ケンカはやめよう


「総司さん。ちょっとお話しが」
「なに?」

何時ものように帰宅してスーツを脱いでいた総司。そこへ百香里が入ってきて。
甘えてくるわけでもなく何処か真剣な様子で脱ぐ手を止めて振り返った。
何か家の事で問題でもあったのだろうか。少し緊張する総司。

「…今日、実は司が同じ幼稚園の子とケンカしちゃいまして」
「ケンカ?ほんで何処か怪我でもしたんか?走りまわっとったけど」
「それが、その。怪我…させちゃった…ほうで…」

気まずそうに視線を逸らす百香里。

「あれま。ほんで向こうの親が怒ってるとかか?それやったら俺が謝りに」
「それはもう私が行ってきまして。相手の家の方は子どものする事だからって許してくれました」
「そうか。司はちょっとヤンチャやからな。元気があるんはええことやけど」
「でも男の子を蹴っちゃうのはやりすぎじゃないですか?私だってそこまでした事ないですよ」
「男やったんか。よっしゃ。父親としてここはちゃんと話しするわ」
「はい。おねがいます」

自分だってそんな女の子らしくなんて無かった。むしろ逆で生傷の耐えない子だった。
だから無理に司にお淑やかにしろと押し付けるつもりは無いけれど。自分の子には怪我をさせたくない。
司が赤ん坊のころは昼夜関係無くつねに付きっ切りだったけれどお乳とオムツの世話でよかった。
けれど本格的な子育てというものが始まると親としてのあり方とかで悩まされたり考える事ばかり。
百香里は自分の母親の苦労を目にしていたから自然と我慢する子になっていたけれど。
松前家に嫁いだ自分はなんら不自由の無い苦労もない生活をしている。加減しても司も少し甘えぎみ。

「司おいで」

部屋着に着替えリビングへおりてきた総司はソファに座ってアニメをみていた司を呼んだ。

「…今いいとこなのにな」

渋々テレビの電源を切って父親の元へ向かう。

「今日ケンカしたんやって?」
「だって!司の事ばかにするんだもん!」
「人の悪口言うその子も悪いけども、蹴るんはやりすぎやな。司もそう思わんか」
「…はぁい」
「ええか。悪口言われたらこう言い返したるんや。おのれがアホじゃぼけ!」
「おのれがあほじゃぼけ」
「そうそう」
「そうじゃないでしょう総司さん」
「ママ」
「ママね、司が怪我をするのもさせるのも辛い。だからもうしないで。約束してくれる?」
「する」

ごめんなさい、と言って百香里にギュッと抱きついた司。そのまま抱っこしてゆびきりをした。
これで大丈夫。と、思いたい。司を総司に任せ百香里は夕飯の配膳をする。渉は梨香の所。
真守はまだ仕事で戻ってこない。ということで久しぶりに家族3人だけの夕飯となった。

「司はユカリちゃんに似て元気有り余ってるんやね」
「私そんな元気ありあまってません。いっつもヘトヘトです」
「子育ては大変やもんな。せやけど俺も手伝うからな」

食後、片づけをする百香里とそれを手伝う総司。
司は風呂の準備をしにリビングを出て行った。

「それだけじゃないです。総司さんが寝かせてくれないから朝ほんとに困ってるんです」
「そのことは夜ちゃんと話しあおうやないの」
「総司さん目がいやらしい」
「可愛いからやで」
「…もう」

呆れながらも総司に腰を抱かれそのままキスする。と。
すぐにドタドタと廊下を走ってくる足音がして顔を離した。

「ママ!マモが帰ってきたよ!ごはん!ごはんー!」
「司、そんな大きな声を出さなくてもいいから。あ。どうも…ただいま戻りました」
「お帰りなさい真守さん」

少し恥かしそうにしている真守。苦笑する百香里。
司は何も分からない様子でただ帰ってきたことを喜んでいるようだった。

「マモいっつもおそい。ユズはもっともっと早いよ。パパもおそい時あるけどマモより早い」
「僕ももっと早く帰りたいんだけどね。どうにも仕事が忙しくて」
「お仕事もっとはやくおわったりしないのかなぁ」
「司。真守さんに迷惑かけないの。こっちいらっしゃい」
「はぁーい」

何時も帰りが遅い真守。それが司には理解できず、そして不満らしい。
2人の若い叔父さんたちに非常に懐いていて何時も暇さえあれば遊んでもらう。
渉がよく誘ってくれるが真守も忙しい合間をぬって司を遊んでくれている。
ほんとうは休日くらい静に休ませてやるべきなのだろうが。

「今度の休みはドライブに行こう」
「うん!」
「真守さん、そんな無理しなくても」
「いいんですよ。僕も気分転換したかったんですから」

彼は本当に嬉しそうに言ってくれるから。百香里はそれ以上何もいえなかった。

「なんや今週の休みも司はあかんのか。よっしゃ今のうちに来週の予定くんどこ」
「水族館なんてどうですか?」
「ええね。決まりや」

司はまだ真守と話をしたいと言ったので百香里は総司と風呂へ向かう。
服を脱ぎながら週末娘は家に居ないと告げると残念そうな顔。家族で過ごしたいけれど、
無理に引き離すこともできず。今度から先手を打つことにしたらしい総司。

