寒い日 -松前くん版-


日曜日の朝。

「司。朝だよ」
「今日は学校休みだもん」

ドアをノックしてから部屋に入ると、布団に包まって出てこない姉。
それも、毛布と布団を何重にもまいてぐるぐる状態。息苦しいだろうと毎回思うが
本人としてはとにかく寒いのが嫌なので、とのこと。今日は特に雪がちらついている。

「でも君は確か、お友達と映画を観に行くって言ってなかった?」
「しゃむい……総ちゃん代わりに行ってきて」
「僕が行ってもしょうがないよ。じゃあ、司のスマホかして。適当に理由つけて休むから。
でも、それって司に会うのを楽しみにしてる友達からしたら裏切り行為になるんじゃない」
「……」
「司がもし逆の立場だったら、どう?悲しいよね」
「……起きる」

必死に布団に食らいついていた姉だったがもぞもぞと顔を出した。
反省しているのかちょっと罰が悪そう。

「おはよう司」

総吾はニッコリと優しい笑みでそんな姉を迎えた。
寒い寒い冬は、暖かい所に吸い寄せられてなかなか動かない司。
昔はパパやおじさんたちに抱っこしてもらって暖かかったけれど、
高校生になった今となっては流石にそれは出来ない、ので。

「ありがとう総ちゃん。司を起こしてくれて」

司はのんびりしている時間もないので慌ただしくお出かけの準備。
台所ではママが朝食の準備を終えて、配膳をしていた。
総吾はそんなママのお手伝いをしながら、司を起こしてきた報告をする。

「ううん」
「昨日あれだけ映画行くんだって言ってたのにね。ほんと、寒いのに弱いんだから」
「でも今日は特に寒いから。暖かい場所から出たくない気持ちはよく分かるよ」
「それでね。総ちゃん。もう一つ、お願いがあってね」
「お父さん?」
「そう。お願いできる?」
「もちろん」

ママは司の準備を手伝ってあげて、とニッコリと微笑み、総吾は両親の寝室へ移動。
途中、アレが無い、コレが無いと慌てた様子で右往左往している司とすれ違う。
たぶんママの所に行って助けてもらうのだろう。毎回こんな感じ。


「……今日は会社休みやもん」
「今日はママと家の整理と掃除をして、出たゴミを捨てに行く予定でしたよね」
「こんな朝はよからすることちゃうし」

ドアを開けると、姉とそっくりな布団の山があった。
こっちはただ単純にくるまっているだけだけど。総吾はズカズカと近づいて
未だに寝ている父親を起こしにかかる。が、こちらもすぐに布団から出る気はない模様。

「貴方にその気がなくてもママはやる気なんです。なんなら昨日から手を付けてました。
寒いのに夜外に出てゴミをまとめていました。それでも、動かないつもりですか?」
「こんな寒いのに……ユカリちゃん仕事しすぎやねんな」
「はい?もう一度言ってください、言えるものなら」
「いえ。何でもないです。無いですから。そんな怖い声ださんで。起きます!起きますて!」

やっと布団からでた父親。それを確認したらさっさとリビングへ戻る。
怖いとか、寒いとか、後ろでブツブツ言っていたようだがもちろん無視。
家族4人、皆揃った所で朝食を食べ始める。

「ほら司。そんな一気に食べないの。パパに送って貰えるんだから」
「へへへ。走り回ったらお腹空いちゃって」
「そうね、昨日からちゃんと準備をしないからそうなるの」
「遊ぶ計画を立ててたら寝ちゃった」
「今日は日中もずっと寒いで、きちんと暖かい格好してくんやで?」
「うん。あのね、この前ユズと一緒に買物行った時に買ったの着てく」
「渉さんが一緒なら、確かなものなんでしょうね…お値段も」
「ユカリちゃん……」

叔父さんたちとは今でもたまに一緒に遊園地に行ったり買い物や食事をしている。
どうやら知らなかったぽい買い物、ちょっと怒ったっぽい空気になったが、
百香里はそれ以上は何も言わなかった。

「坊は予定あるん?」
「僕は図書館に行こうかと思ってます」
「それやったら司と一緒に送ったるわ」
「お願いします」

本人いわく、家で勉強するよりも図書館のほうが落ち着いてできるそうで。
塾のない日は家よりもそういう場所で勉強をしている事が多い。

「まだ雪ふってる。ね、積もったらお庭で遊べるね総ちゃん」
「そうだね。でも、今回のはどうかな。積もるかな」
「雪だるま作って。雪合戦をして」
「寒いのは嫌いでも雪は好きなんだね」
「うん。起きちゃうと平気」
「ははは、本当に元気だね」

姉は一度稼働してしまえばあっちこっちに動き回るので体はポカポカ。
出かける準備を終えて着ている暖かそうなコートも室内ではむしろ暑そう。
逆に、総吾はあまり動きは少ない上に座っていることが多いので実は寒い。
けれどそんなことを一度も家族に言ったことはない。

