小さな世界


「回覧板読みました?」
「ん?いや、まだ読んでないけど」

朝食が出来上がるまで自分でいれたコーヒーを飲みながら新聞を読む。
双子が去り家政婦さんとの2人きりの生活も落ち着いてきた。
そこへ両手に料理を持って亜美が入ってくる。何時も通りのシンプルな朝食。
テーブルにならべるなり昨日の夕方回ってきた回覧板の話。

「最近この辺りに変質者が出るらしいんですよ。まだ春には早いのに」
「そう。このあたりは比較的安全だと思っていたけど。危ないな」
「困った…」
「不安なら送り迎えしようか」

被害にあったのは隣の区らしいのだが、いちおう警戒してくださいとの事。
物騒なニュースは新聞やテレビでもよく流れている。
まだまだ日が落ちるのが早い。学校からスーパーに寄って帰れば暗くなる。
街灯はあるが住宅街だけに時間が過ぎれば人気はまばら。

「私は大丈夫なんですけど」
「けど?」
「亜矢が心配で」
「亜矢ちゃん?」

トーストにバターを塗りながらため息。亜矢はここの所学校が終わるとすぐ
検査入院している母の所へ様子を見に行っている。
帰りは父親と一緒が多いがたまに1人で帰っているようで。危ないと注意するのに
誰に似たのやら自分は大丈夫だと言って聞かないらしい。
お前からどうにか説得してくれないかと父親に言われていた矢先の回覧板。

「かわりに私が行けば亜矢も大人しくなるかな」
「彼女なりにお姉さんを演じようとしているのかもね」
「亜矢はまだ小学生なんです。お姉さんもいいけどあの子に何かあったら」
「そう心配する君はお母さんという訳か。はは、上手く分担できてるんじゃない?」
「真面目に聞いてください。聞く気がないなら黙って食べる」

不愉快そうにトーストを齧る。ごめんごめん、と笑いながら言う雅臣。
人事だと思って笑ってるみたいで。そりゃ関係ないかもしれないけど、ムカツク。
不機嫌なまま朝食は終わり片付けと冷ましていたお弁当を包む。

「学校終わったらお母さんの所行きます。亜矢も居るだろうしついでに話てみます」
「では私も行くよ。夜道は危ない。大事な君に何かあると困る」
「はい」

何故かそれで機嫌が直って笑顔で学校へ向かう。我ながらなんて単純なんだ。
今日は久々に母に会える。亜矢や正志には頻繁に会っているし父とも電話やメール
なんかで連絡を取り合っていてちゃんと月々の借金返済をしに屋敷に来ている。
相変わらず2人の仲を探るような視線だけど。

「おはよう」
「おはよ」
「今日も朝から英語だよ。ジスイズアペン」
「そうだね。アイムジャパニーズ」

教室に入るとすぐに由香が視線に入る。席につくと隣に座り。
1時間目から行われる英語への不満を口にする。
どうせ国語がきたって数学がきたって理科がきたって同じ事を言うくせに。

「いい出会いないかなあ」
「出会い?」
「出会い系サイトつかってみよっかな」
「やめときなよ。ンな怪しいもの。彼氏いるでしょ」
「知っての通りの氷河期ですわ」

男女の付き合いってものがまだよくわからない。今の所関係を揺るがすような
大きな喧嘩はない。怒らせた事はあるけどそれからすぐ仲直りした。
氷河期になったり怠惰になったりする事は今後あるのだろうか。

「氷河期ねえ。今温暖化が叫ばれているので大丈夫でしょう」

今はそれよりも家族。亜矢の事を心配しよう。

「おい」
「ん?おお。恒」
「ちょっと聞きたいんだけど」

昼休み。さっそく弁当を食べようとフタをあけたところへ珍しく恒。
呼ばれてとりあえずフタを閉めて教室から出る。

「なに?」
「最近亜矢ちゃん来ないけど何かあったの」
「ああ。お母さんが検査入院しててさ。それに付き添ってるの」
「大丈夫なのか?」
「大丈夫だよ」
「そうか、わかった。お大事に」
「うん」

