余計なこと 3


「さっきのお店、すごく美味しいって友達に教えて貰ったんですけど、専務のお口に合いました?」
「はい。とても美味しかったですよ」
「よかった」

とりあえず安心。でも社長の話では専務が自分を誘ってくれたと聞いているのに。何だか違うような。
何も言ってこない真守に何時もの癖で食事する店の予約なんか勝手にしてしまったけど、不快ではないようだし。
食事を終えて店から出てきたはいいがその先がお互いに出ない。何か話そうとして切り出してもそんなに弾まない。
もういい歳をしているのにいざ2人きりになるとどうしたらいいのやら。ただ歩くばかり。

「……」
「……」

千陽は昼から休みを貰い今更と思ったがここは奮発とばかりにエステに行きヘアサロンにも行った。
服だってクローゼットに押し込めていた余所行きで派手めなものを選んできた。
そんな事あるわけないだろうと躊躇ったが万が一、もしもの為のセクシーな勝負下着できた。
今の所それらの苦労は全部ノータッチである。付き合いは長いからそういう事に疎い人だとは知っているが、
せめて髪型の変化くらいは気付いて欲しい。

「何処かバーでも行って飲みなおしませんか」
「は、はいっ」

何て心の中で愚痴っていたら突然真守が立ち止まり、少し緊張しているのかぎこちない笑顔で誘ってくれた。
行きます!という元気のいい返事を聞いてホっと安心した様子。
もう帰るのかなと思っていた千陽もドキドキしながらも誘ってもらえて嬉しかった。

「といっても僕はあまり店を知らないので、また御堂さんに頼ってしまうけど」
「お任せください。お酒には煩いですから」
「良かった」

毎日が会社と家の往復ばかりの人がカップルで行ける様なバー何を知っているとは思っていない。
真守は誘った手前恥かしそうに宜しくお願いします、と言ってまた歩き出す。千陽の指示に従って。
案内されたのは繁華街の中にあるビル。その最上階には街の喧騒など忘れてしまいそうなくらい
静かで落ち着きのあるバー。生演奏のBGMも心地よい。すぐさま店員に案内され奥の席へ。
キョロキョロして初めてなのが丸出しの真守に苦笑してしまうが、それもまた彼らしくていいと思う。

「何にします?」
「僕はサラトガ・クーラー」
「じゃあ私はマティーニ」

メニューを見る事無くさらりと注文。さて後は何をするか。一息ついたらまた話題がなくなってしまって沈黙。
少し離れた席では何やらいい感じの若いカップル。
慌てて視線を戻し探りあいの空気。何か話さなくては。せっかくこんないい雰囲気の場所に来たのに。

「よく来られるんですか。こういう店に」
「ええ。まあ。ここ静かですし夜1人で飲みたい時なんかに」

部屋で飲むと大量の缶ビールの缶とつまみのゴミで埋るんですよとは冗談でも言えない。

「飲みたくなる気持ち分かります、色々とお疲れでしょうから」
「何をおっしゃるんですか。専務の方が私なんかよりもずっと大変じゃないですか」
「僕はただ決められた事を決めたれたとおりに進めているだけだよ。でも、貴方は違う。
決められた事を決められたとおりにしない兄の為に頑張ってくれているじゃないですか。感謝しています」
「そんな。最近はだいぶ落ち着いてきたみたいですし、これからは専務の重荷も減りますよ」
「だといいんですが」

お互いに顔を見合わせて苦笑する。共通の話題はやはり仕事かあの社長の事か。
本当ならもっと色んな話をして盛り上がる所なのだが殆どの時間を仕事に費やしてそんな知識はなく。
千陽も敢えてそこは触れないで真守の聞き手にまわった。
自分も聞いてほしいことは多々あるけど。きっといざ口にするとなったら止まってしまうだろうし、
何より兄の話をする彼は苦笑しながらも楽しそうだ。何て会話をしていると店員が頼んだカクテルを持ってくる。

「専務はお酒は苦手ですか?」
「飲めない訳ではないんですが、明日の事を考えてしまうと」
「確かに。土曜日にするべきでしたね」
「よければ土曜日…」
「えっ」

まさかもう次のデートのお誘い?ドキっとして真守の方を向く。

「家に来ませんか」
「……専務の…お宅ですか」
「あ。いえ、その、深い意味は無いですけどその……」
「いえ。喜んでお邪魔させていただきます」

笑顔で返事するものの、内心複雑。せっかくのお誘いだけどあの熱すぎる兄夫婦に冷えた弟がプラスときた。
たまにおよばれをするがそれと何らかわらないだろう。どうせそんなものだろうとどこかで分かっていたのだが。
いざそうなると切ない。結局服装にも髪型にも気付いてもらえないままに終了するのか。今夜は酒が進みそう。
しょっぱいお酒。でも、いきなり専務とどうにかなるなんて甘い考えだ。

