もとめるもの


視線を彼から外し窓に向けるとカーテンの隙間からは何も見えない。真っ暗闇。
何度目かの絶頂を向かえ疲労で自分からはもう何もできなくなり成すがまま。
普段ならそろそろ限界で疲れてくる頃なのに。気遣って休憩してくれるのに。
余程体力が有り余っているのか、嬉しかったのか離してくれる気配は無い。

「明日学校なんですから」
「ごめん」

亜美もこのまま彼に流されてもいいかなと思ったが明日の事を考えそれはやめた。
雅臣の体をあまり力は入らないが両手で押して休憩を求める。
疲れた様子の彼女を見て自分だけが夢中になっていた事に今更気付いたようで
何処か恥かしそうに身を退けた。

「そんなに良かった?」
「それはどちらの事かな。君の言葉?それとも君の体?」
「どっちも」

このままじゃ恥かしいからとすぐ布団をかぶり雅臣に腕枕を要求してピッタリとくっ付く。
行為をやめてしまったら一気に体が寒くなった気がして。暖房はついているのに。
優しく抱きしめられると素肌同士温まる。機械的でなく優しい温もり。

「良かったよ。両方とも」
「そう」
「今更ながら実感した。君は私の恋人なんだと」
「じゃあ今までは何ですか?返答によってはタマを蹴りますよ」
「私は自分の中に勝手に壁を作る性質があってね。昔からそうだったんだけど。
今もそうだ。君を愛しているけど君は何時か居なくなるんじゃないかと思って。
兄さんの話を聞いてその時が来たと思った。でも、それも良いとおもってた。
苦しみが来るのは早いほうがいい、見えないことに怯えなくて良い」
「雅臣さん」

雅臣の胸に顔を埋めていた亜美。でも彼の言葉に顔を上げて真っ直ぐ見つめる。
ちょっと口を突き出したらキスできそうなくらいの近距離。でもそんな場面じゃない。
とても寂しそうな瞳。たまにそんな瞳をして亜美の胸を苦しませる。

「そう思っていたのに。無理やりにでもそうやって自分を抑えるつもりだった。
でも、君が私の傍に居たいと言ってくれた。私を必要としてくれる。それがとても嬉しかったんだ」
「……そうだよ。私には貴方が必要。貴方には私が必要?」
「必要みたいだ」

お互いに苦笑すると亜美からチュと軽く唇にキスする。
交際期間はそう長い訳ではないがもうずっと一緒に居るみたいな気分。
雅臣も同じ気持ちなんだろうか。亜美には彼の深い所はまだ読み取れないが
彼の一言でそれでもいいかな、なんて楽観視してしまっている自分が居た。

「所でお腹空きません?」
「確かに」
「冷蔵庫に何かなかったかな。買い物行ってないから」
「何かとる?」

キッチンで既に冷え切っているであろう焦げ焦げ野菜はもちろん却下で。
冷蔵庫に何があったろうかと記憶をめぐらせる亜美。
店屋物で済ませるのが1番手っ取り早いし味も保障されて万々歳だが。

「でもあんまり取りすぎてお向かいの婆に嫌味言われたくないしな」
「何か言われたの?」
「言いそうな顔してるじゃないですか。あれは絶対裏でコソコソ言ってますよ」
「そんな想像で人を悪く言うものじゃないよ」
「おじさんは知らないから。怖いんですよ?おばさんネットワークって」
「……そう、なの?」

うつ伏せになって肘をつきベッド脇においてある時計を見つめる。ただいま午後8時。
雅臣も同じ体勢になり亜美の布団から出た肩に冷えるよとキスする。
それを無視し、この辺りの事をあんまり分かってない様子の彼をギロっとにらみつけた。

「お隣さんの食事メニューから子どもの交友関係に学校での成績や態度。
おまけに進学情報に就職情報に結婚するかしないか。
旦那さんの会社名や役職やおおよその給料まで!もう何でも飛び交ってますよ」
「亜美もそのネットワークを利用しているの?」
「まさか。それに参加するってことは私の情報も行きかいするって事じゃないですか。
もう家の近所じゃ知られてるかもしれないけど。ここでまでバラしたくないです」
「そうなると私の情報は漏れているのかな」
「分かりませんよー何処で漏れるか」
「怖いなぁ」

