日常
-休日編-


「今日は日曜日やからな。昼までベッドでイチャイチャや」
「……」
「ユカリちゃんの可愛い寝顔見てな。もうほんま可愛い…でな」
「……」
「俺の話聞いてるか?お前ら」

不機嫌そうに尋ねる総司。対するはそれでも沈黙のまま朝食を黙々と食べる弟たち。
なあなあ、とそれでもしつこく尋ねたら我慢できなくなったのか渉が一言。

「壁にでも喋ってろ馬鹿」

と此方をみないまま実に冷たい言葉をぶつけた。それと同じくしてキッチンから自分の分と
総司のぶんの朝食を持ってくる百香里。何時に無く冷えた空気に何があったのだろうと思っていると
総司が座ったままで胸に抱きついてきた。

「どうぞ総司さん」
「ユカリちゃん。渉が苛めるんや。俺の事馬鹿って言うた」
「総司さんは馬鹿じゃありません。何でそんな酷いこと言うんですか」

よしよしとその頭を撫でてちょっと怒った顔で渉に言う。こういう時は歳上でも我慢しない。

「けどさ、朝っぱらからアホな会話を延々聞かされたら言いたくもなるだろ。しかも妄想入ってるし」
「兄さんが新婚で義姉さんとの生活が楽しいのは理解できるけど、僕たちは静かに朝食を食べたいんです」
「休みん時くらいはゆっくりさせろよ、マジで」
「お前は年がら年中ゆっくりしてるだろう」

2人の言葉に百香里は少し頬を赤らめる。もしかして総司が夜の生活の話までしゃべってはいないかと。
気分がいいと何でも喋ってしまう所があるから。とりあえずもう言わないでくださいねと言って席につく。
総司にも邪魔しちゃだめですよと言ったら大人しくはいと返事をした。実に素直。

「ユカリちゃん。ご飯食べたらデートやで」
「はい」
「じゃあさ、昼飯どうなるわけ?」
「それくらい自分でなんとかしろ。いい歳をして休日まで義姉さんに甘えるな」

休日は総司が居てくれるから家事もそこそこに百香里もゆっくりと過ごす。というよりも構わないと拗ねる。
主にゆっくり家で寛ぐかその辺を散歩するかベッドでまどろんでいるか。本格的なデートは久しぶり。
このマンションに引っ越してきてからは忙しくて。百香里からは中々誘えないでいた。

「一応聞いただけだろ。そんな突っかかんなよ。つか、あんたは何すんの?まさかデート?」
「静かに部屋で過ごすよ。頭の痛い上司と部下の顔を見ないですむからな」

総司が誘ってくれて、もちろん快諾。そんな幸せそうな2人を尻目に渉がめんどくさそうに聞いた。
どうやら彼は出かけないで家に居るつもりらしい。真守も同じく。

「お前も大変やなあ」
「だから昇進とか嫌なんだよな」
「……」

お前らだよ!という鋭い視線で睨むが2人は気付いていないようで食事を続ける。
3兄弟1番真面目で1番働き者の真守がこの家では1番ストレスを溜め込んでいるだろう。
何時か爆発するかもしれない。百香里はただ彼の空になったカップにコーヒーをそそぐ。


「お昼の準備しておきましたから、食べる時に暖めてくださいね」
「すみません、渉の所為で」
「いえ。初めから作るつもりでしたから。食べたら流しにおいといてください」

食後、総司に待ってもらって昼食の準備をしておく。昨晩のうちに粗方準備はしていたから
さほど手間はない。そこに申し訳無さそうに真守がきた。

「いえ、休日くらい自分でしないと。渉にも片づけくらいはさせますからお気遣いなく」
「はい」
「楽しんできてください」
「真守さんも、今日はゆっくり休んでください」

礼をしてすでに外で待っている総司の下へ。あんまり待たせるとまた拗ねる。
途中トイレから出てきた渉と出くわして軽く挨拶をしてから玄関を出た。

「あんなウザったいおっさんとデートなんかして楽しいのかな」
「楽しいから行くんだろう。お前も何時までもパジャマで居ないで着替えたらどうだ」
「休日まで干渉すんな」
「それもそうだな」
「あんたと顔突き合わしてると全然休まらねぇから部屋行くわ、じゃ」
「ああ」


エレベーターをおりてマンションの駐車場へ向かうとクラクションが鳴って。
すぐに探していた車は見つかった。総司が中から手を振っている。乗り込むとやっとデート。
何処に行くのかはまだ聞いていないからドキドキ。