「よかった。御堂さんが居てくれると安心できる」
「え」
「どうも職場の上司と一緒に居ると気を使ってしまって」
「……ふふ、専務らしいですね」

周りが静かな所為かやっと落ち着いてきたらしくカクテルを少しずつ飲みながらポツポツと語りだす。
そこでも千陽は聞き手にまわって頷いたり笑ったり一緒に怒ったり。
デートというよりは友達で飲みに来たような感覚かもしれない。いや、もうデートと言う概念は捨てた。

「兄さんが会社に戻ってきたら僕は去るつもりだったんですよ、本当は」
「専務」
「当時の役員や重役の一部、周囲の者からマスコミまで僕こそが社長に相応しいと囃し立てて。
色々あくどい事を言ってきましたけど、父さんは初めから兄さんしか後継者に考えてなかったんですから。
僕が出る必要なんてないんです。余計な波風を立てるくらいなら去ったほうが会社の為だ」
「……でも専務は会社を去られなかった」

正直に言えば千陽も真守が社長になるべきだと思っていた派だ。今でこそそれなりに信頼出来る総司だが
初めて社長と秘書として顔を合わせた時はその軽さと適当さにこんな男が社長になったら会社はつぶれると本気で思った。
社長の死後どうして社内の信頼厚い真守が名乗り出なかったのか。誰もが思った事だった。

「兄さんがどうしても残ってくれって聞かないんですよ、駄々っ子みたいにイヤイヤって」
「まったく。何て兄さんかしら」
「本当に。お前の力が必要なんだとか上手い事言って。その点渉は昔から要領が良くて逃げ足が速いから。得してますよあいつは」
「でも専務は放っておけないんですよね。私もそういう性分だから、分かります」

その後も会社の事や社長の事弟の事とまるで人生相談会のような会話が続く。
もしかしたら真守にとって自分は話を聞いてくれる同じ会社の優しい人くらいの位置なのかもしれない。
最初はそれが寂しく感じたけれど、酒も入って気が楽になったからかそれはそれでいいような気がしてきた。
マティーニの4杯目をおかわりした所で真守が時計を見た。

「そろそろ9時になります、帰りましょうか」
「はい」
「大丈夫ですか?会計を済ませてくるので外で待っていてください」
「いえ、ここは、私が」
「デート、ですから。僕に払わせてください」
「……は、はい」

すっかり忘れ去られたかと思ったが真守の中にもデートという単語は残っていたらしい。驚いた。
店を出てタクシーに乗った所までは覚えているのだが、その先は頭がぼやけていて曖昧。
4杯くらいで酔うような自分ではないのに。どうしてだろう?ふらふらして足元がおぼつかない。
ただ、自分を支えてくれる専務の手は思いのほか大きくて。体もがっしりしてて。暖かい。

「御堂さん、つきましたよ。御堂さん」
「……専務」
「ここでいいんですよね、マンション」
「……専務」

気がつけばタクシーの中。優しく引っ張られ外に出る。会計は既に済ましてあるようで車は去っていった。
よろよろしている千陽の肩を失礼に思われない程度に軽く抱いて入り口まで運ぶ。
すると千陽は突然立ち止まって何もいわないまま俯いた。

「気分悪いですか?部屋まで送りましょうか」
「…す…す…きなんです…」
「え?何ですか?」

何とか出した声、でも上手く聞こえなかったようで聞き返した真守を振り切って1人でマンションへ。
何とかさよならの礼だけして中へ戻った。部屋まで送ろうかと聞いてくれたけど、それは無理。
酒の勢いで告白なんてしたくなかった。それが恥かしくて、辛くて。悔しくて。部屋に戻るなり泣いた。
何年ぶりだろう声に出して泣いたのは。本人に聞こえてなくてよかった。
泣きつかれたのか気がついたらそのまま眠っていた。