今までそんな事に気を使ったことなど無かったからよくわからないけれど、
亜美が言うと余計怖く感じる。気をつけてくださいねと言われた。
ただ、雅臣にはどうやって気をつけたら良いのか今ひとつわからないが。

「よし。今夜は夜食用に買っておいたラーメン食べよう」
「……」
「文句、あります?」
「無いけど……夜食用って」
「はい?」
「いえ」

今夜の夕食はカップラーメン。本人曰く特売で安かったからつい買ってしまったとか。
でも夜食用ってことは夜こっそり1人で食べる気満々だったのではと思ったけど。
それを言うと怒られそうなので黙って食べた。

「金木犀まだまだ咲きませんね」
「咲くのは秋だからね」

風呂に向かう途中の廊下。何の匂いもしてこないし窓もしまっていたけど。
亜美はなんとなく気になってしまった窓から庭を覗いた。
咲く気配も元気もない木。咲く季節があるのだからそれが当然なのに何だか寂しい。

「金木犀が咲くまでには自分の進路ちゃんと見つけなきゃ」

父は家の事は心配しないで夢を諦めるなと言ってくれた。
ちゃんとした保母さんになるには進学しなければならない。
入院中の母の事もきになるし父だって無理してあまり元気そうには見えなかった。
弟妹も不自由な生活で我慢しているのに。自分だけが夢に向かっていいのか。

「亜美」
「おじさんの子どもの頃の夢って何?」
「私の?」
「そう。なに?やっぱり先生?」

黙ってしまった亜美に心配そうな視線を向ける雅臣。
やはり家に帰ったほうがいいのかもしれないと思いながら口には出せずに居た。
お互い探りあいの中、亜美がニコっと笑って問いかける。子どもの頃の夢。

「ずっと医者になりたかった」
「医者?へえ。でも、おじさんならなれたんじゃないですか?」
「進路指導の先生も君ならどんな難易度の高い医大でも合格できると言ったよ」
「じゃあ」
「タイミングが悪かったんだ。母の病が深刻でね、治る見込みがないと家に帰された。
もしかしたら母が望んだ事だったのかもしれない。偉い医者になって母を救うはずだったのに。
金銭的にも誰の手も借りず蔑まれることなく母を守れると思ったのに」
「……ごめんなさい」

悪い事を聞いてしまったと俯く。雅臣が母を大事にしていた事は双子たちの母から聞いた。
普段は何を言われても大人しく耐えていた彼が唯一激怒したのは母の事だけだ。
自分の家の事ばかり考えいたけれど、彼の家も複雑。

「でもね、それじゃ駄目だったと思うんだ。医者は隔たりなく皆を救う使命がある。
私が救いたかったのは母だけだ。そんな自己中心的な私がいい医者になどなれない。
今の仕事のがよっぽど向いていると思うよ。だから、気にしないで」
「……そうですね。女子大生にもおモテになるし」
「君が女子大生になったら大学を移ろうかな」
「何言ってるんですか。私は」

まだ決めてない、と言いかけた所で亜美の手を引き寄せ体を抱きしめる。

「夢を失うという事は今はまだ実感できないかもしれないけど必ず後悔するんだ。
諦めてはいけないよ。君が守りたい家族の為にも」
「ちゃんと将来の事考えます。悔いがないように」
「それがいい」

雅臣の言葉には妙な説得力があって反論も何も出来ないまま素直に答えた。
家の問題を言えばきっと自分の資産を亜美にと言い出すだろうし。
叔父姪だけど今この時は恋人同士。金の貸し借りなんて話しはしたくない。

「……」
「なに?」
「私たちの将来はどーーなっちゃうんでしょうね」
「どうかな。私は全知全能たる神さまじゃないからわからないけど。
でもこれから起こる事を予期するのは出来るよ」
「なんです?」
「君は私とお風呂にはいる」
「そうくるか」