「買い物しよ。買い物」
「何か欲しいものでもあるんですか?」
「ユカリちゃんはある?」
「そうですね。トイレットペーパーと洗剤と卵と牛乳とコーヒーと…」
「そうやなくて、ユカリちゃんが欲しいもの」
「いえ。無いです」

総司の問いにあっさりと答える。本当に何をどう考えても欲しいものなんてない。
美味しいものも食べられるしブランドには興味がないし宝石も特にほしいというわけでもない。
便利グッズとかアイデア商品なんかは興味があるけれど欲しがるほどのものでもない。

「我慢してるんと違う」
「してませんって」
「ほんまに?」
「もう。どうしたんですか急に」

百香里の返事が信じられないのかしつこく聞いてくる。いつもはそんな事ないのに。

「ユカリちゃんに不便な思い絶対させへんし、欲しいもんあったら幾らでも何でもこうたるし。
行きたい場所あるんやったら何処へだって連れて行くし。本気やからな、何でも言うてな」
「何もほしいものはありません。私は幸せです」
「……そうか」
「総司さんは幸せじゃないんですか?」
「幸せやよ。めっちゃ幸せ。…やからな、ずっとずっとそれが続いたらええなーって思てる」
「私もです」
「百香里には俺がおったらエエか。なんてなぁ〜」
「はい。エエです」

百香里の返事にお互いに頬を赤らめる。今本当に幸せだと2人同時に思った。
車は何時も百香里が買い物に行く繁華街を抜けて街でも有数のブランド店舗数を誇るデパートへ。
欲しいものはないと言ったのに、やはり買い物をするつもりなのだろうか。にしてもここは高価すぎる。
車から降りると質素な服で来てしまった自分が恥かしい。他の客と見比べて気後れする。

「ユカリちゃん」
「はい」
「そんなくっ付いたらえっちな事するでー」
「え?あ…あんっ…もう。ここ外なんですからっ」

店内に入るとなお更恥かしくて、総司にくっ付いて歩いていたらいきなり胸をもまれた。
慌てて離れて誰かに見られてないかと慌ててキョロキョロ。とりあえず大丈夫。
意地悪しないでくださいと言ったら堪忍、とあんまり反省してない表情で答えた。

「こんなんエエなあ」
「ドレスなんて着る場面ないですよ」
「パーティとかの予定ならなんぼでもあるし」
「そういう所、行かなきゃ駄目ですか?その、お腹痛くなったとかでなんとか」
「可愛いなあ。別にかまへん、俺も作り笑いしておっさんと話すんら嫌やし」

店先に飾られたシンプルな黒いドレス。惹き付けられる様に総司はマネキンの元へ。
百香里も素敵なドレスだと思って。でもついつい見るのは服ではなくて値札。
これで一ヶ月は生活できると計算してしまった。

「でも、社長夫人がパーティに出ないなんて駄目なんですよね」
「気にせんでエエって。何ならこれこうて夜ベッドで」
「もう。こんなパジャマ寝心地悪いですよ」
「いや、そういう訳やなくて…、まあええか。次行こ」
「はい」
「めっちゃエッチな服とか下着とかないかなあ」
「何言ってるんですかっ」
「流石に玩具はないやろなあ。あったら1つくらい…あってもええよなあ?」
「総司さんっ」
「あははは。めっさ顔まっかや〜可愛い可愛い」
「……もぅ」

百香里だってそれくらいの知識はある。使ったことはないけど。使われたこともない。
顔を真っ赤にさせながら次のフロアへ移動。意地悪を言う総司に怒るような恥ずかしいような。
お陰で今ではさほど周囲の視線が気にならない。
不機嫌ではあるが、総司の笑顔と堪忍なぁ、という言葉でついつい許してしまう。

「ユカリちゃん?」
「……」

手を繋いで歩いていた百香里が立ち止まったのはベビー用品のフロア。

「……赤ちゃんか」
「総司さんのお子さんってお幾つでしたっけ」
「そんなん聞いてどうすんの」
「いえ、…なんとなく」
「中3や」
「受験ですね」
「もうええやん。な?いこ」

前妻との間に女の子が1人。たまに会っているようでコソコソと帰りが遅かったりする。
何でも気さくに話してくれる人だけど、百香里に気を使ってその話題はいっさいしない。
子どもに関しても今はまだいらないだろうと話し合った。百香里は本音では欲しいけど。
総司を気遣って何もいえなくて。彼もきっと百香里を思っているはずだから。

