不安な夜は傍に居て


「……明日…か」

唐突に知らされた母の検査。急変したという訳ではなくて父が勧めたらしい。
何かと無理をする母だから父も気を使っているのだと思う。
亜美に何も教えてくれなかったのも心配させたくなかったらだろうし。

「亜美」
「……」
「家に戻る?」
「帰ってこなくていいって」
「そう」

でも、不安。平静を装いながら顔には出さなくても家族皆不安にちがいない。
屋敷に戻ってきたものの考える事はその事ばかり。
キッチンに立っても洗濯しても掃除をしていても。何をしていても母の事を考える。
もしも、検査へ行ったはいいが何か新たに悪いところが見つかったりしないかとか。
そのまま入院だなんて事になったらどうしようとか。

「あの……助けてくれます…よね」
「もちろん。出来る限りの事はする。約束する」
「雅臣さん」

「死」なんて1番聞きたくない言葉を母が自ら言ったりしたからか、落ち込みが激しくて。
様子を見に来た雅臣の胸に顔をうめてギュッと抱きつく。怖くて怖くてたまらない。
大丈夫だって頭では言い聞かせても。金銭面においても雅臣が助けてくれるのに。

「とても強い人だから、大丈夫」
「ですよね。ただ検査するだけだし、こんなので落ち込んでる場合じゃないですし」
「そうだね」

それでも不安を隠しきれない亜美を抱きしめてその頭を優しく撫でる。
お父さんとは違う暖かさ。大きさ。抱きしめる力の強さ。
それが心地よくて身を任せる。

「私も強くならなきゃ」
「これいじょう?」
「どーいう意味ですか」

雅臣の存在に感謝しながら止まっていた手を動かす。
明日は夜家に電話をしよう。今ここでウジウジと悩んだり不安になっても仕方ない。
気持ちをプラスに考える気持ちとマイナスに考える気持ちが戦っているけれど。
それも明日には決着がつくだろう。どちらにしても、冷静に受け止めなければ。


「そういえば。慧たちが日曜に美術館へ行きたいって言ってたんだけど」
「行ってらっしゃいませ」

夕食後。何時ものようにお茶を運ぶと既にソファに座って待っていた雅臣。
亜美も一緒に座ってお茶を飲みゆっくりと話をする時間。
母の事で頭がいっぱいだったけれど、そういえばそんな話を慧から聞いた。

「君は来ないの」
「生憎友達と遊びに行く約束してるんで」
「そう…」

それは嘘だけど。自分も一緒なんて彼らには邪魔だろう。雅臣は残念そうだけど。
それが可哀想かなと思ったから。ここは仲良く3人で行ってもらおう。
由香あたりメールでもすればすぐに遊べるだろうし。

「いい叔父さんしてきてくださいね」
「それは具体的にどういうもの?」
「そうですねえ………えー……っと…」

そういえば、叔父さんってどういうものだろう?自分で言っておいて何だけど。
雅臣に切り替えされて返事が浮かばなくて目が泳ぐ。

「私の知る限り叔父というものはそう甥や姪に深く関わるものじゃない。
時折家にやってきて土産を渡してお小遣いをあげて少し話をして帰っていく」
「あー。なるほど」
「こちらは適当に叔父さんをやるとして。問題は亜美だ」
「何ですか」

くるりと隣に座る亜美の方を向いて。

「遊びに行く友達って、前に紹介してくれた人?それとも別の人?」
「なんですか。友達を詮索する気ですか」
「その答えは男か女かで大きくかわる」
「呆れた。友達って言ってるのに」
「……それでも、気になる」

雅臣には見栄を張って言わないけど、男の友達なんて1人も居ない。
あんまりにも真剣に聞いてくるからふざけて男ですなんて言える空気でもない。
行くなというだろうし、怒って何をされるか。