「…今週も2人きりですね、総司さん」

百香里はそんな夫に寄り添ってさりげなく上目遣い。

「改まって言うたら恥かしいわ」
「お疲れでしょうから家でゆっくりしましょうね」
「2人きりやなんてドキドキしてゆっくりできへん」

見詰め合う2人。さりげなく体が近づいていく。

「私もです。総司さん」
「ユカリちゃ」
「パパ!電話!」

甘い雰囲気を打ち砕く司の大きな声。

「司、部屋に入る時はノックしなさいって言ってるでしょ」
「したもん」

ちょっとふて腐れながら返事する司。総司は苦笑いで服を着なおし脱衣所を出て行く。
たぶん仕事関係の電話だろう。こんな時間でもかかってくる事が最近ざらにある。

「次からはお返事があってからあけてね。びっくりするから」
「はーい。ママ。司も一緒におふろはいる!」
「じゃあ脱ごうか」
「うん!」

暫くして総司も戻り家族で風呂に入る。叔父たちに甘えながらもやはり両親が1番いいようで
司は何かと一緒にしようとくっ付いてくる。そんな所がとても愛しくて。百香里は家族を強く感じる。
自分が欲しかったものが今こうしてあるということ。それが怖いくらい幸せだという事。

「あの。総司さん」
「もうええねん。俺がショボい男なだけや」

風呂からあがるとガックリ項垂れている総司。司は真守の部屋に行ってしまった。
百香里が行くように指示したからでもあるけれど。夫婦の寝室にはいりベッドに座る。
彼はまだまだ落ち込みから立ち直れないようで。いじけたネガティブな事ばかりいう。

「そんな風に取らないでください。あの、司はその」
「ま、まさかユカリちゃんまで俺が渉に負けとるとでも」
「思うわけないじゃないですか見たことないんですから…総司さんのえっち…」
「そやな。…かんにん」
「素直なのはいいんですけど。ちょっと素直すぎるかな…」

父親の下半身を見てついうっかりと自尊心を傷つける発言をしてしまった司。
悪意がある訳でもなく、分かっていて言っている訳でもないので怒ることも出来ず。
ただこうして落ち込むしかない夫。

「どうせ俺のはショボいねん…歳いってるし」
「そこまでは言ってませんよ。私は立派だと思いますよ?」
「…ユカリちゃん」
「比べたことないんでよく分からないけど。たぶん」

本人は悪気無く言っているが中々けっこう、グサリときた。トドメとばかりに。

「ほんま…よお似た母娘やで…」

他の男の裸をよく知っているよりはずっといいのだろうが。
百香里が部屋の電気を消して珍しく自分からパジャマをぬいで下着も取る。
その気になってくれたというより慰めてくれようとしている気がして乗り気でない総司。

「立派ですって。もうこんなになって」
「…ユカリちゃん上手やもん」

彼女にされるがままになり裸になる。軽いキスをされてすぐ彼女の顔は下半身へ。
まださほど熱を持たないソコへチュッと唇が吸い付く音がして手と舌の愛撫が始まる。
初々しい20歳の頃とは違い年月を重ねて今はもう攻め場所を知っているからか、
技と色香で総司をその気にさせるのも早くなって来た。
何より愛撫しながら総司をチラチラっと見るなんて小技も効かせる。

「総司さんの事はもう結構わかっちゃってますからね」
「嬉しいわ」
「…まだ入れない所もあるけど」
「ん?ユカリちゃんもお尻こっち向けて」
「はい」

恥かしがりながらも総司の顔にお尻を向けてそっと近づける百香里。
すぐに大きな手が彼女のお尻を掴み舌が入ってきてゆっくりと優しく愛撫していく。
割れ目にそって舌を上下にされるたびにビクビクと腰が戦慄いて鼻から吐息が漏れた。

「ユカリちゃん。我慢できへん。めっさバックしたい」
「え。…いきなりですね」
「可愛いお尻見てたらムラムラしてきた」
「あっ…ダメです…お尻は舐めないで」

勢いに流されるままにベッドに四つん這いになって後ろにまわった総司を受け入れる。
彼の顔が見えないから本当はあまり好きではない体位ではあるけれど。望んでいるのなら応えたい。
それに何時も最後は騎乗位で向かい合って終わるから。そこまでのコースだと思うことにする。

「ユカリちゃん腰辛ないか」
「は、はい…大丈夫です」
「まだまだ若いなあ。ほな俺ももっとがんばろ」
「そんな頑張らなくてもいいです…」

明日も仕事があり、百香里もやるべきことがある。でも凄くがんばってしまうのが総司だ。
案の定腰を捕まれて初っ端からねちっこく攻め立てられる。百香里は最初こそ遠慮していたが
ついには我慢ならず喘ぎ、上半身をベッドに倒してシーツを握り締める。果てるのはその直ぐ後。