何となく気まずい。


「総司さん?」
「今は百香里が俺の全てなんや」
「……、じゃないと許しませんからね」
「なあ、このめっさ食い込みはいった紐パンはいてくれへん?絶対に似合う」
「いやです」

何時の間にか下着売り場に流されていて、総司の手には恥かしげもなく真っ赤な紐パンツ。
あれ?あれ?と周囲を見渡すとセクシーなものばかりが置いてある。
百香里の下着はもっとゆったりしていてワイヤーも無しで値段もお安いものを使っている。
お店のはとても装飾が綺麗で胸の形も綺麗になりそうだけど値段を見て2度ビックリ。

これ買うならトイレットペーパー買えるだけ買いたい。

「やったらこっちのハイレグ」
「どうしてそんな隠す場所が少ないのばっかり選ぶんですか」
「ユカリちゃんの白い肌にはこういうのが似合う。俺の目に狂いはない!」
「そんな断言されても。……痔になったりしません?」
「なんやったら夜だけつけてくれてもかまんし」
「……それは意味があるんでしょうか」

熱心にこれがいいあれがいいとプレゼンしてくる夫にどうしていいかわからない。
1枚くらい買ってもらったほうがいいのだろうか。でも、選んでくるものは全部なんともいえないデザイン。
普通のパンツを指差してもそれじゃ魅力が半減するとかなんとか調子のいい事を言って却下する。

「ユカリちゃんの美尻にはこれや」
「……もう、恥かしいのでそれでいいです」
「まいどー」
「総司さんのすけべ…」
「知ってるくせにぃ。今夜は凄いなあ、ああ、あかん。これ以上想像したら危ない」
「早く買っちゃいましょう?ね?」
「おまけにこっちも買っとこ」
「あ。そ、それはいいですよっやめましょ?ね?それ変ですって…全部見えてますって…」

テンションあがりっぱなしでレジへ行ってしまった。1着だけのはずだったのに。
総司にしか見せないからいいといえばいいのかもしれないけど。全裸になるより恥かしい。
店を出るとまた手を繋いで歩き出す。気持ち的にはもうマンションに帰りたいくらい疲労している。

「今どきのファッションいうたらここら辺か?」
「わ。派手ですねえ」
「ユカリちゃんはどういうんが好き?」
「そうですね。とりあえずゆったりしてて派手じゃなくてポケットがあれば何でもいいです」
「えっと…、機能重視って事やね。うん」
「見た目に拘らなくても死にはしませんし、1度やるときりがないし流行とかに左右されるのは嫌だし。
定番さえ何枚か持っていればなんとかなりますって。ですよね?」
「そ、そうやね。その通りや」

女子高生や女子大生たちが多いフロア。服でも鞄でも靴でもアクセサリーでもなんでもあり。
ブランドものから買いやすいリーズナブルなものまで。ここでなら彼女も気後れしないだろう。
そう思って軽く百香里の服を見つけるつもりだったのだが、端から興味がないらしくしらけた空気。
何か見たいものあるんですか?と逆に質問されて敢え無く何処も見ないで別のフロアに移動。

「あ。紳士服ありますよ。総司さん如何ですか」
「俺かあ?んー」
「総司さんは沢山ありますもんね。これ以上増えても邪魔になるだけですね」
「まあなあ」

クローゼットは総司の服ばかり。スーツもネクタイもシャツも様々な種類のものが何着もある。
長身で体ががっちりしているから既製品では間に合わなかったりして殆どがオーダーメイド。
対する百香里の服は全部かき集めても子ども用の小さな箪笥1つで済む。
もっともっと増えていいと思っているけれど、当の本人がまったく欲しがらないから歯がゆい。

「真守さん普段着あまりなさそうだから一着…」
「な、なんで真守が出てくるん?あんなん年がら年中スーツやん」
「だからです。部屋に居るときくらいリラックスしてほしいじゃないですか」
「あかん。俺の事以外考えるの禁止や」

