かわる?


今日はトイレットペーパーと卵と洗剤が安い日。カレンダーには赤い丸印がついている。
それぞれ店が違うからスーパーを3件ハシゴする事になるがそれくらい苦ではない。
愛車である年季の入った自転車は結婚する時に家においてきたから今は歩き。
毎回総司にねだろうと思っているのだが、つい忘れてしまって。荷物を持って歩くのは大変なのに。

「はー……重かった」

今月こそ自転車買ってもらおう。

「あれ?百香里?」
「え?」
「百香里!私!絵美だよ!」
「絵美!?」

息をからしながら無事トイレットペーパーも買えた。一息つこうと公園のベンチに座っていると自分を呼ぶ女性。
誰だろう?何となく顔立ちには覚えがあるから知り合いなのは分かるのだが、名前が出てこない。
名乗られて初めて彼女が中学の頃の友人だと気付いた。かなり肉付きがよくなって分からなかった。

「あんた聞いたよ。金持ちと結婚したんだって?玉の輿じゃん」
「まあ、ね。そっちは?」
「私は大学生だし。まだまだ先かな。この通り太っちゃったし。あ。でも由美は結婚して子ども居るみたい」

金持ちの家に嫁いだ百香里に大いに夢を持っているようだから思わずさっき買った特売品を隠す。
対する彼女は花の女子大生。四大だからまだもう少し学生でいられるのだという。
久しぶりに会ったからか身の回りの事を楽しそうに話をする彼女を見てちょっとだけ羨ましいと思った。
高校の頃は大学なんて考えてなかったのに。こうして話を聞くと興味が出てくるのだから嫌だ。

「そうか。子ども居るんだ」
「そっちは?」
「まだ」

せめて子どもが居ればな、なんてそんなの言い訳だ。

「でもいいよね。旦那が金持ちってさ」
「そう?」
「そうだよ。しかも超かっこいいんでしょ?いいなあ」
「あれは」
「照れないの。今度紹介してよ、その、金持ち仲間みたいなの。ね!ね!」
「え。そんなこと言われても。あんまり分からないし」
「まあまあ、期待してますよ百香里奥様」

それは友人の見間違いで旦那じゃなくて彼の弟だ。訂正したいのに興奮して聞いてない。
それからも友人たちの事や誰が結婚したとか有名人になったとか。
懐かしくなる話なんかを延々として。

「じゃあ私帰らないと」
「明日さ。昼から講義休みで久しぶりに由美と会うんだけど。百香里もどう?」
「でも」
「大丈夫だって。旦那さんは会社なんだし子どもも居ないんだし。ね!決まり!
百香里も由美とすごい仲よかったし、金持ちの家の話し聞きたいしー」
「そっちが目当てでしょ」
「あはは。じゃあまたメールするね!」
「……うん」

有名企業の社長の妻なんて旗から見れば恵まれている環境だろう。現に何不自由ない生活。
でも何となく自分だけが置いていかれている気がして。進んでない気がして。
去っていく友人を見つめながふとそんな思いに駆られて。もう気にしないと決めたのだから、
こんな気持ちは封印しなければ。気持ちを切り替えて百香里も家路についた。


「……はぁ」
「な、なに!?どしたん?あの、もしかしてあんまエエなかった?」
「え?何ですか?」
「何って。今ため息したから……」
「え?しましたっけ」

総司の言葉にきょとんとした顔で返事する。冗談とかでなく本気で言っているらしい。
今夜もたっぷりと愛し合って心地よく眠ろうとした矢先の小さなため息。
先日も彼女から不安な気持ちを聞いたばかり。まだ何かあったのだろうかと眠気など吹っ飛んだ。

「何か心配事あるんと違う?何でも言いや。俺は旦那やで?」
「そんな大層な事じゃないんです」
「あかんって。何でも話し合わな。ユカリちゃん俺には何でも言わなあかん」