頻繁に遊びに行っていたようだからそれがぱたりと来なくなって心配だったらしい。
兄と慕って懐いてくれる亜矢を恒も気に入っていたようだし。
母が病院から戻ったらまた遊びに行くだろうと答えておいた。



「姉ちゃん」
「あれ。正志」

放課後。友人たちの誘いを振り切って学校を出ると正志が待っていた。
病院に行くのだと告げたら一緒に行くとのこと。
学校前で突っ立っているのも何だから歩きながら話を聞くことに。

「……姉ちゃん」
「ん?」

不安そうな顔をして姉の手を握る。何時もは母が握ってくれた暖かい手。
亜美のはちょっと冷たいけど、それでもギュッと握り返してくれた。
姉弟手を繋いで歩く。恥かしくはないようだ。甘えんぼうの正志らしい。

「お母さんは正志はこのままでいいよって言ったんだ。でも亜矢は男なんだから
もっとしっかりしろって。お兄ちゃんだろって…」
「真似しようにも兄さん居ないもんね。お父さんは駄目駄目男だし。でもさ、
あんたも亜矢もまだそんな事気にする歳じゃないって。ね?暗くなんないの」
「おじさんは?」
「え?」
「おじさんみたいな大人なら亜矢も怒らないかも!」
「あーーー。あれは駄目駄目男の弟だから駄目男なんだよ」
「駄目…なのか」
「そう。駄目なの」

駄目?と自分を見つめてくるあどけない瞳。心配なんてしなくていいのに。
何より可愛い弟があんな捻くれたおっさんになったら取り返しがつかない。
とりあえず30過ぎても嫁はこないだろう。その後も望みは薄い。それは可哀想。
話題を正志の好きなアニメにかえるとやっと笑った。やっぱりこっちのがいい。


「今日はお客様が沢山来てくれたのね」

病室までは正志の案内ですんなりといけた。藤倉家の子どもたちは幼い頃から
母が入退院を繰り返しているから病院というものに恐怖も違和感もない。
かかりつけの病院にいたっては何処に何があるのかも良く知っている。

「ごめんね。何か押しかけちゃって」
「ううん。退屈してたのよ、話し相手が居ないと駄目ね」

病室へ入ると母は元気そうに迎えてくれた。雅臣の援助あって快適らしい。
やつれても居ないし顔色も悪くない。心から安心した。
見たところ亜矢の姿はない。顔を出すと言っていた雅臣の姿も。

「亜矢は?あとおじさんも…来てない?」
「雅臣さんはさっき来てくださって。花を、ほら。あれ」
「綺麗だね」
「丁度いいから亜矢を家に送って頂いたの」
「そっか。うん。それがいいよ」

亜矢が中々帰らないことを心配しているのは何も父親だけではない。
母も心配だったようで、まだ居たいという亜矢を説得して帰させた。
雅臣が持ってきた花を眺めながら近状報告。

「母ちゃん…」
「お母さん、でしょう?正志ったら」
「俺の元気いっぱいあげるから。だから。はやく一緒に帰ろう」
「そうね」

さっきはお兄ちゃんどうこう言ってた癖に母を前に甘えまくる正志。
この調子だと一緒にベッドに入って抱っこを強請りそうだ。まだまだ子ども。
母はお金を渡し売店に行って飲み物を買って来てと頼んで正志を部屋から出した。

「元気そうでよかった」
「あら。検査はこれからよ?」
「もう。またそんな怖い言い方する」
「ふふふ。貴方がそんなくらーい顔をしているから」
「暗くなんかないもん」
「拗ねた顔、お父さんにそっくり」