デートなのになんで弟の名前がでるのか。そんな深い意味はないと分かっていても嫌。
シャツを見ていた百香里の手を握って他へ行こうとする。

「嫌です」
「い、いやって…嫌って…百香里…ぃ」

百香里ははっきりと返事をしてその手を掴んでゆっくり離した。

「総司さんの弟さんなんです。大事な人の大事な家族です」
「……そうやけど」
「家族が仲良く暮らしてるって素敵でしょう?皆が皆自分の事ばかり考えていたらばらばらになるけど。
1人くらい皆の事かんがえる人が居たっていいはずです。私、そういうの得意ですから」

そう言ってにこっと笑った。

「それやったら俺にもこうて。俺の最初に選んでこうて」
「はい」
「ユカリちゃんにはかなわん、もう、ほんま…」
「何ですか?」
「……ベタぼれや…」

百香里の返事に落ち込んではいるけれど、それも彼女らしいとすぐに持ち直した。
服なんてクローゼットに沢山あるけど彼女に選んでもらうのが1番いい。
総司の服を選ぶ百香里は嬉しそうだ。これもいいあれもいいそれもいい。全部似合う、と。


「お腹空きましたね」
「俺も。どこそ店に入って昼にしよか」
「はい」
「何がええ?」
「お腹すいちゃって、今なら何でも」
「僕の固いのは?」
「それはいいです。…今は」

時計を見るとお昼。通りでお腹が鳴るわけだ。
荷物を総司に持ってもらってデパート内のレストランに入る。ここもまた高そうだ。
メニューを見てランチを頼んだらあとは総司に任せる。

「酒のめたらなあ」
「すみません、免許なくって」
「ええんや。夜乗らしてもらうし」
「もう。そういう事外で言うの禁止ですっ」
「ユカリちゃんが可愛いんやもん。しゃーない」
「調子がいいんだから」

今日は何度頬を赤らめたのだろう。総司と一緒に居るとドキドキしてばかりだ。
心臓に悪いドキドキも含めて。でも、そんな所も本当は大好き。言うと調子に乗るから黙っている。
ふと視線を感じて前を見ると此方を見つめている彼が居て。またドキっとした。テーブルの上では手を繋いで。

「何かあったらすぐに言いや?何でもええから」
「私今まで総司さんに隠し事なんてしましたっけ?」
「あ。そういやしてへんなあ。ユカリちゃん素直やもんな」
「総司さんこそ。私が見てないからって他の女性と仲良くしてないでしょうね」
「俺の女は百香里だけや」
「あやしい」
「ひ、ひどっ。今結構俺かっこええ事いうたのに…」
「ふふ」

意地悪やな、と拗ねた顔をする総司。ごめんなさいと言って笑う百香里。
そんな彼女を見ていたらいつの間にか総司も笑っていた。会話が弾む中、注文していた料理が到着。
ランチのメインであるハンバーグの美味しそうな匂いにお腹が空いていたのを思い出した。

「美味いか?」
「はい」
「よかった」


食後はデザート。頼んだ覚えは無かったのに、総司が注文してくれていたらしい。
出された日替わりケーキをほうばる。総司はコーヒーのみ。

「食べます?」
「それより今ユカリちゃんにチュウしたら甘いやろなあ」
「後で、しましょうね」

百香里の前では煙草は吸わない。結婚する前はちょくちょくすっていたようだけど。
徐々に減っていって、今ではめっきり。彼女が嫌がるというのもあるけれど、何より健康の為に。
だから食後の一服のかわりにまだケーキを食べている百香里にちょっかいをだす。

「甘い」
「苺あげますから静かにしてください」

しすぎて怒られた。



「楽しかった?」
「はい。とっても」
「よかった。結局なんもかってやれんかったけど」
「いっぱい買ってくれたじゃないですか。後ろ凄いことになってますよ」
「ユカリちゃんがほしがったんは人のもんばっかりや」

帰りの車内。途中ドラッグストアにも寄ってトイレットペーパーを買い。
またそのついでにスーパーも行って卵やら夕飯の買い物をしてきた。後ろは荷物でいっぱい。
満足げな百香里だが総司は少し不満げな顔をした。彼女の物を買ってあげたかったのに。

「ごめんなさい。総司さんの思うような妻になれなくて」
「そういう意味やない」
「でもね、本当に何も欲しくないんです。物で溢れている自分は想像出来ない」
「……百香里」

それは幼い頃からずっと苦労してきたからだろうか。いや、でもそれなら今何でも欲しがるはず。
ずっと買ってもらえなかったものとか食べたかったものとか。沢山あるはず。
羨ましかった事もあったはず。そう思っていたのだが、彼女は首を横に振る。何もいらない、と。

