昔からの


「だめ!だめ!ママにいじわるしたらパパに言っておこってもらうからね!」
「司」
「司だって…こ、…こわくなんかないもん!ぜんぜんこわくないもん!」

言いながらも司が居るのはママの後ろ。相手に顔を見せないで叫んでいる。
それでは効果は無いようなものだが本人はいたって真面目で必死にママを守ろうとしている。
気持ちは嬉しいけれど、困った顔をする百香里。言われた相手はピクリとも表情を動かさない。

「分かったから。ありがとう。でもママ大丈夫だから。ちょっとお話ししてただけで」
「百香里奥様」
「はい」
「お部屋の準備をして参ります。夕食までまだ時間がございます、ごゆっくりなさってください」
「は、はい。ありがとうございます」
「何かご不便がございましたら何なりとお申し付けくださいませ。失礼致します」

深々と頭を下げるとその女性は去っていく。松前家に古くから居る家政婦さんたち。
仕事は完璧にこなしてくれるのだが皆同じように表情が無くてどこか冷たくて無機質で恐怖すら感じる。
仕事に没頭するあまり人であることを忘れたような。なんて失礼な事を考えてしまうくらいに。

「パパいつくるの?早くかえりたい」
「今日はここでお泊りするの。昨日ちゃんとお話したでしょう?」
「だって」
「パパのお爺ちゃんとお婆ちゃんのお家なんだから。そんな言い方しないの」
「…こわいよ」

その冷たさは司も同じように感じ取ったようで彼女たちに全く懐いていない。
むしろ怖がって百香里の傍にずっといる。普段はそんな物怖じしない子なのに。
それでも怖いのだ。総司が来てくれたら百香里も心強いのだが。

「夕方まで待とうね」
「ユズは?マモは?」
「皆お仕事だから」
「……なんでここお泊りするの?おうちかえりたい…」
「ブランコ行こうか。押してあげるね」
「…うん」

嫌がる子を無理に泊めるのはやはりいけない事だろうか。
こんな事ならケチらずどこか安いホテルに泊まるべきだったろうか。
司を見ているとだんだんと罪悪感が湧き上がり今更な事を考えてしまう。

「お風呂一緒に入ろうね。大きいよ」
「ママ」
「なに?」
「あのおばさんたち司のこと嫌いなのかな」
「そんな訳ないでしょ。司はこの家の大事な子なんだから」
「そうかな。…そうなのかなあ」

ブランコに座って司は考え混むような顔をする。
彼女たちに何か言われたのかと心配したがそうではないらしい。子どもながらに感じる何かがあって。
それが司に”ここには居たくない”と思わせてしまう原因のように思う。だとしたら自分の所為だろうか。
跡継ぎが必要なのに女の子だったら?それともこんな女の子どもだから?百香里も考え込む。

「司?」

気づいたら司はブランコから下りて百香里に抱きつくとじっと見つめていた。

「だいじょうぶだもんね。だってパパがいるもん」
「それに司はいい子だから。何にも気にする事ない」
「ママ」
「ほら。座って。ブランコしましょう」
「うん」

やっとニコっと笑ってブランコに戻る司。クヨクヨ考えても仕方ない。自分がしっかりしなければ。
百香里は気を引き締めて総司が帰ってくるのを待つ。真守や渉たちはもしかしたら来ないかもしれない。
居てくれたら司も喜ぶのだろうがそれを強要する気は無い。総司さえ居てくれたら。

「司」
「あ。ユズだ!ユズ!」
「渉さん」

暫く庭で遊んでいたら司を呼ぶ声。総司ではない、渉だ。恋人の下へ行ったかと思ったのに。
司は嬉しそうに彼の元へ走っていく。渉はすぐに司を抱き上げた。

「ただいま」
「おかえりユズ!」
「予定があったんじゃ」
「別にねえよ。まあ、いい気分でここに来た訳じゃないけどさ。あんたら置いて自分だけってのはね」
「ユズ!鬼ごっこしようよ!ここ広いからいっぱい遊べるよ!」
「鬼ごっこってお前。園児と走り回るとか無理無理」
「えー」
「もっとこう女らしい遊びしろ。例えば」
「虫とり?」
「違うだろ」
「司。渉さんはお仕事で疲れてるの。だから大人しくしてお話するくらいにしなさい」
「はーい。ねえねえユズのお部屋どこー?パパのは見たんだよ」
「俺の部屋なんか何もねえよ。ま、いいや。案内してやる」
「れっつごー!」

