心の中に


水曜日の夜。気は進まないが間宮に指定された店へ向かう。都心で家から遠い場所。
車は使えないからタクシーを使い、ビルを上がり。店の名前を確認してドアを開ける。
そこは静かなこじゃれたバーで窓から見える夜景がとても美しい。
周囲にはカップルが目立ち女性だけの客もちらほら見えたまに自分を見ている。

「こういう事か」
「まあそう疲れた顔をするな、気持ちはわかるけど」

雅臣が店にはいると手を振る間宮、その隣には女。同じく旧友である歩。
男2人が飲むのにこんな洒落た場所は似つかわしくないと思っていた。
騙された気持ちになるがここで帰るのもまた面倒だと席につく。

「どういう意味よ」
「そういう意味。で。お前何にする?ここは歩のおごりだってさ」
「お前と一緒でいい」

酒を注文して時計を見る。夜7時。長くても9時には家に帰る予定だ。
亜美の居ない屋敷は寂しいと思っていたけれど、今夜は早く帰りたい。
目の前の2人は楽しそうに過去の思い出を語り合っているけれど。

「そうそう。歩に聞いたんだけど、お前さんあの姪と暮らしてるんだって?」
「そうやって回りくどく私の周囲を調べるのはやめてくれないか。不愉快だ」
「お前が何も話してくれないからだろ。怒る話はしてないはずだしな」
「そうよ。普通の会話じゃない。久しぶりに再会した友人の会話」
「それで。友人は私の何が知りたい?」

雅臣にとって過去とは残しておきたい必要なものと不必要なものとで分別されている。
彼らは後者。腐れ縁に近い存在。特に深い友人であるとは思ってない。
その考えはあの頃も今もそうだ。他人に対する感情など無いに等しかったから。

「そうだな。お前は何時結婚するのか、なんてのはどうだ」
「はははは、何時になるのかしらね」
「笑ってるけどお前こそ早く貰い手みつけないとヤバイんじゃないの?」
「はあ?」

話している間に頼んだ酒が来てつまみを食べつつ飲む。高いだけあって美味いけれど。
今頃彼女は何をしているのだろうかとふと思う。
目の前の2人は雅臣のテンションが低かろうが聞く気が無かろうが関係なく。
ひたすら学生時代の話に花を咲かせる。お前も加われよと言われるが曖昧な返事。

「なあ、雅臣。お前、どうだ?歩のことどう思う」
「別に」

散々喋って飲んで。途中歩がトイレに行ったのを見計らってそれとなく問う。
彼女の気持ちはわかってるんだろ?と突いてくるが雅臣はまた曖昧な返事。
学生の頃はもう少し愛想というものを持っていた気がするのだが。

「大学まであいつの事好きだったんだけど。…見事にフラれたんだよな」
「そうか」
「悲惨だったぜあの時はさ」
「カラオケか」
「覚えてたのか。だよなあ、お前はずるいぜ。2人とも連れてっちまうんだから」
「お前がしつこいから仕方なく行ったんだ。それに、何もしてない」
「上手くすりゃ2人とデキたのに。もったいない」

興味は無かったが仕方なく行ったカラオケ。
手はずとしては盛り上がっていい感じになってきたら雅臣は消えて。
間宮は歩をそのままホテルへ誘うつもりだった。
結果は彼女ももう1人の女性も雅臣に行ってしまって。彼はポツンと残された。
この間その話を亜美にしてえらい目に遭った。今思い出しても首が苦しい。

「今は結婚して幸せならいいんじゃないのか」
「いやいや、結婚しちまうと刺激が少なくてな。まあ俺はいいんだ、お前らだよ」
「私は結婚しない。相手も居ないしね」
「だから」
「もういいだろ。私はそういう話題に興味がもてないんだ。彼女の事もどうも思わない。
今も昔も、本質は何らかわっていないんだ。お前なら分かるだろう」
「分かるさ。お前が昔のまんまの奴だったら適当に喋って帰るつもりだった。
けど、何となく違ったように見えたから。いい事でもあったのかと思ったんだけどな」
「……」
「気のせいだったかな」