なんでもないと隠そうとする百香里。その腰を引き寄せてギュっと強く抱きしめる。
彼女に思うことがあるなら何でも聞きたい。小さなことでも大きなことでも関係なく。
言わないと離さないと強い口調で言うと百香里も諦めたのかポツポツと話しだした。

「……私、……その、……出来にくい体質なのかなって」
「子どもの事か?そんなんまだ気にする事と違うって。な?ユカリちゃん。気にしたらあかん。
自然と授かるもんやから。焦らんと気楽にいこ?」
「……」

総司もなんとなく気になっていた事。百香里は前妻との間に子どもがいるから余計気にしていたのだろうか。
この前の事といい百香里を愛していながら彼女の事を思ってやれなかった自分が辛い。
頭にキスするともう少し強めに抱きしめた。

「ホンマの事言うとまだまだユカリちゃんまだ甘えたいんや。そんな事考えとるからかもしれん。
ごめんな、でも、……百香里がそんな気に病むことないからな。その、俺も頑張って」
「……」
「あれ。百香里?ユカリちゃーーん?もしもし?……いやん寝とる」

総司に抱きしめられて心地よかったのか、それとも11時を過ぎて眠くなったのか。
軽く肩を揺すっても名前を呼んでも反応は無くすやすやと寝息が聞こえてきた。
仕方なく総司も目を閉じる。直ぐには眠れないだろうけど、百香里の温もりは今日も優しく暖かかった。



「あれだ。社長の精子が弱ってるんですよ」
「……」

翌日の昼休み。食事もそこそこに気分が悪いと社内の医務室へ向かった。
専門の医師には仕事で疲れているだろうからベッド休むようにと言われたがそんな気分ではなく。
部屋に置かれている大きな水槽で元気に泳ぐ熱帯魚を眺めてはため息がでる。彼女のが移ったのだろうか。
そこへ昼を終えて戻ってきたカウンセラーの青年。医師と交代で椅子に座った。

「相手は20歳でしょ?まあ、先天的に何かしら問題があるなら別ですけど。普通」
「わかっとるわ。……どうせ俺が悪いんや」
「何なら俺が奥さんのカウンセリングしましょうか。悩み抱えたままじゃ体によくないし」
「お前は嫌や」
「いいじゃないですか。この際思い切って紹介してくださいよ、昼間あたりお伺いしますんで」
「ええ加減にせんと水槽に埋めるぞこら」

普段なら殴りかかる所だがそんな気力もない。原因があるとしたらやはり自分か。
そのテの事についてもっと詳しい知識があれば助言できるかもしれないけど。
いっそ産婦人科へ行くかとも考えたけれど、余計百香里が悩まないだろうかと心配になって出来ず。
こればかりは気合をいれてもどれだけ金をつぎ込んでもどうにもならない問題。
百香里が悩んでいるならすぐにでも解決してあげたいけど。

「こんな所で何やってんだ」
「お。渉いらっしゃい。君もどっか悪いの?」
「たとえ死にたくなるような重病でもテメエには診てもらいたくねーよ。専務様からこのおっさんを連れて来いと命じられただけだ」

熱帯魚を眺めながらウジウジと悩んでいる所に渉が入ってきた。みるからに不愉快そうな顔。
煙草が吸えない上に子どもの頃から医務室とか保健室が嫌いなのに真守に呼び出され無理やり行かされた。
彼とカウンセラーは同じ大学の同窓生で腐れ縁の旧友と言う奴。だから話しが出来るだろうとかどうとか。
そんな仲がいいわけではないが同じ会社に勤めているだけにたまに飲みに行ったりもするらしい。

「昼から休む。めっちゃ熱っぽいし。気分わるいしー」
「あそ。好きにしろよ」
「なあ、渉」
「何だよ」
「お前の若さちょっと分けてくれん?100万やるから」
「はあ?ボケたのかおっさん」