渉に肩車してもらいご機嫌に彼の部屋へ去っていく司。
さっきまでずっと不安そうにしてママの傍を離れたがらなかったのに。
そういう百香里も少しだけ緊張がとけた。彼が居れば司は安心する。

「お帰りなさいませ、渉坊ちゃま」
「どうも」
「……」

廊下に入った所でまた家政婦さんが登場。さっきの人とは違う人だけど
雰囲気が一緒でまるで同じ人みたい。司は咄嗟に渉の後ろに隠れた。

「お食事の準備を致しております、お出しするお時間は」
「兄貴たちと一緒でいい」
「かしこまりました」
「それと。食後にコイツにアイスやって。チョコのが好きだったよな」
「…うん」
「準備させて頂きます」

渉は百香里や司とちがい彼女たちに対して押される気配も怯える様子も無い。
家政婦は深く頭を下げさっさと消えていく。渉は気にせず自分の部屋へ向かう。
司はそんな彼の手をぎゅっと握る。居なくなってもまだ怖いらしい。

「あいつらは無いものと思えばいい」
「え?」
「モノだと思えばいい。掃除機や洗濯機、冷蔵庫。そういう機械だと思え」
「…でも」
「それで向こうもいいんだ。だからお前は何も気にすんな。こっちがご主人様だ。臆することは何もねえ」
「ユズ」
「ここはそういう所……、ま、いーんだよ。お前は何時もの元気小僧でいいんだ」

お手伝いさんが居た時は怖い顔をしていたけど今は何時もみたいに笑う渉。
司が怯えるようにこの家は確かに冷たくて無機質で怖い所だ。でもそれを怖がっている司に言えば
さらに怖がらせる事になるのでここはもう笑い飛ばす。あの馬鹿アニキみたいだけど、仕方ない。
ほどなくして渉の部屋に到着。今も綺麗に掃除をされていて綺麗なまま。

「本無いね」
「ああ。かさ張るし全部捨てた」
「じゅーはちきんのでぃーぶいでぃーもない」
「まだ純粋だったんだよ。あの頃の俺は」
「お部屋にテレビあるよ。なんで?他のお部屋におっきいテレビあったのに」
「それよりほら。見ろよこれ。俺が小学生の時の写真だ」
「しょうがくせい」
「これがお前の爺ちゃんでこっちが婆ちゃんだ」
「飾ってた写真とちがう」
「仏壇の写真よかずっと若いだろ」
「おじいちゃん怖そう」
「まあな」

写真でも分かる父の厳しさに苦笑する渉。司は興味津々で写真を見つめている。
そこに兄たちは居ない。幼い渉と父母が写っているだけ。

「おばあちゃんきれいやさしそう。ママみたい。ニコニコしてる」
「怒るとすげえ怖い所も似てるしな」
「…明日、おじいちゃんのメイニチなんだよね。ママはここで準備しなきゃいけないんだよね。
おきゃくさんとかいっぱいくるから。パパもいそがしいし、だからここに泊まるんだよね」
「そうだな。ちょっとくらいは寂しい思いするだろうけど、明日だけだ。我慢しろよ」
「うん。皆居るなら司全然こわくないもん」
「いい子だ。明日頑張ったら遊園地つれってやる。行くだけじゃねえぞ?
お前そこのホテル泊まりたいって言ったろ?予約しといてやるよ。好きな部屋な」
「ほ、ほんと!?」
「今まで約束やぶったことねえだろ。待ってろ」
「うん。やったー!」

嬉しそうに笑う司に釣られるように渉も少し笑って頭をなでる。
そんな会話をしているうちに何処からか聞き覚えのある男の声。
司がすぐに「パパだ!」と気づいて一緒に行こうと渉の手を引っ張る。
着替えてから行くと伝えると彼女は分かったと笑って部屋を出て行った。

「司。ただいま」
「パパおかえり」
「元気そうやね。よかった」
「うん。げんきだよ」

玄関に向かうとパパが見えてその隣にママもいて。司は急いでパパに抱きついた。

「そうかそうか。ええこっちゃ。真守もすぐに来るでな」
「うん」
「お腹すいたやろ」
「ちょっとすいた」
「ご飯しよな」
「お帰りなさいませ総司様」
「あぁ。食事の準備は出来とんのかな」
「はい。すぐにでも」
「ほな頼むわ。この子には小さい椅子でな」
「かしこまりました」