笑いあって彼の言うままに一緒に風呂に入る。さっきあれほど愛し合ったのに
中でも何かとちょっかいをかけてくる雅臣に逆鱗チョップをかまし大人しくさせた。
明日は学校なんだと何度言えばわかるんですか、と。



「え?進学するかもしんないって?」
「うん。まあ、かも、だけど」

翌日。1週間の始まりというウツな朝。何時ものように愚痴りにきた由香に
自分の気持ちを打ち明けてみる。両親や叔父さんに相談するのもありだけど。
やはり同い年で同じ状況下におかれている友人の話も必要な気がして。
彼女の場合は経済的余裕はあるけど。

「そっか。亜美なら今から勉強しても大丈夫だよ」
「……まあ、行くとしても短大だろうけど」
「私も亜美と同じ所受けようかな」
「まだ行くって決めたわけじゃないし」

でも父にも雅臣にも後押ししてもらって気持ちは大いに揺らいでいる。
由香はもうどれくらい進路が決まっているのだろう。
怠け癖があるけれど成績は中の上。そう高望みしなければ大丈夫だろう。

「遊びに行くだけならやめとけ時間と金の無駄だ。だって」
「両親?」
「ううん。彼氏。何様って感じじゃない?そんなのこっちの勝手なのに」
「それは言いすぎじゃ」
「でしょー?」
「いや、あんたが」
「何でよ」

また彼氏と揉めたらしい。しかも進路の事で。
由香は余計な事を言うなと怒っているようだが彼のいう事も一理有る。
大学へは遊びじゃないんだからと言うが気楽に考えているのは確かだ。

「進学したら彼とどうするの?続ける?」
「この際きっぱり別れるって手もあるんだけど。愛着あるっていうかね」
「結局好きなんじゃない彼氏の事」
「まあ嫌いだったらこうも続かないわな。嫌な所は多々あるけど」
「よくわからん」
「亜美ちゃんはまだまだオコチャマでちゅからね」
「殴るぞ」

先生が来て由香は席に戻る。馬鹿にされて悔しいけど確かに恋愛に関してはまだまだ子どもかもしれない。
なのに彼と最後まで行ってしまったのが恥かしい。そんなもんなのかどうかも知らない。
悩みは尽きないしまだ決断できない亜美だったがとりあえず授業に専念する事にした。


「何だよ」
「見るなよ」
「君たち日曜日は楽しかったかい?」
「まあね」
「まあな」

昼休み。弁当を食べ由香の愚痴を聞くのは嫌なので教室を出て双子の下へ。
彼らも食事を終えて2年の教室を出てきた所だった。
昨日はまんまと騙してくれた2人だが、まだバレてないと思っているのかとぼけた顔。

「あんたたちは卒業するまでここにいるの?おじさん連れて帰るまで粘る?」
「うるさいな。そんなの俺たちの勝手だろ」
「お前には関係ない」

何時もの何倍も冷たい返事。
もしかして自分たちの思惑通り母と雅臣の距離が縮まなくて苛立っているのか。
叔父さんの心を掴んだまま離さない亜美に敵意むき出し。

「亜矢が悲しむだろうなーって思って。正志もあんたたち慕ってるみたいだし。
ずっと居るならあの子らも喜ぶと思うけどさ」
「亜矢ちゃん俺の事心配してる?」
「恒」
「……ごめん」

でもやっぱり亜矢の事は気になるようだ。

「おばさんどうだ。体よくなったか」
「本人は大丈夫って笑ってるけど。どうかな。良くはない、かもしれない。
亜矢は家で頑張ってる。お母さんの代わりしてる」
「お前1番上なんだろ。姉さんだろ。何で亜矢ちゃんにばっかりやらせるんだよ。
そんなに叔父さんと暮らしたいのか。何時でもあえるだろ。家族大事じゃないのか」
「恒、やめろ」
「でも」

自分を兄と慕ってくれるまだ幼い亜矢が家を守っている。
本来なら亜美の役目なのに。のうのうと広い家でいい仲のおじさんと2人。
それが恒には許せないようで今にも食って掛かってきそうな勢いだ。
それを冷静に止める慧。亜美はただ何も出来ずただ立っているだけ。

