あんまり変わらない?日々
「総司さん思い切って言ってもいいですか」
「ドンとこいや」
「もう寝たいです無理です死にます」
言いながらさりげなく手で体を押しのける。
「もっぺんだけ。な?中途半端に勃ってしもた」
「そ、それさっきも聞きましたから。今度はダメ。もうダメ」
が、強い力で抱き寄せられ結局胸に収まってしまう。
彼の温もりは好きだけど今はそれが恐怖に変わっている。
「あかん?」
「あかん」
「…ほなしゃあない」
まだ名残惜しそうにしながらも抱きしめる力を弱めた。
「んぅ…もう…キスもお休みです。寝てください」
「可愛い」
「寝てください。ほら、目閉じて」
「ユカリちゃん先寝て」
「…目閉じたら目閉じる?」
「閉じる閉じる」
うそ臭い気がするけれど、そこは夫を信じて先に目を閉じる百香里。
そのまま何もされずただ抱きしめられて眠れるなら安眠できそう。
だけどなんだろう凄く視線を感じる。気のせいだろうか。
総司を信じたい気持ちとじっと見られているような気がして目を少し開ける。
「おやすみなさいは?」
「だって可愛い」
ちょっと信じてたのにガン見してた。
半分疑ってた百香里だがほっぺをツネってやったが笑うだけだった。
結局彼を寝かしつけている間に自分が先に疲れて寝てしまう。
百香里が熟睡している間にいつの間にか総司も寝ているのだろう。
「このままじゃダメだ」
「ママどうしたの?」
「なんでもない。総ちゃんは?」
「玄関」
「じゃあほら司も行ってらっしゃい。頑張ってね」
「ママ疲れてる?お家のお仕事大変?パパに言おうよ」
「そうじゃないの。パパの所為…ううん、なんでもない。気をつけてね」
心配そうに見つめてくる司を送り出し家には百香里とお手伝いさんたちだけ。
それも朝挨拶をしてしまえば雑談をすることもなく淡々と彼女たちは仕事するだけ。
奥様である百香里だが愛想笑いすらなくむしろ無視しているようにも見えるくらい。
最初はそれをどうにか出来ないか自分なりにやってみたが結局何も出来ず今に至る。
「産休だからしょうがないけど働けないとなんだかソワソワするわ」
「分かります。私も最初は凄く変な感じしました」
自分なりの仕事をこなしていると電話が鳴って。千陽からだった。
それからすぐ、お土産を持って彼女は遊びに来てくれた。
家に居てばかりでは退屈だからと。
「この家には慣れそう?」
「まだ。もうそろそろ慣れてもいいのに」
「仕方ないわ。今私が住んでるマンションだって緊張しちゃうもの」
「分かります」
「貴方が完璧にやってたから。私も手は抜けないし」
「やる事がなかったから」
「でも家族が居るから。貴方は1人じゃないもの」
不安に思っても守ってくれる。心の支え。
「……でもないです」
「え?」
当然笑顔でハイというと思ったのに。思いのほか百香里の返事は暗かった。
「総司さん…寝てくれないんです」
「まあ、そこはね?お義兄さんもお歳だもの。百香里ちゃんからしたら物足りないかもしれないけどそこは」
「違うんです。そういう寝るじゃないんです」
「えっと。なに?そのままの意味?」
「そうなんです。寝てくれないんです。…起きてるんです。私は寝たいのに」
「遠足前夜の小学生じゃないんだから」
「毎晩そんなテンションです」
「……」
自分も秘書としてあの男の傍に居たから何となくそのテンションとやらは分かる。
百香里は愛情があるからそれでも困るくらいで済むのだろうが千陽は若干引き気味。
もういい歳なのだからだいぶ落ち着いた男になったと思っていたのだが。
「愛してくれるのは嬉しいです。でも、…毎晩あんな勢いで迫られると辛いというか」
「話し合いをしたほうが良さそうね」
「ダメです。話しても好きだからしょうがないで終わってしまうので」
「ほんと小学生の言い分ね」
「その辺はもうフォローできません」
「いいのよしなくて」
元気のない顔をする百香里。千陽はだんだん腹が立ってきた。
カバンから携帯を取り出すと何処かへかける。見ている百香里。
「千陽さん?」
「待ってて。私が一発言ってあげるから」
「い、いいです。そんな…傷つかない程度でお願します」
「任せて」
その一言の力強さ。ダテにあの社長の秘書はしてない。
百香里には千陽が神さまに見えた。
『どうかしましたか?何処か気分でも悪くなりましたか?』
「忙しいのにごめんなさい真守さん。私の事じゃなくて百香里ちゃんの事なの」
『義姉さんに何か?』
「ええ。社長が」
『把握しました。義姉さんには「安心してください」とだけ伝えてください』
「ありがとう。さすが真守さん」
『いつもの事です。千陽さん、無理は駄目ですよ』
「はい」
千陽は数分話しただけで携帯をしまう。それで全部分かったのだろうか。
百香里には分からない世界。とりあえず彼女からは「安心していいわ」と言われた。
これで改善されて平和な夜が訪れるといいのだけど。
「赤ちゃんが生まれたら司がお手伝いするんだって聞かなくて。迷惑をかけるかも」
「そんな事気にしないで。司ちゃんは優しいいい子だもの。総ちゃんの面倒もみてるし」
「見てるって言うのか。見てもらってるというのか」
どちらかというと後者な気がするけど苦笑いで流す。
「この子と仲良くしてくれたらそれだけでいい」
「きっと」
千陽が来てくれておしゃべりをしてあっという間に時間が過ぎていって。
やはりこのお城で1人過ごすのとでは全然違う。楽しさも。気分も。全部。
千陽は産休が終わったら仕事に復帰するのだそうだ。彼女らしい選択。
真守もそれを了承して家事と育児を2人で分担する予定とか。
「ユカリちゃんこれはどういう」
「総司さんのお布団です。で。これが私のお布団です」
なんだかよく分からないが怖い顔した真守の計らいで残業をしてきた総司。
ヘトヘトで寝室に入ったらなぜか離れている夫婦の布団。
「ああなるほどやなくて。なんで2つ布団があんねんちゅう話しやろ」
「敷きました」
「そら大変やったなあでもなくて。俺苛めてんの?」
「苛めてませんよ。総司さんはお疲れなのでこっち」
「どんだけしんどてもユカリちゃんと一緒やないと嫌やそっちいく」
「総司さん」
「…嫌か?…あかんのか」
ウルウルと泣きそうな顔で言われると辛い。怖い。結局総司に敷いた布団で寝る。
抱きしめてキスして。疲れてると言った癖にまた百香里の体に手を伸ばす。
「ママ!」
「待て待て待てぇい!ノックせんかい!」
組み敷いてキスしてさあこれからという所で思いっきり襖を開けるパジャマ姿の司。
「どうしたの司」
「ママ大変そうだから司が絵本読んであげる!」
「絵本なんかママ読まないよ」
「総ちゃんも来てくれたの」
「うん。ママが大変だって司から聞いたから。助けてあげようと思って」
さりげなく父を見る総吾。なんとなく彼は察しているような気配。
「嬉しい。じゃあ今日はみんなで寝ましょうね。ね?」
「しゃあないな」
「司まんなかいくー!」
「じゃあ僕こっち」
「ママの周りがっちりガードされとるな」
子どもたちと一緒なのはいいけれど皆ママ寄り。
何より百香里に触れられない。ちょっと不満そうな総司。
「そうだ暫くは家族一緒に寝ましょうか」
ママはそれはもう生き生きとした目で言った。
「ユカリちゃん?」
つづく