じっと渉の顔を見て弱気な言葉をはく総司。行き成り何を言うのかと馬鹿にした表情の渉だが。
たぶん百香里との間でまた何か厄介な事があったのだろうと察しがついた。

「いや。あかん。俺は俺や。今の俺を好きになってくれたんやもんな。ユカリちゃん愛してる!」
「何だよこの気持ち悪いの。もう行くからな」
「あ。渉、今度君ん家行ってもいいよね?」
「は?」
「若奥様の手料理楽しみだなぁ」
「お前は来なくていい、一生」

夫婦の面倒に巻き込まれるのはごめんだ。早く戻れよと言うだけ言って医務室を出る。
あの暢気な兄の事だから適当に悩んだからすっかり忘れて元気になるだろう。


「専務、社長はまだ」
「さっき渉に行かせました。間もなく戻ると思います」
「え。でも、大丈夫ですか?」

昼すぎても戻ってこない社長。千陽は時計を見てぎっちり予定の書かれた手帳を閉じる。
ここは自分が行くべきかと思ったが真守がその必要はないと止めた。
何時もなら一緒に怒って連れ戻しに行くのに。しかも渉に行かせるなんて。
正直な所千陽の中では総司に続いて渉もあまり社会的信頼がない人物である。

「ああ見えて末弟に弱い人ですから、問題ありませんよ。すぐに」
「ただいまー」
「社長。…なるほど……」

言い終わらないうちに総司が帰ってきて社長室に入っていった。さすが専務。
何て感心している場合ではない。タダでさえ時間が押しているのだから。尻を叩くため自分も社長室へ。
朝と同様に何だかんだと言ってグダグダしているがそんなもの関係ない。彼は社長なのだから。

「そや。真守とはどうや?ええかんじ?」
「プライベートな事はお答えする義務はありません」
「そやけど、上手くいってないんやったら手助けも必要やろ?あいつはそーいう所腰が重いで」
「う、上手くいってないわけじゃ」
「はよ決めんと後々大変やしね」
「それは私の年齢に関するお心遣いでしょうか?……訴えますよ」
「んな怖い顔せんでも…」

千陽の睨みがよほど怖かったのか、それからは雑談もせず黙々と働いた。
毎度の事ながらこれが何時もであればと思ってしまう。だけど最近少しだけその考えが変わった。
もし総司が完璧な社長だったら今のように真守と踏み込んだ話しは出来ないだろう。
ヨシとするわけではないが、全くの苦労ばかりという訳でもない。ちょっと複雑。


夕方。

「あれ。どっか行ってたの」
「お帰りなさい渉さん。はい、お昼からさっきまで友達と遊んでました」
「ふぅん」

渉が仕事を終えて1番のりでマンションに帰ると何時もならキッチンに居る百香里が居なくて。
視線を逸らすと余所行きの格好のまま疲れた様子でソファに座っていた。
その脇には彼女には珍しく高そうな店で買い物をした袋が。

「小さい頃からの親友で。彼女も早くに結婚して2人も子どもがいるんです」
「へえ」
「久しぶりに会ったんですけど、すっかりママの顔だったなぁ」

先にママになった友人との会話を楽しそうに思い出している百香里の顔は羨ましさも垣間見える。
昼間のあの総司の落ち込んだ様子と重ねて納得。これが原因か。

「子ども欲しい訳?」
「え。……欲しいです」
「そう」

ストレートな質問に驚いた様子の百香里だが、すぐに気持ちを切り替えて返事をする。
渉は自分で冷蔵庫を開けて缶ビールとつまみを取り出し椅子に座った。

「でももういいんです。勝手に焦ってただけだったから。総司さんにもきっと嫌な思いをさせちゃったんだろうな」
「今の生活が嫌なら何とでもできるんだし、何も今子ども作る必要ないんじゃないの?」
「どこかで結婚したんだから産まなきゃいけないって勝手に思っちゃってたのかもしれません。
今の生活が嫌とかそんな事全然ないんですけど、でも、……難しいですね」
「結婚なんて面倒なだけだ」
「でも、愛してる人が何処かに行ってしまう心配もないし。ずっと傍に居られるのはいいですよ?」
「愛ね。……クソ面倒」

