甘える 


「先月のデートは何回行ったと思う?」
「……ひゃっかい?」
「5回よ!たったの5回!文句を言えばご飯食べさせておけばいいくらいの扱い!」
「ご飯おいしいよ?」
「司ちゃん。お姉ちゃんはね、渉ともっともーーーっとデートがしたいわけ」
「いいね!デートいっぱい!楽しいね!」
「そう思うでしょう?だったらそうするように、渉に言って」

ファミレスに行こうと誘われて、ママの許しを得てから梨香とおでかけ。
この2人が一緒に居るのは大体いいことはない。ほぼ、渉への愚痴。
あるいは、何か企んでいて司に付き合わせようとしている場合か。

「司言ってるよ?梨香ちゃんとデートは楽しい楽しい!って」
「じゃあなんで渉は構ってくれないわけ?幼稚園児とばっかデートしてっ」
「何でかな。わかんないね」

ママと一緒だと駄目って言われるようなパフェも食べさせてくれるので司は嬉しい。
梨香は愚痴りながら、どうしたら渉が自分にもっと興味を持つかで必死。
今の所この幼稚園児に完敗中。確かに素直で可愛い、いい子だけど。
彼がただの幼児には全く興味ないのは分かっている。

念の為、セーラー服や体操着で迫ってみたけれど一度きりで良いと呆れられた。

司が唯一の姪っ子だからだ。それも、赤ん坊の頃からずっと一緒で世話してきた。
いわゆる家族のような、娘のようなものだからだ。

「3人でデートしてみたら分かるかなぁ?」
「いいの?デートはラブラブな2人がするんだよね?」
「そうなんだけどさあ」
「ユズはね、すんごいオレサマだからね。あつかいが難しいんだよ」
「誰が言ってたの」
「自分で言ってた」
「司ちゃんの前だと結構アホよねあいつ」
「そう?」

やっぱり自分がこの扱いに慣れるしか無いのか。
浮気をしているわけじゃないし、他所の女に目移りする予定もなさそう。
ここで下手に騒いで面倒を起こすほうが余計に遠のくのも分かっている。

渉にデートを増やすように訴えるよう司に頼み込んで。
女同士のお茶会は終了。無事に家まで送り届けた。


「おかえり司。大丈夫やったか?あのお姉ちゃん、エキサイトすると怖いでな」
「渉ともっと会いたいのヨォオオオオオ!って言ってた」

梨香はそのまま帰宅。司は一人でリビングに入るとソファに据わっているパパ。
近づいていって膝に座らせてもらって。先程の出来事を話した。

「悪い子ではないけど。義理の妹になると思うと怖いなぁ。めっちゃ愚痴られそうや」
「でもねパパ。梨香ちゃんは寂しいんだよ。司だって、パパが遊んでくれるのが5回だけ
だったら司のこと嫌いになっちゃったのかな?って不安になるもん」
「……5回なあ」

休みの日は出来る限り遊んであげたいけれど。関係なく何かと仕事がはいって。
最悪それくらいになる日もあったりする。普段から時間があれば遊んであげるし、
ご飯も家族揃って食べるようにしているけれど。

「ママもきっと寂しいよ。だからね。ユズにもっといっぱい梨香ちゃんと居てって言う」
「優しいな司は」
「さみしいのはヤダもん」
「そうやな。寂しいんは嫌や。お父ちゃんも、司やお母ちゃんがおらんと寂しい」
「いるよ!ほらほら!ここ!司はここでーす!」

ニコニコと笑って両手を上げてアピールする司が可愛くてぎゅうっと抱きしめる。
ちょっと痛い。と言われて慌てて解除するけれど。

「何やってんの」
「ユズ。おかえりなさい」
「お前の話してたんやよ。なあ。司」
「うん!」
「……、梨香がお前に何を言ったかなんて俺興味ないから言わなくていいぞ」

パチンコへ行っていた渉が帰宅。司が梨香と出かけたことは知っている。
でも、全く興味ない様子で土産のチョコレートを司に渡したらさっさと自室へ。

「パパぁ。何でユズはきょうみないの?」
「渉は難しいお年頃やねん」
「おとしごろ」
「嫌ってる訳やないから。心配せんでええよ、2人で話し合って解決することや」
「……でもね。喧嘩するたび司いっぱいお話聞くからね。しんぱい」
「そうやったな。司はえらいなあ」

何処まで理解しているかは分からないが、毎回連れ出されて話を聞かされる。
もちろん、子ども相手だから汚い言葉を使ったり卑猥な事も言わないけれど。
それでも延々と聞かされるのは司にとってもあまり良いことではない気がする。
真守がその辺りずっと不満だそうで、毎回注意しては渉と大喧嘩している。

