服も脱がせお互いに裸。
時間はある。ゆっくりと百香里を愛撫してキスして。

「あぁ…ん」

組み敷き、熱くなったモノを百香里の中へゆっくりといれる。

「……」
「……そ、総司さん?」

が、総司は動かない。百香里はそれとなく彼を見る。

「ユカリちゃん。最近夫婦の会話少なくなってない?隠し事とかしてないぃ?」
「し、してませんよ?」
「ほんま?何か隙間風感じるんやけどぉ〜」
「ほんとですって。総司さんこそ、そんな、…意地悪して」

こんな状態で我慢させられて辛いのは彼も一緒のはずなのに。
くっ付いたまま動かないで暫し総司に見つめられて。恥かしいのと感じてしまうのと。
ドキドキしながら百香里はただ彼を見つめ返す。動いて欲しくて。

「ぴたっとくっ付いてようなぁ」
「はい」
「はあ、あかん。もう我慢ならん」

ここで漸く総司が動いてくれて。がっしりと抱きしめられ抱きついて。
我慢した成果1回目はあっという間に2人果てた。
もちろんそれで終わる訳もなく。

「あ、あん…も、そろそろ…支度…を」
「その割りに離してくれへんけど?ほら」
「あんっ…だめ…ですって…」

何度となく果て、時計を見てそろそろ夕飯の準備しようとすり抜けようとした百香里の腰を掴み。
そのまま抱き寄せて後ろから突く。もうだめ、と言う割りに百香里の若い体は総司を受け入れる。
逆に総司の方が疲れてしまいそうになるけれど、ここで休むのは嫌だから。

「可愛いから…止まらん」
「あん…あ…ん」
「百香里」

何とか彼女が先に疲れて眠ったのを確認して自分もベッドに倒れる。
百香里は前よりえっちが強くなっている?これは不味いかも。
何て思いながらも気分はいい。百香里も何気に総司に抱きついて心地良さそう。
髪を撫でオデコにキスして。総司も目を閉じた。


「総司さん」
「んー」
「起きないなら私たちだけで行きますよ」
「……どこいくん?もう朝?」
「まだ夜です。でも、誰かさんのお陰で夕飯も何も準備できなかったので。
これからご飯食べに連れてってもらうんです。総司さんはお留守番でよかったですか?」
「いやや!」
「あっ。もう。…早く服を着てください」
「ユカリちゃん」
「ダメです。着させてって言うんでしょ。そうなると時間かかっちゃいます」
「……しゃーないなあ。でも、そんな見つめられたら」
「外で待ってますね」


おわり


2009/07/21