「叔父さんがそんな冷血な女好きになるわけない」
「だけど」
「1人で頑張ってるわけじゃない。父親も正志もいる」
「……そうだけど」
「今度見舞いに行きたい。いいか」
「いいよ。病院とか部屋とかは後でメモ渡す」
「ああ。行くぞ恒」
「うん……」

慧に引っ張られる形で恒は亜美の横を通って何処かへ行ってしまった。
自分でも強く悪いことだと感じていたけれど、人から言われると余計辛くなる。
我慢はしていたけどちょっとだけ涙が出て慌てて窓から外を見た。
涙を乾かしてくれる風は頬が痛いくらい冷たい。

「藤倉?」
「……」
「気分悪いのか?大丈夫か?」
「あ。うん。大丈夫」
「そうか?あんまり顔色良くないけど」
「平気。ごめん」

落ち込む亜美。そこへクラスメイトの男子が通りかかって声をかける。
中学も一緒だった人でそんなに仲はよくないがよくクラスが一緒になった。
だからか多少は話をする。でもそれだけ。

「藤倉は進路決めた?今さ、先生に呼び出しくらって。俺だけ進路決まってないって。
皆すごいよな。ついさっきまで何も考えてなさそーにしてたのに。あ。悪い」
「ううん。目標あるって人もいるだろうけど、直面してみてやっと考えるって人もいるよ」
「だよな。俺何も考えてなくてさ。自分の将来とかよくわかんないし」
「夢とかないの?」
「別に。その辺の会社入ってサラリーマンでもするかな。高卒じゃ高望みは出来ないけど」
「進学は?」
「俺そんな頭よくないし。今からじゃ難しいって先生も言ってた」
「そう」

自分は今の所進学ではなくて就職にマルをつけてしまったから呼び出しはない。
亜美の学力なら今ならまだ間に合うと由香は言ってくれたけど。
彼の話を聞いていたらちょっと自信喪失。クラスメイト歴の長い亜美は知っている。
彼はそこまで勉強が出来ないわけではない。今頑張れば確実に入れるはず。
進学ってそんなに難しい世界なのだろうか。由香大丈夫か。

「何て、藤倉に言っても仕方ないか。ごめん」
「ううん。私も就職にしようかなって思ってて」
「お前頭いいのに」
「うち、貧乏だから」
「………お前ん家もか」
「え?」

もしかして彼の家も?でもそんな風には。

「正直に白状すると親に進学は諦めてくれって言われたんだ。
で、今先生に進学から就職にかえてくれって言ってきた所だったわけ」
「でも進学したいって気持ちがあるなら奨学金が」
「金が必要なんだ」
「……」

シンプルだけど胸に来る強い言葉。そう、亜美の理由もそれだ。お金が欲しいから。
進学して学びたいという気持ちは強いけど。それよりも金がほしい。
彼の気持ちは亜美にはわかる。そうやって彼も色んなものを諦めているんだと。

「この事は内緒にしてくれ。藤倉だから話したんだ、お前だから。俺」
「え。……なんで」
「……気づけよ」

そういうと恥かしそうに俯き今ひとつピンと来ていない亜美を残し先に教室へ。
その後ろ姿を見つめながら、揺れ動いているのは自分だけじゃないんだと妙な安堵。
彼の家が自分の家と同じように苦しい。お互いにそれは良い事じゃないのに。

「みーちゃったみーちゃったー」
「あ。由香」
「何よあんた。彼氏ってクラスメイトだったわけ?年上じゃなかったんだ」
「違うよ。ただ世間話ししただけ」
「そーーかなーーーー」
「うるさい」

そこへトイレの帰りだという由香が声をかけてくる。ニヤニヤ笑いながら。
さっきの彼を亜美の彼氏だと思っているようだ。
クラスメイトなんだったらもっと早く紹介してよとバンバン肩を叩かれた。



「さっきは恒が悪かった」
「ううん。……当然だよ」
「これ貰ってく。行く前日くらいにお前に連絡するから」
「うん。お母さんに言っとく」

放課後、約束通り慧に母の居る病院と病室をメモした紙を渡す。
恒の姿はない。亜美と顔を合わせるのがいやなのかもしれない。

「亜矢ちゃんの事本当の妹みたいに思ってるんだ」
「すごい懐いてるからね亜矢も」
「あいつ、あんなに人から必要とされたことがないから。それが嬉しいんだ」
「……慧」

