第12話
眠る準備を終えた百香里が化粧台から立ち上がり振り返ると、そこにはベッドに正座している夫の姿。
何時もならとっくにパジャマなんか脱いで寝転がって待っているのに。
やけに真面目な顔をしている。何か悪い事をしたろうか?そんな覚えは今の所ないのだが。
「ユカリちゃん」
「はい」
「しょーーじきに言い」
「え?」
百香里も正座してベッドに向かい合う。総司はまだ怖い顔をしている。
正直に言えといわれても何も覚えが無い。
「あるんやろ」
「……何がですか?」
もしかしてコツコツとベルマークとか貯めているのをバレてたのか。それとも別の……。
いや、もしかしたら内緒で名前を借りたりして懸賞を出しているのがバレたのかも。
冷や汗をかきながら総司に問い返す。もしバレたなら素直に謝るつもりで。
「不満」
「え?」
力んだ百香里の耳に入ってきたまったく別の言葉。総司はいたって真面目だ。
けどそんな事行き成り言われても困る。何処かでそんな事を愚痴ったり口にしたろうか。
今の生活にも夫にも不満なんて無い。でも相手は怒っているような、いや、寧ろ泣きそうな顔をしている。
混乱してくる百香里。とりあえず否定してみる。そんな事は無い、とても幸せだと。
「でもでも。最近仕事ばっかりで帰るのも遅いし。ユカリちゃんと話すのもあんまりできへんし。
面と向かい合ってご飯食べれてへんし。寂しいやろ?」
「……あの、お言葉を返すようですが」
「なに?」
「寧ろ構いすぎです。私、大丈夫です。総司さんがとっても忙しい人なのは理解してますから。
時間が合わなくても夜は一緒ですし。休日はずっと一緒ですし。そんな気にしなくても」
「ユカリちゃん……そんな俺と居らんでもええんや…」
ウルウルと涙ぐんで百香里を見つめる。よっぽどショックだったらしい。
百香里としては心配しないでください、大丈夫なんですよと言いたかっただけなのだが。
そっと彼の頬を撫でてニッコリと微笑む。
「総司さんこそしっかりしてください。社長さんなんですから」
「……ユカリちゃん」
総司が気遣ってくれるのはありがたい。心から愛されているんだなと思えるから。
でも、正直なところ本当に構いすぎる。
朝ギリギリまでくっ付いているし、昼は必ず電話してくるし、気分によってはそのまま帰ってくる事もある。
夜は確かに遅い日もあるが真守ほどではないし。秘書である千陽のお怒り電話も多い。
会える事はとっても嬉しい。でも、それではいけないというのも知っているから。
その日は抱きしめて慰めながら静に眠りについた。総司でもエッチする気分にはなれなかったらしい。
「それで?」
「ユカリちゃん、ほんまにええんかなあ。俺の事待ってるだけやなんて嫌やないかな」
「社長の仕事に慣れてきたらここぞとばかりに仕事を増やされるだろうし。そんなこんなで知らない間に
家をないがしろにして気がついたら若い妻に若い愛人。昼間に男を部屋に連れ込み愛欲に耽る。
うーん、何てフランス書房な世界だ。覗いてみたいもんだねー」
「お前クビにするぞコラァ」
「有りえない選択肢じゃない」
「……人が一番気にしとる事を」
翌朝。総司は会社内にある広い医務室にいた。ここには心理カウンセラーも居て
その人物と総司は歳は違うが旧知の仲。
ずけずけと物を言うカウンセラーに悪態をつきながら出されたコーヒーを飲む。
「人の気持ちに鍵は出来ないよ。社長もそこは十分に分かってるだろう」
「……」
「という訳で。今度ご自慢の若妻に会わせてくださいよ。色々と相談に乗って差し上げますから」
「お前には死んでも会さん」
20歳の若さは総司には眩しいくらいだ。自分なんかよりもずっとしっかりしているけれど、
それでも時折歳相応の顔が垣間見えて。
百香里はそんな子じゃないと分かっているけれど。これも若い妻を持つ宿命か時折無性に怖くなる。