「女の子です」
「…そう」
「安心しました?」
「した」

ごめんね、と苦笑する雅臣の頬に軽くキスしてお茶を飲む。
それからは寄り添って他愛も無い会話をしながら静に時を過ごし。
別々に風呂に入り各部屋で眠りに就いた。


「おはようございまーす!大野せんせーい!」
「ああ。おはよう」
「ふーっ…先生歩くの早いですね」
「そう?」

翌日。自分の研究室へ向かう途中の廊下にて、自分を呼ぶ声がして立ち止まる。
振り返ればあの家に押しかけてきた女子生徒だ。息を切らしつつ、にっこり笑っている。
亜美に誤解され、今はほぼ忘れてくれたけれどそれまではチクチク言われ続けた。

「明日先生のお家にお伺いして宜しいでしょうか。もちろん、遊びではなくて今度はちゃんと」
「別の先生に言ってくれないかな。私の家にはもうこないで欲しいんだ」
「前回はいきなり押しかけて申し訳ありませんでした、論文も書き直しましたし。
今度はちゃんと」
「理由はどうあれ私は自分の家に人を呼ぶのは好きではないから。論文を読んでほしいならここで受け取ろう」
「先生」

彼女には悪いと思うがここはキッパリと断わるべきだ。

「おや。大野先生じゃないですか、どうかなさいましたか?」
「ああ、東城先生。いい所に」
「はい?」
「彼女が論文を読んでほしいと言っているので読んであげてください。
ちょうど貴方の専門分野だ。私などではわから無い事も貴方なら分かるでしょう。
では時間がないのでこれで失礼します」
「先生っ」

引き下がる様子のない女子生徒にどうするか考えていると何ていいタイミングで東城。
何も知らない彼に生徒を押し付ける形で自分はそそくさと部屋に戻った。

「おはようございます先生」
「ああ。おはよう」
「何かあったんですか?廊下を気にしてるようですけど」
「いや。別に」

不思議そうな顔で尋ねる殿山。雅臣が席につくなりすぐにコーヒーを出してくれた。
ここにも彼女が押しかけてくるかもと心配していたがそんな様子はなくひと安心。
もしかしたら本当に東城に読んでもらっているのかもしれない。
それならそれで丸く収まっていい事だと暢気にコーヒーを飲んだ。

「あ。そうだ。先生」
「ん?なに」
「今日学部長が主催なさるパーティに出席するっていう話を覚えてらっしゃいますよね」
「……………、…ぱーてぃ…?」

カップを持ったままポカンと間の抜けた顔をしている雅臣。何となくそんな気がした殿山。

「夜6時より学部長邸にて様々な分野の方々との交流を目的としたパーティがあると…」
「あ。あ。…あいたたたた……お腹が痛いなあ。君、代わりに」
「行き成り腹痛ってまた…。駄目ですよ、もう何度もお断りしてるんですから。
昨日は学部長直々にいらして先生に来て欲しいと言ってたじゃないですか」

必ず彼を説得してくれと殿山は言いつけられていた。
それなのにまた断わりでもしたら。いったいどうなってしまうのだろう。

「今日は本当に駄目なんだ。その、義理の姉が検査をする日でね」
「またそんな作りこんだ嘘をおっしゃる」
「嘘じゃないよ。本当だよ」
「じゃあ顔をだして挨拶してすぐに帰るというのはどうです?1度行ったという実績を残せば
学部長もそう何度もいいにはこないでしょうし」
「すぐに、か。ねえ。それってこの格好では駄目?」
「駄目です」

やっとの事で行く気になったらしい。説得が上手く行ってため息がこぼれる。
授業が終わったら着替えに戻りパーティ会場へ向かい、顔を出してすぐ帰る。
この際それでいい。来たのは事実なのだから文句は言われないだろう。
首も繋がるというものだ。毎回こんな綱渡りでは寿命が縮む思いだけど。