「総吾。それじゃちょっと寒そうだから、こっちを着ていって」
「大丈夫だよ。図書館には空調が」
「でも外に出た時寒いでしょう。終わったら電話して、迎えに行くから」

何も言ってなかったのに、玄関で父親が来るのを姉弟で待っていたら
ママが慌てた様子で暖かそうなコートを持ってきてくれた。見たことがないから、
ママが買ってきてくれたものだろうか?そこまで言われては、と着ていたコートを脱いで交換する。
ちょっと大きいけれどまだこれから成長するのを考えてくれているのだろう。

「ママも寒いよね。今日はお掃除するんだよね。いっぱい暖かい格好してね」
「大丈夫。司と一緒で動き回ってるからね、すぐ暖かくなるから」
「そっか」
「おまたせしましたー。ほな、行こか」

遅れて父親もやってきて、母親に見送られて3人で玄関を出る。といってもそこから
家の門までは石畳の道をかなり歩くので、その間ずっと寒い風をいっぱいに受けて
司は寒い!と絶叫してそそくさと父親の後ろに隠れて、流石に総吾も寒いと漏らす。

「うわあ。メッチャ寒いな。司、今日はあんまり外は歩かんほうがええで」
「うんっ」
「坊も、迎え待ってる間は中におるんやで」
「はい」

逃げるように車に入って、すぐ暖房を入れてもらって。まずは司の待ち合わせ場所へ。
最初は目印のお店の前、となっていたが寒かったので別の店の中で待つ。
車内でもガタガタ震えていた司だが、待ち合わせ場所にすでに居た友達の姿を見て
元気を取り戻し、笑顔で彼女たちのもとへ走っていった。

「元気やなあ。転んで怪我せんだらええけど」
「大丈夫だと思いますよ。散々皆から注意されていることだし」
「いや。高校生にもなってまだ注意されてるちゅうのがまずなあ。まあ、司らしいけども」

いつでもどこでも、元気先行の松前家の長女です。

車は次の目的地である総吾がよく利用する図書館へ。こんな天気のせいか、
普段ならなんてことない車の移動もやや時間がかかってしまう。
二人きりになってしまうと、特に会話のない親子。音楽をかけてみる。

「そういえば。冬休みを利用して旅行に行く計画があるって司から聞いたんですけど」
「ああ。そうそう、ほんまやったら暖かい外国とかええなって思うけど。日にちがな。
ほんで、1泊くらいで温泉とかええなあって思うんやけど。坊はどう思う?」
「温泉ですか。良いんじゃないですか」
「そうか。それやったら候補絞っていこかな」
「でも、どうして突然旅行なんて」
「これからは合間を見て家族で出かけよう思ってる。ユカリちゃんが、司や坊が
これからどんどん自立して行くんが寂しいみたいでな。そんなら思い出残して行こって」
「……」
「俺があんまり休めへんで、今までそう何度も旅行とか行けんでな。
司は渉や真守が色々連れってくれたけど、坊はそんなこともなかったしな」

あと、総吾はともかく司が完全なる自立をするかどうかはもう少し先の話だと思っている。

「僕は別に」
「大人になれば嫌でもそれに縛られるんやから、子どものうちはもっと遊ぼや。
お父ちゃんがそれで失敗してるで、あんま強くは言えんのやけどな」

そう言って苦笑する総司。総吾はそれをチラっとだけみて。

「完璧な松前家の長男なんかじゃ、ママが嫌がるでしょうから。駄目なくらいで良いんです」
「……、そうか。そう、やなあ。はは」
「あまりに駄目すぎても、その都度僕が修正して行けば良いんですから」
「はい」
「そろそろつきそうですね」

前を見るとやっと見えてきた目的地の図書館。
ここまで来るとちらつくくらいだったのが吹雪になっていて視界が悪い。

「気ぃつけてな」
「そっちこそ。事故なんか起こさないでください」
「わかってるて」

若干憂鬱になりつつも、とめてもらった場所から外に出て、建物へ。
中に入ってしまえば大丈夫、だけどやっぱりママの言うとおりに
コートを変えておいて良かった。暖かさが全然違う。体の雪を払って、
両親に心のなかでありがとう、と言ってから自習スペースへ移動した。



「なあなあ、ユカリちゃん。何処から出してきたん?あんな古いコート」
「昨日掃除をしてたら見つけたんです。まだ全然綺麗だったので良いかなって」
「あれな、あれは。母親が俺にくれたんや。寒いやろって。それを坊が着てたから
めっちゃびっくりしたわ。ちょっとブカっとしてたけど、昔のでもいけるもんやね」
「そうだったんですね。ごめんなさい、お義母様の大事な」
「ええよ。俺にはもう小さい。捨てることもできん、なら総吾にやれば喜ぶで」
「総司さん……クシュン!」
「ああ、あかんあかん。寒いな、俺が温めるで」
「いえ。貴方にはこのゴミを外にまとめておいてきてほしいです。仕事はまだ終わってません」
「ですよね。はい」


おわり

2018/03/04