「何だよ。帰ってきたのか」
「どういう意味だ」
「お帰りなさい真守さん」
「ただいま戻りました」

千陽を心配しながらもマンションへ戻った真守。自分なりに今回のデートは中々充実していたと思う。
ドアを開けるなり渉が変な顔をして出迎えたけど。何時もの事として気にしないことにした。
ソファに座って一緒にテレビを見ていた百香里は立ち上がって出迎える。

「デート上手くいかなかったのか?」
「どうして?」
「どうしてって聞いてる時点で駄目だな。まあ無理もねえか初めてじゃ」

何だか知らないが渉の態度が馬鹿にされているようで不愉快。
恐れていたほど怖くなかったのに。彼女だって笑顔で話をしてくれた。

「食事をしてバーに行って話をしたんだ、どこがおかしい?」
「そうですよ。楽しかったならいいじゃないですか」
「はいはい。2人ともかわいいーねー」

渉は視線をテレビに戻しまた大きな声で笑い始める。それもまた気に入らない。
また怒鳴りあいの喧嘩でも怒りそうな雰囲気。だけど総司はまだ帰らない。
百香里はここはもう自分が間に入るしかないと真守にお茶をいれつつ声をかけるタイミングをはかる。

「あの、きっと渉さんなりに励まそうとして」
「どうせ僕はロクに経験のない笑いものですから」

今回は相当ご立腹なようで百香里にも厳しい口調。

「誰も笑ってなんかいません。そう感じたなら、ごめんなさい」
「……、あ、いえ此方こそすみません」
「私は大丈夫ですから」

でもすぐに謝る。百香里からもらったお茶を飲み一息。初めてのデートを笑われて不機嫌になって
何の関係も無い義姉に当たるなんて。何て子どもみたいだったと反省する。
百香里は何事も無かったように笑顔でこのお茶に合いますよとお菓子を出してくれた。

「兄さんは」
「まだ」
「そうですか」

きっと帰るまでこの人は待って起きているんだろうな、と聞いては居ないが想像は出来る。
忙しいのは当然だし帰りが遅くなってしまうのも仕方ない。でもこんな彼女を見せられると兄を叱り難い。
視線を動かすと渉がまたテレビを観ながら大笑いしている。煩いと注意しても聞こえないフリ。

「渉さん、テレビの音量小さくしてください。少し煩いですよ」
「はーい」
「……義姉さんの言う事は素直に聞くんだな」
「あの。よかったらお風呂先に入っちゃってください。準備は出来てますから」
「はい」

何時もと変わりない笑顔を向ける百香里。でもやはり気になるのか時々時計を見ている。
ついでに自分も見る。確かに遅い。人の事は言えないけれど何かあったのだろうかと心配になってきた。
風呂に行くといってリビングを出る。もう一度振り返って義姉をこっそりと見るとまた時計を見ている。
一瞬見せたその顔はとても寂しそう。

プルルル…プルル…

「……ああ、僕だ。すまないが社長の状況はどうなってるか報告してくれないか」
『社長でしたら先ほどお帰りになられました』
「そうか。うん、わかった。ありがとう」

ならば帰るのは時間の問題か。これで義姉も喜ぶだろう。良かった。
携帯をしまい風呂へ向かった。


「ユカリちゃん。僕なぁめっちゃ頑張ったんやで?」
「はい。お疲れ様です」
「それやのに真守は何や?飯食って酒飲んで帰ってきたって」

渉がもう寝るといって部屋に戻り、真守も風呂から上がっておやすみなさいと部屋に戻って。
1人残ってでじっと帰りを待っていた百香里。テレビをつけてもそんなに観たいものなんてないし。
早く帰ってくださいなんて電話もできない。チラチラと時計を見てはため息。1人になって10分ほどして
やっと総司が帰ってきた。玄関まで迎えに行くと思い切り抱きついてきて。濃厚にキス。
すぐさま風呂につれて行こうとする総司だったが夕食がまだと聞いてそれは止められた。

「どうして男の人って1度のデートでそういう流れにしようとするんだろう。何だか幻滅」
「え!?お、俺は違うで?ちゃんとデートを重ねてそれからや!うん!」
「確かに。初めてのデートの時は食事だけでしたよね」

帰りの車内では百香里の事ばかり考えていた。すぐにお風呂にはいってエッチに流れるつもりだった。
でもまずは食事。百香里がせっかく作ってくれた手料理を拒否することなど出来るわけが無い。
百香里も一緒に食べたかったが流石に我慢できなかった。けどお茶をいれ向かい合って座ってくれる。