「そう…面倒だな。これ結構高いんだけどな」

当の本人はいたってマイペースにしているのだから恐れ入る。



「お帰りなさい。今日は遅かったですね」

夕方。買い物を済ませ屋敷に戻ると何時もなら先に居るはずの雅臣はおらず。
遅いなんて聞いてないからまた言い忘れたのかと思い料理を始めた。
そこに漸く玄関が開く音。急いで向かうと何処か元気のない顔でただいま、と言った。

「それが。これから着替えて出かけるんだ」
「何処に?」
「学部長の家。何でもパーティがあるらしくて」
「そんなの聞いてません」
「ごめん」
「……、…準備、自分でしてくださいね。私わからないから」
「……うん」

まだ怖くて家に電話できなかった。雅臣が帰ってきたらしようと思っていた。
それなのにパーティに行ってしまうなんて。そんなのない。ないけど。
ここで我侭を言って傍に居てというのはいけない気がしてキッチンに戻る。

「……」

でも、こんな日は傍に居て欲しい。抱きしめていてほしい。

「亜美」
「はい」

そんな後姿を見てか雅臣が着替える前にキッチンに入ってくる。

「一緒に行かない?」
「は?何言ってるんですか。無理です」
「車で待っていて。顔を出したらすぐに帰るから。それから君の家に行こう」
「……」

亜美の不安定な心を包み込むように後ろから抱きしめる。暖かな手。
最初は意地をはって気にしてないフリをしていた亜美。黙々と材料を切っている。
でも、雅臣が耳元で何かを囁くと頬を赤らめ作業する手を止めて彼の腕に触れる。

「今の君を1人にしたら私はきっと彼氏としても叔父としても失格だと思うから」
「お腹すいてるからすぐに戻ってくださいね」
「うん」

チュ、と亜美の頬にキスをする。また赤くなる彼女の頬。

「……」
「それと一緒に服を選んでくれないかな。私にもさっぱりわからない」
「私に聞かないでくださいよ…」

これは明日にとっておきましょうと材料を冷蔵庫に戻し雅臣の服選び。
パーティなんて出た事がない亜美にはさっぱりわからない世界だ。雅臣はあるらしく、
クローゼットを開けるとそれらしい服が見える。ただサイズが合わない。

「いたたたた」
「太ったんじゃないですか?…おりゃーー!」
「いたたた…っ……これ8年くらい前に買った奴だから」
「8年って。もう。仕方ありません、こっちのにしましょう」
「うん」
「もう。全部私にまかせっきりにして」
「だって君は私の家政婦さんだもの。面倒を見てもらわないと」
「……ちょーし乗ってっと蹴り上げますからね」
「ごめんなさい」

わからないなりにクローゼットから服を選び雅臣に着せる。結局自分では何もせず。
亜美に靴下から髪のセットまで全部まかせっきり。嬉しそうにする雅臣に蹴りをいれ。
亜美も出かける準備をして戸締りを確認してから屋敷を出る。まずはパーティ。
車に乗り込むと自分は会場には入らないのに緊張してきた。


「わー。やっぱりえらいさんになると住む家が違いますね」
「ここで待ってて」
「20分以上待たせたら車降りて家に行きます」
「夜道を歩かせる訳にはいかないから、5分で戻る」

目の前には雅臣の屋敷を上回る豪華な作りの家。門からして大きくて。
そして車が次々と中へ入っていく。雅臣は中にはとめず途中の駐車場に止めた。
亜美を残し1人中へ。すぐに戻るからと軽くキスをして。


「はあ。……パーティか。おじさんも凄い人なのかな」

見送るとすぐに鞄から取り出した携帯の画面を眺める。結局まだ電話は出来ていない。
一緒に家に行くから必要ないと言えばないが。暇ですることがないからメールを見た。
自分が雅臣の屋敷に行ってから家族と交わしたメールはまだ保存している。
読み返すとあの頃の気持ちがよみがえっておもわず苦笑した。
あの頃の自分ならまさか彼とこんな関係になるなんて思ってなかったろう。
そして今は咲いていない金木犀のあの香りもよみがえった。何度もみたあの木。