クスクスと悪戯っ子のように笑う母。元気で何よりだけど、検査はこれから。
何処か悪いところが見つかってしまったらまた苦しい日々に戻る。
何もありませんようにと願うばかり。母はただ何時も通り笑顔でいるけれど。

「そんな事ないもん。お父さんとは違いますー」
「そっくり。皆お父さんの子だもの、自分よりも家族を大事にする人」
「お父さんが?うそぉ」

借金の形に自分を放り出したのは父だ。

「亜美はもう知っているかもしれないけど、お父さんの家は元は結構なお金持ちでね。
庭付きのそれは立派な家にすんでいたの。私も貴方も少しの間だけど住んでた」
「うん。金木犀植わってる所だよね」

以前2人で見てきた。懐かしいという気持ちはあまり起こらなかったけど。
雅臣と初めて出会った場所でもあるから。忘れられない場所。

「亜矢を生んですぐに体を悪くして倒れてしまって。それから何ヶ月も入院してね。
その間親戚たちはお父さんに離婚を勧めたし私もそうしたほうがいいと思った」
「何で?離婚しろなんて酷い!」
「私の所為でお父さんは代々守ってきた家を失い貴方はある日いきなり家を出された。
家が貧しいのも借金を背負っているのも全て私が居るから。どう?それでも酷い?」
「酷いよ。私がお父さんなら絶対お母さん離さないもん。そんなので揺らいだりしない」
「……まあ。ふふ、やっぱり親子ね。お父さんと同じこと言って」

また笑う。今度は何処か照れくさそうに。亜美も冷静になると何だか恥かしくなった。
その後すぐにノックする音がしてドアが開く。ジュースを買って来た正志だ。
丁度いい。声を荒げてしまったからそれで喉を潤そう。

「姉ちゃんも欲しかったの?」
「お前なー!」
「ほらほら、喧嘩しない。お姉ちゃんはこれで買ってらっしゃい」
「いいよ。自分で買う。このばかちんが」
「痛っ!母ちゃん姉ちゃんが叩いたぁー」
「はいはい」

と思ったら母親のお茶と自分のコーラだけちゃっかり買って来て姉ちゃんのはなし。
仕方なく自分の分のジュースを買いに部屋を出る。正志のお尻を叩いて。
場所はわかっているからすぐに自販機コーナーに到着。ポケットから小銭入れを出し
飲みたいジュースを選んで。

「あ」
「ごちそうさま」
「おじさん」

ボタンを押そうとしたら先に押された。振り返ると雅臣。
オレンジジュースを飲もうと思ったのに、出口から出てきたのは暖かいコーヒー。
もちろん直ぐに彼から小銭を貰って自分のジュースを買い。休憩室に座る。

「帰りに買い物するんだって言ってね。スーパーに行ってきたんだ」
「あの子そんなお金」
「ルーだけだからそう高価なものは買ってない。今日はカレーみたいだね」
「大丈夫かな」

喉を潤しやっと一息。隣に座る雅臣の肩にもたれて目を閉じる。
各自意識して動いてくれるのはいい事。今の所は母がいないのを補えている。
でもそれを外から見ている側からするとヒヤヒヤもの。

「家には兄さんが居るから。大丈夫だよ」
「そうですね」
「ルーだけじゃ何だから野菜や肉も一緒に買っておいたしね」
「ありがとうございます」
「気を張ってしまうのは遺伝かな」

そう言うと亜美の頭を撫でてオデコにキスする。あの母親の血を引く娘たち。
大丈夫ですと言って亜矢でさえ雅臣の援助を最初は拒んだのだから。
わざと混乱するような小難しいことを言って彼女を無理やり納得させた。
という経緯は敢えて言わない事にした。

「雅臣さんと一緒なら上手く中和されますかね」
「どうかな。私も頑固な所があるから」
「あ。言える」

笑いあって飲み終わったカップを専用のゴミ箱に捨てる。もう外は暗い。
正志を家に送り届けて自分たちは屋敷に戻る時間だ。
部屋に戻るとちゃっかり母親に抱きついて甘えている正志が居た。