亜矢だって頼れる年上の兄さんに憧れていたんだと最近になって気付いた。
自分はちゃんとお姉ちゃんとしてやってきたつもりでいたけど。
全部カバーできるとは思ってないし自分は女だから兄にはなれない。

「叔父さんを連れていけなくても暫くしたら帰る。俺たちの家はアメリカにあるから」
「そう」
「昨日叔父さんと母さんを強引にデートさせた」
「知ってる」

初めは驚きはしたけれど、来て早々自分を閉じ込めてくれた従弟君たちだ。
それくらいあるかもしれないし何もなかったのだからもう怒る気は無い。
慧も謝るという気はない。外からは部活で賑やかな声。

「少しでもいいから発展してくれたらって思ったけど。何もなくて結局駄目だった。
その時は何で駄目なのか分からなくて悔しかったけど、後で母さんに言われた」
「なに」
「叔父さんとは互い求めてるものが違うんだ。それが合わないと駄目だって」
「求めてるもの?」
「母さんが求めてるのはただのパートナーじゃない。家族を守ってくれる父親なんだ。
俺たちにはもうそんなの要らないって言ったけど。母さん、笑ってた」

慧にはその微笑の意味が分からなくてずっと考え込んでいた。
本当の父親はもうこの世には居ない。何より母親を詰り蔑ろにした最低な奴。
いい思い出なんてないだから自分たちには不要。なのに母は父が必要だという。
それも叔父さんでない人。アメリカで何時帰るのかと心配しているというあの男。

「あんたたちも私と一緒。意地っぱりだもんね」
「お前と一緒にするな。でも、……意地は張ってたかもな」
「そんな顔しないで。そだ。今日家に来る?知っての通り狭くて汚いけど。
亜矢も正志も喜ぶと思うし。お父さんにも紹介したいしさ」
「いや。今行ったら忙しいだろうから。また今度」
「そう。じゃあ、何時でもいいから病室に顔見せてあげて。お母さんあんたたちの事
すっかり気に入ってさ。遠い親戚の子っていうよりもう家族だから」

素直なのは何処かで叔父さんに諦めが付いたからだろうか。母親との話しの所為?
決して交われないかと思った双子たちとの線ももしかしたら繋がるかもしれない。
従姉弟同士もう少しだけ仲良くなれそうな気がする。何度目かの期待が膨らみ。

「……お前さ」
「なに?」
「本当にあの人の子か?亜矢ちゃんの姉か?何でお前だけ乱暴ズンガメなんだ」

そしておなじみの結末。やっぱり無理。こいつらとは合わない。合わせる気もなさそう。
しかもさりげなくズンガメから乱暴ズンガメにランクアップしているし。
ムカっとした亜美だが怒りだす前に恒が待っているからと先に去って行った。
仕方なく1人ブツブツ文句を言いながら校舎を出る。途中までいい感じなのに。
何時も最後で騙される。


「藤倉」
「あ。今、帰り?」
「ああ。そっちも?」
「うん」

門を出て道路に出た所で声をかけられる。振り返ると昼間話をしたクラスメイト。
どちらがいう訳でもなく何となく一緒に帰る。途中まで方向が一緒らしい。
男子と一緒に帰るなんて初めてだ。少し距離を置いて視線も合わせず歩く。

「じゃあ俺こっちだから」
「じゃあまた明日」

特に弾んだ会話もなく途中の交差点でさよなら。もう少し話しかければよかったかと
亜美は思ったもののかといってどんな話題がいいかもわからない。
本当に些細なきっかけで彼とまた話すようになったから。手を振って踵を返す。

「あのさ、その、俺、もう少し親と話ししてみようかと思うんだ」
「進路の事?」

慌てたように彼が話しかけてきて。
亜美は歩き始めた足を止めて彼の方を向きなおした。

「まあ、無理だろうと思うけど」
「やるだけやろうよ。後悔するならやるだけやってからでもいいと思うし」
「だよな。……ありがと、引き止めてごめん」
「ううん。お互い頑張ろう」
「あ、あのさ。変な事聞くけど。藤倉ってその、……彼氏とか居るの」
「居るよ」
「だよな。じゃあ、また明日」
「うん」

