過去からの訪問者


「今日はやけに鬱陶しいですね」
「何時にも増して冷たいね」

日曜日の朝。最後の仕上げに風呂掃除をしようと濡れてもいい服で来た。
何となく後ろに気配を感じては居たが振り返ると叔父さんが居て手伝うという。
明らかに下心が見えるその顔にブチっと切れて殴ってやろうかとも思ったが。

「ぜったいいやらしいこと考えてるでしょう」
「ここは素直に言うべきかな」
「言いなさい」
「考えてます」
「はいさようなら」

にっこり笑って風呂場のドアを閉める。このエロおっさん、と心の中で毒づいて。

「……次からは違った方向から返事をしよう」

締め出されて仕方なく部屋に戻る。何もあそこまで拒否する事ないのに。
亜美らしいといえばらしいが。彼女が掃除を終えたらまた顔を出そう。
シャワーも浴びるだろうから時間がかかりそうだ。
仕事でもするかとパソコン画面を開く。日曜日くらいのんびりとしたい気もするが。
憂鬱な気分になっていると電話がなった。

『元気そうだな』
「……何方様でした?」
『おいおい。俺まで忘れたのか』
「彼女の次はお前か。いい加減にしてくれ、私は何処へも行かない」
『まだ何も言ってないぞ。久しぶりに日本に戻ってきたんだがどうだ飲まないか』
「断わる」
『じゃあ今からお前の家に行くから、酒は持参する。じゃあな』
「おい!」

一方的に切られた。だがあの男が自分の家を知っているわけがない。
いや、家に来る。絶対来る。これは不味い状況かもしれない。
携帯を机に置いて部屋を出た。行き先は風呂場。

「駄目ですよ。掃除中なんですから」
「開けてくれなくていい。話を聞いてくれ」
「どうぞ」

また来た、と相手にしてくれない亜美だが今はそれよりも。

「もうすぐ客が来るんだが君は何もしなくていい。掃除ももういいから部屋にいてくれ」
「どういうお客さまなんですか?」
「なんでもない、旧友だよ」
「じゃあ」
「頼む、部屋に居てくれ」
「……はい」

ちゃんと説明をしてくれないまま掃除を終えた亜美は言われた通り自室に戻る。
雅臣の旧友。どんな人なのか少し気になるけれど。
あんな言い方をするなんてはじめて。よほど自分には会わせたくないのだろう。
女だろうか。元恋人なら会わせたくないのも分かる。それならそうと言えばいいのに。
ベッドに寝転んでいると玄関チャイムの音がした。


「中々いい家に住んでるな」
「まあね」

訪問者を向かえ渋々ではあるが客間に通す。亜美が掃除をしてくれているだけあって
何時でも人を迎えられるように綺麗になっている。お茶は、出さなくて良いだろう。
ドスンとワインボトルを出されて飲もうといわれたが朝っぱらからは結構と断わった。

「そう怖い顔をするなよ、俺たちは同じ志を持った仲間だろ」
「私にはもうそんな志はないんだ」
「お前歳とって嫌な性格になったな。昔はもう少し愛嬌があったぞ」
「今の私はとても平穏でのんびりできているよ、昔のように無理をしていないから」

不愉快そうに客の男から視線を逸らす。さっさと去って欲しいというオーラ。

「そんなに俺が嫌いか?」
「お前が嫌いという訳じゃないんだ、ただ昔の名残を今ここにある私の世界に入れたくないだけだ」
「そういうもんかね。ま、ジーニアスの考える事は凡人にはわかんねぇな」
「……」
「イラついてる所悪いんだが、玄関に女物の靴があったんだが。お前女が居るのか」
「……」
「ほうほうほう」

雅臣の顔色を見てそれが正解でありイラついている原因とも取れた。
女物といってもハイヒールとかパンプスとかではなくて使い古された汚い靴。
高校生くらいなんかがよくはいているものだったと記憶を探る。