「うんうん!邪な気持ちなんてないもん!ユカリちゃんの事ほんまに大事やし真面目に好きやから!」
「そういう気持ちって真守さんも同じだと思います。本当に大事で大好きな人と出会うのって案外難しいですし。
直ぐに気付かないって場合もありますから。だから、ゆっくりでも遅くなってもいいじゃないですか」

総司も真守のデートが気になっていたから百香里の話しに食いつく。ただ、渉と同じようにもしかしたら
千陽といい感じになってそのままお泊りなんてするかと思ったが。やはり真守は真守。
何て考えているなんて百香里に言ったら怒られそうなので内緒。言われるままに頷く。

「……ユカリちゃんは気持ちも可愛いなぁ」
「総司さんが教えてくれました」
「俺?」
「生きてきた時間に差はあっても大事な人に出会えた私はとても幸せ。急ぐ必要なんて何もないし。
後は手を繋いでゆっくり歩いていけばいいんです。それだけで十分」
「……百香里」
「何て、ドラマの観すぎですね。私お風呂の準備してきます」
「うん」

恥かしそうに苦笑いして席をたつ。総司は夕食を味わいながらも急いで食事を終わらせる。
すぐにあの可愛くて愛しい妻の肌に触れたい。何よりも大事な人。

「あんっ…ふふっ…駄目ですってば」
「駄目やない。俺が隅々まで洗ったるからなー」
「……総司さん」

風呂に入るなり今日はサービスと言って百香里を椅子に座らせた。
裸を前に我慢できなくなって胸を揉み首筋や肩に吸い付いてくすぐったいと言われたけど構わない。
散々甘えてからメインは後のお楽しみとっておいてたっぷり泡をつくり百香里の白い肌に乗せた。

「ほら。はよ観念してお尻見せや、丁寧に洗うし」
「あん。もう」
「終わったら俺なぁ〜」
「……お尻、出してくださいね」
「あん」

恥かしがる姿があまりに可愛くて風呂場でエッチも考えたがここは一時我慢をしよう。
時折耳元でいやらしい事を言いながら百香里をその気にさせつつ。
ベッドに連れ去ったら深夜まで啼かせる。何処にそんな体力があるのかと思うくらい。

「まってください……これ以上したら明日起きられなくなっちゃいます」
「かまへんよ。遅刻上等や」
「私がです」
「ユカリちゃんも一緒においで、ここにおっても暇やろ」

最初は百香里も寂しかったから付き合っていたけど流石に限界が来た。それでも元気な総司。
何とか一休みさせてもらっている間も手は胸を弄っているしキスもされる。それをかいくぐっての会話。

「とんでもない。ゴミだしにお掃除に洗濯に買い物に色々とあるんですから」
「ユカリちゃんはまだ20歳や。そんなんよりも他にしたいことあるんと違う?」
「それは、あるかもしれません。私が知らないだけで」

百香里の言葉に自分で言っておいてショックを受けている自分が居た。もちろんあったって構わない。
若いうちに色んな経験をするのもいいし彼女が望むならなんだって叶える気でいる。
ただ、考えたくないのにマイナス面を想像してしまったり。むかつくカウンセラーの言葉が過ぎったり。
彼女の愛は自分だけのものなのに。まだ自分の中に若く美しい百香里を失うという恐れがあるのだと思い知る。

「あの。さ。俺も努力するし、その、ちょっとついていかれへんかもしれんけど、俺も……」
「一緒に歩いてくれるんですよね」

そんな夫の不安を察したのか百香里は軽くキスをして微笑んだ。

「一緒や。何処までも一緒や」
「じゃあ、またデートしてください。繁華街を一緒に歩いて。一緒にやれそうな楽しい事を探しましょ」
「ええなあ、そうしよ。それがええ」

愛する妻の頬を優しく撫でて唇にキスする。自分が欲しいものを全部持っている女性。
傍に居るだけで暖かく幸せになる。絶対に誰にも渡すものか。ギュっと抱きしめると抱きしめ返してくれた。
時間はもう大分遅いけれど、百香里の愛らしい言葉にとりあえず収まっていたはずの熱がまた甦ったようで。

「あっ……まだ…こんなに?」
「えっちも一緒や。一緒に何べんでもイこな」
「あんっ……あぁ…はぃ」
「可愛い」

百香里の中へまた侵入し腰を動かし始める。百香里もそれに応えるべく夫に抱きついて甘い声を漏らす。
この調子だと明日は朝食をつくれそうにない。洗濯も遅れる。でも、今日くらいはいいか。
千陽の怒った顔が浮かんだけれど、真守とのデートの後だからかさほど雷は落ちなかったらしい。
ただし笑顔でドスンと大量の書類を渡された、と翌日百香里に縋って泣いていた。