そう言って間宮はもう何杯目か分からないがグラスに注がれた酒を飲む。
昔とは雰囲気が違って見えた雅臣。何か彼を変える事があったのだろうと思った。
もっと弾んだ会話が出来るかと思ったが、やはり何もかわっていない。
むしろ無愛想加減に磨きがかかって余計扱い難い男になっていた。苦笑い。

「すまない。今、違うものに興味を奪われていて」
「新しい研究か?」
「いや。研究しても答えが見つからない厄介なものだよ」
「ほうほう。そりゃお前にはやりがいがあるな」
「私は自分を変えられないし、変える気も無い。このまま孤独の中で死ぬだろう。
でも、何もせず終わるのではなく今持っているすべてをかけて…それを見守ると決めた」
「見守る?自分の手元に置いてじっくり研究したいとは思わないのか?」
「……いや。それは私の役目ではないから。もう少し若ければね、他の人に任せるよ」
「勿体無いな」

雅臣は何も返さずただ笑っていた。ずっと仏頂面だったのに。
今何を何を思っているのか。チラッとその横顔を見て視線を戻す。
暫くして歩が怒りながら戻ってきた。女子はトイレの時間が長すぎるとか何とか。
時刻は8時30分を過ぎた頃。そろそろ帰る準備をしようと立ち上がる面々。

「もう1軒行きましょうよ」
「お。いいな。付き合うぜ歩」
「ちょっと。変な所触らないでよ。雅臣も行くでしょ?」
「私は帰るよ。門限は9時なんでね」
「門限ってなにそれ」
「じゃあ行こうか歩。俺たち話し合う事が沢山あるだろ。な?」
「無いわよ」

納得いかない様子の歩を引っ張って去る間宮。軽く手を振って雅臣も踵を返す。
これで話は終わり。適当にタクシーを拾って家に帰る。
特にどう説明したわけではないけれど、あの男なら分かってくれたはず。
要らない物と避けていたのに。もう会う事はないと思うと妙に寂しい気もする。
やはり自分は変わったのか。そんな気持ちいらないのに。


プルルルル…

「はい。亜矢です」
『あれ?亜矢ちゃん?これ亜美の電話だよね?』
「お姉ちゃんお風呂だから。亜矢が代わりにとりました」
『そう。じゃあ、また後でかけなおすよ』
「おじちゃん元気?ちゃんとご飯食べてる?」
『心配してくれるの?ありがとう。大丈夫だよ』
「そっか。よかった。亜矢ね、今日学校で」
『ん?なに?亜矢ちゃん?』
「あーっと。おじさん、タイミング悪すぎ」
『ああ、亜美』

今日はあのおじさんと飲みに行くから電話は夜遅いと思っていた。
それなのにまさかの9時。のんびり風呂に入っていた亜美。
鼻歌なんか歌いながら風呂から出て体を拭いていたら傍で亜矢の話す声。
あの子は携帯を持ってない。そしておじちゃん、と呼ぶ声が聞こえて慌てた。

「お姉ちゃん亜矢まだ喋ってないよぅ」
「あんたはいいの。お姉ちゃんの着替え持ってきて」
「ずぼらなのよくないんだよ。お父さんと一緒よくない」
「いいから。持ってこないとお姉ちゃんドロップキックをお見舞いするぞ」
「わーー!」

体にタオルを巻いたまま。とりあえずパンツだけ穿いた状態で出てきた。
廊下に置き去りの鞄の中に入っていた携帯。それを亜矢が代わりにとった。
姉に蹴られるのはごめんだと風呂場に逃げる。ブラとか着替えを取りに。

『暴力はよくないよ』
「こんな微妙な時間に連絡するほうが悪い」
『そんなに?早いほうがいいと思ったんだけど』
「で。どうでした?楽しかった?」
『まあね』

壁にもたれての会話。彼は今何処に居るのだろう。家だろうか。
それにしては何だか雑音が聞こえるような。今解散になったばかりかも。
怯えながら亜矢が持ってきた服に着替えながら器用に電話する。