今年も一緒に見られるだろうか。


「先生」
「…ああ」
「もうお帰りですか」
「急用があってね」
「じゃあ私も」

そんな過去を振り返っている亜美の目の前に雅臣の姿とあの女子大生の姿。

「君が何を考えているのか知らないが私は迷惑している」
「先生」
「いい加減にしないと私にも考えがある、あまり乱暴は事はしたくないが。
邪魔をするものには大人でも冷静でも温厚でもいられない。わかったら行きなさい」
「……はい」

何を言っているのかは聞こえないけれど雅臣の表情が険しくて、たぶん怒っているのだとおもう。
あんな顔をするのは稀だけど、それだけにかなり怒っているんだと察する。
女子大生は深々と礼をしてその場から去っていった。

「……」
「家に行こう」
「……」

車に乗り込んだ雅臣。亜美は押し黙る。

「言い訳や説明は後でする」
「怖い顔。後で直してあげますね」
「それは今がいいな」

目の前であの女子大生と話なんてしてしまったから怒っているのかとおもった。
けれど、そうでもないらしく亜美に顔を近づけるとすんなりキスした。
もっとしたいと思ったがここは我慢をして家へ向かう。


「……はぁ」

玄関まで行って立ち止まる。どんな結果が待っているのか、不安で。
雅臣に甘えられるのはここまで。父や弟妹の手前中に入ればただの叔父と姪。
彼に抱きしめてもらって、何度か深呼吸をしてようやく玄関の戸をあけた。

「お姉ちゃんおかえりなさい。おじさんいらっしゃい」
「亜矢。あんたがご飯作ってるの?」
「うん。亜矢ね、カレー作ってるの」

廊下からはいい匂いがして、きっと母だと安心していたのに。
台所に居たのは学校で作ったエプロンを着けた亜矢。正志も父の姿もない。

「お母さんは?」
「病院」
「……、…もう検査終わったんじゃなかったっけ?」
「まだ」

元気のない返事。亜矢も心配なのだろう。

「お父さんは」
「病院」
「正志は?」
「一緒に行った」
「……あんたは、何で行かなかったの?」
「亜矢がご飯作らなきゃ皆帰ってきた時お腹すいちゃうから」
「そう。……偉いね、あんた」

手伝うよと姉妹一緒に台所に立つ。他愛も無い話をしながらカレーは完成。
3人でコタツに入ってみかんを食べながら帰ってくるのを待つ。
まだ病院にいるのなら電話はしないほうがいいだろう。何でこんなに遅いのか。
時計を見ればもうすぐ7時。遅い。遅すぎる。

「亜矢お風呂わかしてくる」
「うん」

亜矢が部屋から出て行く。妹の前では気を張っていたけれど。
姿が見えなくなったら萎んでしまって俯いた。本当はうろたえたいし声に出したい。
お母さんが帰ってこない。どうしよう。どうしよう。喉まで出ているけど必死に堪える。

「亜美」
「……」
「じきに亜矢ちゃんが戻るよ」
「はい。大丈夫です」

だって、自分はお姉ちゃんだから。自分が弱ったら弟妹が困るから。
微笑を返した所で亜矢が戻ってくる。何を思ったのか席には戻らず雅臣の隣に来て。

「おじちゃん」
「ん。なに?」
「お風呂はいる?」
「いや。私はいいんだ、お構いなく」
「お姉ちゃんは?」
「私も。あんた先ご飯たべて風呂いきな」
「……1人やだ」

どうやら誰かと一緒に入りたいらしい。そういえば何時も父親か正志と一緒だった。
自分とも入ったし。まだ誰かと一緒でなければ嫌な年頃のようだ。
1人でカレーを食べる亜矢を眺めながらどうするか考える。まだ誰も帰ってこない。