カウンセラーはそんな総司を見て気にしすぎるのもよくないと言うけれど。こればかりは。
最近では体をジムなんかで鍛えようかと真剣に悩んでいる。
「社長。またあのセクハラカウンセラーの所ですか?」
「千陽ちゃん、なあ、幾らつぎ込んでもかまへん。若くなる薬って無いんかなあ」
「愚かな幻想はおやめください、時間は一刻一刻と進んでいるんです。止める事は出来ません」
「……そうやよなあ、はあ」
百香里から激しく求めてくれたら少しは気も……、いや、それは無いか。
医務室から戻り千陽の嫌味を聞き流しながら心はここにあらず、ただため息。
いい歳して1人の女にここまで心を持っていかれるなんて何てアホ。苦笑する。
プルルルル…プルルル…
「はい。松前です」
『ユカリちゃん』
「総司さん。またこんな時間に」
『……なあ、ユカリちゃん』
「はい」
『満足してへんのや』
「え?…ですから、私は何も…」
『百香里やない、俺がや』
「総司さん」
『……ほんま、アホやなぁ』
百香里は何時ものように部屋の掃除をしている途中だった。携帯が震えて。
なんとなくそうじゃないかと思っていたらやっぱり総司。
でも何時に無く落ち込んだ声で言うものだから怒るのも忘れた。そんなに彼が悩んでいたなんて。
「帰ったらいっぱい話をしましょう?」
『ベッドでしてもええ?』
「はい。いいですよ」
自分に何が出来るかわからないけど、今夜はゆっくり話をしよう。
「ほな行こか」
「え!?え?え?……あの、…え?」
百香里が決意して携帯をポケットにいれると同時にドアが開いて、そこには朝出社したはずの総司。
さっきまで話していた携帯を持っていて、にっこりと此方に微笑む。
それをポカンとした顔で見ている百香里。何が起こったのかすぐには理解できなかった。
「千陽ちゃんには話しつけてきた。昼から休む」
「で、でも」
「そんかわり明日は残業やて。千陽ちゃんにキッツー言われたわ」
「……総司さん」
やっと事情を飲み込んだらしい百香里はただ苦笑するだけ。
「気にしたらあかんけど、気になるんが俺の性分や。堪忍な」
「え?何を気になさってるんですか?」
「何でもええ。ベッドやベッド」
「あんっ。総司さんまだ私」
「ええからええから」
百香里を抱き上げると自分たちの寝室へ向かう。まだ掃除の途中だったのに。
掃除機を廊下に置いたまま2階へあがりベッドに寝かされる。今日の夫は何処か何時もと違う。
何時もなら百香里とベッドに入るだけで楽しそうな顔をするのに、何だか余裕がないように思えて。
もしかしたら昨日自分があっさり返事したから傷ついたのだろうか。
「……総司さん」
「なに」
「今日は、私にさせてください」
「ええの」
「総司さんほど上手じゃないですけど、精一杯します」
「……うん。して」
百香里の言葉に何処か嬉しそうに返事をして総司が下に来て、普段はあまり上には乗らない百香里は
これでいいのかと少々緊張しながらも下着姿になって彼に乗り。少し躊躇いながらも唇にキス。
最初は触れるくらいで、徐々に舌を絡めていく。何時も総司がするのを思い出しながらマネしてみる。
総司は全てを百香里に任せると言わんばかりに軽く抱きしめるだけで何も言わない。
「脱ぎますね」
唇を離して首筋へ行く前にと今のうちにとブラを外してしまう。総司の視線を感じながら。
枷のなくなった白い肌に適度な大きさの胸にピンクの綺麗な2つの頂。
ぷるんと姿をあらわすと我慢できなかったのかすぐに大きな手が伸びた。ビクっと震える百香里。
でも何時ものように激しく揉んできたりはしない。形を確かめるように撫でるくらいで。
「めっちゃ柔らかいなぁ」
「総司さんは固い」
「え?まだそこまで勃起してへんけど?」
「もう。そっちじゃありません。胸です。胸」
「なんやぁ。いや、男の胸がこんな柔らかいっちゅーんはどうなん?」
「鍛えてるんですか?」
「メタボな体でユカリちゃんとえっちできへん……いや、まだ何もしてへんけど」