「何でもいいだろう」
「中にはお前の事を今でも好きな奴が居てな。そういう調査も頼まれてるもんでね」
「……もういいだろう。私の事はほっといてくれないか」
「今日は久しぶりに日本に戻ったからお前の顔を見に来ただけだ。
いい歳してまだヤモメしてるならからかってやろうと思ってたんだけどな」
「ヤモメだよ、笑うが良いさ」
「俺に会わせたくない女は居るんだろ。それも凄く若い。…いい女か?」
「彼女は関係ない。……もういいだろう、仕事もある。帰ってくれないか」
「わかった。それじゃあまた都合のいい日に外で会おう、一週間は居るから」
「ああ」

ほんの10分ほどで客が去って鍵をしめる。もう会う事はないと思っていたのに。
亜美の靴を見て彼女の居る3階へ向かう。
あんな雑な説明で無理やり部屋に押し込められて怒っているはずだろう。
ドアの前まで来て何度かため息。

「何ですか」
「あ。亜美」

やっと気持ちを切り替えてドアノブに触れたら先にドアが開いた。

「もういいんですか。掃除しますからどいてください」
「待って。その、怒ってないの?」
「別に」
「……私には怒っているようにしか」
「あと、終わったらお母さんの所へ行きますから。お昼は自分でどうぞ」

思いっきり怒ってる。本人は否定しているけど、疑いようがないくらい。
説明をしようとするのだがまた邪魔ですとシャットアウト。
何も出来ないままに亜美は掃除を終えて母親に会いに行ってしまった。


「それくらいいいじゃない」
「……いいけどさ」

病室に入るなり見舞いに来ていた亜矢と正志に買い物を頼み母に全部話す。
こちらは真面目に言っているのに母ときたら笑うばかりで困る。

「もし、雅臣さんがその人とまたどうこうって言うならお母さんに言いなさい」
「うん…」
「私の大事な子どもたちを傷つけたらお母さん絶対に許さないから」
「お母さん」
「その前に。ちゃんと2人で話をしなさいね」
「はい」

それでもやっぱり亜美の味方。話を聞いてもらってすっきりしたのか
亜矢たちが部屋に戻るのと入れ違いに病室を出て行った。子どもたち3人では
母も気を使うだろうし、何より彼とちゃんと話をしたほうが良いと思ったから。

「ね。そこの彼女。お兄さんとお茶しない?」
「……は?」
「お。けっこう可愛いね。うん。スタイルもいい」
「……」

病院を出てすぐ声をかけられ振り返れば見知らぬ男。
ナンパだろうか。繁華街でたまに声をかけてくる気持ちの悪いおっさんは居るが
身なりはこんな金持ちそうなスーツではないし歳はいっているが顔は悪くない。
自分なんかよりももっと別に居そうなのに。
それともどっかの叔父さんのようにロリコン趣味なのだろうか。これは不味い。

「俺は君が思っているような性癖は持ってないから」
「……」
「君に信頼してもらうにはこういうのが1番かな。大野雅臣の友人なんだ」
「え」

じゃあこの人が朝屋敷に来た旧友?元彼女とかではなくて。本当に友人?
だけど何故その人が自分の下へ来るのだろう。会ってないのに。
それとも後をつけていたのだろうか。だったらやっぱり怪しい人だ。

「警戒しないで。君を尾行していた訳じゃないんだ、その靴に見覚えがあったからさ」
「靴」
「そう。玄関にそれが置いてあった。君は……まだ高校生だろう」
「はい」
「んーーー。どういう関係なのか推理してもいい?あ。答えはまだ言わないでいい」
「……はあ」

何だか雅臣の友人だけあって変な人。

「よく言われるんだ、似たもの同士って」
「え。あ。…はあ」

でもってこの人は心が読めるらしい。

「親戚かな?」
「……姪です」
「そう。じゃあ当たった!よし!という事でそこでお茶しない?」
「え……嫌です」
「知りたいんじゃない?あいつの事。俺君になら何でも答えちゃうよ」
「……、でも」