意味深な質問にあっさりと返事をして再び屋敷へ向かって歩き出す。
自信過剰かもしれないけど、もし彼にそういう気があって告白なんてされると困る。
性格もいいし顔も悪くない。違うかもしれないけどまた出会いを逃したなぁ…とため息。

「そんな顔して歩いていると変なのに捕まるよ」
「ご自分の事ですか?」
「酷い言い草だ。君らしいけど」

屋敷へ向かう途中の坂道を前にして聞き覚えの有る声に呼び止められる。
振り返れば車に乗った叔父さんの姿。今帰ってきた所なのか。
でも何時もより遅い気がする。道路脇に車が止まり亜美もそちらへ向かう。

「で。何ですか。乗せてくれるんですか」
「乗せてあげてもいいけど。その場合行き先は別だよ」
「これから何処か出かけるんですか?」
「さっきの彼について君から色々と聞きたいと思ってね。まあ家でもいいけど」

見てたのか。何も疚しいことはないけどこうも笑顔で言われると怖い。
曖昧に返事をしたってこの人は満足しない。1から10まで説明しないと駄目。
それは痛いほど分かっているので静かに車に乗り込んだ。

「……出来たら暖かくてふかふかで食事の心配が不要な所でお願いします」
「それは私も賛成だ」


暖房の効いた暖かい車内。冷えた足も手先もジンワリ暖まる。でもそれ所じゃない。
昨日さんざんやったじゃないですかと喉元までその言葉が来るがこの状態で何も言えるはずもなく。
車は何処かの高級そうなホテルへと入り。

「だから同級生なんです」
「それは先ほど聞いたよ。同じことは言わなくていい」
「……じゃあ何言えばいいんですかそれ以上無いのに」

亜美の言う通り暖かくてふかふかのベッドがあって食事の心配もいらない部屋。
入るなり脱がされて亜美だけ裸。いかに早く機嫌を直させて回数を減らせるかが焦点。
最後の抵抗とばかりにうつ伏せになったが耳元では雅臣からの質問攻め。

「君も知っての通り私はとても嫉妬深い。それくらいで嫉妬するのもどうかと自分でも思うけど」
「思うならやめてくださいよ」
「昨日はあれだけ私を求めてくれたのに今日はもう別の男と歩くのが許せない」
「ハッキリ言いますね。貴方らしいけど」

雅臣の手が肩から腰、そしてお尻へ。丸いラインを指先でなぞりゆっくり間へと伸びる。
暖かいから布団はいらないねと言われてその体は何も隠されていない。
微妙なラインを何度もなぞられてくすぐったい様な感じてしまうようなゾクゾク感。

「君には素直なんだ」
「貴方が求めてるものって何ですか」
「私が求めているものか。……そうだな」

といいながらも指はお尻の割れ目から中へと入り軽くかき回した。

「ぁっ…あんっ……もう」
「うつ伏せだからだよ。でも、こういうのもいいね。君の反応も何時もと違う。
もしかして後ろからの方がお好みかな?」
「何言ってるんですかもう!」
「確かめてみよう」

新しい遊びを発見した子どものように嬉しそうな顔をして身を起こす。
確かめてみよう、という言葉に何となく嫌な予感がして起き上がろうとした亜美だが。
既に後ろにまわりこんだ雅臣によって腰をつかまれて腰を浮かせ四つん這い状態に。

「いやです。恥かしい」
「なら仕方ないか……残念だな」
「……真っ暗なら、まあ、……いいけど」
「電気消すよ」
「……ほんとすけべおっさんなんだから」

電気を消して間近で見られているという恥かしさを堪える。
仰向けの時だって見られるのに。やっぱりお尻を突き出している格好の所為か。
何度か雅臣の手がお尻を撫でてきて彼の息がソコに当たってビクっと震える。

