第11話
「おかえりー」
「何だだらしない。……義姉さんは?」
「実家に帰った」
「そうか。何かあったんだろうか、朝はそんな事言ってなかったが」
「さあね」
真守が仕事を終えてマンションに戻るとソファに寝転び、百香里が準備したらしきつまみを食べながら
ビールを飲む渉。彼は定時きっかりに帰っているらしいからずっとこんな調子だったのだろう。
だらしがない、と呆れる。
一旦部屋に戻り百香里がくれた部屋着に着替え戻ってくるとテーブルの上に置手紙。
『母が調子を崩したので今日は実家に帰らせていただきます。夕飯の準備は出来ていますので、
お手数ですが冷蔵庫を開けてください。明日朝には戻ります。 百香里 』
「母親の調子が悪いのか。ずっと傍に居てあげたらいいのに」
「兄貴に気を使ってんじゃねえの」
「兄さんだってそれくらいの分別は……兄さんは?あの人が僕より後に帰るなんてありえない」
今日だって1日の業務を終えたらもう居なかった。秘書も呆れる速さ。
寄り道をする人でもない。何せ家では百香里が料理を作って待っているのだから。
ここに義姉は居ないとはいえ。何かあったのだろうか。
「しらねえよ。俺が帰った時も居なかったし」
「義姉さんと一緒に」
「そりゃ無い無い、あの家の目つき悪い兄貴に毛嫌いされてんだからさー」
「目つきに関してはお前も人の事言えないだろう」
「そうだっけ?」
ビールを飲みながらケラケラ笑っている渉。酔っ払っているのだろうか?だいぶ酒臭い。
百香里が居ないからだらけているようで。とりあえず百香里が用意してくれた夕食を温めて食べる。
1人の食卓。彼女が来てくれるまでは何時もこうだったな、と思い出す。
でも彼女の料理は温かいからそれは違うか。後ろではテレビがよほど面白いのか渉が笑いっぱなし。
せっかくの手料理なのに。いやな食事だ。
プルルル…プルル…
「ユカリちゃん。俺やけど」
『総司さん』
「留守電聞いたで。お母さん大丈夫か?何か困った事はないか?」
『はい。今眠ってます、お医者さまも疲れがたまっていたんだろうと。休めば回復するそうです』
「そうか。ああ、良かった。ほんまよかった」
『あの、今マンションですか?』
「え?あ。あの、……ユカリちゃんの、家の傍におるんやけど」
総司の視線の先には古いアパート。2階の1番左にあるのが百香里の実家。
父が生きていた頃は一軒家だったらしいのだが、購入後すぐに亡くなりローンを払えず手放したそうだ。
病院に行っているのかと思ったが明かりがついていて思わず携帯を握った。
『じゃあ』
「こんでええよ。このまま帰る。ただ、どんなんかと思っていてもたってもおれんで。ごめんな」
『気を遣ってもらってありがとうございます。良かったら母に会ってくださいませんか?きっと喜ぶと思います。
私着替えとか取りにきただけでこれからまた病院へ戻るんです』
百香里に会いたい。だからここに来てしまった。声を聞くと余計に会いたさが募る。
目の前に居るのに。車を降りて階段を駆け上がってドアをノックしたらそこに彼女が。
「……いや、やめとくわ。お義母さん大変なときにまたなんや問題おこしたらそれこそ余計悪くなるしな」
『ごめんなさい、お兄ちゃんが勝手に総司さんを誤解してるんです』
「いや。気持ちはわかるし、……しばらく家におり、こっちはかまんから」
だけど今ここで会う事はお互いの為にしないほうがいい。
『でも』
「出きる間に孝行するもんやで、ユカリちゃん。おやすみ、ええ子でな」
『総司さん。……、はい、ありがとうございます』
母は息子の世話になりっぱなしはいやだとパートで働いて、生活には困らないのに無理ばかりして。
兄妹は何度も止めたのだが体が頑丈なのがとりえなんだと笑い飛ばしていたという。