強引な男は亜美の手を引いて目に付いた喫茶店へ入る。
抵抗する手はあったが雅臣の過去という中々魅力的なエサがちらついて。
でも、本人が言いたがらないことを聞いたら怒られたりしないだろうか。
何て考えている間にいつの間にか着席して注文も済んでいた。

「俺は間宮。高校大学大学院あいつと一緒だったんだ」
「はあ」
「今はアメリカの研究所で働いている訳で。あ。これはいらないか」
「……」
「君の名前は?出来ればスリーサイズとかも詳しく聞きたいね」
「藤倉……亜美です」

何でこんな所で見知らぬおっさんにセクハラを受けなければならないのか。
慣れているぶんまだ雅臣のほうがマシ、という事もないか。むかつくのは同じ。
遠慮しないでと言われてジュースを飲む。美味しいけど視線が気になって。

「よくあいつの家に遊びに行くの?」
「……まあ」
「俺さ。あいつの元恋人にどうにか復縁できないものかと相談されててね」
「復縁、ですか」
「お。食いついたね。……あいつが好きとか?」
「そういう話をされても私にはどうしようもないんです。本人同士で話をしてください」
「ごめんごめん、怒った顔も可愛いな。亜美」
「……お前もか」

あの叔父さんも確か名乗ってすぐに名前で呼ばれたのを思い出す。
馴れ馴れしさや雰囲気は確かにこのおっさんたちは似たもの同士かもしれない。
ただ行き成り現れて元恋人の事とか言われて亜美の気持ちを当てられて。
混乱してきた。こんな時どうしたらいいのだろう。やっぱり帰ったほうがいいか。

「亜美」
「な、なんですか」
「そう硬くなる事ないよ。俺は既婚者だし、雅臣に死ぬまで怨まれ続けるのは勘弁だ」
「……」
「俺は過去のあの男を知っている。そして君は今のあの男を知っている。どうだい。
お互いに情報交換をしないか?お互いに悪いことにはならないはずだが?」

ソワソワしていると間宮が切り出す。確かに雅臣の過去に興味はあるけれど。
今の彼と言われても何も話せるようなことがない。
何より自分を遠ざけるほど知られたくないような過去を聞いてもいいのだろうか。
その元恋人という人は何故そんな情報を欲しがっているのだろう。復縁に関係が?

「私の知っているおじさんは物忘れの激しいどっか抜けた変な人です」
「ふうん。あれ。もう帰るの?」
「ごちそうさまでした。失礼します」

家族の事で頭が一杯なのに。でも、雅臣の事も気になって。感情が溢れそうで。
もうこれ以上は何も聞きたくないと席を立つ。一応ジュースのお礼だけはしておいて。
店を出ても間宮は追いかけては来なかった。
背後を確認しまた病院に戻って母に相談するか家に帰ろうかとも思ったが。足は屋敷へ。


「お帰り。その、……亜美」
「復縁なさるならどうぞしてください。私は何時でも身を引きますから」

玄関に入ると直ぐに雅臣。もしかして廊下で待っていたのだろうか。

「もしかして間宮に会った?」
「私を無理やり喫茶店へ連れ込んでスリーサイズ聞いてきたおっさんの事ですか」
「……では、私の事も聞いたんだね」
「聞いてません」

雅臣を押しのけ何か食べようとキッチンへ。何だかんだでまだ昼食を食べていない。
彼は何か食べたろうから自分はこっそり隠しておいたラーメンでも食べよう。
後ろに気配と視線を感じる。でも敢えてそこは何も言わない。

「………私も欲しい」
「まだ食べてないんですか」
「うん、君の事が気になって」

お昼ご飯には少々時間が過ぎたが2人ともカップラーメンで済ませる。
片づけを終えたらお茶を持ってきて欲しいと彼にいわれた。
何時もの事だから手早く準備を済ませ雅臣の部屋の前まで来てノック。

