選択は自由です
「確かに司ちゃんは可愛いわよ。若いわよ。それは認める。けどね、あの子は姪で恋人は私でしょう」
「なんだよいきなり。お前が映画みたいって言ったんだろ」
「映画観てなかったじゃない。貴方ずっとその赤ちゃん雑誌読んでたじゃない」
「赤ちゃん雑誌じゃねえよ。これは通販雑誌」
「赤ちゃんの、でしょう。せめて2人きりの時くらい赤ちゃんから離れて」
自分の子どもの話しになると興味ないそぶりを見せるくせに。人の子はそんなにも可愛いのだろうか。
全くの他人ではないけれど。それにしたって渉の頭の中に姪の司が占める割合が高すぎる。
自分よりもずっと愛しいと思っている気がする。それくらい可愛がって。物を買い与えて。
「はいはい」
「最近えっちしてても司ちゃんの事考えてそうで嫌」
「考える訳ないだろ萎える」
「そっか。そうだよね。ごめん」
「それよりさ、女としてどっちがいいと思う?こっちの柄とこっちの柄」
「言ってる傍から!」
可愛らしい赤ん坊だからこんなにも彼が興味を持っているのだとしたら。
司にはもっと早く大きくなって欲しい。そう思ってしまうのは意地悪だろうか。
梨香はふて腐れながらも雑誌を手放さない渉の隣を歩いた。結局はこうなる。
「ふーん。まあまあ可愛いかも。お母さん似?」
「どっちにも似てるって話しやけどな」
「あんまりお父さんには似てないよ」
「そうか?」
「うん」
どうしても妹の顔が見たいとせがまれて。百香里にも許可を取って携帯で写真を取った。
待ち合わせたレストラン。総司が席につくなり先に来ていた唯に見せてとせがまれた。
母親違いの妹。嫌な顔はしなかったけれどやはり素直には認めてくれないらしい。
「可愛い娘や。お前も、司も。同じくらい可愛い」
「…お母さんがね、もうお父さんの邪魔はしちゃいけないって言うんだよ。
もう違う道を歩いてるからって。新しい家族が居るのに私が居たら邪魔になるって」
「そんなん俺もユカリちゃんも思ってへんよ。遊びに来たいなら来てええから」
「遊びに行くって、変じゃない。お父さんなのにさ、行かなきゃ遊んでもらえないなんてさ。
そんな感じで喧嘩したの。お母さんと。気持ち理解してるつもりだったけど、やっぱ切り離せない」
「……」
「お父さんについて行ってたらよかったのかもしれないね。そしたらお父さん再婚なんかしなかったし。
お母さんはあんな風に言ってるけど本音はお父さんを待ってる。だから。きっと上手く行った」
「そういわんと。お母さんには気ぃつかわんでええて言うといて」
「にしてもこの子私に似てないよね。やっぱ母親似だね」
「そうか?」
そのまま唯と昼食を食べて彼女と一緒に街を歩いて買い物をして。いたって普通の親子の風景。
娘は嬉しそうにはしゃいであれが欲しいこれが欲しいと父親にオネダリする。いつか司も大きくなったら
こんな風になるのだろうか。それとも百香里のように我慢する子になるのだろうか。
どちらにしろ可愛いにはかわりない。こんな駄目な人間なのに幸せだと思う。
「ねえお父さん。お父さんっておっきな会社の社長なんでしょ。
だったら私の為にドカーンと土地とか家とか買ってくれるの?」
「そんなん欲しいんか?」
「もしもの話し」
「そやな。何でもって訳にはいかんがお前が本当に必要なもんやったら買うたろ。なんか困ってるんか?」
「そういうわけじゃないけどね。何処までならわがまま言っても聞いてくれるのかなって思って」
「唯」
「司ちゃんの写真もらってく。妹の写真だもんいいよね」
「あ、ああ。ええよ」
「社長の娘でお父さんも居て、幸せでいいな」
冗談めかして言って父親から携帯を奪い画像を自分の携帯に転送する。
自分と違い恵まれる環境下にいる司には複雑な思いがあるようだ。無理も無い。
苦しむ娘を助けてあげたいけれど、どうするべきか。
総司はかける言葉もなくそのまま娘との時間は過ぎていった。