「そうですか」
『今風呂上り?』
「何やらしいこと想像してるんですか」
『私も男だからね。仕方ないよ』
「開き直った。……何か、ありました?」
『どうして?』
「何となく。…寂しそう」
『そう?酔っ払っている所為かさほど寂しさは感じてないよ』

パジャマに着替え終わると鞄を持って2階へ上がる。誰も居ない静かな部屋。
父親は起きているから話を聞かれたくないし弟妹たちも一緒にテレビを観ている。
そろそろ寝る時間だと怒ってもいう事を聞かないから父も諦めた。
何時もは亜美か母親が連れて行く。

「ならいいんですけど」
『じゃあ。そろそろ家につくから。また金曜日ね』
「雅臣さん」
『ん?なに』
「……ううん。また明日」
『おやすみ』

何となく変な感じがしたのだが、気のせいだったのだろうか。
携帯を充電して布団を3人分敷いて寝転ぶ。
すぐにドタドタと階段を上がってくる音がして。正志が入ってくる。

「怪獣ズンガメ発見!」
「何処でそんな言葉を!つか姉ちゃんに向かって怪獣て!」
「くらえ〜!ミラクルボンバーアターック!」

どっかで聞き覚えるのある怪獣名を叫び亜美のお腹めがけてダイブ。
これはキツい。まだ小学校低学年とはいえ存分に重い上に勢いもあって。
一瞬息が出来ずにウッと唸る。

「こ、…この、……馬鹿正志ぃいい!」
「うわあ!ズンガメが怒った!凶暴さアップしたー!」
「こらあぁああ!尻だせ!尻!」
「わああ!こ、攻撃される!み、ミラクルキーック!」
「いたた!こら!こんな近距離で蹴るな!このやろー!」

静かな時間なんてこの家ではひと時。殆どこんな調子なのだから疲れる。
まだ捻くれた叔父さんの相手をしているほうがマシな気がしないでもない。
暴れまわる正志を何とか捕まえて尻をバンバン叩く。

「いたたた…うう、さすが凶悪最強怪獣ズンガメ…強い…」
「そんなに私を怒らせたいのかお前は。よし。こうなったら最終奥義!」
「お姉ちゃんも正志も煩いよ。近所迷惑考えなきゃ駄目だよ」
「う。あ。亜矢」
「はーい」

攻撃ポーズを取ったところで後から来た亜矢のクールな一言。
急に自分がやっていることが恥かしくなってそそくさと布団に入る。正志も。
亜矢にはすっかり頭があがらなくなったようで命じられるまま布団へ。

「電気消すよ」

真っ暗は怖いから豆球をつけて静かになる。
真ん中に亜美。左に正志、右に亜矢。順番は不定だがだいたいこの位置。
まだ10時を過ぎた所でさほど眠くはないけれど3人で一緒の部屋だから
自分だけ遅くまでおきている訳にはいかない。早寝早起きは肌にもいいし。

「……お姉ちゃん」
「ん。どうしたの亜矢」
「くっついてもいい?」
「いいよ」

眠れないのか寝返りを何度もする亜矢。それを眺めていたら声をかけられて。
すぐ隣に寝ているけれどそれよりももっと近くに。
亜美と同じ布団に入ってギュッとくっ付いてきた。小さい手だけれどしっかりと。

「お姉ちゃん。…亜矢、お姉ちゃんみたいになれるかな」
「なれるよ。つか、お姉ちゃんよりしっかりしてるって評判だよ。……何かムカツクけど」
「でもね。もし亜矢が置いていかれたら泣いちゃうし。怖いし。お姉ちゃんみたいには」
「内緒だけど。お姉ちゃんも泣いたんだよ。私だけ何で!って。怖かったし。辛かった」
「でも」
「まあ、おじさんがね。いい人だったから」

そう判断するまでに凄く時間がかかったし彼に反抗的な態度もとった。
それだけあの人も怪しかったしこっちも何がなんだか分からなくて不安だった。
亜矢は姉を逆境に負けない強い人だと思っているようだけど、実際はそんな事ない。