興味なさげにテレビのリモコンを取ってテレビをつける。百香里も着替えて夕飯の準備。
お互いに何となく気まずいのかそれからはずっと沈黙のまま時間だけが過ぎた。
7時を前に総司と真守が一緒に帰ってきて4人で夕飯。ここでも特に変化はなく無事済んだ。

「あ、あのな。ユカリちゃん。俺」
「そうだ。今日は美味しいって評判のお店のシュークリーム買って来たんです。
皆さん甘いもの大丈夫でしたよね?今準備します」

頃合を見計らって百香里に話をしようとした総司だがすんなりかわされる。
もしかしたら避けられているのかも。不安に思いながらも出されたシュークリームを食べる。
評判通りおいしいけれど。総司の視線は幸せそうにお菓子にかぶりつく百香里。


「ユカリちゃん」
「はい」

食後のデザートも終えて暫しの休憩を挟み夫婦一緒に風呂へ向かう。
今度こそ話をしようと百香里を膝に座らせ抱き寄せてオデコをあわせた。

「ユカリちゃんが望むもんはなんでもあげたい。そのためやったら何でもする。やから」
「今は、総司さんだけほしい」
「百香里」
「それに友達が言うんです。まだ若いんだから遊べるうちに遊んでおけって」

笑いながら総司の唇にキスする。子どもも欲しいけれど今はまだ総司に甘えていたい。
子どもが出来たらかかりきりになって総司や遊び所じゃなくなると友人の話を聞いていて思った。
それもまた家が明るくなって楽しそうだけど、もう少し遊びの時間があったっていい。

「いっぱい遊んだらええよ。ユカリちゃんを家に縛る気ぃないし」
「今度クラブへ行こうって誘われてるんですけど」
「夜遊びはあかん。禁止。俺も一緒やないときんしー!」

ただし、夫の目の届く場所で。

「じゃあ、総司さん誘って。何処か素敵なところ」
「うん。調べとくから待っといて」
「あがりましょうか。のぼせちゃいそう」
「僕もう我慢できへん…」
「駄目です。ちょっとの間ですから、我慢しましょうね」
「……はぁい」

お互いに話し合って落ち着いた所で風呂からあがる。気分はもうベッドでの事。
いちいちパジャマを着るのは面倒だったが弟たちが居るかもしれないからと手早く着て。
足早に2階へあがると百香里に甘えるように抱きついてベッドに倒した。

「あのまだ準備」
「ユカリちゃんは準備せんでも綺麗やでー」

まだ髪も乾いてないしお肌の手入れも何も。でもそれを話しても離してくれる気配は無い。
手早くパジャマと下着を脱がされてお互いに裸になる。湯上りで暖かい肌。
夢中で百香里の唇を奪いながら手は胸へ。何時もの丁寧な愛撫でなく鷲掴み荒く揉みしだく。

「あっ…ん」

唇を離すとすぐに胸の頂にしゃぶりつく。舌先で転がしたり吸ってみたり。
百香里はただ総司の頭を抱きしめて甘い声を漏らす。

「めっちゃ綺麗や。若いと違うなぁ……」
「そ、そんな所見ないでください」

思う存分胸を愛撫してから体を起こした。次はアソコだと百香里はドキドキしていたのだが。
彼は百香里の両足首を持ち上げて広げるとソコをじっと見つめた。先ほどの愛撫で少しだけ潤んだ場所。
行為の途中で見られることがあるが未だに慣れない。
恥かしくて、顔を赤らめながらやめてくださいとお願いするのに旦那さまは聞いてない様子。

「あ。ユカリちゃんここ勃起してるで」
「ぁんっ……や…」

暫し眺めていた総司だったが愛撫や視線やらで姿を現した百香里の淫核を見て指で軽く突く。
一瞬とはいえ強い刺激にビクっと体を動かして反応する百香里。
もっと優しくしてください、と自由になった方の足を閉じて最後の抵抗を試みる。

