父の日…?


CASE1:総司の場合

「ねえねえ。パパには何がいいかな」
「僕たちからなら何でも喜ぶと思うけど」
「みどりの写真でもいいかな?」
「それは流石にどうかな」

亀の写真を渡されて困惑する父の顔が目に浮かぶ。
姉である司に呼ばれて彼女の部屋に来たら父の日の相談。
パパはもとよりママにも内緒にしたいらしい。
自分たちだけでパパもママも驚かせたいとか。彼女らしい。

「プレゼント…だよね。でもね、あの。実はもうお小遣い使い果たしちゃって」
「だろうと思った」
「自分で言っといてごめんなさい。ついね。つい…」
「司のお小遣いだから僕に謝る事ないよ。といっても僕も無いんだ」
「総ちゃんはそもそもお小遣い貰ってないもんね」
「うん。まだ要らないから。ごめんね役にたたなくて」
「ううん。違うの。…じゃあ、パパに何かする?」
「肩たたきなんて無難でいいかもね」

どうしたものかと悩む司。ちゃんと計画を練って溜めておけば何かしらプレゼントできたのに。
欲しいものがあると我慢できない性格。つい自分の欲望に走ってしまう。
それでもママの教育の賜物か内緒でパパや叔父さんたちにオネダリなんて事はしない。
無くなったら無くなったでカレンダーを眺めつつ寂しそうに来月まで我慢している。

「肩たたき2人でする?」
「僕よりも司がしたほうがパパは喜ぶんじゃない」
「じゃあ総ちゃんは?」
「そうだな。僕は、夕飯の片づけを代わってするよ。そうすればママとゆっくり話が出来るから」
「なるほど」

する事が決まってパチパチと手を叩いて喜ぶ司。
総吾も良かったねと苦笑した。


「おかえりなさい!」
「おかえりなさい」
「ただいま。何や今日は2人してお出迎えか?嬉しいなあ」

夕方。パパが帰ってきたので急いでお出迎え。それが嬉しかったようで頭を撫でてくれた。
ニッコリ笑う司。ちょっと嫌そうな総吾。3人はリビングへ向かう。

「お帰りなさい総司さん。今日もお疲れ様です」
「ただいま。なあ、今日は何かあった?」
「え?」
「何ちゅうか。子ども等が俺に優しい」
「…っと。そうそう。今日は父の日ですよ」
「そうやったか。はは、…何か欲しいもんでもあるんかとか思ってしもた。あかんお父ちゃんやね」

総司は着替えを済ませさりげなく台所にいる百香里のもとへ。
子どもたちが妙にくっついてきて甘えてきて総司としては正直なところそれに違和感があった。
冷めている訳ではないがここまでは来ないから。理由を聞いて安堵した顔で笑う。父の日だったかと。

「2人ともちゃんとパパの事好きなんです」
「うん。嬉しい。めっちゃ嬉しい」
「パパ!こっちこっち!」
「何やろ。待ってて今行く」

司に呼ばれ嬉しそうに戻っていく総司。百香里はそんな夫を愛しそうに見て笑う。

「座って!肩たたきする!」
「おお。ええやん。疲れてたんよね」

言われるままにソファに座る総司。
司はその後ろに立って肩を叩き始める。

「ねえねえ。パパはパパのパパに何した?」
「男はそういうんは苦手やからな。何もしてへん」
「そうなんだ」
「…した所で無視されるか叱られるかやし」
「え?」
「あーほんま上手いなあ司。めっさいい気分」
「ほんと?じゃあね歌も歌っちゃう!」
「お。待ってました!歌って歌って」

父と娘の和やかな時間。
司の歌を聴きながら百香里の準備も進む。
そこへさりげなく手伝いに入ってきた総吾。

「総ちゃんはいいの?」
「僕はママを手伝う」
「でも今日は父の日じゃない」
「ママを手伝えば必然的にパパが喜ぶ」
「うーん。なるほど。さすが総ちゃん」
「片付けは僕がするから。パパと居てあげて」
「ありがとう」

準備も整った所で肩たたきタイムも終了。
家族4人で夕食を食べて。
片付けは総吾と司も一緒に入って。

「ほんま嬉しい。めっさ嬉しい」
「総司さん」

手の開いた百香里は総司の隣に座る。すぐに抱き寄せられてオデコにキスされた。
よほど機嫌がいいのだろう。ずっと笑っている。そんな彼を見ていると自分まで幸せ。嬉しい。

「父親らしいことあんまできてへんし正直真守や渉のがそれらしいんちゃうかって思ったりもしたけど…」
「父親は1人です。総司さんだけ」
「これからも2人のお父ちゃんとして頑張るわ」
「はい」
「…ユカリちゃんの夫としても、頑張る」
「はい」