「確かに健康上よくないですけど、でも、総司さんなら構いません」
「優しいなあ」
微笑んでそう答える百香里を見ていると何処かで信じられてなかった自分が恥かしい。
きっとこれからも。悩みが尽きる事はないだろう。
そんな気持ちを知ってか知らずか、百香里は総司の胸にキスする。それがどんどん下へ下がっていき、
ゆっくりと下着を脱がして。まだ十分な硬さを持たないソレを慣れない手つきで扱きはじめた。
「気持ちよくないですか……?あの、すいません」
「ええよ。めっちゃええ」
「で、でも。……あんまり、その、…反応が」
必死に扱いているのだが何時もと違うソレ。男性経験の殆どない百香里でもそれくらいは分かる。
せっかくいい雰囲気なのに、と焦ってきて。総司は良いと言ってくれるが体は正直だ。
「ほら、俺、その、歳やから」
「でも総司さん夜すぐに固くなるじゃないですか。私が下手だから」
「ユカリちゃん、そんな気にせんでも」
確かに百香里が必死過ぎてあんまり気持ちよくないけど。
何処で習ったのか聞きたくなるくらい慣れた手つきでされるよりはいい。何て慰めにもならないだろう。
相手は必死にに気持ちよくなるように手を上下に動かしているというのに。不安げにソレを見つめられて、
どうにかして元気にならないか考えてみるのだが。そこで百香里が意を決した顔をして。
「んっ」
口に含んだ。いい雰囲気でのエッチでもそうそうやってくれない行為。
「無理、せんでええよ?」
「はいほうふへふ」
口にソレを含んだまま上目遣いで喋られて、ちょっと元気に。
「う…ん、ええかも」
「ほんほに?」
「……あ、でも、あんま、喋らんで」
百香里の奉仕に集中すべく暫く沈黙。自分の為に一生懸命な妻に嬉しそうな夫。
やっぱり可愛いなぁ、と愛しさがあふれて。改めて自分は彼女に夢中なのだと確認する。
これからも積極的に練習台になろう。夫なのだから当然だ。
ああしてこうしてナニしてと頭の中でスケベな妄想を膨らませていると突然百香里は驚いた顔をして。
ソレから口を離した。ツゥと糸が引くのを手で払って。
「凄いです!カチカチ!」
「そ、そう?ユカリちゃん上達したんとちがう?」
「本当に?……、やったっ」
「ほんなら次は俺が」
「はい」
「俺の顔に座り」
「え?でも」
「ええから」
どうせならこの体勢のまま最後まで行こう。戸惑う百香里を少々強引に顔に座らせた。
総司の顔に座るなんてと恥かしそうにしている百香里の尻を撫でながら、割れ目に舌を這わせる。
それだけでも気持ちがよかったのかビクっとからだが反応した。
「あぁあっあ…ぁあ」
「ん……百香里」
「…あぁ…ん…重く…無いですか」
「ユカリちゃんにやったら潰されてもええ……」
「あっん…ぁ」
百香里の尻を撫でていた手が体をなぞりながら胸に来て、先ほどよりもずっと激しく揉みしだく。
恥かしい格好に舌の愛撫、そして体への丁寧な愛撫。やっぱり上手だと思いながら声を上げる。
総司に尻をぶつける形で座っている百香里にはムクムクとさっきよりも硬くなる夫のモノが見えた。
「……こっちも」
「え?何ですか?」
見ていたら総司の手と舌が止まり股の隙間から何やら聞いてくる。何のですか?と聞くと。
胸にあった手を尻に戻しキュッと双方の肉を引っ張る。
「あかん?」
「な、なにを言ってるんですか!もう!怒りますよ!」
「ユカリちゃんの全部しりたいー」
「そこは知らなくて結構です」
「……冷たいなぁ」
と言いながらも惜しそうにしていて、たぶんこの位置からしてソコを見ていると思う。
恥かしくて逃げたいけれど、そうはさせるかとがっしり腰を捕まえられて身動きが取れない。
そしてまた始まる舌と手のネットリとした愛撫。
「あ…あんっ」
「……百香里」
「はい」
「乗り」
「はい」
やっと恥かしい格好から解放された。言われるままに寝ている総司に乗る。