「欲しくなったらおねだりしちゃいます」
「うん。して」
「あ。そうだ」
「なに?何が欲しいの?」
「カーテン替えたいんです。今度一緒に見に行ってくれますか」
「ええよ。ユカリちゃんの好きな柄にしたろ」
「はい」

やっぱりそうくるか。ならば。

「そんでな。俺らの寝室だけめっさエロくするん」
「必要ないと思います」
「2人きりの時くらいはじけな。よし、決めた。音がもれんようにして」
「もう」
「ええやん。夫婦やろ?えっちも色んな種類ためそなぁ」
「……」

仕返しとばかりに彼女の顔を真っ赤にしてやる。恥かしいのかそのまま黙って俯いた。
そんな顔も可愛らしい。冗談のつもりで言ったけれど、そんな表情を見られるなら。
ちょっと気持ちが揺れる。やってみたい、と。



「え。僕にですか」
「はい。あの、部屋着にと思って」
「ありがとうございます」
「つい、勢いで買ってしまった所があるんですけど。でも、似合うと思います」
「ずるいなあ。俺にはねぇの?ねえねえ」
「え。あ。…っと」
「お前は一日中そうやってパジャマ姿だろう」

マンションに戻ると早速買って来た服を真守に渡す。とりあえず受け取ってもらえてよかった。
そこに渉も来て。そういえば彼には何も考えてなかったと慌てる。
渉は自分の服や小物は自分で買ってくる人だから。部屋着だって沢山もっているし。
わざわざ自分が買ってくる必要ないと思った。それが自分だけに無いのが不服そうな顔。

「ねえのか。…そっか」
「あ、あの、その。これよかったらどうぞ」
「何これ」
「み、ミラクルマンの人形……です、ね」
「あのさ、俺、こう見えて成人して7年経ってんだわ」

何か渡さなければと焦って渡したのはクレーンゲームで取ってもらった小さい人形。
しまった!と思っても遅い。おもいっきり不愉快そうな顔をする渉。

「渉」
「うるせえ。……ああそう、いいよ。もう」
「あの」
「何がミラクルマンだ馬鹿じゃねえの」

と言いながらも百香里の手から人形をとって部屋に戻って行った。

「すみません」
「私こそ、人形渡しちゃうなんて」
「末っ子だからでしょうか。子どもの頃からとても甘えん坊なんですよ、構ってもらえないとすぐに拗ねる。
ほっとけば機嫌も直るでしょうから気にしないでください。服、ありがとうございます。使わせていただきます」
「はい」

今度渉にも何か買わなければ。まさかあんなにも反応するとは思わなかった。
リビングに戻ると総司がソファに座って買って来たものを物色していた。
その隣に座ってその肩に頭を預ける。

「どうやった?何やしらんけど渉がぶつくさ言いながら2階あがってったけど」
「前言撤回します。私下手くそです。何もわかってませんでした」
「え?え?なに?」
「お母さんって大変なんでしょうね」
「どないしたん?急に」
「いえ。…総司さん」
「なに?そんな顔されたらムラっとしてまうやんか」
「ずっとしてたくせに」
「わかってた?」

そういうと荷物を床に置いて百香里の肩を抱くと軽くオデコにキスする。

「でも、私がんばります」
「ん?」
「だからもう少しキスしてください」
「…ほどほどにせなあかんよ?」

それから唇へ。百香里の頬を優しく撫でながらしっとりとしたキスを重ねる。

「……ん。あ。いけない」
「ユカリちゃん」
「続きは夜ですね」

もっとキスをしたかったけれど、夕飯の準備がせまって仕方なく席を外す。
百香里がキッチンへ行ってしまったから総司はまた袋を漁る。そして下着を発見。
今夜はこれを百香里にはいてもらって。想像するとまた股間が危ないので引っ込める。
料理中の百香里にちょっかいをだして怪我をした事がある。事故ではなくて叩かれて。
暫くするといい匂い。レストランの料理もいいけれど、やっぱり彼女の手料理には勝てない。
匂いにつられて弟たちもリビングに集まってきた。
さっきはかなり不機嫌だった渉も多少は直ったらしくビールを飲む。夕飯は皆で仲良く。



「夜はパーッといかなな」
「明日お仕事じゃないですか」
「そんなん言わんと。なあなあ、今夜はこれはいて」

夜は総司と2人で仲良く。

「あの、やっぱり、その、………はい」


おわり


2008/10/09