家族


自然に。あくまで自然に。

「お姉ちゃんどうしたの?」
「ふふ」
「お母さん…?」

本人は普通を装っているが幼い妹が見ても姉は「ヘン」。
母親に理由を聞いてみるがただ笑うだけで何も返事はなかった。

「そろそろ運転をかわりますよ」
「しかし」
「兄さんの場合、着いてからが本番でしょう」
「……すまん。頼む。場所は」
「分かります」

トイレ休憩によった道の駅。
子どもたちはトイレに駆け込んで今はまた新しいジュースを選んでいる。
運転手である父は大きく背伸びをして少し疲れた様子。それを見計らい
ずっと助手席に座っていた叔父さんが運転手交代を申し出た。
それを後ろでじっと眺めている亜美。どうしてもじゃないけど、でも、
彼が運転手をするのなら助手席に座りたいような気がしないでもない。

「でもこうなるよな」

しれっと父親が助手席に座ってコーヒーを飲んでいる。
叔父さんと何やら楽しげに会話なんかしたりして。
別にどうしてもじゃなかったけど、なんか、イラっとした。

「なに?」
「何でもない。ほら。正志。ご飯前にそんなぼりぼり菓子食べないの」
「大丈夫俺いける」
「正志やめなさい」
「はい」
「あんた何で亜矢にはそう素直なのよ。あんたが兄ちゃんでしょうが」

そして私が姉ちゃんじゃない。
いつの間にか姉弟のパワーバランスが完全に壊れている。
呆れる亜美。お菓子をしまう正志。亜矢は母親を気遣っている。

「大丈夫です。お母さんは元気です。だから、そんな顔しないの」
「すぐ言ってね。こどもに嘘ついちゃいけないんだよ。絶対なんだよ」
「はいはい」

計画は半年くらい前から娘と父で企てていた。
でも母の調子が安定せず何度も流れてそれで今にいたる。
結婚後に2人が旅行に行った場所へ。もう一度。今度は家族で。
母が欠けることは意味がない。だから慎重になっていた。

「亜矢。そんな睨まないの。お母さん困っちゃうじゃない」
「わかった」
「おっきー風呂あるかな!泳げるかな!」
「正志君は中学生でしょう?中学生はそんな無邪気な事しないでしょう」
「中学生でも泳ぎたい…母ちゃん…駄目?」
「他の人の迷惑になることは駄目です」
「はい」
「だから何であんたは」

言うのも疲れた。もういい。諦める。

「毎度の事だが…騒がしくて申し訳ない」
「家族旅行ですし、これくらいがちょうどいいんじゃないですか?」
「そ、そうかな。ははは」

騒がしい後ろとかわって静かな運転席。
男同士というのはやはりそこまで盛り上がることもない。
特に共通点もないいい歳の2人では。

「義姉さんと散策をしてきてください、子どもたちは私が見てますから」
「いや、それは。そんな事の為に誘ったわけじゃないんだ」
「思い出のコースがあると聞きました。行かれるつもりなんでしょう?
子どもたちが居てはその思い出に浸るのは難しいと思いますし。
見ているといっても子どもたちはみんな良い子ですから手間もないですよ」
「…けどなあ」
「私のような出不精は連れて来てもらっても部屋で本を読むだけです。気にしないでください」
「……すまん」

申し訳なさそうにしながらもどこか嬉しそうにしている兄に少しほほ笑む。
とても素直な人。分かりやすい。そして情が深い。父娘そっくりな所。
大人数の為家のポンコツではたどり着けるか怪しいとレンタルしてきた車は
無事に宿泊先へと到着。荷物を持ってチェックインを済ませる。

「お父さんとお母さんは一緒で」
「そうねえ。でもお母さんは亜矢と正志も一緒がいいわ」
「え。待ってよ。それじゃ部屋割りが」
「雅臣さん使ってください」
「え」
「うちの子たちはみんな寝相が悪くて。きっと眠れないと思いますから」
「亜矢そんなことないもん。正志だもん」
「俺だって悪くないし」
「いいから。来なさい」
「はい」
「はい」
「あなたもよろしいですね」
「はい」
「ほんとにこの家にはイエスマンしかいないのか」
「亜美もいいですね」
「はい」

父と母の為にとった部屋を叔父さんに振り分けて残りが入るはずだった
広い部屋を藤倉家が使うことに。予定通りにはいかなかったが
亜美としてはそこまで悪い気はしない。叔父さんと別れて部屋に入るなり
子どもたちは備え付けのお菓子に飛びつき。母は父にお茶を入れて。
父は疲れた顔をして椅子に座った。でもどこか満足げ。

「ねーちゃん何処いくの」
「え?!…あ。ふ、風呂だよ風呂」
「今からいくの?もうご飯だけど」
「そうね。後になさい、大丈夫。時間はあるわ」
「…は、はい」

焦っている気持ちを母に見透かされたようでちょっとドキっとした。
身支度を整え旅館内にある食堂にて叔父さんと合流し昼食。
バイキングとあって正志は気合を入れて何度も行き来していた。

「気取ってのんびりコーヒーとはいい度胸だ」
「待ってたよ。ここに座って」

ご飯を食べたら各自自由時間。両親は予定通り散策へ向かい。
子どもたちはお土産コーナーへ突撃。
亜美は平静を装って彼の隣に座る。

「…夜」
「待ってるよ。首を長くして」
「うん」
「今からでも良さそうな顔だね。でも、妹弟をみていないとね」
「分かってますとも。どうせしばらくしたらゲームしたいとか言い出すんです」
「ああ、確かにゲームコーナーがあったね」
「…来てくれるとはあんまり思ってなかった」
「まあね。あまり乗り気ではなかったのは認めるよ」
「じゃあなんで?」
「なんとなくね」
「嘘くさい」
「さあ。彼らにこの500円玉を2枚渡して私たちも庭の散策でもしようか。
ここまで来たご褒美を君から頂きたい。メインは夜として、ね」
「…あ。はい。えと。はい」

ほほを赤らめる亜美に駆け寄ってくる妹弟。
言うセリフはもう分かっている。だから先に硬貨を握りしめ
言う前に渡してあげた。お礼を言うと物凄い速さで消える2人。
予想はしていたがちょっと面白かった。


もうちょっと続く


2014/03/09