「……でも、すごい」
「亜矢も凄いよ。頑張ってる」
「……もっと…頑張…る」

安心してしまったのかギュッとくっついたまま亜矢は眠ってしまった。
頭を撫でてあげて亜美も目を閉じる。やっと訪れた静かな夜。
時たま正志に蹴られたりするが目を瞑って。明日には屋敷へ戻るのだから。
家に帰るようになって自分だけが楽をしているという不安が薄らいだ。
でも皆口にはしないけど姉を頼っている。それに答えたい、答えなければと思えて。




「お父さん。ネクタイ曲がってる」
「ああ、すまん」

金曜日の朝。揃って寝相が悪い姉と弟を優しく起こしてくれた亜矢。
でも風邪ひくからお腹出さないでとポンポンお腹を叩かれて恥かしかった。
次回からはもう少し違う起こしたかをしてもらおう。あと、ちょっとダイエット。
弟妹に朝食を食べさせている間に一足先に会社へ行く父のチェック。
母が居ないと駄目な人だから。こまめに見てやらないと何処かでずぼらになっている。

「忘れ物はないよね。あと、これお弁当」
「ありがとう」
「行ってらっしゃい。頑張ってね」
「ああ。なあ、亜美」
「なに」
「……いや、いい。気をつけて帰るんだぞ」
「はい」

言いたいことは分かってる。でも、あえて深くは聞かずに見送った。
自分もご飯を食べて弁当を持って学校へ向かう。
途中まで2人と一緒に行って。また暫く会えないけど連絡は出来る。
何かあれば直ぐにいける。だから、じゃあねと笑って別れた。

「亜美。おはよ」
「おはよ」
「何か日によって見た目違うよね」
「そう?」
「今日はまたハデに寝癖ついてるし」
「あ。しまった」
「身だしなみはちゃんとしときなよ。モテ時期到来してるんだから」
「ああ、勿体無い…」

ボサっとした頭を撫でてズレてくれないだろうかと真剣に思う。
せっかく来たモテ期。なのに今自分はあの叔父さんと交際中。あまりにも勿体無い。
付き合うかどうかは別としてモテるというのは過去を見てもそうそうないから。

「でも亜美は基本男子ウケいいし逃してもいいんじゃない?」
「はあ?こんなぼっさり頭なのに?ねえねえ」
「とかいいつつ、村前君といーかんじで歩いてたじゃん」
「いや、あれは係りが一緒なだけなんですけども」
「まったー」

モテる女はつらいねとか訳のわからない事を言いながら突いてくる由香を無視して
教室へ入る。何時もとかわらない風景もあと少し。皆ともお別れ。
3年間の思い出に浸るにはまだ少し時間があるけれど、考えずにはいられない。

「連絡無しか」
「んー?彼氏からのメール?」
「人の携帯を覗き込むな」


学校が終わったら夕飯などの買い物をして屋敷へ向かう。
何かほしいものがあったら事前に叔父さんからメールが来てそれを買う手はず。
今日はまだ何のメールが来てないから大丈夫。二日酔いで疲れてるとかかも。
とにかく。疲れるので帰ってからの注文は受けない事になっている。

「お帰り」
「ただいま戻りました」

買い物袋をさげて玄関を開けると叔父さんがお出迎え。毎回ながら妙に恥かしい瞬間。
早々とキッチンへ向かい冷蔵庫を開けて買って来たものを入れる。
見回した限りゴミでいっぱいとか服が散らかっているとかそういう惨状ではない。
寧ろ整理されて綺麗になっている気がする。不精な叔父さんも学んだということか。

「皆元気だった?」
「ええ。ミラクルボンバーアタックやらミラクルキックやら怪獣やら色々と」
「そう。よかった」
「おじさんは?」
「何時も通り」

料理を作る亜美を邪魔しないように少し距離を置きつつ、何気ない会話が続く。
もっと何か居なかった間の話とか話題を振ったほうがいいのしれない。
けど、なんとなくそういうのが苦手というか恥かしくて。何も出来ずに料理は完成。
テーブルに並べていただきますと静かに食事。見た目と味は、相変わらず。

「そうだ。のびのびになっちゃいましたけど、お母さん明日退院します」
「そう。じゃあ、顔を出さないとね」
「はい。おじさんも来るでしょ?お父さんが一緒に外で食事しようって」
「私が居てもいいの?」
「いいんですよ。皆で祝いましょう。それとも騒がしいのは嫌ですか?」
「いや、光栄だよ。でも君を連れて帰るとき睨まれそうだな」
「何言ってるんですか。もう」