「おじさんとか……」
「私?」

座っているのが嫌になって玄関に出る。左右確認しても家の車は来ない。
今頃何をしているのだろう。電話したほうがいいのだろうか。でも。

「でもなあ。亜矢を傷ものにされる恐れが」
「じゃあ2人でどう?」
「覗く気だろう」
「覗かなくても君の裸は見えるよ、何時でもね」

にんまり笑う叔父さんに引き気味の亜美。ただでさえ外は寒いというのに。
蹴りでも一発入れようかという所で見覚え有るボロい車が家に近づいてきた。
間違うわけがない、家の車だ。

「亜美」
「姉ちゃん」
「お帰り。お母さんは?」

車から降りてきたのは父と正志だけ。母が居ない。

「ちょっと体調を崩してな。2、3日入院するんだ」
「ちょっとクラっとしただけだって母ちゃん笑ってた」
「そう。…大丈夫、なんだよね?」
「当然。母ちゃんは強いからな!」
「正志。先に中に入ってご飯食べてなさい」
「はーい」

入院、と聞いて胸が痛くなったが正志の話ではそう重い感じではなさそうだ。
それは良かったけれど、それでも完全には喜べない。

「すまんな。連絡できなくて」
「ううん」
「雅臣君もすまんな」
「いえ」
「やはり無理をしていたらしい、すべての結果が出るのは3日後だ。
また3日後一緒に病院へ行ってくれないか。亜矢や正志には聞かせたくないから」
「わかった」
「亜美、すまん。お前を早く家に戻したいのに…父さんが不甲斐ない所為で」
「ううん。私はいいの。大丈夫だからお父さんこそ気を詰めて倒れないでね。
それじゃあそろそろ…、明日の事もあるし行くね」
「ああ。また」

このまま居たら父にも雅臣にも悪いと思って足早に家を出る。
またくるから、と何度も言って。笑顔を見せて。父も笑ってくれたけれど。内心どうだろう。
酷く疲れている様子だったし、母の事もあって落ち込んでいるはずだ。
幼い子どもたちの手前そんな顔をみせないで我慢しているのだろうけど。

「暫く家に帰るといい」
「……」
「何時までも君を独り占めにしていいとは思ってない」
「……」
「亜美」
「……山の上にある展望台行きません?」
「え?でも、寒いと思うよ?」
「連れてって」

亜美の強い言葉に押される形で車は屋敷ではなく山へと向かう。
街を見下ろせる小さな展望台。人知れずひっそりと佇み風も少々強めの為に
こんな寒い季節は人の気配が全くない。けれど彼女の望みならば。

「ほら。やっぱり誰も居ない。風も強そうだし外に出たらたぶん凍死するよ」

30分ほど無言で車を走らせ目的地に到着。だけどあまりにも寒そうで人も居なくて。
こんな所で何をするのだろう。出来れば外に出たくないのだが。

「じゃあ暖めあいましょう」
「え?ちょ…ちょっと…亜美?」

シートベルトを外し外に出るのかと思いきや雅臣の膝に座る。

「……暖めて」
「ここで?その、家とかホテルとか…そういう安全な場所の方が」
「こういう場所は嫌ですか?」
「後ろに移動しよう」
「はい」

何時になく雅臣を求める亜美の眼差し。男として拒むことが出来るだろうか。
暖房だけつけて後ろの席に移動。シートを倒し簡易ではあるがベッドを作る。
亜美を寝かせると彼女から雅臣の首に手を回し深いキスをしてくる。

「私はどうしたらいいかな」
「……絆を確認させてください」

キスの合間に自分から服を脱ぎ下着を取り払い雅臣にみせる。
もっと触れて、と。脱ぎきれて居ない服の間から見える白く滑らかな肌。
引き込まれるように胸に手をやり存分に指と舌で味わい。

「それを叶えてしまったら…」
「あ…」
「……どうしようもない」

亜美の両足を掴み大きく股を開かせるとその間に顔を埋める。
チュッチュとわざと音を立てて吸ったり舌で淫核を刺激したり。その度に体をくねらせ
甘い吐息や喘ぎ声を上げる。何時も最初は抑え気味なのに、はじめから大きな声で。