「……」
「怒っているよね」
「……」

お茶セットをテーブルに置いて言われるままにソファに座る。
だけど何時もよりちょっとだけ離れて。言葉もなく。

「ごめん。ちゃんと話すよ」
「結構です。貴方の過去を背負えるほど私大人じゃありませんから。
それより元恋人に慰めてもらったらいいんじゃないですか」

亜美のそっけない返事に雅臣も静かに返事をする。

「やっと手に入れたこの世界を壊したくない。誰にも踏み込んで欲しくない。
たとえそれが旧友でも自分の過去であっても」
「私は入れてくれるんですね。あと慧や恒も」
「彼らは外に放り出すわけには行かなかったから。君は、……特別」

亜美はまだ不機嫌そうな顔をしているが内心特別なんて言われると悪い気はしない。
顔には出さないで相変わらず視線も合わせないが。
それとなく離れていた距離を少しだけ縮める。

「雅臣さん」
「ん」
「少しだけ思い出したんです。貴方と初めて出会った時の事」

金木犀の植えられている大きな家に住んでいたころ。
まだ3歳くらいだった亜美と母違いの兄を見にやってきた大学生の雅臣。
彼とまた出会うまでは忘れていた記憶だったけれど最近では時折ふと思い出すようになっていた。

「そう。何だか少し照れるね」
「おじさん、ちょっと泣いてたよね」
「そんな所まで思い出したのか」
「なんとなく。顔はおぼろげだけど、でも、あれはきっと雅臣さん」

家の者は誰も気付かなかった存在に亜美が初めて気付いた。
その人はとても寂しそうな顔をしていたからポケットにあった飴をあげた。
これで元気になると本気で信じていたのだから、子どもだなと今なら思う。

「身も心もボロボロだった。私の手にはなにもなかった。私に気付くものも。
だけど、金木犀の香る庭にいた幼い少女は唯一私に気付いて、飴をくれた」
「雅臣さん」

虚ろな目で遠くを見つめる。彼が過去を嫌う理由は分かる気がする。
想像する事もできないような辛い思いをしたのだろう、母子共に生きた日々は。
あまりにも辛すぎて悲しすぎて。亜美は何もできないのが歯がゆい。
出来る事といえばただそっと彼の手を握るくらい。

「母が死んだ時に私自身も死んだと思ったよ。もう誰も私を見てはくれないと」
「そんな…」
「それでも養父は優しい人だった。本当の父も。でも、私は彼らが憎かった。
母を苦しめて悲しませて蔑んだ世間もあの親戚たちも何もかも。大嫌いだった。
目に見える全てが許せなかった。だから全部忘れる為に研究に没頭した」
「……」

今の彼は表向きは誰とでも笑顔で接しているけれど、きっと絶望していたんだと思う。
人というものに。唯一の存在である母を悲しませた者すべてに絶望していたんだ。
亜美も涙がでそうになるけれど堪えて彼の言葉を聞く。彼もとても苦しそうな表情。

「私さえ居なければ不幸にはならなかったのに」
「けど、お爺ちゃんと愛し合ったのは運命って奴だし。どうしようもないでしょ」
「運命、か。そういうものはあまり信じないけれど、今は妙に説得力があるね」
「それに雅臣さんが居たから頑張れたんだと思います。うちのお母さんもよく言ってる。
貴方たちがこうして元気で居てくれるだけでどんな高い薬よりも元気になれるよって」
「……」
「雅臣さんはお母さんの1番の薬だったんですよ。だから不幸なんかじゃない」

亜美の言葉に雅臣は暫く黙って。そして肩が震えてきて涙がこぼれた。
子どものようにワーワーと泣くのではなくて静かに。片手で目を隠して。

「……ごめん」
「いいえ」

何も言わず待って彼が落ち着いてきた所で優しく肩を撫でる。
そのまま抱きしめてあげると胸に顔を埋めてしばらくは大人しくしていた。
子どもみたい、と思いながら髪を撫でる。それも悪くないと思う。
彼の心の時間は止まっているから。そしてずっと封じ込められたままだった。

「また、君に助けてもらったね」
「何度でも助けますよ。こんなんでも一応貴方の姪で恋人ですから」
「後にも先にも君以外の女性を愛した事はないよ」
「そうですよね。重度のマザコンだもの」
「……所で」
「はい」