何て会話をしながら食事を終えると雅臣は部屋に戻り亜美は片づけをしてお茶の準備。
家に居た時とはうってかわって静かな屋敷。落ち着くような寂しいような。
まだ慧や恒が居た頃が懐かしく思えてきた。あんなに可愛げがないのに。
途中で買って来たお菓子を凡に乗せて階段を上がる。

「ん?今日は何時ものお茶と違うね」
「はい。今日はダイエット茶」
「ダイエット茶?」

ノックして部屋に入ってお茶を机に置いて、ソファに座る叔父さんの膝に座る。
何時も通りの流れ。ただ、何時もと違うのはお茶の色と匂いと味。
色んな種類のお茶を置いてあるからその1つかと思ったが不味い。不味すぎる。
こんなお茶を買った記憶はないし腐っているという訳でもない。

「お友達に聞きましてこれが1番効果あるとか。で。今日からさっそく」
「これ美味しくないよ。もっと美味しいダイエット茶はないの?薬みたいだ」
「慣れたら美味しいですよ。たぶん」
「その割りに君お菓子食べてるよ?意味ないんじゃないかな」
「これは五穀チョコなので。いいんです」

行き成りダイエット茶と言われても。自分は別にダイエットしている覚えはない。
亜美の事だから2つもお茶を準備するのが面倒とかいう理由でこれなのだろう。
何でダイエットなんて始めたか知らないが。口にはしないがそう結論付ける。

「これ認可下りてる?主成分は何で出てきてるの?」
「もう。大丈夫ですって。実際に飲んで痩せたって人がわんさかいるんですから」
「必ずしもそのわんさかの中に君が入るとは」
「馬鹿にしてるのか」
「痛いよ頬をつかまないで」

彼女だって美味しいとは思ってないだろうに。必死に飲み干そうとしている。
雅臣はひと口飲んでやめた。心なしか気分が悪い。どういう成分か見て見たい。
結局亜美はお菓子を食べながらもお茶を飲みきった。

「ふう。のんだ」
「そんなに気にしなくてもいいと思うけど」
「おっぱいから先に痩せたりして。ペッタンコ?あははは」
「駄目だよ。君の魅力的な部分が消えるなんて。…まあ、無くてもそれはそれで」
「寒いからやめてください。つか、冗談ですから」

ダイエット茶を消化さつつ休憩をして風呂へ。自然と一緒に入るという方向に。
亜美は2人分の着替えを持っていく為に毎回後から。その方が楽でいい。
一緒に脱いで風呂に入るというのが未だに恥かしかったりする。

「どうしたのその肩」
「え?ああ。これ。一昨日正志と肉を巡り争いまして。噛まれました」
「ああ、それで歯型のような痕が」

後から入りまずは体を洗う。椅子に座ってボディソープをつけて。
あんまり見るなよと言っているのに叔父さんは毎度じっくりみてきて。
今回も肩に出来た不自然な痣を発見してそれとなく触ってきた。

「ほんとあの野生児め。野山に放したら獣になって帰ってこないでしょうね」
「そんな事はないと思うけど。でも、確かにちょっと酷いかな。綺麗な肌なのに」
「お茶の効果でてます?」
「さっきトイレ行ったよね。それでもう流れたと思うよ」
「そうですか。喰らえ!」
「ちょっ!あ、あつっ!」

失敬な事を言う叔父さんに熱めに設定したお湯を洗面器にためてぶっ掛ける。
それで怯んでいる間に体の泡を流して頭も洗って湯船に。
酷いよと文句の声が聞こえるが無視して広い湯船に思いっきり手足を伸ばす。

「ちょっと。何いきなり触ってるんですか」
「感触を確かめたくて。どうせ今からたんまりと触るわけだし」

後ろから手が伸びて亜美の胸を鷲掴む。ゆっくりと形や柔らかさを確かめるように。
久しぶりに愛撫をうけるからか、ソフトなのにやけに感じて。かすかに声が出始める。
このままだと本当に声を出して喘いでしまいそうなくらい。