「あ……あぁああ…ん」
「興奮しているのかな」
「……ぁあ」

雅臣に組み敷かれ両足を掴まれたままの状態で見つめられる。

「窓から見えるからね。君の白い肌も大きな胸も、何もかも」
「……ん」

足を解放すると手で太ももを軽く撫でるとビクっと腰が動く。反応を楽しみながら。
1番敏感で感じる部分には触れず体をジワジワなでて言葉で亜美を高ぶらせていく。
車は今の所通っていないけれど今後も通らないとは限らない。
ライトに照らされて見えてしまうかもしれない。今ここで何をしているのか。

「でもこれは全て私のものだ。誰にも渡さない」
「……雅臣さん」

隠すように亜美に覆いかぶさりオデコや鼻先、唇にキスを落とす。

「さ。早く終わらせてしまおう。亜美、あれは?」
「え?持ってないんですか?」
「ないの?」

まさか、という顔で見詰め合う裸の男女。

「……じゃあ、帰りますか」
「そう…だね…」
「まあ、その頃には冷め切って寝ますけど」
「君の部屋に行くよ、暖めるから」
「はい。……家には、その、……戻りません。何かあれば別だけど。でも、今は」
「そう。わかった。……さ。帰ろう、カーセックスはまた今度準備万端の時に」
「はい」

軽くキスして服を着る。せっかく気分が高ぶってきたけれど避妊具無しでは出来ない。
臨機応変に対応出来るように車にも置いておこうと決めて、屋敷に戻る。
夕飯は途中で済ませてきたから後はお風呂に入って。


「つまりその、数多く居る中のいち生徒であって特に親しいわけでもなくて」
「ふーん」
「そろそろ信じてくれないかな、この体勢のまま動けないのは辛いし。
君だって私が動いたほうが気持ちがいいと思うんだけど」

亜美の部屋にて先ほどの続き。雅臣の上に乗って中に入って。
さあ腰を動かそうという時に何故か先ほどの女子大生の話になってストップ。
入ったまま動けないこのいじらしさ。亜美のお尻を撫でながらもういいだろう?と懇願するが。

「人にはいちいち文句言うくせに自分は巨乳女子大生と仲良くパーティでしょう?
暫く苦しんでもらわないと割りに合いませんね叔父さま」
「そんな」

愛する姪は冷めた笑みを浮かべピクリとも動かない。

「こっちは不安でいっぱいだっていうのに。もう」
「うん…反省、…いや、猛省してるから。ね?」
「じゃあ…」
「いい?」
「眠いから10時には終わってくださいね」
「5分しかない…」


冗談だろうと思ったけど、本当に10時になったら寝てしまった。
起こそうと肩を揺らしたら手を弾かれて。渋々彼女を抱きしめて眠る。
狭いベッドだけどその分密着できて心地は悪くない。けど。

「……こら。さりげなく中に入ろうとするな」
「起きてたの。いや、狭いからくっ付いていたほうがいいかなと」
「中で折るぞ」
「おやすみ」
 
眠っているから大丈夫かと思ったらドスの利いた声で一言。彼女ならやりかねない。
こっそりお尻から滑り込ませようとしていたモノを即座に戻し下着を穿く。
抱きしめるけれど大人しく寝るには早いし散々待てをされた所為か少々物足りず。
だけど折られたらたまらない。

「……あの、今日はありがとうございました。……貴方が居てくれて本当に良かった」
「自分でも思う、……中々いい叔父さんっぷりだ」
「ほんと」

頬にキスして2人目を閉じる。明日も朝は早い。
母親の事も、自分の将来の事も、叔父さんとのこのややこしい恋愛も。
色々と重く圧し掛かっているけれど今はただこの温もりの中で眠ろう。



おわり


2008/11/10