寒い日
パパとママがデートに行った夜。
司は特に寂しがる様子はなくリビングでお絵かきに夢中。
せっかく相手をしてやろうと思ったのに逆にかまってもらえず
暇な渉はソファに寝転んでテレビ。真守は静かに読書。
「ねーマモー」
「何だ」
隣に座っていた真守の太ももをペンで軽くつつく司。
「司のかわりにおトイレ行って来て欲しいなー」
「我慢してたのか?早く行っておいで」
「やだ…行きたくない」
「もう怖いのか?渉なんてまだ風呂にも入ってないぞ」
「うっせえ俺を出すな」
夜1人でトイレに行くのが怖くて起こされる事はある。
でもまだそんな時間ではないし部屋も明るいのに。
我慢してモゾモゾするが中々立ち上がろうとしない司。
「怖いんじゃなくって。寒いからやだ」
「あー分かるわ。もう廊下とここじゃ別世界だよな」
「だからといってトイレを我慢していたら体に悪い」
「じゃあじゃあマモの上着かして」
「僕のは大きすぎるから自分の上着もっておいで」
「上いくの寒い」
「それすら嫌とかどんだけ無精なんだよ」
「お前が言えた事か」
「じゃあ俺の貸すから行ってこい」
「わーい!」
渉のカーディガンを借りていざ出陣。着ていた人のぬくもりも残っているからなおよし。
ただ残念なのは大きすぎて地面についてしまう事か。
裾を引きずりながら司は寒い廊下を歩き無事トイレへ。
「なあ。廊下にも暖房つけようぜ」
「許可申請が通るといいな」
「……。司に温かい部屋着かってやる」
「それが無難だろうな」
それでも気を付けないと高価すぎるものだと怒られそうだがその辺は渉も学んでいるだろう。
そうこうしているうちに早足で部屋に戻る司。
「うううさむーさぶーさびー!」
「ほらこっちこい」
渉に手招きされて彼の膝上に座るとすぐに抱きしめられてぬくぬく。
冷えた小さな手を大きな暖かい手で握ってくれた。
「ホットミルクでも作ろうか」
「うん!ほしい!」
「俺コーヒー」
「何だその言いぐさは。お願いしますくらい言えないのか?」
ぎゅうぎゅうと司を抱っこしながら此方を見ずに適当に言う弟にイラっとする。
それが温かいからか司は嬉しそうにしているけれど。
「司言っとけ」
「ホットミルクとコーヒーお願いします!」
渉に言われてひょっこり顔をだし真守に元気いっぱいお願いする。
それはとても可愛いと思うけれど。やはりムスっとした顔をする。
「姪に言わせて恥ずかしくないのかお前」
「無いね。ほっぺもつめてえな。どんだけ寒いんだ廊下」
「もっと寒くなったら氷ができるかもってママ言ってた」
今にもお説教をはじめそうな兄を無視して渉は司の頬に触れる。
柔らかくひんやり冷たい。
「そんな廊下があってたまるか。こうなったら真面目に企画書作って上に申請してみるか」
「きかくちょー?」
「これから更に冷えてくるんだしそれでお前が風邪でも引いたらどうすんだよ。なあ?
酒飲んで温まるなんてできねえんだし。安い防寒着なんてお前には似合わねえんだから。
これは必要経費だよなぁ。お前もそう思うだろ?」
「分からん。マモー。わかんないときなんて言えばいいのー?」
「気にしないでお絵かきを続けたらいい」
「わかったー」
一端渉の膝から離れ机の上のお絵かき帳をとり再び膝に戻る。
どうやらここが気に入った模様。渉も特に嫌がる様子はなく好きにさせて再びテレビを見始めた。
真守がいれてくれた甘めのホットミルクを飲みぬくもりに包まれて気分が良くなったのか
司は膝上でいつの間にか眠っていた。
「真守さん渉さん、司の事見てくださって」
「いーよ別に」
「僕たちは気にしないでください。ただ司はやはり寂しいと思うので」
「はい。一緒に寝ます。総司さんに寝室へ連れて行ってもらいました」
「そうですか。よかった」
パパとママを待つはずだったのに。司はちょっと寂しい気分になったけれど
朝目をさますとパパとママの間に一緒に寝ていたのでうれしかった。
「みてみて!ママが買ってくれたの!もこもこネコさんスリッパ!」
「可愛いじゃないか。温かそうだし。よかったな」
「うん。あとねもうすぐママがマフラーと帽子も作ってくれるの!あったかいよ。トイレ行けるよ!」
「そうか。よかったな。温かくなったらもう我慢しないで行くんだぞ」
「マモも寒いでしょ司の貸してあげるからね!ぬくぬくだよ!」
「ありがとう」
「あとねみてみて!はらまきだよ!ウサギさんの顔のはらまき!」
「はは。これなら真冬でも安心だな」
「うん!まけないもんね!」
「じゃあ司。寒いからって寝室から出てこない駄目なパパを起こしてきてくれるかい?
会社に遅れますよって。急がないと夜中まで1人で寒い思いをしますよって」
「はーーーい!」
おわり