「どうしたんですか総司さん」
夕方。ご飯の準備をしていたら司が泣き出して慌てて抱っこした百香里。
どうやらお腹が空いていたらしく勢い良くお乳を飲んでいた。そこへ後ろのドアが開く音がして、静かに
挨拶もなく総司が帰ってきた。見もせず彼だと分かったのは優しくギュッと後ろから抱きしめられたから。
「…ただこうしてたいだけや」
「わかりました」
お食事中の司、授乳中の百香里、そして2人を抱きしめる総司。
えっちなことを仕掛けてくるわけでもなく彼はただ妻に甘えているようだ。
今日は娘と会う日。だから少し感傷的になっているのかもしれない。
百香里は深く聞く事も無く司に微笑みかける。
「もし…やで?もし、や」
「はい」
「……唯を家に連れてくるって言うたらどうする?」
「引き取って一緒に住むということですね」
「嫌やったら素直に言うてくれてええから。ほんま、俺の勝手やから」
何度も縁を切ろうとしても切れず、距離を置くといいながら置けず。
娘が苦しんでいる様子を見せられて今度は引き取るなんていいだす。
そんなのは虫が良すぎると頭では分かっている。けど。
「嫌じゃないですよ」
「ほんまか?」
百香里の返事につい明るい声で言ってしまう。
それで百香里の表情が一瞬翳ったけれど見えるはずも無く。
「それでいいんですか義姉さん」
「真守さん」
総司の後ろに居たのは休日でも仕事があって会社に出ていた真守。
いつの間にか帰ってきたらしい。そして何時も以上に厳しい顔をしている。
「義姉さんの性格なら断われないでしょう。分かっていて敢えて言うのは少し卑怯だとは思いませんか」
「そういうわけじゃないですよ?私は別に」
「兄さんと夫婦で居る時間はまだまだ短い。若い貴方ならもっと好きな人と一緒に居たいと思うでしょう。
休日なのに1人にされて寂しそうにしている貴方を僕は何度も見ている。今日だってそうだ」
「ユカリちゃん…」
「夫婦の問題に首を突っ込む気は無かったんですが、強引に押し切るやり方は見ていられない」
「…堪忍な。ほんま自分の事ばっかで」
「そんな事」
「司は僕が預かりますから2人でどうぞ話をしてください。彼女を迎えるのなら、なお更必要でしょう」
真守に言われて総司は百香里から離れ先に2階へあがっていった。
百香里は胸を隠して司を真守に渡す。
「…すみません」
「こちらこそ。勝手なマネをしました」
「言いたくても言えなかった事を言ってもらった気がします。…ありがとうございます」
苦笑する百香里。
「貴方は若い。選択肢は沢山ある、無理をしてまで兄さんに従う事はない」
「……真守さん」
「それは忘れないでください」
そういうと真守は司を抱っこして自室へ戻っていった。
百香里はもう1度御礼を言って階段を上がっていく。
「落ち込んでますね総司さん」
「…堪忍」
ベッドに座っている総司の隣に座る百香里。何時ものように襲ってくる事はない。
「しょげてる総司さん可愛い」
「唯が可哀想でな。つい感情的になってしもて」
「可哀想?」
「すんなちゅうのが無理な話なんかもしれへんけど、司と自分を比べてな。
どっちも俺の可愛い娘やのに。なんでこんななってんやろと思て…」
愛している度合いに違いはない。どちらも大事で愛しい子。
だけど唯がそれを不公平だと感じているのなら、少しでも補ってやりたくて。
総司は自分の思う事を百香里に話した。こんなちゃんと話すのは初めてかも。
それくらい娘を心配して気になってどうにかしてやりたいと思っている。
「総司さんの気持ちはわかりました」
「ユカリちゃん」
百香里はそれを静に聞いて、終わったと同時に大きな相槌を打った。
「私は総司さんの思うようにしてほしいです。自分の所為で貴方を苦しめたくない」
「え」
「大事な娘さんですものね。だから、彼女の下へ総司さんが帰るんです」
それはつまり百香里と別れ唯の父にだけに戻るという事?