「何度もお世話をおかけしまして申し訳ありません」

雅臣の姿を見るや正志をベッドから下ろし自分は深々とお辞儀をする。

「頭を上げてください。こちらこそ何も出来ずで。何でも結構ですから言ってください」
「お母さんもう寝て。正志も帰るよ」
「うん。また来る」
「気をつけて帰るのよ。行儀よくね」
「はい」
「亜美もですよ」
「わ、私も!?」

チクリと一言。何でそうなる?納得いかない気もするが笑顔で部屋を出た。
顔を見れてよかった。不安な気持ちもあったから少しは安心できた。
母が言うように検査はこれからだけど。


「羨ましい」
「嫌ですよ」
「じゃあ横になった時に頼もうかな」
「エロおやじ」

はしゃいで疲れてしまったのか正志は後部座席でぐっすりお休み。
亜美も一緒に後ろに乗っていたから膝枕をして頭を撫でてやると母親に甘えるように
ギュッと太ももにくっ付いて心地良さそう。それをミラーでちらりと見て雅臣が言う。
車は赤信号で止まった。音楽はかけていない、ラジオも。だから静かな車内。

「私が出来る事なんてたかが知れている。本当に大変なのは家族だ」
「そんな事ないですよ。おじさんが居るのと居ないのじゃ全然違いますから。
金銭面だけじゃなくって。気持ちの面でも。皆感謝してますよ」
「感謝、か。そんな柄ではないんだけどね。はは」
「後で膝枕しますから」
「よしのった」
「……ったくもぅ」

何か騙された感があるが、まあいいかと正志の頭を撫でる。寝顔も可愛い。
離れて暮らしてみて初めて弟妹を可愛いと思うようになった。
車は我が家に到着。正志を起こすと母ちゃん…と寝ぼけた事を言う。

「正志!こら!」
「亜矢!」
「お姉ちゃんに世話やかせないの!」
「はい!ごめんなさい!!」

そこへ亜矢の怒声。これには亜美も雅臣もビックリした。何処からそんな声を。
でも何処と無く怒り方やその時の仕草なんかは亜美に似ている。
怒られて目が覚めたのか逃げるように家の中へ入っていく正志。

「亜矢、そんな怒らなくても」
「駄目だよ甘やかしちゃ」

ビシっといい伏せる辺りこれはもう亜美よりもお姉さんかもしれない。
それだけ母の居ない家を守ろうと必死なのだ。肝心の男たちは駄目駄目だし。
亜矢でもそれは分かってるようで。

「そ、そうだけど……。あ。あとね、亜矢」
「夜1人で帰るの危ないって話?」
「うん。お父さんから聞いた?」
「聞いた」
「じゃあ、わかるでしょ?これからはお父さんと一緒に帰るんだよ」
「でも、お父さん毎日いかない」
「お母さんが止めてるの。家あけっぱなしでしょ?そっちのが心配なんだって」
「そっか…」

俯く亜矢の頭を優しく撫でる。頑張ってるね、偉いね。と褒めてあげながら。
気を張ってばかりいる子に上から押さえつけても怒鳴ってもあまり効果はない。
何となくそんな気がして亜美はただ亜矢を褒めた。母ならどうするだろう。

「亜矢ちゃんは正志君と一緒に家を守らないとね」
「うん。…正志は怪しいけど」
「お父さんも居るしね。大丈夫!」
「うん。大丈夫!」

姉妹でニコっと笑って無事解決。食べていく?と聞かれたけれど遠慮して。
車に乗り込む。今度は助手席に座った。
今日も1日よく頑張ったと大きく伸びをする亜美。車は屋敷へと走り出す。

「食事どうしようか」
「カレーハウスありますよ」
「その隣の居酒屋でもいいけど」
「何でご飯たべるのに飲み屋なんですかおっさんくさーい」
「じゃあ」
「おすし」
「いいよ。じゃああの店、いく?」