そんな母が倒れ百香里は病院へ向かい。総司にも連絡があった。生憎すぐには取れなかったが。
慌てて車に乗り込み彼女の元へ向かったけれど、病院にもアパートにも入れなかった。
「金で妹を買おうなんて……!金持ちの玩具じゃないんだ!ふざけるな!帰れ!」
「お兄ちゃんやめて!」
「お前は騙されてるんだ!この男に!」
結婚の挨拶に行った時、百香里の兄は総司を殴り激怒した。優しい兄がこんなに怒るなんて。
百香里は総司を愛していると説明してかばったがそれでも兄は許してはくれなかった。今もそうだ。
20も離れていてバツが1つ付いていて子も居る男が結婚させてくださいなんて。
「そんな事ない!総司さんは私の事を心から愛してくれてる!」
「最初だけだ!目を覚ませ百香里!」
「違う!違うったら!」
妹はもうすぐ20歳になる若さで初婚。もっといい条件の男はこの世に五万といるはずなのに。
兄として許せないという気持ちも分かる。にしてもあの時喰らった一発は中々痛かった。
頬をなでてエンジンをかける。暫くは百香里に会えない、でもそれでいい。
「社長、どうなさったんですか?」
「何がー?」
「やけに真面目だから」
「ひどいわ。俺は社長やで?やる時はやるで」
百香里が実家に帰って5日経った。当然食事は各自でという事で外食ばかり。朝食も抜き。
掃除も洗濯もたまりっぱなし。真守は綺麗好きだからせめて洗濯はしようと洗濯機を回すが
生憎この家で一番勤勉なのは彼。よってそう毎回は出来ない。
「そうですよね、それが当然なんですよね。すみません、言い過ぎました」
「いんですよ御堂さん。兄さんは義姉さんが居ないから寂しいんです」
「そうだったんですか。ついに」
「ちょっと千陽ちゃん?ついにって何やねん」
「いえ」
「実家のお母さんが体調を崩されたとかで」
「ああ、それで」
何となく千陽に不謹慎な事を言われたような気がするが、ここは流そう。突っ込む体力もない。
家は光を失いどんよりとして暗くなる一方。それが男3人暮らしの本来の姿なのかもしれないけれど。
渉は家に帰ってもこなくなって恋人である梨香のマンションに寝泊りしているようだ。
一番辛いはずの総司にいたっては柄にもなく連日社長としての仕事を完璧にこなしている。
「百香里……」
秘書と専務が居なくなってから机の上にある写真を見つめる。愛しい百香里。
きっと今頃母親の看病に忙しいのだろう。いや、もしかしたらあの兄が引き止めているのかもしれない。
母親が後押ししてくれたから結婚できたものの、未だに認めてくれないのだから。
顔を合わせれば不愉快そうに出て行く。仲良くしたいと思っているのだが、難しいのだろうか。
プルル
『社長、お客様です』
「だれやー?何も聞いてへんで?アポなしはお断りやー面倒ー」
『いいんですか?知りませんよ』
「そんな言われたらしゃーないな、入れたって。あ。お茶ちょーだい喉かわいた」
『はい』
寂しさで一杯になる中内線電話が鳴って。千陽の声。何やら含みのある喋りで気になるが。
とりあえず資料を眺めながら来客が来るのを待つ。重要な人物は事前にアポイトメントを取るのが普通。
もしかしたら渉あたりが小遣いをせびりにきたのかもしれない、それくらいの気持ちで居た。
コンコン
「はーい」
「お邪魔します」
「百香里!?何しとるん!?え?!」
「今のうちにお茶おいときますんで、邪魔者は退散しますね」
「あ。え、あ、ありがとう」
秘書と入ってきたのは家に居るはずの百香里。これはどういうことかと見つめていたら、
彼女は恐る恐る中にはいってきてソファに座る。千陽はお茶を机においてさっさと退散した。
本物の百香里だろうか。慌てて彼女の隣に座る。ちゃんと百香里だ、夢じゃない。