いきなりそんな事を言うから総司は目を丸くして百香里を見た。
彼女は笑っている。本気か冗談か察する事はできない。
「ユカリちゃん何言うてんのそんな事」
「捨てる訳じゃないですよ?そういう選択肢もありますってだけで」
「……」
「夫婦って楽しいだけじゃないって分かってます。辛い事も多いっていうのも。
でも、それを一緒に経験して強くなるのかなって思ってます。勝手な妄想だけど」
21年とちょっと生きたくらいじゃ夫婦なんてまだよく分からない。
自分の両親は途中から片方になってしまったから。ドラマや人の話では沢山見てきた。
そこでは山あり谷ありだった。ちょっと脚色しすぎな所もある気がするけれど。だから甘いだけとか
楽しいだけなんてことはないと分かっているつもり。今までも小さな山はあったし。
「ちゃんと話しせんといきなりこんなん言うたのは悪かった。けどな?」
「総司さんが娘さんの事で苦しんでたのは分かってます。ちゃんと話してはくれなかったけど」
「そんなん聞いてもおもろないやろ?」
前妻やその間の子の問題は今までタブーになっていた部分もあって、彼の気遣いなのは分かる。
話されても自分もたぶんすぐには受け止められなかった。それで家に帰って見たりした事もあるくらいだから。
きっと不安定になっただろう。だけどそれが彼との壁のような気がして。
その向こうには過去の思い出と前妻さんとその娘がいる気がして。ちゃんと愛されてるはずなのに
取り残された気がする自分と司。なんだかそれが無性に寂しくて。
それだけ総司を愛し彼をもっともっと自分だけに独占しようとしているのだろうと冷静に考える。
「……結局…私じゃそこまでは踏み込めない」
「なんでやろな。ユカリちゃん傷つけたないだけやのに。こんななって」
「この問題は結局こんな空気になっちゃうんです」
「せやな」
力なく言う総司。彼は悩んでいる。苦しんでいる。
百香里はそんな旦那さまの横顔を見つつ、覚悟を決める。
「私はまだまだ恋人気分が抜けきらないみたいで。頭では分かってるけど。でも、総司さんが
娘さんと安心してくらせるようないい奥さんでいられない気がする。そんなの嫌だし見せたくないです」
だからどうぞ私を貴方から切り離してください。百香里はそう続けた。突然父を病で失われ
百香里がずっと憧れていた家族。そして団らん。世の中色々とあるのだから家族に理想持ちすぎとか
馬鹿みたいだと笑われてもやっぱり好きだ。唯がはいる事でそれが失われる訳ではないかもしれない。
彼女も自分を慕ってくれるかもしれない。可能性は低そうだけど。けど。でも。
「俺は百香里に心底惚れとるんや。離せる訳ないやろ。…それ分かってて言うんやもんな」
「総司さんのお返しですよ」
「はは。強いわ。ほんま強い」
乾いた笑いをする総司。もう笑うしかないのだろう。
百香里もつられるように笑った。
「最後の決断は総司さんにお任せします。どちらにしろ私は従います。さっきのはあくまで私の意見ですし」
「百香里。もうええやろ、堪忍してや。一緒におろ?司に父親は必要なんや」
「大丈夫です」
「え。なんで?…まさか、アテがあるんか?だ、誰や!俺の知らん間に!あの冴えへんモトカレか!?