2人の目にとまったのは以前喧嘩して飛び出した回転寿司屋。
正直あんまり気はすすまないのだが、彼女が寿司がいいというなら。
見たところこの周囲には他に寿司屋はないようだし。

「いきましょ」
「わかった」

亜美はあっさりOK。気にしてないのだろうか。
駐車場に止めて店へ。客のピークは過ぎたようで2人でもテーブルに座れた。
赤だしなんかも注文して食べる準備もして。さっそく一皿亜美が取った。

「雅臣さん」
「なに?」
「あーん」
「いいの?」
「うん」

最初の一口は雅臣に。断わる理由は無い、美味しくいただく。

「美味しいよ」
「じゃあ私も」
「沢山食べてね」

こうして一緒に向かい合って食事していても雅臣に対して苛立たない。
笑顔で食事が出来る。そんな彼女を見て安心したように雅臣も微笑み返す。
少し前までは彼の仕草が気に入らなかったり年の差ゆえのすれ違いもあった。
今もそれはあるけど、以前とはまた少し亜美の視線もかわったようだ。

「はい。あ。今度亜矢たちも一緒に」
「いいね」
「ほんといい叔父さんだなあ」
「自分でも驚いてる」
「でーも。ちゃんと彼氏もしてくださいよ?雅臣さん」
「はい」

終始笑いあって食事を終える。たまにはこんな日があってもいい。
車に戻ると今度こそ屋敷へと向かう。
彼の持っているCDは眠くなるからと適当にラジオをつけた。

「この歌よくかかってるね。流行っているの?」
「みたいですね」
「私も覚えてみようかな」
「えー。じゃあ今度2人でカラオケでもいっちゃいます?」
「歌は好きだよ。上手いかどうかは別として」
「決まり。じゃあ、私も新しい歌覚えよう」

流れてくる歌。友人でも街中でもこれを着メロにしている人は多い。
自分はあまりテレビを観ないし興味もなかったけれど。CDをレンタルしてみよう。
新しい歌を覚えるなんて何年ぶりだろうか。それにカラオケなんて行くのも久しぶり。
家族で行ったのは亜美がまだ中学校のころだからもうだいぶ昔だ。

「カラオケか」
「おじさんを誘ってくれるような奇特な友人は居たんですか?」
「それが居たんだ。大学生の頃。男だけど、あまりにしつこく誘うから1度だけ」
「へえ。そんなにおじさんと歌いたかったのかな」
「それがどうも私をダシにして好きな女性を誘いたかっただけらしいんだ」
「あーーーね。なるほど。納得」

なんて会話をしている間に見えてきたお屋敷。我が家に帰るより
屋敷に戻るほうが落ち着けるのは何故だろう。広い部屋があるからか
家の事を直視しないですむからか。車を降りまた大きく背伸びすると真っ暗な空。
洗濯ものは亜矢を送った際に雅臣が入れてくれた。


「帰ってきたばかりで悪いけどお茶をお願いできるかな」
「はい。すぐ用意しますね」
「ありがとう」

先に部屋へ戻った雅臣。暫くしてお茶を持った亜美が入ってくる。
彼女も一緒にお茶を飲むのが何時もの流れ。
だからカップは2つ。彼女の好きなお菓子もちゃんと置いてある。

「そういえば来たばっかりの頃もこうして膝枕しましたね」
「そうだったね。耳の掃除をしてもらったんだっけ」
「あの時は何でこんな事しなきゃいけないのって思ってた」
「ごめん」

喉を潤したら約束の膝枕。心地良さそうに横になる雅臣。
亜美も優しく彼の頭を撫でる。当然だけど最初の頃とは大違い。
今思うと何でそんなにと疑問に思うくらい雅臣に反発していた。