「あんまり家をあけるもんじゃないってお母さんが」
「でも、体調はどうなん?悪かったら帰ってええからな俺は大丈夫やから」
「そうですか?私には大丈夫に見えませんけど」
「え?そうか?」
自分では分からないけれど、百香里は心配そうな顔をして総司の頬に触れる。
暖かな指、優しい微笑み、可愛い唇。全部愛しい。言葉が出なくてただ見蕩れてしまう。
「疲れた顔。お仕事ばっかりしてたんですか?何だか顔色よくないですよ」
「まあ、社長やしな」
「貴方にまで何かあったら私どうしたらいいんですか」
「ユカリちゃんこそあんまり寝てないんちがう?大丈夫か?」
看病が忙しかったのだろうか。少し顔色がよくない気がする。やつれてはいないけど。
前よりも元気が無いような気がする。
「母はもう元気なんです。でも、ベッドに寝ている母を見ていると死んだ父を思い出して怖くなって眠れなくて。
お兄ちゃんと手を繋いでずっと見てたんです、眠るお父さんを」
3人で必死に生きてきた。もし、このまま目覚めなければと思うと。
母はもう大丈夫でただ眠っているだけなのに。昔の事を思い出したりして。
不安が溢れそうになって。暫くはすぐに眠れなかった。
「俺は大丈夫やから、そんな顔せんで。な?お義母さんの事はなんも不備が無いようにするし」
「それは、駄目です。お兄ちゃん絶対に怒るから」
「わからんようにする。それくらいの脳みそはもっとるから安心し」
「……総司さん」
百香里を抱きしめると彼女もまた抱き返す。髪をなでると家のものではないシャンプーの匂いがした。
その頭にキスをして5日ぶりの妻の感覚を確かめる。若くて滑らかな肌、綺麗な瞳、柔らかな唇。
そんな事をしている場合ではないとわかっていても夢中になってキスしている自分が居た。
「……、堪忍」
義母の看病や不安でだいぶ疲れているのだからこれ以上は駄目だ。
まだまだ百香里が欲しいと欲望が湧き出るがここは我慢。
「……いや」
「ユカリちゃん」
総司が唇を離すとすぐに百香里が覆いかぶさる。抵抗する事もなく簡単にソファに寝る2人。
彼女にしては積極的だ。だけどそれも悪くない。
「もっとしてくれないと嫌。総司さんをもっとくれないと嫌」
「おねだり上手やね、ユカリちゃんは」
百香里を抱きしめ再び唇を合わせる。彼女が求めてくれているのだから、我慢はいいか。
ここぞとばかりに容赦なく舌を絡ませると彼女も応じてくれて。何時に無く深いキス。
このままここでえっちに発展してもおかしくない雰囲気になってきた。
「……ん」
「……、続きは明日な」
「明日ですか」
でも、やっぱり総司は百香里を離す。百香里はてっきりこのままいくのだと思っていた。
体を離されて身を起こす。彼女の乱れた髪を優しく手でといてあげて。
「5日も真面目に働いたんやし明日くらい休みもらってもええやろ。な!」
「総司さんたら、また千陽さんに怒られますよ」
「かまへんかまへん」
総司がニカッと笑うと百香里もつられて笑う。わかりました、と続けて。
「じゃあ…」
「今日はもう帰ってゆっくり休み。飯は何か買っていくわ。何も気にせんでええよ」
「はい」
「もう会えんかと、思った」
総司も不安でたまらなかった。独りで眠るには大きすぎるベッド。百香里の居ない朝。
彼女が傍に居る事が当たり前になっていたから余計にこの5日間は辛かった。
仕方がない事だし最終的には帰ってくるとわかっているのに。
「私が帰る場所は総司さんの隣ですから」
「百香里」
軽くキスをして立ち上がる。このままじゃ欲望に負けてしまうから。車の手配をさせて彼女を見送る。
百香里が帰ってきて気持ちが明るくなって、仕事があまり捗らなくなった。頭の中は愛妻の事ばかり。
明日どうしようとか、こうしようとか、あんな事やこんな事しようとか。