「……ここでそんな…しないで」
「その気になってくれてもいいんだよ。声を出しても周囲には聞こえないしね」

そういうと亜美の首筋に吸い付いて舌を這わせる。あと耳も優しく撫で。

「だ、だめですって。もう出ましょ」

避妊具もないしこんな所でしたら声が響いて恥かしい。
屋敷内の音は外には聞こえないと分かっていてもやはり気になってしまうから。
手を振りほどいて慌てて湯船から出ようとする。それに合わせ雅臣も立ち上がり。

「我慢出来ない」
「きゃ」

亜美を後ろから抱き上げると湯船から出しイスをどけてタイルに座らせた。
さっきまでシャワーを浴びていたからじんわりと暖かい。
逃げられないようにドアに背を向けて座る雅臣。ここでこのままやる気か。

「少し乱暴だったね、ごめん」
「でも、アレないですよ?」
「更衣室の棚に一箱」
「そ、そんな所に隠し持ってたんですか」

ちょっと待っててといわれて一端風呂場を出て、何やら漁る音がして。
幾つか避妊具を持って再登場。適当なところにそれらを置いて。
再開とばかりに亜美の上に来て軽くキスする。そんな広いスペースではない。
特に男で長身の雅臣には窮屈だと思うのだが。亜美も足を折り曲げる。

「少し、見栄を張ってしまってね」
「え?」
「自分を偽るのはもうやめようと思ったのに」
「雅臣さん?」

濡れた髪が頬にくっ付いたままの亜美。自分も似たようなものだろう。
構わず彼女の唇を奪った。今無性に亜美を抱きたい。彼女が欲しい。
我慢して溜まった性欲というものもあるけれど、それとはまた違う感情もあって。

「……駄目な大人だね、私は」
「おじさんが駄目な大人なのは分かってますから」
「そうだね」
「どんな見栄はったか知らないですけど。もういいじゃないですか、過ぎた事だし。
今こうして私たち裸で見詰め合ってるんですよ?悩むより他にする事あるしょ」

はにかんだ笑みを見せる亜美を見て何かが吹っ切れる。今度は躊躇い無く舌を絡め。
手は胸を揉みしだき勃起してきたピンクの頂を指で優しく弄る。
亜美の手は雅臣を抱きしめて。長いキスから解放されるや否や甘い声を漏らす。

「私も獣になろう」
「あ。ちょっと!おっぱい齧るのだめ!」

軽く突いただけでぷるんと目の前で震える大きな胸。吸ったり舌で愛撫したり。
何時もなら丹念に弄る所だが、ふと肩に付けられた無邪気な痕を見て。
自分もやってみたい衝動にかられた。それを察知した亜美は雅臣を押しのけようとするけれど。

「…いただきます」
「いたい!もう!ばか!」

カプ、と左側の胸の先を甘噛みする。傷つけず軽く痕が付く程度に。
その間ボコボコ亜美の手が頭やら肩やら背中を殴ってくるが無視して。
顔を離すとくっきりとついた痕。自分の痕。何時までも残るものではないが。
雅臣は満足げな顔。亜美は怒って未だに叩いてくるけれど。

「痕は何時か消える、何も無かったように消える。君はまた美しい肌に戻る。
それでいいじゃないか。…少しくらい、君の中に残っても悪くは無いだろう?」
「何か意味深」
「そう?」
「肌は戻ってもおじさんに危ないプレイされたのは残りますからね。永遠に」

叩く手を止めて雅臣の胸に手を伸ばす。優しく撫でて首に手を回し。続きを促す。

「…じゃあ、もっと君の中に残る為にも頑張ろう」
「体中噛んだらそれこそ警察に行きますからね」
「舐める」

ペロっと亜美の唇を舐めると体を下にずらし足を開かせてソコへ顔を埋める。
舌の動きに合わせて腰が浮いて甘い声が漏れて。それが風呂場に響いて。
恥かしいのに止められなくて、途中からはもうどうでも良くなって声を荒げる。