「今はいいんですよ。もっと甘えても」
「うん」
「……それで」
「ん?なに?」
「さっきのお話ですけど。つまりおじさんと友人と他に女性も居たわけでしょう?
大学生ですもんね。それなりにいい感じになったんじゃないですか?白状しろ」
「痛いよ亜美」

頭を撫でていた手を移動させて雅臣の頬を引っ張る。何時もの亜美だ。
向きを変えて彼女を見上げる。拗ねたような顔をして睨んでいた。
これはちゃんと説明しないともっと痛い目にあいそうだ。

「人数は?」
「私と友人と女性が2人」
「ふーーん。片方はお友達の狙ってる人だからいいとして」
「それがね。怒らないで聞いてくれるかい?」
「まあ、一応」
「両方の女性にせまられてしまってね…」

ギュッ

「ほほう。ではアレですね?宜しく仲良く3人で…!オジサマやるぅ〜!」
「ち、ちがうよ…く、くるしいっ…」

怒らないって言った癖に。やっぱり怒った。怒って首を絞められた。
本気で息が詰まって顔が赤くなってギブアップ宣言してやっと解放。
もう少し時間が遅かったら気絶していたかもしれない。なんて力。

「じゃあ何ですか時間差攻撃ですか?もう、絶倫魔王」
「どうしてそういう結論に結び付けたいの?私は何もせず帰ったよ」
「ふーーーーーーん」
「私の言葉を全く信じていない顔だね」

また締められたらたまらないと身を起こし今度は亜美を膝に座らせる。
不機嫌な彼女。こうなると中々収まらなくて困る。
妬いてくれているのには少々喜びもあったりするけれど。

「ヤモメ男のいう事そう簡単に信じるなって言うのが家の格言でして」
「今考えたろ」
「まあ。昔だしどっちでも別にいいんですけど」
「困ったなあ。どうしたら信じてもらえるんだろう」

雅臣の膝に座ったまま用意したお菓子をボリボリ食べ茶を飲む。
もういいですと言う割りには触ろうとするとパチンと叩いてくるし。
これはけっこう根深いかもしれない。

「食べます?美味しいですよ」
「もらう」
「ん。ちょっと…お茶こぼす」

振り返った亜美の唇を奪い。お茶とお菓子をテーブルに置いて抱きしめる。
もっと抵抗するかと思ったが亜美は正面を向きなおし雅臣の首に手を回した。

「亜美」
「大事なのは今ですからね。今したら去勢してやる」
「だから」

言いかけた唇を強引にキスで止める。痛いくらいグッとくっ付いて。

「亜美ちゃんが1番って?当然です」
「……うん」

やっと解放されたかと思ったら、今度は優しく唇を合わせて抱き合う。
行き成りで痛かったりするけど、彼女なりの甘えだと雅臣も学んだ。
彼女を包み込むように抱きしめて何度もキスする。金曜日じゃないのが残念。


「暖かい」
「君もね」
「あの。スーパーの帰りとか危ないなって思ったら連絡していいですか」
「いいよ。兄さんから大事な娘を預かっているわけだしね」

それから一緒に風呂に入り部屋に戻ってきてベッドに入った。
これならいいかな?と手を伸ばしたらバチンと叩かれ。冷たく一言。
営業日じゃありません。強引にしても嫌われるだけ、キスして抱きしめた。

「ほんと……いい叔父さんだ」
「じゃあここから彼氏で」

こっそり手を亜美のお尻へ。

「こら!変なところさわるな!天誅!」
「痛いっ!……あのね、…亜美?股間を蹴るのは」
「おやすみなさい」
「おやすみ…」

やっぱりまだ怒ってるんだろうか。何て思いながら目を閉じた。
蹴られたのが痛くてすぐには眠れなかったけど。亜美が居るからいいとしよう。
暖かくて柔らかな体。たぶん手を出したらまた蹴られるので大人しく。


おわり


2008/12/14