それからすぐに真守も今日は早めに終わって合流し家族そろっての何時もの夕食。
となるはずなのだが何となく着席した皆は言葉が少なくて元気が無くて。
テキパキと運ばれてくる料理はどれも美味しそうなのに。司はキョロキョロ見る。

「ママ…」
「もう食べていいからね」
「…パパ」

ママの隣の席なのにパパはちょっと遠い。何時もパパとママの間の席なのに。

「俺ここやなくてもえんちゃうの?何や気持ち悪いんやけど」
「兄さんが松前家の当主なんですから仕方ないでしょう」
「寂しいやんか」
「じゃあ司がとなりに座る!」

司は立ち上がると自分用に出された小さな椅子を持って総司の隣に座る。
広いテーブルで総司1人しか座っていない為司が来てもスペースはまだある。
百香里はそうしましょうと司の料理を彼女の前に移動させた。これで近い。
何となく他の2人の表情も和らいで何時もみたいに話してくれる気がする。

「父ちゃん切ったろか」
「が、がんばる。…うぅああなんで?パパみたいに出来ない…うぅう」
「司無理すると汚すから。パパに任せたら?」
「…パパ」
「ほな見ときお父ちゃんの華麗なナイフアンドフォークさばきを」
「くっだらねえ」
「渉」

何時もお肉が出る時はママは切ってくれているからフォークだけですんだ。
でも今日出てきたのは何時もより柔らかそうなお肉だったがナイフの使い方が分からない。
皆面白そうに切っていくのに。見てても上手く出来ないので司は総司に任せ綺麗に切ってもらう。
何時も食べるお肉と違って柔らかく食べやすかった。お代わりしてしまうくらいに。


「…総司さん」
「ん?」
「家政婦さんたちは多くを語らないけど態度でよく分かりました。この家の主が総司さんだってこと」

食後の片付けもする事無く百香里は総司とここでお休みくださいと案内された部屋で休憩中。
司は食後に出されたアイスを嬉しそうに食べている。付き添いに真守。
渉は電話がかかってきたとかで部屋へ戻っていった。恐らくは梨香だろう。

「そらなあ。親父がおらへんで」

総司のスーツをシワがつかないようにハンガーにかける百香里。
服は此方にも幾つか置いてあるとかで適当に選んだ高そうなものを着ている。

「もしかしたら総司さんの居るべき場所って」
「俺が居るべき場所はユカリちゃんと司のおるとこやろ」
「そうですよね」

百香里を後ろからそっと抱きしめる総司。司が居るからまだ少し落ち着いてはいるものの、
やはり松前家に圧倒されているのに変わりない。

「司まだ怖がってた?」
「少し。でも皆さんが一緒なら怖くないって笑ってました」
「家出した俺が無理してここを好きになれとはよう言わんけど。嫌われっぱなしちゅうのもな」
「きっと慣れてくれますよ。何てえらそうな事言うけど、私こそ慣れないと駄目ですね」
「ユカリちゃん」
「だ、だめです。明日は忙しいんですから」
「ちょっとだけ」
「総司さんのちょっとは世間で言うガッツリです」
「そうなん?ほなほんのちょっとだけや」
「そ、それも…」

どうせガッツリなんでしょうと突っ込みを入れようとしたらドアをノックする音。

「総司様、日阪様よりお電話です」

家政婦さんの冷静な声に盛り上がろうとしていた空気が一気にさめていく。
百香里は総司から離れ行って下さいと促し。彼も渋々立ち上がった。
広い部屋に1人になった百香里は司の様子を見に行こうと廊下に出る。

「百香里奥様」
「は、はい」

後ろから気配も無く行き成り声をかけられて思わず声が上ずり体もビクっと反応してしまった。
振り返ると家政婦の長ともいえる1番古株の女性。百香里は正直彼女が1番苦手だ。