それから数日後。

「真守どや、あれから千陽ちゃんとは進んでるか?」
「特に何か進んでいるという事はないです」
「まあ、楽にな。お前のペースでええんや。無理すんなよ」
「何ですか急に気持ちが悪い」

社長室にて。分厚い資料とにらみ合いをしながら難しい会話の途中。総司から不意に出された言葉。
そんな事を話している場合ではないのにと内心思うが気になったらそれが頭から抜けない兄だ。
めっちゃ気になるとか何かと文句を言って仕事が遅れるのが目に見えている。

「俺はええ嫁さんもろたからさ、お前にも百香里ちゃんほどやなくてもええ嫁さん見つけてほしいんや。
それにはやっぱり急がず焦らずでええ。なに、爺になっても今では熟年結婚とかあるらしいし。気ぃ落とさんでな」
「惚気ているのか馬鹿にしているのか。もういいです。社長こそ油断して義姉さんを悲しませないようにしてください」
「な、なにを言うとんじゃお前。俺はユカリちゃん一筋40年の」

コンコン

「社長、お電話が入っております」
「おお。誰からやー?」
「取ってみたら分かります。専務、ちょっと宜しいでしょうか」
「はい。では失礼します」
「あ、ああ。何や千陽ちゃん含みのある…」

千陽に呼ばれ退席する真守。別に居てもいいのに。1人にされると心細い。
こういう時は絶対に何かある。誰からの電話だろうか。まだ何も悪いことはしてないはず。
はずなのに妙にソワソワしながらドキドキしながら電話を取った。

『総司さん』
「ユカリちゃん!僕頑張ってるよ?何なら見にくる?」

受話器から聞こえてきたのは愛しい百香里の声。なんだ、と安心した。

『秘書課の新人さんとはとても仲良くなさっているようですね』

いや、これは不味い。

「え?……えーっと、誰の事やろなあ?僕ユカリちゃんしかわからん」
『目の保養とか休憩とか仰ってその人にやたら構うとか?私では目を傷めてしまいますか?そんなに私は駄目ですか』
「ち、ちがう!ちがうって!ユカリちゃん話し合おう!ほんまにこれは」
『罰として今日はご飯抜き』
「いややー!」

額から汗をびっしりかきながら必死に言い訳をする。確かにそんな事を言った。嘘ではない。
でもそれは深い意味があったわけではないし実際来たのは暑苦しい野朗3人。
期待の新人は専務の方へまわされていて自分とはちょっと顔を合わせるくらい。という情報まで言った。

『反省してます?』
「してる。ここんとこ男にまみれて嫌やって…その、ちょっと。でもそれだけやし!俺は百香里が」
『ふふ。嘘です。それに初めから怒ってなんかいません』
「そんな。もう……ひどいわ……」

さっきまでの怒っているような口調から一転して明るい笑い声。百香里はそんな嘘をつく子ではない。
だから余計にリアルで怖かった。本当に浮気を疑われたかと思った。
背もたれに倒れ天井を仰ぐ。これが嘘で本当によかった、と心から思った。

『少し妬いたくらいです』
「堪忍なぁ。でもめっちゃ嬉しい、こんな時間から声きけるやなんて」
『今日はこれから千陽さんに教えてもらったお店に行って服とか見るつもりなんです。それで、その。
以前頂いたカードを使ってもいいか確認したくて。つまらない事で電話をしてしまって本当にごめんなさい。
朝聞いておけばよかったんですけど、つい忘れてしまって。その、どうしても……その』
「ええよ。好きに使い。荷物多なったら店の人に頼んで送ってもらい」
『そんなたくさんは買いませんから。それじゃあ、また夕方まで頑張ってくださいね』
「うん」

結婚してすぐにプレゼントした百香里専用クレジットカード、まさか今まで一度も使ってなかったとは。
苦笑いしながら写真の百香里を見つめる。どんな服を買うのだろうか。可愛いか、セクシーかそれとも。
どちらにしろ帰るのが楽しみ。また残業をさせられるまえに片付けておかなければ。ひとり奮起。