「もう少し足を広げるよ」
「……」
「……亜美」
「ぁあああっ」

暫くは撫でるだけだったのに、足をもう少し広げソコが良く見えるようになって。
亜美がまた恥かしいと思うより早く雅臣の舌が中に入ってきた。
その動きはまさに無我夢中。強くしゃぶりつかれるのは亜美には快楽が強すぎる。
お尻を振って逃れようとするがしっかりとつかまれて動けず。ただ枕に顔をうめ喘ぐ。

「……」
「あっ…あぁ…ぁっ……あぁっ!」

あっという間に果てて力なく倒れた。

「亜美大丈夫?」
「……大丈夫じゃないですよもう」
「そんなに良かった?」
「2度としないでください。したら絶交」

うつ伏せのまま顔を見せてくれない亜美。これはまたやりすぎたろうか。
機嫌直してとお尻に手を持ってくとぱちんと叩かれた。

「それは困る。もうしない。だから顔を見せて」
「上に乗っかるつもりでしょう」
「だって私はまだ」
「……もう」

それでも最後は振り向いてくれる。見詰め合って彼女のオデコにキス。
ついでに目が慣れて見えてきた彼女の美味しそうな胸にも甘噛みして。
ソコへまず指を入れてみてさっきの愛撫で入るのは大丈夫と判断しゆっくり中へ。

「私が求めるもの……か」
「あっ…ん……何ですかっ…?」
「ん?聞こえた?」

亜美の両足を掴み奥へ。何処を突けば彼女が感じるのかもう把握できている。
強くそこを攻撃したりかと思えばゆっくりとした動きで緩ませたり。
亜美は雅臣の動きに翻弄されながらも彼の答えを待っている。気になる。
彼が何を求めているのか。それは亜美が用意してやれるものだろうかと。

「特にないな」
「無いんですか!」
「うん。ない」

あっさりとした返事。冗談とか亜美を気遣ってとかではなさそう。
突き上げられていることを忘れ大きな声を上げた。

「ふぅん」
「君が居るのに何を求めるの?」
「……もう。上手いんだから」
「さ。この話はもういい。……あとは、君と私だけの世界だ」
「……はい」



夕飯は豪華ディナーを2人前。おまけにデザートは3人前。もちろんこれは亜美1人分。
雅臣の機嫌も治った所で今度は亜美の攻撃とばかりに文句の嵐。
屋敷に帰る頃にはもう夜10時。洗濯物は冷たいし宿題は出来ないし。
何より今はそんな事してる場合じゃないでしょうとキツく叱った。


翌朝。

「ね。亜美、思ったんだけど」
「何ですか」
「1週間の間に家に戻る日を決めたらどうだろう。金曜日には居て欲しいけど」
「燃えるゴミが火曜日と金曜日、燃えないゴミが水曜日、金曜日はおっさんの相手。
なので家に戻る火を決めるとしたら月曜日か木曜日ですね」

朝食を食べながら唐突に雅臣が言う。まだ昨日のことを引きずって不機嫌そうだった
亜美だが一応話しは聞いてくれた。
いきなり家に帰る日を決めるなんて何かあったのだろうか。怒りすぎた?

「燃えないごみは私が出すよ。だから水木と帰ったらどうかな」
「いいんですか?」
「うん。寂しくはあるけど、君がずっと居ないわけじゃないから」

でも、その申し出はありがたい。

「その間に浮気し放題ですね」
「亜美を信じてるから」
「貴方の、お話です」
「え。私?」
「そう」
「私は大丈夫だよ」
「そういうヤモメ男の言うことは信じちゃいけないっておばあちゃんが言ってました」
「……じゃあ、夜電話するよ。必ず」
「絶対ですよ。なかったら浮気したと判断します」
「そんな。……私は君さえ居れば」
「はいはい時間ないんでさっさと食べてくださーーーい」

さっそくメールをして今週から水木と家に帰ることにしよう。
帰ってきて欲しい父親はもちろん喜ぶだろうし弟妹も同じく喜んでくれるはず。
母も自分が家に居れば安心してくれるかな。

「無いとは思うけど、亜美こそ浮」
「はぁ?」
「いってきます」


おわり


2009/01/19