「明日の件でお時間を少々頂きたく」
「あ。打ち合わせとかですか?何でも言ってください、私に出来ることなら何でも手伝いを」
「場を仕切るのは総司様にお任せして雑用などは全て此方で行います。今までそうでしたので」
「え?で、でも」
「松前家の奥様が下々の者がするような雑用をするなどと見苦しい姿を皆様に見せるわけにはいきません。
今回お願いに参ったのはその事ではなく、司様の事です」
「司が何か」
「先ほども居間で真守坊ちゃまと紙飛行機を作っていらっしゃいました。とても活発なお子様のようです。
ですが、明日はそのようなそぶりを人様に見せないように。母親である貴方様が監視くださいませ」
「確かに活発な子ではありますけど。司はそんな人様に迷惑をかけるような事はしません。監視だなんて」
「松前家は新しい当主様をお迎えして新しく動き出そうとしています。失敗は許されないのです」
「失敗って」
「百香里奥様。私どもは自分たちの意思で行動しているわけではございません。全ては松前家の為に。
今までしてきた事を忠実にこなしているだけなのです。これは言わば暗黙の了解なのです」

松前家のしてきたこと。もし義母が健在であれば教えてくれたのだろうか。
それともこの人たちのように敢えて教えずにこうして忠告に来るだけだろうか。
はっきりとは言わないが要するにお前は黙っていろ。娘にも何もさせるな。
私は松前家の嫁なのに。何も知らない。教えてもらってない。そんな疎外感。

「……私にも司にもそれに従えと」
「私どもは奥様に従えなどと命令する立場ではございません。ただ、それがこの家のしきたりなのです。
総司様や坊ちゃま方もそれに従ってきたからこそ今があるのです。お分かりいただけましたでしょうか」

しきたり。そんなの行き成り言われても。でも、従わなければ今以上に嫁として認められないのでは?
司がこの家の娘として扱ってもらえないのでは?自分はともかく娘だけはちゃんと居場所が必要だ。

「……。…分かりました。司は、私がちゃんと見ています」
「ご理解いただきありがとうございます。お風呂の準備が出来ておりますのでどうぞお入りくださいませ」

女性はふかぶかと頭を下げるとさっさと長い廊下の奥へ去ってしまう。
彼女たち個人の意思ではなく松前家のしきたり。皆がそうしてきたこと。
そう言われてしまうと反論しようがない。
いや、本当は自分が弱くて何も言えなかったのだ。司のことも頭を過ぎる。

「あれ。待ってくれてたん?」

そこへ電話を終えて総司が帰ってきた。

「総司さん。あの、少し司のところへ行って来ます」
「ええけど。どないした?何か元気ないな」
「ちょっと疲れちゃっただけですから。お風呂の準備できたみたいですよ、お先にどうぞ」

彼に言えば家政婦たちに言ってくれるだろう。でも、それは解決とは違う気がする。
彼女たちはあくまで”家のしきたり”を守っているだけだ。
百香里は軽いため息をしながら廊下をすすみ司たちが居た居間へむかう。

「ママ!みてみて!かぶと!」

彼女が言った通り司は折り紙で遊んでいた。真守は席を外しているのか今はいない。
彼に折ってもらったらしきカブトをかぶり嬉しそうに笑う司。
いつもなら優しく微笑んであげるところ。でも百香里は心を鬼にする。

「こんなに散らかして駄目じゃない。片付けなさい」
「ま…ママ?」
「何時も言ってるでしょうなんで出来ないの?なによりここはお家じゃないの。
明日は絶対に大人しくしてて。走ったりしないで。絶対に迷惑にならないようにしてなさい」
「…あ、…あのね…あの…カブト…作って…て」
「言い訳しないの!」

やや乱暴に司のかぶっていたカブトを取って机に置き
オロオロしている娘の小さな両手を少し強めに握る。
笑うどころか怒っているような口調で言ったからか司は目頭に涙を溜めて。

「ま……ママぁ…」

ついにボロボロと涙を流す。

「義姉さん!どうしたんですか!司が何をしたっていうんですか」

そこへ丁度戻ってきた真守。司が泣いているのを見て慌てて抱き寄せる。

「明日は沢山人が来るので大人しくしてって言っただけです」
「そんな強く言わなくても司が大人しく出来る事くらい知っているでしょう?…彼女たちに何か言われたんですか」
「松前家に相応しくない嫁かもしれないけど、この家に居る間くらいはしきたりを守ります。この子にもちゃんと」
「しきたりはその時生きている者の間で使われるべきだ。今ここで生きているのは僕たちだ。
古いしきたりに従う必要はない。要らない部分は新しいものに更新すればいい。それだけの事じゃないですか」
「だけど」
「この家の当主は兄さんで貴方の夫。新しく作り変えてください、誰も文句は言わない」
「……」
「司はまだ真っ白な子どもです。しきたりなんかで縛って僕たちのようにはしてはいけない。お願します」