軽いキスをして抱きしめあう。こんなにも満たされていいのだろうか。
幸せに浸っていると片づけを終えた司。

「やっぱりパパにこれあげる!」
「ん?」

モジモジしながらも写真を1枚総司に手渡す。

「すっごく可愛い写真なの。飾って欲しいな」
「当たり前やん。司の写真か?どんな可愛……み、みどり」

何をしている最中か知らないが
ぱっくりお口をあけている亀のドアップ写真。

「んとね。これは会社に飾って欲しい」
「…み、…みどりをか」

社長室の机の上は家族の写真がずらり。棚にもある。
そこにこの亀を増やせということ。
複雑そうな顔をする総司。百香里は何も言えない。
笑うのを堪えるのに必死で。

「……駄目かなぁ」
「だ、駄目なわけないやんか。飾る!飾るで!」
「わーい。これでみどりもずっと一緒だよ」
「一緒…やなぁ」
「あははははあははははは」
「ユカリちゃん笑いすぎ」

飾ってもらえて嬉しそうな司。
今まで見たことないくらい大爆笑の百香里。
総司はまた複雑な顔をするけれど、もう後戻りできず。

「やっぱりあげたんだ」
「坊」
「ちゃんと飾ってあげてね」
「まあ、…みどりも家族っちゅうたら家族やしな」
「パパのそういう優しい所凄くいいと思うよ」
「そうか。厳しい坊が褒めてくれるやなんて。なんやめっさ嬉しい」
「だって父の日だし」
「あれ。なんやろ。複雑やなあ」

日が違ったら褒めてくれんのか?とは怖くて聞けなかった。
後日。社長室には亀の写真が家族の写真に加わった。

「社長亀好きなんですか?」
「ん?それな。父の日のプレゼント」
「はあ」
「ええやろ。羨ましいやろ」
「そうですねすごくうらやましいです」
「気持ちは分からんでもないけど棒読みすぎやで自分」

おわり

CASE2:渉の場合

「で。今度この店に行ってみようと思ってるんだけど」
「いいんじゃねえの」
「当然だけど一緒に行くのよ」
「何で?」
「窓から海が一望できて料理がおいしくてピアノの生演奏も聴けるような
そんな素敵なお店に1人で行くなんて変でしょ」
「俺そういうの好きじゃないんだけど」
「好きになって」

夕食を終えた後。適当にソファに寝転んでテレビを観る渉。
そんな彼に雑誌を片手に熱弁する梨香。
だが彼はそれほど興味をもたず視線もテレビのまま。

「分かった。行けばいいんだろ。行くよ」
「約束だからね」
「はいはい」

分かったよと面倒そうに頷く。嫌がっても結局最後は付き合ってくれる。
冷たいようにみえてでも本当は優しい人。
だから余計好き。梨香は幸せをかみしめる。
やっとこぎつけた渉との同棲生活。自分の説得というよりは義姉の居る快適な暮らしから
面倒な1人暮らしになるのが嫌なだけとも取れるけれど。そこは敢えて見ないで。
彼との結婚に向けて1歩踏み込めたと思おう。ここからどうやって結婚へ持っていくか。

「…ね。渉」
「なんだよ」
「愛してる」

ダルそうに寝ている渉の上に乗り軽いキスをする。
彼が愛しくてたまらない。このときも至福。
多少渉の視線が冷めていようとも気にしない。

「だから?」
「ここは愛してるって返事するところでしょ!」

現にこうして彼は自分を選びここに居るのだから。

「……」
「渉。…えっちしよっか」

誘う視線を向け彼も否定はしない所を見るにその気になったか。
梨香はしっかりと彼の唇にキスをしようと顔を近づける。

「あ。携帯とって」
「もういいじゃない。明日にしたら」

タイミング悪く机の上にあった彼の携帯が鳴る。

「いいから取れ。早くしろ」
「…はいはい」

せかされてしぶしぶ立ち上がり携帯を取り彼に渡す。
女からかもしれないと聞き耳をたてた。

「ああ。いいよ。すぐ行ってやる。何処だ。ん?時間?いいって。気にすんな。待ってろ」

電話はすぐに切れた。でも渉の顔を見ればすぐ分かる。

「司ちゃんだ」
「ちょっと出てくる」
「こんな時間に?」
「どんな時間でもいいだろ」
「私も行く」
「はあ?」
「私も行くから」
「いいけど。変な事吹き込むなよ」