何ですか?と聞くよりも先に亜美の服を脱がせ始める雅臣。
シャツのボタンを一つ一つ丁寧に外しだす。何をしているのか最初わからなくて。
亜美の反応が遅れた。まさにポカン、となって。

「あいつにスリーサイズ教えてないよね」
「その質問とこの行動はどう関係してます?」
「いや。彼氏としては他所の男に知られる前に確認を」
「初対面の人にいう訳ないでしょ!こら!やめろー!」

暴れる亜美を抱き上げるとさっさとベッドへ倒し逃がさないように上に乗る。
それでも抵抗する亜美だがその手を押さえ唇を奪った。
その間もちゃくちゃくと服を脱がされてその辺に放り出される。

「私にもう1つ薬をくれるかい?あれはとても良く効くんだ」
「スケベおっさん!」
「認めるから。ね。……そろそろ禁断症状が出るよ」

亜美の胸の頂を優しく食み手は余す所なく体を愛撫していく。
色々と予定を立てていた亜美だったがこれはもう雅臣に任せるしかない。
観念して彼を抱きしめてただ声をあげる。亜美にも彼の温もりは心地よい薬。

「あ…あん…」
「……まだ、去らないでくれるか」
「……え」
「今は、まだ、私を置いて、……行かないで欲しい」

唇を軽く合わせたまま、雅臣は愛撫の手を止める。
亜美は彼が言わんとしている事が分からなくて暫しそのままの体勢で考えて。
屋敷に帰ってきた時に彼に言った台詞を思い出した「私は何時でも身を引く」という。
もちろん簡単に彼と別れられないし、あれは強がり。彼もわかっていると思ったけれど。

「貴方しだい」
「そう。良かった。あと、他に何か聞いている?その、アメリカの事とか」
「え?……研究所に勤めてる、とか」
「そう。それだけ?」

何処か安心したような声。何かほかにもあるのだろうか。
他にも亜美に知られたくないような何かが。

「どういう事なんですか?この際言ってくれてもいいですよ?」
「私をそこへつれて行こうとしている」
「へえ」
「もちろん行く気はないんだけどね」
「せっかく完成した雅臣さんの世界ですもの」
「もう壊れるのはごめんだ、研究にもあの冷たい世界にも興味はない。
私はこうして暖かいところに居るのがいい」

チュと亜美の胸にキスをして顔を埋める。

「ふふ。だけどおじさんに性格似てるって言われてる人は既婚者なんですよね」
「それがなに?」
「べつに」
「あの男は関係なく女性に手をだすからね、気をつけて」
「あ。じゃあおじさんもそういう面を持ってるんだ。浮気したら殺す」
「……まあ、いいさ。君になら。好きにしていい」

結局なんだかんだ言いつつも過去を聞いてしまった。全部ではないにしろ。
その重さに亜美も潰されそうになるけれど。それよりもまず彼を救いたいと思った。
自分が万能でないことは分かっているけど、何か出来ないかと。

「じゃあ、続きしましょうか」
「うん」
「嬉しそうな顔」
「……嬉しいさ」



夕方。洗濯物を取り込む為にベッドから出る。手伝うと言ってくれたが断わり1人で。
夕飯の献立なんかも考えながら黙々と作業をこなす。
あの怪しいおっさんは雅臣をアメリカへ連れて行くのが目的だったんだろうか。
では元恋人というのも嘘で。自分に話を聞いたのは情報を得るため?
何で自分だったのか。靴がどうとか言っていたけれど。

「もしかしてバレてる?」

好きか?とか聞かれたし。ただの叔父姪とは思っていないのかもしれない。
いやでも別にこっちは何も言ってないし。
だけど雅臣の旧友で研究所で働いているとなると頭は相当いいはずだ。

「どうしたの」
「いえ。今日何か食べたいものあります?」
「そうだな」
「あ。私お寿司たべたい。電話してきまーす」
「………うん、まあ、いいけど」

面倒な事にならなければいいが。


おわり


2009/03/03