「あ…あぁん…ぁ…わ…私も、貴方の中に残りたい」
「残ってるさ」
「あの時の…小さな子じゃなくて…今の…私っ…を…見て」

震えながら亜美は言う。それに応えるように雅臣は愛撫していた場所から顔をあげ
そこから見えたのは。狭い場所で足を折って寝転び、濡れた髪を振り乱して喘ぐ亜美。
まだ少し快楽を我慢しているのか顔を赤らめながら必死に堪えている顔。

「見てるよ。とても綺麗だ。……亜美」

視線は亜美のままで今まで舌で愛撫でしていた場所へ手を這わせる。
湿りきった陰毛を抜け熱くて柔らかくなったソコを卑猥な水音を立てながら刺激する。
さっきよりもまた大きく腰を浮かせて身悶え辛そうな顔をする亜美。
動くたびに歯跡のついた胸が揺れて。限界が近くなってきたのか声も大きく。

「あっあっ…い…クぅ…ッ」

その声に合わせるように雅臣の手の動きが早くなって小刻みになって。
亜美は涙目になりながら緩めてとその手を掴む。でもその声すら誘っているようで。
もっとして、もっと攻めてと言っているようで。最後は大きく痙攣して果てた。

「入るよ」
「ま、まって、ちょっと休け…あぁんっ」
「ほら。大丈夫。まだまだ欲しいと体が言ってる」
「あ…ぁ」

間髪居れずにモノが中に入ってくる。ぐったりしている亜美の足を開かせた。
疲れてはいるものの、彼女の中もまだまだ熱は収まらず雅臣自身をキツク締め詰める。
そのまま潰さないように気を使いながら上に乗りギュっと彼女を抱きしめた。
亜美も観念したようで抱き返し後は無言でキスを重ねながら雅臣は腰を打ち付ける。
風呂場にパンパンと2人のモノがぶつかる音が響く。

「……少し冷えたね…シャワーかけようか」
「えぇ…」
「君が風邪を引いたら大変だ」

2回目の絶頂後、雅臣が身を起こして下半身はくっついたままシャワーを出す。
タイルを暖めなおして亜美にも軽くお湯をかけて暖める。
確かにちょっと寒いかもとは思ったから暖めてもらって心地よかった。
ついでに体勢をかえて今度はお互いに座った状態から。髪を後ろにまとめて。

「……暖かい」
「良かった」
「あ…あぁん…」
「私は熱いくらいだ」

一息ついた所でゆっくりと出し入れする。まだまだ硬さも熱もある。亜美も同じ。
彼女の尻を掴んで優しく揉むとまたビクっと反応して。間近で喘ぐ彼女を見ながら
腰の動きに強弱を付ける。突然強く突き上げたりかと思えば緩くグラインドさせたり。
その度に亜美は表情を変えて頬を赤らめつつ悶える。特等席。

「あ…っ…あぁあ」
「……君が果てたらベッドへ移動しよう」
「ま…まだ…や…」
「君だって離してくれないじゃないか。それとも私の動きではマンネリかな?」
「あっい…いやぁっ…あああああっ」

結局風呂ではこれが最後といいながら汗を流す為にシャワーを浴びる中でも1回して。
ヘロヘロの亜美を抱きかかえ寝室に向かい。またそこでも何度か啼かせ。
深夜12時を回るころにやっと眠りについた。というより気を失ったに近い。



「亜美」
「ばか」
「今日退院するんだったよね。何か手土産を持参したほうがいいよね」
「ばか」
「饅頭とかどうかな」
「ばか」

翌朝。全身筋肉痛という非常に苦しい状態で目が覚めた亜美。原因は分かってる。
隣で自分を抱きしめている性欲のバケモノ、いや、ケダモノのおかげだ。
昨日まではぴんぴんしてたのに翌日には筋肉痛なんて親にどう説明する。

「亜美。ね。機嫌直して」
「どうしてくれるんですか。ばか。ばか。性欲の馬鹿」
「……君も一緒に性欲の馬鹿にならない?」
「なるかーーーー!……あいたたた」
「大丈夫?」
「だから何でそっちは筋肉痛ないのー!?不公平!」



おわり


2009/05/23