ゆっくりと腰を沈めて、硬くなったソレを迎える。堅くて、熱い。
「ユカリちゃんから動いてみ」
「は、はい」
こうかな?と思う方向に腰をグラインドさせてみる。百香里は中々感じているようだが。
うっすら目を開けてみると総司はそうでもないようで。そんな百香里を冷静に見つめている。
さっきまでの愛撫で感じやすくなっているのもあるけれど。やはりまだ未熟なのか。
「ええよ……百香里」
そう言うと満足そうに百香里の太ももを撫でる。
「総司さん」
「ん?」
「やっぱり総司さんが動いてください。私ではまだ駄目です」
「ユカリちゃん」
「でもちゃんと練習して上手くなりますから。……他に、行かないでくださいね」
「いかへんよ。ユカリちゃんめっちゃ可愛い」
手を伸ばし百香里の頬を優しく撫でる。後は、総司に任せてただ喘ぐだけ。
下からの激しい突き上げに苦しい表情を見せる百香里。でもしっかりと握られた手。
不安も恐れも何もかも吹き飛ばしてただ快楽に身を任せた。
ギュルルルル〜
「……」
「腹の音も可愛いなあ」
「お腹すきました。今すぐ何か食べたいです」
「よっしゃ。俺が電話したる、何でもええ?」
「はい」
気がつけば時刻は昼2時。よくそんなに出来たなとお互いに思った。
空腹だけど疲れて何も出来ない百香里。総司は机の上においてあった携帯を取り出し何処かへ電話をかける。すぐにご飯が来ると聞いては余計腹が減る。ベッドに寝転んでチャイムを待つ。
何を頼んでくれたのだろう?きっとすごいご馳走に違いない。
暫くゴロゴロしていると待ちに待ったチャイムが鳴って、着替えていた総司が取りに行ってくれた。
「あーもー。腹いっぱいやー。ユカリちゃんは?」
「私も」
「なあ、ユカリちゃん」
「はい」
「何か不満とかあったら直ぐに言いや?俺、そんな賢ないし。察するのも得意やないから」
「私はとても幸せですよ」
「俺もや」
食事を終えてお茶をだす。その手を総司が握り締めて百香里を見つめる。
それに応えるように百香里も総司を見つめ返して微笑む。
こうして確認していけば不安な事があっても上手くいく。
2人とも相談した訳でもないのに何故かお互いにそう思えた。
「休憩したら一緒に夕飯の買い物行きませんか?」
「ええよ。ちょっと遠出してもええな」
「はい」
「……こーいう会話、あんまりした事ないなぁ。ええな」
「そうですね。あ。でも、毎回は駄目ですからね」
「そうやった。明日残業やー。ユカリちゃん一緒にしよ。な?」
「私はここで帰りを待ってますから」
「冷たいなあ」
その後、百香里と買い物に出かけてテレビや雑誌に載っているという主婦の裏技とやらを見せてもらい。
1人1個限定激安卵や同じく1個限定のティッシュなどを2つずつ買う。それだけで大喜びの百香里をみて、
彼女がどうにかなるなんてやっぱり自分の思いすごしなんだと苦笑した。
自分のだけでなく総司の家族も同じように大事にしてくれる節約家で優しいいい子。
「ねえねえ君さ、よかったら」
「あぁ?なんやワレ」
「す、すいませんでしたーー!」
「総司さん」
「危ないなあ」
とはいえ、やっぱり不安。自分の見てない所で百香里に何かあったらどうしよう。
車に荷物を乗せて家に帰る車内にて。助手席でジッと黙っていた百香里が口を開いた。
「1つだけ不満あります」
「なに?」
「運転中にスケベな事しないで。集中してください、怖いです」
「……だって、可愛いんやもん」
「怒りますよ」
「はぁい」
「あっ!もう!駄目ですってっ」
「赤信号やもん」
見えないからってスカートに手を入れてくる総司に顔を真っ赤にして抵抗するがびくともしない。
この感じだと帰ったらまた理由をつけてベッドへ連れ戻されそうな気がする。
早く信号変われと願いながら彼の指に翻弄され声が漏れる。目の前を人が通っているというのに。