「ユズは優しいよ。怖いの来てもまもってくれるよ?」
「司にはカッコつけて気張ってるんやろな」
「梨香ちゃんはかのじょなのに。何時もおこってる。まもってあげないとだめだよね?」
「そうやな。大事な人やもんな、失ってからでは遅い」
「どうしたらいいのかな?わかんない」
「それでええよ。司には、まだまだ先の話や」

考え込んでいたら眠くなってきたらしく、パパに抱っこしてもらってお昼寝。


「わかってるよ。司を巻き込むなって梨香に言うから」
「司の心の負担になってる自覚はあるんやな」
「あるさ。あいつ、ガキなのに妙に真面目な所あるから。本気で俺と梨香を心配してる」
「それやったらもうちょっとあのお姉ちゃんとデートしたり」

司を部屋に寝かせてきてから、総司は弟の部屋へ向かう。
何となく察していたようで抵抗すること無く中へ入れてくれた。

「先月は忙しかったんだ。あんたもそうだろ?家に帰る時間が遅くなったりしたろ。
それで会うのがしんどかっただけ。梨香にも言ったんだけど、信じなくてさ。
どうせ司と遊んでたんだろとか言いやがって」
「普段がそうやもんな」
「うっせえ。仕事で疲れたり人間関係がしんどくなった時とかあるだろ。それでも、
司といると癒やされるんだよ。あいつ、嫌な事言わないし。しないし。ちびで可愛いし」
「俺も似たようなもんやで、ようわかる。せやけど反省はしといてな。
真守には言わんとくけど。あんまりにも酷なってきたら、遊ぶんも制限せなあかん」
「わかった」
「司のためや。まだ大人の面倒を引き受けるんは早い」
「わかってるって。もういいだろ、行けよ」
「司がお昼寝から起きてきたら3人でおやつにしよや。ユカリちゃんおらんし寂しい」
「はあ?ンなもんしるかよ」
「ホットケーキ焼くで、頑張ろな」
「一人でやれよ」


それから2時間ほど経過して、司がもぞもぞと起き上がりベッドから出た。
何があろうとも、3時のおやつの時間には席についているのが司。
梨香とミニパフェを食べたけれど、ママはお出かけで居ない。
かわりにパパが居るので、ちゃんとおやつは出る。

「ユズもおやつ?」
「そう。俺もおやつ」
「今日は何かな」
「ホットケーキなんだってよ」
「やったー」

リビングに入ると渉が椅子に座っているのでその隣に着席。

「お前に愚痴ってばっかで悪いな。……ほんと、ごめんな?」
「ううん。ユズと梨香ちゃんがずっと仲良しさんならいい!」
「仲は良いんだ。ただ、考え方の違いなだけ。お前にはまだわからないだろうけど」
「うぅん」
「お前も、俺とばっか遊んでも面白くないよな。お前が付いてきてくれるから、甘えてたよ」
「面白くないことなんてないよ。司は毎日楽しいよ。一人で居るのだけは嫌だけど」
「そうか。じゃあ。また、遊園地誘ってもいいか」
「うん!」
「……ありがと。良い姪っ子だよお前は」

ぽんぽんと司の頭を撫でてやると嬉しそうにニコーっと笑った。

「ほれほれ。渉。手伝ってや」
「ンなもん焼けばいいだけだろ?野郎が2人で台所立ってるとかキモいし」
「司手伝う!」
「お前は良いんだ」
「司もいっしょに焼く!パパ!」
「ほな、ホットプレート用意しよか。そこで3人各々で焼く」
「マジかよ」
「司ね、ママの顔かくよー」
「ほなお父ちゃんはハートマークしよかな」
「キモイ」

でも結局、3人でワイワイ言いながら楽しんでホットケーキを焼いて食べた。




「梨香。司に愚痴るなよ。お願いだから」
「何時もみたいに怒鳴るのかと思ったのに。案外普通だったわね」
「叔父として格好悪い所を見せたくない。完ぺきは無理でもな」
「結局そこなのね。まあ、そういう人間らしい考えができるようになったのも
あの子のおかげなんでしょうからね。……ね、今度3人でデートしない?」
「しない」
「どうして?子どもの前じゃキスも出来ないから?」
「司との扱いの違いに、お前がヒステリックに叫んで司に愚痴るからだ。
ガキ相手に嫉妬なんて恥ずかしいだろ。もう少しお前も大人になれよ」
「……はいはい。そうでしょうよ!」


おわり

2019/03/18