「おふざけはおやめください、社長。この忙しい時期に何が休暇ですか」
「ふざけてへん。休暇やなくて妻を労わるんやって」
「それを世間では休暇といいます」
「わが社では言わへん」
「ご、ごうじょうな」
秘書にも強気。ここは絶対に譲れない。今日は我慢するのだから。
「千陽ちゃん。真守を好きにしてええから休みちょうだい」
「好きに……、いやいやいや!何て事言うんですか!……昼までなら大丈夫です何とかします」
「ありがとさん」
それから気を引き締めて仕事を終わらせる。目指すは我が家。
暗かった家も百香里が来れば明るくなる。母親が体調を戻したのも良かった。
百香里は知らないが既に色々影ながら援助している。その事を知っているのは母親と総司だけだ。
未だ総司を目の敵にする兄の手前何もいえないが。それでもいい、言う必要はない。
「どうしたんですか兄さ、…社長は」
「奥様が戻られてルンルンハッピーなんだそうです」
「ルンルン……、でも、義姉さんが戻ってよかった」
「え。真守さ、……専務まさか」
「あの部屋はもうどうしようもないですから。やはり男3人だけだとね」
「あ、ああ。もう、何でしたら私が行きましたのに」
スキップしたいくらいの気持ちで車から降りるとマンションへ急ぎ足で向かう。手には彼女の好きなお寿司。
玄関を開けたら酒臭い弟が馬鹿笑いしながら待っているなんて事はなく。
可愛らしい妻が笑顔で待っていてくれる。こんな幸せない。玄関に入ると何時ものようにただいまと言った。
「……総司さん」
「え。あ。ユカリちゃん、なんでそんな怖い顔してるん?旦那様かえってきたで?」
でもなんか顔が怖い。なんでだろう?寿司じゃないほうがよかったのだろうか。
「何ですかこの部屋の有様は!」
「え?おかしい?」
「洗濯物は放置だしごみも分別はされてるけど置きっぱなしだし冷蔵庫はほぼお酒でうまってるし!」
「そ、それは弟らが」
「それを束ねるのがお兄さんである総司さんの役目でしょう!」
「はい!ごめんなさい!」
今までで一番の雷。これは真守や千陽に怒られるより怖い。思わず背筋がピンとなる。
「さっきまで掃除しっぱなしで疲れました」
「えっと。お寿司食べへん?この前いった店のやからめっさ美味いで?ね?ね?」
「……お茶いれますね」
まさかここまで怒られるとは思わなかったけど、言われて見れば確かに汚かった。
それがほんの数時間で元の綺麗な部屋に戻ったのだから、やはり百香里は凄い。
着替えを済ませると一緒に食べようと椅子に座る。テーブルには寿司。弟たちの分もある。
「ただいまー」
「お帰りなさい」
「本当に帰ってきたんだ」
そこにちょっと遅れて渉。百香里が戻ってきたことは知っているらしい。
「はい。あ。渉さん!」
「なに」
「総司さんから言ってください!」
「……ん?え?俺?」
「そうです」
食べようとした鉄火巻きを慌てて戻しお茶を飲み、帰ってきたばかりの渉を見た。
ろくに家に帰ってこなかったくせに百香里が帰ってきたと知った途端定時どおりに帰ってくるのだから。
総司と百香里が何をしたいのかわからずボーっと兄をみていた渉。
「あー。渉、冷蔵庫に酒ばっかいれんなや」
「………はぁ?」
「迷惑なんじゃ!ボケ!あんぽんたん!」
「自分だって飲んだ癖に、つか、着替えてくるからさ。ユカりん俺にも寿司ちょうだい。お茶も」
「はい」
また訳のわから無い事を、と適当に流していったん部屋に戻る。
入るなり綺麗に掃除された部屋。ゴミも捨てられているし服も畳まれて箪笥の中へ。
こうしてみるとやはり綺麗に整えられているほうがいいな、と今更ながら思う。
「ねえ、あんたの母親さ。もう大丈夫なの」
「はい。ご迷惑をおかけしました」