「見えへん。もっと股ひらき」
「でも」
「百香里」

でも総司に見つめられるとこれ以上の抵抗は無理と観念して閉じていた足を開いた。
その開いた間に体をいれて総司の顔が百香里のソコに埋った。
ヌルっとした生暖かい舌がゆっくりと奥へ入り卑猥な水音と共に上下に愛撫していく。

「あんっ…ん……ぁ」
「丁寧にせなな……優しぃやろ」
「あっ…」

舌の愛撫だけでなく指も参加でソコを集中攻撃。百香里は下半身をひくつかせながら必死に耐える。
でも我慢できなくて何度か果てた。力んでは力が抜けまた愛撫されて力むの繰り返し。
優しい、とは少し違う気がするけれど今日はやけに愛撫が長く感じた。何度目かの絶頂の後
漸く総司の体が起き上がる。もうええよな、と百香里に確認をとって。ゆっくりと中へ。

「……ユカリちゃんの中めっちゃ気持ちええ」
「総司さん…」
「よっしゃ!今夜は思いっき」
「あの、11時過ぎちゃったので1回で終わりにしましょうね」
「そんなぁ」

さあここから、という所でタイムアウト。仕方なくその1回だけで終了。
愛しすぎて丁寧に愛撫をしすぎたと布団の中で大反省。百香里が寄り添って寝てくれただけ良とするか。
既に眠ってしまった百香里を抱きしめると汗をかいてうっすら湿った体。それがまたそそる。
ムクムクと元気になる自分のモノ。自分で慰めるのは嫌だから何とか我慢して総司も目を閉じた。


「総司さん……起きてください」
「起きてるで」

翌朝。何時ものように早く起きて朝食の準備をする前に旦那さまを起こす。
何時もはもう少し眠らせてといって布団に潜り込んでしまうのに。

「…ぁ…だ…駄目ですってば…ぁ」
「朝からカチカチやねんて。ユカリちゃんやないとどーにも出来んのやもん。しゃーないわ」
「でも…あ……ぁあん」

起きてくださいと手を伸ばしたらいきなりその手を掴まれて引っ張り込まれ、そのままえっちに突入。
抵抗される前にスカートに手を入れソコを荒く掻き乱し濡らしてからパンツをずらし強引に中へ。
あまりの早業に百香里は何もできずただ翻弄されるだけ。

「裸もええけどこういうんも……ええなあぁ」
「……もう」
「まだ時間あるやん。なぁ?」

それでも何とか切り上げて朝食の準備と洗濯。総司も一緒に起きて手伝ってくれた。

「おはようございます。……兄さんも?早いですね」
「おはよーさん。たまには早起きするもんやで」
「毎日早く起きてくださると此方としてもありがたいんですが」
「まあ、そこはええやん?コーヒー淹れたろな」
「自分で淹れます」

そこへ普段なら1番最初に起きて来る真守。総司が居ることに驚きながらも忙しそうな百香里をちらっとみて
自分でコーヒーを淹れる。今日は朝食が遅れそうだ。テレビはつけず新聞を開いて難しい顔。
総司は話し相手が誰も居なくて寂しそう。仕方なくテレビをつけて時間を潰した。
暫くして渉。彼もまた何時もは最後に起きて来る総司が居ることに驚きながらも特に何も言わず。
自分の席に座ってテレビを見る。勝手にチャンネルを変えたが総司は特に怒らなかった。

「おはようございます渉さん。あの、少しいいですか」
「ん?なに」

そこへ洗濯を終えた百香里が戻って来て真守に挨拶をしてから渉の元へ。何か聞きたそうな顔。

「今度出かけるとき用に服を買おうと思ってるんですけど、どういうのがいいか分からなくて」
「いいよ。連れてってやる」
「待った!ユカリちゃん!俺がおるやん!何で渉なん!」
「兄さんではセンスが古いんじゃないですか?」
「真守、それは酷い。俺かてまだまだ若いやん。お前らには負けへん!」