真守が頭をさげるなんて。百香里は何もいえなかった。そしてそんな彼に抱っこされて泣いている司。
こんな事をする為に言ったんじゃない。家のためにしたはずなのに。心が痛い。辛い。
司は何時も自分を守ってくれたのに。そんな娘を泣かしたいんじゃない。こんなのいやだ。

「ごめんね司。ママ、司のこと怒ったんじゃないから。ね?」
「……ママ」
「ほら。司、抱っこしてもらっておいで」

チラチラと百香里の様子を伺いつつ真守に促されておずおずとママの傍へよる。
また怖いママになったらどうしようか怖がっていた様子だが抱っこして頬をすりすりしてやると
やっと安心したのか何時ものように抱きついてきた。

「ごめんね。ごめんね」
「……ママ」
「僕が言った事を忘れないでください。しきたりはあくまで過去のものです。
僕たちは家に興味がなかったからそれを修正せずに来てしまったけど。
貴方が望むなら僕も渉も兄さんも協力します、何でもしますから」
「ありがとうございます。私、…この家に来て勝手に焦っちゃったみたいで。ほんと、馬鹿です」
「いえ、こちらこそ。貴方の気持ちに気づいてあげられなくて申し訳ないです」

目頭に涙の百香里。司も鼻をグズグズさせながらそんなママにギュッと抱きついている。
松前家のまるでお城のような巨大な実家に来てその歴史と雰囲気に圧倒されて焦った。
自分は働いている訳でもなく子どもでもなく「奥様」だからと何もさせてもらえなくて。
マンションでは感じなかったひとり取り残されたような孤独があって。もしもそんな精神状態の中で
あの冷たい家政婦たちから松前家のしきたりという言葉を延々と言われたらきっと抗えない。
そう思うとマンションに居るのは良かったのかもしれない。これは逃げだろうか。
真守は喉が渇いたのでと席をたつ。恐らくは気を使ってくれたのだろう。

「ウマい所もっていきよってからに」
「総司さん」
「パパ」
「カブトか。俺も昔はようつくってもろたで。どや男前やろ」

入れ替わるように総司が来て机の上のカブトをとり頭にかぶる。子供用だから大人がかぶると小さい。

「あはは。ちっちゃい」

司はそれが面白かったのかゲラゲラと笑う。百香里も少し笑った。

「なあ司。ママは何も悪ないんや。全てはパパが悪い。怒るならパパや。ママは許したってな」
「総司さん」
「司おこってないよ。ママこわかったけど、でも、…もうこわくないから」
「ごめんね」
「今日はこれくらいでかんにんしたるわ!」
「お。言うたな」

カブトを司に被せると彼女はこれを渉にも見せてくると言って走り出す。でもすぐに立ち止まり。
ママの様子を見た。もしかしたら騒いだらまたママに怒られると思ったのか。

「早く見せて来なさい。転ばない程度に走っていいから」
「うん!」

ママから了承を得て嬉しそうにかけだしていった。

「本当にごめんなさい。私がいけないんです」
「ゴメンナサイはもうええちゅうの。俺もユカリちゃん悩んでんのに気づけへんかったんは落ち度や。
オバヤン軍団の事ら気にしたらあかん。ここの女主人はユカリちゃんやもん」
「そ、そんなことは」
「何いうてんの。ここの主は俺なんやったらその嫁さんのユカリちゃんは女主人やんか。
ビシバシ言うたったらええんや。おのれ舐めとったらドツいたるぞコラァ!」
「怖いです総司さん。流石にそこまで行くとちょっと引きます」
「あ。うそうそ。今の嘘。まあ、明日は俺に任して。好きにしてたらええよ」
「お手伝い…してもいいですか」
「ええよ。ほんでまた何か言うてきたら俺が」
「……」
「冷静な一言で場を黙らたるがな。な?な?危ない事なんもないよ?平和大好きやもん」
「…お願します」

ちょっと不信がる目だったがその場は落ち着いて。2人は司の遊んだ後の片づけを始めた。


「みてみて!ユズ!かぶとー!」
「お前夜でも元気だな。よし。後で剣作ってやる」
「やったー!ケットウだよ!ケットウ!チでチをアラウ!ケットウ!」
「血で血を洗う決闘ってお前殺伐としすぎてるだろ。もっとこう可愛らしい表現できねえのかよ」
「ケ…ケットウだにゃー」
「俺が無理させた。悪かった」

つづく


2012/08/13