何気に急いでいるようで梨香の同行を許し渉の車に乗り込み待ち合わせた場所へ向かう。
家には居らず指定されたお店にいるらしい。何の店かまでは教えてもらっていない。

「ユズ!」

車から降りてすぐ、待っていた司が走ってくる。
手には小さな紙袋。

「どうした。俺に来て欲しいって。迷子じゃねえよな」
「ママもいるよ。あのね、……あ!梨香ちゃんだ!」
「こんばんは」
「あいつは無視していい。で。なんだ?どうした」

酷い言い草だがここは話を折らないほうがいいだろう。
梨香は我慢して黙る。

「これね。ユズにプレゼント!」
「え?…なんだ。どうして?」
「父の日…だけど、ユズにもいっぱいお世話になってるから!」
「お前なぁ。…ま、いいや。何くれたんだ」
「りんご飴!」
「飴かい」
「……お小遣い…足りなかった……ごめん」

本当はもう少しいいものをあげたかったのに。
ブツブツ言いながらシュンとして俯く司。

「馬鹿。無理に買うことなかったんだ。俺は父親じゃないし。
…でもさ、こういうのは嬉しいもんだな。ありがと」
「ユズ。ねね。こっちこっち」
「あ?なんだ」

オイデオイデと手招きする司。
渉は屈みこんで彼女に顔を近づけた。

「何時もありがとう。大好きっ」

ぎゅっと小さな手が首に巻きついて頬に優しいキス。
さっきまでお菓子を食べていたらしく甘い匂いがした。

「えっ…う、…うん。……おう」

動揺しているのが自分でもわかった。

「ママが待ってるから戻るね。来てくれてありがとう。
ばいばいユズ!ばいばい梨香ちゃん!おやすみなさい!」
「気をつけて帰れよ。転んで怪我すんなよ」
「うん!」

走ってママの元へ帰っていく司。残された渉の手には小さな紙袋。

「…渉。もういい?帰ろう」
「ああ」
「ほんと悔しい」
「ガキに妬くな」
「だって」
「うるさい。帰るぞ」

先立って車へと戻っていく渉。その後を悔しい顔で追いかける梨香。

「司ちゃんには素を見せるんだから。でも…渉があんな照れてピュアな顔するなんて。
それが可愛いとか思ってる私って…Mなのかしら」
「おい。早く乗れよ」
「分かってるってば」

部屋に戻る途中何気なく司から貰った袋を見る。
子ども向けの可愛らしい包装。

「…父の日か」
「お父さんになってみる?」
「そうだな。悪くない、考えとく」
「ほんと!?じゃあ…今夜あたり」
「今夜はパス」
「言うと思った」

やっと1歩踏み込めた渉との関係。司の存在はやはり今でも嫉妬もするけれど
彼に家族への憧れを抱かせるには効果的。でも更に王手をかけるにはまだもう少しかかりそう。
そこが梨香にとって今後の課題である。

おわり


CASE3:真守の場合

「ママ。お買い物行きたい」
「え?こんな時間に?」
「うん。行きたい。無いと思ってたのに隠し財宝出てきたから」
「か、隠し財宝?」

夕飯を終えてのんびりしている百香里の傍に司がきて。
唐突に買い物なんて言うから驚いた。欲しいものがあるのなら明日でもいいのに。
それとも急を要するようなものなのだろうか。

「お願いママ」
「何を買うの。明日じゃ駄目?」
「ユズとマモにもお礼がしたいの」
「父の日…の?でも」
「いっつも傍に居てくれたんだもん。今だって司が困った時は助けてくれるもん。…叔父さんの日って無いもん」
「……それはそう、だけど。じゃあ、行こうか」
「うん!」
「えっと。パパが複雑な気持ちになっちゃうからママと2人で行こうか」

せっかくパパが至福の時を過ごしているのに水をさせない。
百香里は買い忘れたものがあると言って家を出る。車で送ろうと言ってくれたけれど、
すぐそこだからと何とか言いくるめ。総吾も話を知らないなりに手伝ってくれて。

「パパ。ここの問題が分からないんだ」
「何や難しい問題しとるなあ」

珍しくパパと2人で勉強中。司はママと2人で明るい道を選んで街へくりだす。
タクシーを呼ぶという考えはママには最初からない。

「それで。何を買うの?」
「お菓子!」
「……お、おかし…?」
「ポケットに500円入ってたの!凄い!」
「隠し財宝ってそれだったの」

もっと凄いものを想像しただけに苦笑する。ということで何時も行くお菓子屋さんへと移動。
お菓子もかわいいけれど包装が可愛くてお気に入り。
それにどれもそんなに高くないのが魅力。