着替えてリビングに戻ると寿司とお茶の用意が出来ていた。今日は酒よりも先に飯。
お隣では総司が気持ち悪いくらいの笑顔で帰ってきた百香里に甘えている。
よくやるよ、と呆れつつ。ふと少し前の記憶を思い出した。
「あのクソムカツク兄貴は?元気してる?」
「渉、そんな言い方すんな。ユカリちゃんに謝れ」
「関係ねぇ俺まで殴られたんだぜ?訴えなかっただけでもありがたいと思って欲しいね」
「本当にその節は申し訳ありませんでした」
百香里の兄とは渉も面識がある。というか会社に殴りこまれた。そこで痛い迷惑を被った。
総司はもうええやろと止めようとするが渉は続ける。百香里はただ謝るばかり。
兄も夫も松前家の人たちもどちらも皆百香里には大事な人。どちらを取るかなんてできない。
「別にユカりんを責めてるわけじゃないし、ただ、あのクソムカツク兄貴はどうしてるか思っただけ」
「はい、元気でやってます」
「あっそ。へー」
渉の意地悪い問いにも嫌な顔などせず答えた。総司は怒っていたけれど。
「お前言いすぎやぞ。ユカリちゃんごめんな、気ぃ悪くさせて」
「いえ。大丈夫ですから」
真守が居てくれたらもう少しなんとかなったろうか。気まずい空気になりながらも食事は終了。
片づけをする百香里の後ろをビールを取りに来た渉が通る。
総司は風呂。一緒に入ろうかとも思ったけど先に此方を片付けておきたかった。
「……さっきはごめん」
「渉さん」
ボソっと言うものだから最初上手く聞き取れなかった。でも、確かにごめんと言った。
驚いて振り返ると渉は冷蔵庫を見ているままで此方を見ない。
「何時まで経ってもあんたらの事を意固地になって認めないのがなんか、腹たってさ。
それよりも母親体良くなったんだろ。よかったな」
「はい。ありがとうございます」
「……今のは内緒で」
「はい」
ビール1本とつまみを持ってさっさと部屋へ戻っていった。彼にしては優しい言葉。
彼は本当は優しい人なんだと百香里は思っている。ちょっと素直じゃないだけで。
暫くして真守が帰ってくる。おかえりなさいと笑顔で迎えた。それから寿司とお茶をだして。
総司が風呂から出てきて何で入ってきてくれなかったのかとグズる。いつもの松前家だ。
翌朝。
「ああ!ユカリちゃんのやわらかいおっぱいー!待ってたでー!」
「あっ!ちょっと!待ってください!まった!」
朝食も洗濯も送り出しも終えてまずは休憩、ではなくて休みを取った総司と寝室へ向かう。
ベッドには既に裸になった総司と百香里。久しぶりの妻に興奮が収まらない様子。
少々乱暴に上から覆いかぶさると胸に吸い付く。それを何故か拒まれてちょっと不機嫌。
「なに?」
「まずはキスじゃなかったんですか?いきなり胸ですか?」
「……順番どおりせなな。美味しいとこは後で」
まずはキスから。そういう決まりがあるわけではないのに2人の間ではいつの間にかそうなっていた。
舌を絡ませながらキスをして。抱きしめると百香里もしっかりと抱き返した。
「あぁ……ん…ああん」
「ユカリちゃんのおっぱいめっさ気持ちええ」
「総司さん……吸いすぎですって…伸びちゃう」
唇から移動して舌と指で百香里の体を愛撫していく。何日もしていなかったからその分感じる快感は甘い。
何時になく卑猥な声をあげる百香里に興奮したのか動きが荒くネットリと。
百香里の柔らかな胸が好きな総司は顔を埋めて強めに吸い付く。
「それやったら揉みまくったらもっと大きなる?」
「……もう。すけべ」
「よっしゃ揉んだろ」
「あ。あ。……んっ」
「こっちもな」
「あんっ」
片方は胸に片方は潤みはじめたソコへ手を伸ばし同時に攻撃。すぐにクチャクチャと下から水音が。
悶える耳元では卑猥な事を言って百香里を赤くさせる。実に満足そうな顔をして。