あ、あかんで?まだ百香里は俺のや!浮気…とか、ほんま。あかん。あかん!俺の百香里!絶対あかん!」
よほど慌てたのかちょっと痛いくらいに百香里を抱きしめる総司。
「兄さんがいるし、真守さんか渉さんも居ますからって言おうと思ったんですけど」
「…なんや。やない!なんであいつらは居って俺はおらんの?おかしいやん」
「そうですか?」
「ユカリちゃん」
「はい。ごめんなさいもういいませんから」
「ユカリちゃんの気持ち考えんで勝手に言って堪忍。許してチュウしよ」
「はい」
百香里は目を閉じて総司はそっとキスする。仲直りのキス。
「あかんの?」
「駄目です」
そのまま押し倒してえっちしようとしたら止められた。
夕飯の準備がありますから、と笑顔で百香里はおりていく。
総司も気を取り直しリビングへ。ソファには司をあやす真守。
「危うくユカリちゃんに三行半突きつけられるところやった」
「回避できましたか?よかったですね」
「人事やとおもて」
「そうですね。これからもせいぜい義姉さんに見捨てられないようにしてください」
「…分かっとる」
不満そうな顔をする総司。笑う真守。最悪の事態は避けたけれど、
あんなはっきり別れてもいいなんて言われてしまうと総司は焦る。
そんな簡単に切り出せるほどの関係ではないはずなのに。
百香里は何時ものようにテキパキと夕飯の準備をして居るけれど。
「そんな低い声の赤ちゃん居ませんよ」
「ママはおとん好きやろ?ラブラブやろ?なあなあ」
声色を変えてはいるものの明らかに総司の声がして。何事かとその方を見ると
そこにはちょこんとカウンターに座っている司。まだちゃんと座れないはずと思ったら
彼女の体を支える大きな手が見えた。どうやら司経由で話しかけているらしい。
百香里は少し笑う。司はキョトンとして。総司は本気らしい。
「スキって言うてあげて。おとんちょっと落ち込んでるみたいなんよ」
「じゃあ司が言ってあげて」
「ママがええの。ママ。嫌いなった?」
「そうね。司が居るのにずっと唯唯言う人だものね」
「ユカリちゃん…おとん泣いちゃうで」
「ママはすーぐ泣いちゃう男の人って嫌いだなぁ」
「泣く訳ないやんか」
「いきなり地声に戻らないでください怖いです。…好きですよ」
「もっと」
「好きです」
「もっともっと」
「恥かしいです。これ以上は後で。パパとお風呂の時にね。司はいい子にしてるのよ」
「はーい」
嬉しそうな声で司は抱き上げられソファに戻っていく。満足げな総司。何が起こったか分かってない
幼い娘を愛しそうに抱きしめて真守に注意されていた。しょうがない人、と百香里も笑って。
すべての料理が出来上がる。今日は渉はデートで戻ってこない。なので3人分で食事して後で司にも。
「ユカリちゃん。なあなあ3人で旅行しよや」
「無理ですそんな時間ありません」
「何でや。月末連休あるやん」
結局1日殆ど真守に預けている事に申し訳なさを感じながらも一緒にお風呂。
総司は嬉しそうに百香里を抱きしめて離してくれない。
「連休なんて皆考える事は同じです。何処もかしこも人だらけで今からじゃとても予約なんて。
時間と労力とお金の無駄というものです。家でのんびりした方がかえってリラックスできます」
「相変わらずの渋ちんやなあ」
「何か言いました?」
「可愛い言うただけやで」
遊びや大きな買い物などお金が絡む事は何時も百香里に相談してから決めているのだが、
彼女がすんなりOKを出すのは稀。彼女が好むのはお金のかからない自然や公園。あと無料体験。
奥様がこんな調子なので旅行は難関中の難関である。ある程度覚悟はしていたがまさかの即答。
「このお家も十分ホテルみたいでいいとおもいます。ベッドもお風呂も広いし綺麗」
「せやけどな?ユカリちゃんと司と家族水入らずで何時もと違う場所で金にはかえられへん楽しい思い出をやね」
「私枕かわっちゃうと眠れなくなるんです」