「250円ずつだからな。うーん」
「あんまり長い時間かけちゃパパが心配するからね」
「はい」

悩みながらも2人にお菓子を選ぶ司。そして自分から行くのではなく来てもらうことに。
お子様携帯をカバンから取り出して自分でかける。

『今から?』
「駄目かなあ」
『いいよ。行くから待っててくれるか』
「うん。待ってる!」

真守にかけて次に渉にかけて。2人とも時間は少し遅いが来てくれることに。
喜んでくれるか不安そうな司。何せ安いお菓子。本人もそれは分かっている。
でもそれが精いっぱい。今はもう肩を叩いてあげるとか簡単にはできない距離。

「大丈夫。司が感謝をこめて渡せば喜んでくれる」
「感謝ってどうやって込めるの?」
「自分がどれだけ感謝してるかを表現するの」
「うーん」
「難しかったね。ありがとうって言えばいいのよ」
「わかった!」

暫くして此方に向かってくる真守の姿を見つけた司。
ママには待っていてもらって急いで彼の元へ走る。
1秒でも早く感謝とお菓子を届けたくて。

「こ、こら!転ぶから走るんじゃないっ」
「大丈夫だよ」
「大丈夫じゃない。何があるか分からないんだ。暗いしな」
「はあい」

何故か相手も走ってきて司をストップさせた。

「それで。どうした?当然ママかパパはいるんだろ?」
「ママといっしょ。あのね。これ」
「ん?」

恐る恐る可愛い袋を真守に渡す。まだピンとこない様子の叔父さん。

「感謝してます。ありがとう。だから、これプレゼント」
「もしかして、父の日の?僕は叔父さんだぞ?」
「いいの。ずっとね、ずっと…感謝…してたの。いっつも一緒に居てくれてありがとうって言いたかったの」
「司」
「マモはパパになるからもうこれでしないけど。でも。すごく、嬉しいって気持ちは、変わらないよ」
「ありがとう。僕の方こそ嬉しいよ。お前の為になったのならそれだけで光栄だ」

袋を受け取ると司の頭を撫でて微笑んだ。

「マモ大好き」

それがとても嬉しかったらしく司はギュッと真守に抱きついた。

「……。お前は幾つになってもまっすぐで素直だな。少し…心臓に悪い気もする」
「え?どっか悪くなっちゃった!?」
「このお礼は今度しよう。もう遅いママの所へ戻るんだ」
「お礼なんか」
「一緒に居て嬉しかったのも感謝してるのも司だけじゃない。僕もだ。きっと、渉もな」
「…マモ」
「子どもが生まれたら頼む」
「うん!任せて!絶対いいお姉ちゃんになるから!」
「ああ。…さ、戻るんだ。義姉さんによろしく伝えてくれ」
「うん!」

ニコっと笑って真守に手を振ってママの下へ戻る。
どうだった?と聞かれて喜んでもらえたと返した。
ママは優しく笑ってくれた。

「お帰りなさい。司ちゃんは」
「これをくれました」
「これは。お菓子?」
「父の日ならぬ叔父の日です」
「ああ。なるほど、あの子らしいですね」
「本当に」

自宅に帰った真守は待っていた千陽に袋を見せる。
詳しくは話さなかったがそれでも彼女は察したようで
可愛いですねと笑ってくれた。

「真守さん凄く優しい顔をしてますね」
「そうですか?」
「はい」
「なるほど。つまり普段の僕はそれほど優しくない、と。これは大変申し訳ないことをしました」
「ち、ちがいます!そんなんじゃ」

本当に良い表情をするから。ちょっとくらいは嫉妬も交じった言葉だったかもしれない。
けど真守は家族を優先してくれて優しい人。慌てて否定する千陽。

「すいません。貴方の反応が可愛くて」
「もう。真守さんっ」

ニッコリと笑う真守に千陽は苦笑。

「一緒に食べませんか。これ、煎餅です」
「いいですねお茶をいれます」
「いえいえ。僕がいれますよ、貴方は座っていて。優しい夫ですから」
「意地悪するんだから。司ちゃんに言いつけますよ」
「それは困る。貴方を苛めたり泣かせたりしたら許さないと釘を刺されていますから」
「え!そ、そうなんですか?…大丈夫です。私全然そんな事ないですから」
「ええ、僕もそう思っています」
「真守さんー!」
「ほら座って。…本当に可愛い人だ貴方は」

耳元でささやくと千陽の頬に軽いキスをして台所へと向かっていく。
こんなさりげないスキンシップに毎回顔を真っ赤にする千陽。
いい加減動揺したくない慣れたい悔しい!
と思う反面素敵な旦那さまだとノロケたりして友人に呆れられている。


おわり


2013/10/15