昼までの休み百香里をベッドから離さない。
「百香里……」
「……ぁんっ…あなた……ぁあ」
「もっと声だし。……もっと聞きたい」
「あんっ…あっあっ」
愛撫を終えて本格的に突き上げ始めるとまた違った声をあげる。それもまた愛しい。
もっともっと突き上げて色んな声をきいてやろう。総司の肩に百香里の爪が食い込む。
「……はあ。あかん。止まらんかもしれん」
「もう……頑張りすぎなんです…」
どれほど時間が経ったかわからないけれど、止まっていた分を取り戻すにはまだ足りない。
百香里が果てたのを確認して一端腰を止める。
あんまりにも突進しすぎると百香里に怒られる、けど、汗だくで組み敷かれる百香里は色っぽい。
「……百香里ぃ」
「あ!もうお昼前じゃないですか!お昼ごはんの準備しなきゃ」
「僕の固いの食べる?」
「じゃあ根っこからがぶりと齧っていいですか」
「あん。怖い」
旦那さまのもう1回やろうと言いそうな視線を潜り抜け部屋の時計を見て大きな声を上げる。
もうお昼。通りでお腹が空いている訳だ。
総司にはどいてもらって身を起こす。メニューも何も考えて居ないけど。どうしよう。
「総司さん何が食べたいですか?あ。私以外で」
「う。ユカリちゃんめ。……何でもええよ、何時も通りのメニューで」
「朝の残りとかなんですけど、いいんですか?もっと別の」
「ユカリちゃんと同じのでええんや」
「はい」
とりあえず冷蔵庫をあけてからメニューを考えよう。
「ああ、可愛い。なあ、むうちょっと」
「齧りますけど」
「ううう。ユカリちゃんになら齧られても」
「子どもは?」
「う。う……僕大人しくまってるぅ」
「はい。お願いします、できたら呼びますからね」
軽くキスをしてベッドから出る。下着を拾って。総司が気をかえて抱きつく前に急いで服を着て。
キッチンに入ると冷蔵庫をあける。何時もは残り物を調理して食べるけれど。
やっぱり総司にも同じもを食べさせる気にはなれず手を加えた。
「ユカリちゃん、気ぃつかわんでええのに」
「そんな事ないですよ毎回これくらいしてますし」
「なあ、ユカリちゃん。ユカリちゃんは嫌かもしれへんけど、もっと、こう、贅沢してもええんやで?」
「はい。十分させてもらってます」
総司が呼ばれておりてみれば昼食にしては豪華な料理たち。明らかに自分用に凝ったものを作ってくれた。
百香里が作ったのだから当然美味しいけれど、何時もと同じのでいいと言ったのに。
気を使ってくれなくてもいい。夫婦なのだから。まだその辺りに隔たりがあるように思える。
「今度また外食しよ。可愛い格好して」
「はい」
「あん、ほんま可愛い。このままおりたいー」
「駄目ですよ」
「お手伝いするし」
「恐らく今頃御堂さんが向かってると思いますから、無理だと思います」
「そ、そんなぁ。まさかぁ」
その頃。
「さって。行きますか」
「御堂さん?」
「専務、これから恐らく駄々をこねて戻ってこないであろう社長を連れてきます」
「ああ、そうだった。でもせっかくだし今日はもう」
「甘いです。社長は1度甘やかすと永遠に図々しくもそれに乗っかって奥様とイチャ付く人ですから」
「確かに。さすが御堂さん」
「では行ってきます」
「はい。頼みました」
数時間後、百香里の予言どおりイヤイヤと駄々をこねる総司を颯爽と引っ張っていった。
頑張ってね、と笑顔で見送る百香里は可愛い。やっぱりこうでないと。
「なあ、千陽ちゃん。今度真守と出張一泊でどうや?」
「何がです」
「まる1日!な?やすませてーや」
「またとぼけた事を。………いやいやいや!駄目駄目!今は駄目です!」
「それやったら同じ部屋に1泊」
「駄目です!……だ、だめです。だめ。うん、駄目!」
おわり
2008/12/18