「お、俺が腕枕したるから。それやったら寝れるやろ」
「どうせ今からじゃ取れても変なところです」
「変ちゅうのはどうやろか。大丈夫やって今からでもうちとこのホテル声かけたらあっちゅまに」
「…嫌じゃないですか?なんか利用してるみたいで」
「したらええやん。うちの会社のもちもん何やし。なあ?ええやろ?なあなあ」
説得する総司だがまだまだ難色を示す百香里。自然やレジャーには果敢にアタックする子だが
ことお金がかかる事になると一気にやる気が失せて腰が鉛のように重くなる。恐らくは山や海、川に誘ったら
一発なのだろうができれば良いホテルに泊まって3人でのんびりのほうが総司としてはありがたい。
「わかりました。じゃあ、総司さんにお任せします」
「よっしゃ!任しとき!」
「あんまり良い部屋にはしないでくださいね。普通でいいです」
「分かってる。ユカリちゃんと司と水入らずの為や!」
敢えてグレードを落とすなんて変な話だけど、でも行けるならそれでいい。
やっと了承した百香里にキスしてハイテンションな総司。
「さっきの事を気にして無理に時間作ってくれたんですか」
「ちゃうよって強がりたい所やけど。…ユカリちゃんと司が今の俺の家族やからな。逃げられんように
めっさいっぱい一緒に居ってサービスするんや。それが俺の愛情表現なんて、ほんま安いけどな」
1度失敗してもまだ上手く人の心をつかめない。愛する人なのに、なお更。
百香里の頬にキスをして囁く。彼女はちゃんと聞いてくれている。
「もし総司さんがあの時分かったって言ったら。私我慢してたけど。でも、絶対怒って浮気しました」
「もう堪忍してや。そんなんいう訳ないやん。ユカリちゃん」
「最後の選択は総司さんにお任せします。私からはそれしかいえません」
「分かった。ユカリちゃんがドSなんも分かった。…せやからもう許して。な?な?」
「どうしようかなぁ」
「ユカリちゃん」
「許して欲しかったら司を理由にお仕事サボらず頑張りましょう」
「そうくるか!」
「はい」
しっかりしてるわ。総司はがっくりしながらもちゃんと百香里の体を抱きしめた。
風呂からあがるとすっかりおねむの司を連れて寝室へ。
見てもらっていた真守には再三謝って御礼を言った。彼は楽しかったですよと笑って返事をしてくれた。
「えっちで挽回したい」
「司に何を言わせてるんですか。早く寝かせてあげてください」
「…挽回したい」
「総司さん」
「えっちしたい」
「しますから司を寝かせてください」
司を寝かしつけ総司がベッドに寝転ぶ。百香里は眠る準備をして。
「さ」
「早いですね…」
振り返ったらもう旦那さまは裸でした。こういう時のオープンさは素晴らしいと思います。
『社長がわが旅館にお泊りに!勿論空いております。社長の為に特別スイートをご用意させていただきます。
奥様もお嬢様もお喜びになりますね!』
「あーーー。それなんやけど。スイート系はええねん。どっちかってと普通の部屋がええんよね。普通の」
『普通…ですか?え?ご家族でご宿泊ですよね?…まさかご内密の?』
「ちゃうちゃう。ンな疚しい事はせえへんて。まあ、娘もまだ小さいでそんな広い部屋あってもしゃーないやろ。
安すぎず、高すぎず、いたって普通に。んで、部屋に風呂ついてんのがええんやけど。空いとるかな?」
『え。と。…はい、…空けておきます』
「よっしゃ。ほな頼んますわ」
電話を切ると両手広げて喜びを味わう。これで家族で1泊できる。
司の為と切り出せば姪に弱い専務はころっと行くだろう。
「その旅館大丈夫なんだろうな。赤ん坊に対して不備とかねえだろうな。なんかあってからじゃ遅いんだぞ」
「心配性やなあ渉は。大丈夫やって。そんな怖い顔せんと。お茶でも」
「もっとちゃんと調べろよテメエ」
「あんな怒る渉さん始めてかもしれない」
「あ。千陽ちゃん!なあなあ!止めて!この怖いの止めて!」
「無理です」
「ひどっ」
続く