「やっぱり似合います」
「そうですか?でも、いいんですか僕なんかに」
「真守さんもデートする時はお洒落しなきゃ駄目ですよ」
「は、はい…」

晴れやかな気分で家に帰った総司を待っていたのは着飾った百香里ではなく着飾った真守。

「あ!あの!別に真守さんがお洒落じゃないなんて言ってませんから!私の方が酷いですから!」
「嬉しいです。確かに、仕事でも着ていたスーツでは女性も嫌でしょうし。今度着させてもらいます」
「はい」
「僕はもう大丈夫なので、そこでふて腐れている兄の事を宜しくお願いします」
「あ。はい」

世話好きな百香里の気持ちはわからないでもないがあんまりだ。
2人の様子を眺めながら彼女に用意してもらったビールを飲みふて腐れる。
真守の服は買って来ているのに自分の服は買っていないみたいだし。不愉快極まりない。

「ユカリちゃん、そんなにあいつが大事か?」
「はい。大事です。大事な人の大事な弟ですもの」
「……僕も欲しい。服欲しい」

百香里が隣に座って手を握ってもまだくすぶっているのか不愉快そうな顔。
拗ねた子どもが母親にものを強請るように百香里の服を引っ張る。

「総司さんは沢山あるじゃないですか、私が選ばなくてもセンスのいい服が」
「ユカリちゃんが選んだのがええ」
「……ほんとに?」
「当たり前や」

そこで百香里は一旦席を立ち何か袋を持ってきた。

「じゃあ、これ」
「ユカリちゃん!」

これはもしかして自分の為に?さっきまでの不愉快さなど一気に消え去り今は満面の笑顔。
やっぱり自分の事を考えてくれていたんだと嬉しそうに袋の中身を確認する。
百香里はまだ少し戸惑っているようで。

「私が選んだものなので、どうかと、思いますが」
「そんな事ない!よっしゃ!ユカリちゃんありが」
「……総司さん?」
「な、なんで?何で真守は服やのに……僕はパンツやの?」
「何となく……」

大げさなアクションをしながら勢いよく袋から取り出したら出てきたのはパンツが5枚ほど。
何か意味があるのだろうかと聞いてみたらあっけない返事。しっかりしているようで何処か抜けているというか
天然さんというか。百香里らしいといえばらしいけど。これで納得できるはずもなく。

「よっしゃ、明日服買いにいくで」
「え?でもまだ休みじゃ」
「決まりや」
「総司さん」
「クローゼットの中総入れ替えや!」
「そ、そんなに買うんですか?」

いったい幾ら使うつもりなのだろう。普通なら一気に入れ替えるなんて無理だと思うのだが。
でも総司ならしてしまいそうだ。いっきに酒を飲み干し1人熱くなって吼える総司に宥める百香里。
次からはちゃんと服を買ってくるから落ち着いてと言うけれど、あんまり聞いてないようで。

「百香里の服もこうたる」
「あ……あん…総司さ」

気がついたら手がスカートに伸びていてパンツ越しに割れ目にそってソコを撫で始めた。
弟たちがここに居ないからといって流石にリビングでは無理だとベッドへ向かう。
本気で明日買い物に行くのだろうか。どうなるのかと不安に思いながら押し寄せる快楽に身をゆだねる。
どっちにしたって総司についていくのにかわりは無いから。

「ユカリちゃんに可愛いパンツとか欲しいなあ。そんで穴あいてたらええな」
「何処に?」
「ここ」

ニコっと笑うと指が2本中へ入る。さっき散々舌で愛撫されたお陰ですんなりと通した。
そのまま百香里の好む場所を集中的にかき回されるのかとおもったが指は直ぐに抜けた。
かわりに、凄いなぁとたっぷり液のついた手を見せられて恥かしかったけれど。

「んっ…それ……意味無いです」
「ある。……コレ入れる時らくやろ」
「あんっ」

そんな恥らう百香里にさらに興奮したのかすっかり堅くなったモノが中へ。

「あ。ウチで開発したらええんか。開発チーム組んで……」
「それは……んっ…やめてくださいっ」

1枚許したら絶対色んな種類のモノを作るに決まっている。財力も人脈も豊富な人だからたやすいだろう。
それこそ恥かしくて泣きそうなものとか暫く悪夢を見そうなものとか。正直普通が1番だと思う。
快楽に飲まれながらもそこだけは絶対に譲るまいと必死に説得をした。とりあえず納得はしてくれたけど。

「穴あきパンツあるとええなあ」
「……何でそういうお話になるんですか」
「え?それやったら」
「穴あきでいいです…」


おわり


2009/01/22