「ユカリちゃんはイキやすいの変わらんなぁ。そこも可愛い」
「…総司さんのせいですから」
「ほなもっとイこか。中まだ欲しいてビクビクしてるで」
「次は向かい合いたいです」
「うん」

総司はニコっと笑って百香里を抱き起こし向かい合って座りまた1つになる。

「んっ…あ…ぁ」
「なんや?入れただけでイったん?」
「すいません」

総司の首に手を回しくっつきながら恥かしそうに顔を赤らめる百香里。
そんな彼女の頭をなでてご機嫌に笑う旦那さま。

「ええんや。なんぼでもイき。ほんま可愛い嫁さんやで」
「あ…ぁ…も、もう…動くんですか?」
「見てみユカリちゃんくっ付いてるとこえっちな液でベタベタになってる」
「え。わ…ぁ」

意地悪い誘導で百香里を少し離し絡み合う下半身を見せる。そこは確かに過剰なくらいの液で濡れていて。
ついでにいうとお互いの性器も見えてしまっているから余計に恥かしい。

「顔真っ赤やな」
「総司さんこそ…もう…見せないでください…抱きしめて」
「俺の凄いとこ見せたろおもて」
「見せないでも分かります。はやく抱きしめて。じゃないと泣きますっ」
「泣かれたらかなわん。ギュってしよな」

総司を気持ちよくさせることには多少慣れてきたものの、その逆はまだまだ不慣れで。
やはり旦那さまの上を行くのは百香里には無理なのかもしれない。
そんなえっちになるつもりもないのだが。彼はそれを望んでいたりして困る。


「どうした司。寝ないのか」
「パパとママがケンカしてたから」
「ケンカ?」
「うん。ばかーとか。しりませんーとかママ泣いてた」
「……、司。今夜は僕の部屋で寝るかい?」
「うん」

両親と一緒に寝るんだと枕を持って去って5分もしないうちに戻ってきた司。
どうやら部屋には入れなかったらしい。ケンカ中の両親を気にしている彼女だが、
まさかそれがとても言葉には出来ない行為をしているとは真守が言えるわけもなく。
静に読書をしていた真守だがそれを本棚に戻し自分のベッドに寝た司の元へ。
夜更かしは教育上よくない。

「絵本は何がいいかな」
「ねえマモ。マモは何処にも行かないよね」
「え?どうしたんだいきなり」
「ユズはね、近いうちに梨香ちゃんとケッコンしてここ出ていっちゃうんだって」
「渉がそう言ったのか?」
「梨香ちゃんが言ってた。もう帰ってこないんだって。…寂しいな」

ふて腐れる司。梨香の言葉を本気にしているのは彼女がまだ幼い子どもだからだ。

「寂しいかもしれないがそれは避ける事ができない、仕方がない事なんだ。
司だって大人になっていい人を見つけて結婚をしてここを出て行くかもしれないんだから」
「やだ。パパとママとユズとマモと居る」
「今はこうして一緒に居る。だから、泣くんじゃない」
「司がけっちゃったから?」

悪い子だから?それで?小さな手が真守の腕をギュッとつかむ。

「それは関係ない。反省してもうしないと誓ったんだから、もういいんだ。終わった話だ。
ほら、今日はシンデレラを読んでやろう。好きだろうこの話」
「…うん」
「そうだ。ドライブがてらガラスの靴を見に行こう」
「ほんとうにあるの!?」
「あるんだ。秘密だぞ」
「うん!…でもママには内緒で言ってもいい?」
「いいよ」

笑いかけると笑い返してくれたから少しは司の気持ちが和らいだと思う。
いつも元気で明るいけれど、根っこは寂しがりやで皆に傍に居て欲しい。
そんな所も何処か母親ににている気がする。


翌日の朝。彼女の家から会社へ行けばいいのにそれはせず早くに渉は帰ってきた。
昨晩は疲れたはずなのに百香里は何時もと同じ時間に起きて朝食作り。
真守は眠っている司を起こさないように起きて新聞と雑誌を手にリビングへ向かう。

「ガラスの靴なんかどうすんの」
「司に見せてやるんだ」
「シンデレラ好きだから?」
「まあな」

真守がそんなファンシーなものに興味を示すといったら司関連しかない。
そこを目敏く察したらしい渉は珍しく兄に声をかける。
司に何かするのなら自分も知っておきたい。そういう魂胆だろう。

「へえ」
「渉。お前がこの家を出るのを止める事はしないが、その時は司にちゃんと話をするんだぞ」
「は?なんの話しだよいきなり」
「司がお前が近いうちに家を出て行くと聞いてショックを受けていたからな」
「誰がそんな事言っ……梨香だな」
「週末は僕と出かけるから誘うなら来週にするんだな。ああ、来週は兄さんたち家族で水族館だったか」
「あんた何時の間にそんな性格悪くなったわけ」
「さあ。何時だろうなあ?」



続く

2012/03/30