愛してくれているのは嬉しいしこちらも愛してるけど、こういう意地悪は苦手。というか嫌い。
何て言ったら泣き出しそうで言えないでいる、奥様の本音。
「行ってください…あっ…青で…あぅっ…」
「ユカリちゃんもイった?」
「もーっ!」
その日は幸せ一杯でお互いに楽しかったけれど、翌日は千陽に引っ張られ会社へ向かい。
1日楽しんだんですからと厳しく監視。少しでも緩もうなら鞭うたれ。
もちろん弟たちの助けも無く。何とか山積みにされた業務をこなした。
その数日後。
「あーあ。ユカリちゃん今頃何しとるんかなぁー」
「時間的に昼食中でしょう」
「1人で食べても美味ないよなあ」
「そうやって戻ってこないつもりでしょうが、駄目ですよ」
珍しく外で昼食を、しかも専務である真守と一緒にすることになった。千陽が予約したレストランに入ると
奥の静かな個室に通される。適当に注文を終えると男2人のなんともいえない空気。
食事の場で仕事の話をするのは嫌いな総司。スケジュールの確認か手帳を睨む真守。
「真守、ええか。男には譲れん大事な時があるんや」
「企業の主としての覚悟ですね」
「かわいくない」
「そうですか、それは申し訳ありません社長」
あっさりと切り替えされて終了。その後は特に弾む会話も無くて暫し沈黙。
そこで浮かんだのは百香里の事。彼女の昼食はきっと朝の残りとかを再利用したものだろう。
彼女の料理は美味いけれどたまには外で食べるのも悪くないと思う。
「なあ、ユカリちゃんは今の生活楽しんどるんやろうか。不満はない言うとったけど」
「何故そう思うんですか」
「愛する夫が帰るまで1人で掃除して洗濯して飯の準備して退屈やないやろか」
「義姉さんはまだ20歳ですからね。やりたい事は色々ありそうだけど、不満そうには」
「ユカリちゃんの事やから嫌でも顔にださへんのかもしれん」
ついこの間も不安になって彼女と話をしたばかりだ。えっちもたんまりしたけど。
今思えばもっとちゃんと会話したほうがよかったかも。いや、無理か。
いじいじと悩む総司に呆れた様子の真守。渉のように無視をする、という選択はないらしい。
「気になるなら本人と話し合ってください」
「ほなちょっくら行ってくるわー」
ガシッ
「生憎仕事が山積みですので、全部片してからでお願いします」
飛び出そうとした兄の手を怖いくらいキツく握り締め、眼鏡の奥の視線は恐ろしく。
これは逆らわないほうがいいと仕方なく席に戻る。また沈黙していたら注文していた料理が到着する。
とりあえず腹ごしらえをして、昼からの仕事に備えよう。百香里の事は気になるけれど。
「所でお前、今年で幾つや」
「35です」
「彼女とかは?」
「そういうプライベートな話は」
暫くは2人静に食事していたものの、総司は黙って飯を食べるのに飽きてきた。
箸を置いて真守に質問してみる。何となく気になっていた話題。
真守の反応は鈍くどっちかっていうとこの話題はしたくないし嫌だという反応。
「ええやないかそれくらい。誰にも言わへんし。好きな子はおるんか?兄ちゃんに話してみぃ」
「……、…居ません」
「最後にえっちしたん何時や?」
「そういう下世話な話は渉とでもしてください。僕は結構です」
「まさかとは思うけど、お前あっちの趣味」
ドンッ
「いい加減にしろ!」
あまりにしつこく聞いてくる総司についにキレたのか机をドンと叩き声を荒げる。
幼い頃よく真面目な彼をからかっては真っ赤になって怒るのを渉がからかっていたっけ。
何て言おうものなら拳が飛びそうなので堪えて。
「堪忍堪忍。けどお前怒ったら親父に顔そっくりやな」
「僕のプライベートに干渉しないでください。結婚相手くらい、そのうち……紹介、しますよ」
「そら楽しみやわ。頭ごなしに却下しくさるクソオヤジもおらへんし」
あの恐ろしく強い父はもう居ない。残された息子たちは枷が無くなり何をするのも自由になった。
だけどまだ何処かその呪縛から逃れられないでいるような。もがいているような。