何で渉に頼る。でも、若さでいえば1番若い。総司は不愉快そうに抗議。

「違います、梨香さんにお話を聞けたらいいなって思ったんですけど」
「え?梨香?何で?」

驚いた顔の3兄弟。合わせたわけでもないのにいっせいに此方を見た。家に縛られている訳でも
生活に不満がある訳でもないが、内に篭ってばかりでは妻としても女としてもいけない気がして。
何も知らない所へ進んでいくのは怖いけど少しくらい冒険してみようと覚悟を決めた。
渉の恋人梨香。彼女の話が聞けたらそれを参考にしよう。歳も近いし周りの友人とは違うタイプ。

「服のセンス素敵じゃないですか。私もあんな風に」
「えーーー。ユカリちゃんには似合わんでーあんな派手なん」
「どうせ私は地味です。もう。総司さんのばか……」
「そ、そういう意味と違うって!」

何も言わないが複雑そうな表情の真守、やめといたほうがいいと乗り気でない総司。
何時も地味で身なりに気を使わないから喜んでくれると思ったのに。百香里は少し不機嫌。
渉はトーストを齧りながら暫し考えて。

「別にいいけど。あんたには合わないと思う」
「渉さんまで。確かに私は地味ですけど。少しくらい」
「なんつか、無理してる感じがこっちにも伝わってくる。そういうの、どうなんだ?」
「無理なんて」
「ま。好きにしたらいいさ。何時もと違うユカりんってのも興味あるし」

今度の休みにでも梨香をつれてくる、と渉は言ってまた視線をテレビに向けた。

「ユカリちゃんは今のままで十分魅力的や。ほんまに。もう見ただけでビンビン」
「総司さん落ち着いて。もう怒ってませんから、ね?」
「やけど」

朝食後、顔を洗ってスーツに着替える総司はそれよりも百香里が気になるようで不安そうな顔。
何時ものように手伝いに来た彼女を抱き寄せてついでにこんだけ元気になると股間を押し付けた。
さっきえっちしたばかりなのに。驚きつつも何とか彼を宥める。また押し倒されたら困る。

「総司さんと夜お出かけするのに、その、ちょっと派手な服装とかにしたかっただけなんです」
「ユカリちゃん…そんな、もう。可愛いなあぁ…あ。あかん、またビンビン来た」
「あと10分で仕事へ向かいますよ、早く準備してください社長」
「現実に戻さんといて!あーもー真守の所為でヘナヘナになった…」

そこへ呼びに来た真守の冷静な一言。これで一気に気持ちが冷めたのか大人しく百香里を解放した。
今日も多少グズりはしたが真守に引っ張られるように玄関へ向かい。夕方までの暫しの別れ。
続いて渉も準備を終えて来た。彼はこの流れに巻き込まれないように先か後に時間をずらす。

「渉さん、行ってらっしゃい」
「……なあ」
「はい」
「あんたは、……あんたのままでいいと思う。これからも、ずっと」
「え?」
「じゃ」

渉を見送ると静かな部屋だけが残る。ここを掃除して布団も干して。
今日も頑張ろうと大きく背伸びをした。

プルルル…

途端になる電話。

『ユカリちゃん俺やけど』
「どうかしました?何か忘れ物でも?」
『愛してる』
「え?……わ、私も愛してます」
『ほな、今日もええ子でな。昼にまた電話するから』
「はい」

それだけ言うと電話が切れた。


「まだ話してもいいですよ?会社までは時間がある」
「ええんや」
「そうですか」
「それより真守。千陽ちゃんとはあれからどうや?デート誘ったりしとるか?」
「ですから、そういうプライベートな事は干渉しないでください」
「あらー。何もしてへんの?あかんで。取られたらどうするん」
「……」
「応援しとるから早よ男になれ真守!」
「……殴りますよ」
「いやん…顔怖い」


おわり


2009/02/04