真守は真面目すぎる男だからよけいに心配。だから、総司は何でも許すつもりでいる。
「……母さんは何て言うかな」
「お前が選んだ子やったら喜んでくれるやろ。せやけど、どういう子が来るんやろなー」
「ほっといてください」
といっても総司よりも真面目で優等生な弟だからそんな外れた事はしないだろう。
「なあ、千陽ちゃんとかどや?美人やし頭ええし、悪ないやろ?お前も結構好きなんと違う?」
「馬鹿な事を言うのはやめてください。彼女は社長秘書ですよ?彼女にも失礼だ」
「……お前、もしかして鈍いだけか?」
「え?」
総司の言葉に不思議そうな顔をする真守。これは本当に何も分かっていない顔だ。
仕方がないのかもしれない。今までずっと仕事仕事。根が真面目すぎるから少しの怠惰も許さない。
それで体を壊した事もあるのに、翌日には何も無かったように出社して激務をこなしている。
社長である兄がイマイチ頼れないという事もあるのだろうけど。
これは兄である自分がなんとかしてやらねば。
「ユカリちゃん……もっとイきぃ…もっと可愛い顔みして…」
「あんっ…ああっ…総司さ…ん」
「ここか?ここがええの?」
家に帰るなりまた真面目な顔をして「話し合いをしよう」と百香里をベッドへ連れて行った。
先日も似たような話し合いをしたような気がするが、今回はまた別の話し合いなのでよしとした。
全部脱がせるのは面倒だからと適当に服をはたけさせて中に入る。こういうのも悪くない。
「あっああっ…ああああっ…」
「かわいい…」
百香里はよく事情が飲み込めないけれど、とりあえず喘いで夫の愛に応えた。
「……え。結婚相手ですか?」
「ユカリちゃんから見てどうや?真守」
「優しくて穏やかで冷静で、とても素敵な方です」
「……」
「えっ…と、…でも総司さんには、負けます…」
何時もより早めに切り上げると百香里を抱き寄せようやく本題を進める。
茶化すとか昔話をするのではなくて、今現在の事で彼の口から弟の話が出るのは珍しい。
結婚相手についてよほど気にかけているようだ。真守の性格を考えれば分からないでもないけれど。
「俺にはユカリちゃんがおるけど。あいつ、あのままやと一生独りや。化石になってしまう」
「か、化石ですか」
「ユカリちゃんみたいに可愛い嫁さんでなくてもええんやけど、ええ子おらんかなあ。見合いでもさせて」
「で、でも。あの」
「なに?」
「……いえ」
百香里の脳裏に千陽が浮かんだ。でも、それを言っていいのか。
勝手な事を言って困らせたくない。そんな様子を見て何か思ったのか急に真剣な顔をして。
「なに?何かあるん?怒らんから言ってみ?」
「本当に?」
「ユカリちゃんには嘘つかん」
じゃあ、と口を開く。
「真守さんには、その、千陽さんがいいと思います」
「ほんまに?俺もユカリちゃんとおんなじ事思ってたんや。何とかならんかなぁ。
あの2人絶対ええセンやと思うんやけどなぁ」」
「お似合いですよね」
「まあ、俺らには敵わんけどな」
「……、はい」
夫婦の意見が揃った所で目があって見つめあい。再び総司の手が伸び百香里の甘い声が漏れる。
避妊具はずっとつけていない。早く子どもを望む百香里だが、今の所その兆しはなくて。
自分の所為だろうかと少し落ち込むけれど。夫は急いでも仕方ない気長に行こうと言ってくれた。
最近ではそれを理由に昼マンションに帰ろうとする。今の所千陽が何とか阻止してくれているけれど。
「体の相性もバッチリや……」
「あんっ……もう…全部脱がせてください…」
「スカート濡れてしまうもんなぁ。こんないっぱい溢れて可愛い……」
「あぁっ」
「舐めて拭き取ったる……」
「だ、だめ……あ…ゆ…ゆっくりっ」
総司の手にかかればあっという間に抵抗出来なくなるからちょっと不安。
その日の夜も遅くまで啼かされ続けた。
つづく
2009/01/14