南瓜



「ねーゆずーかぼちゃくり抜いて」

すっかり松前家の恒例行事となったハロウィンパーティ。
司は飽きずに毎年張り切って内装を考えて自身も仮装する。
百香里お手製の美味しいご馳走も出てくる。

「はあ?……ああ、よくテレビとかでみるやつか。そんなもん買ってこいよ。危ないだろ」
「……」

朝からママと総悟と3人で買い物に行っていたらしい。家に遊びに来ていた渉の元へ
楽しげに小さい手のひらサイズのかぼちゃを持ってやってきた司。
どうやらこれをナイフでくり抜いておばけかぼちゃにしたかったらしい。

「泣きそうな顔すんな。ユカりんはパーティの準備か」
「かぼちゃ……おばけかぼちゃ」
「サインペンかなんかで顔を描けばいい」
「……」

テレビかお店のディスプレイでかぼちゃをくり抜いた本物のおばけかぼちゃを
見たらしくてそれが欲しくて仕方ないらしい。渉の案にも珍しく渋ったような顔をする。

「拗ねんな。今日のためにお菓子買ってきてやった。お前の好きなの目一杯詰め込んで
きてやったんだ。そんな顔したら寂しだろ?」
「……お菓子いっぱい?」
「ああ。イタズラされたら困るからな」
「やったー」

でも隠しておいた大袋いっぱいのお菓子を見せたら
ニコっと笑ってごきげん。

「単純なやつめ」

でもそこが何より可愛い姪っ子。

「自己満足に浸っている所悪いんですけど」
「あ。ああ。お前も居るんだよな、わかってるよ」

あの両親で娘でこいつだけどうしてこうなったか可愛げのない甥っ子が顔を出す。
彼は歳の割にかなり冷静なのでこの手のパーティには一切興味を持っていない。
その上毎回イヤイヤながらコスプレさせられている。けれど、
自分が非協力的な行動を取るとママと姉が落ち込むのをわかっているので
2人には協力的だし絶対にネガティブな行動はしない。
渉は面倒そうな顔をしつつ、総悟にかなり小さいサイズのお菓子の袋をあげる。

「別にお菓子なんか要らないですよ。おじさんにイタズラなんて時間の無駄しませんし」
「むしろやってくれたら倍返しでお礼をしてやるのにな」
「じゃあこれ差し上げませんで黙っててください」
「今お前にやった菓子だろ。要らないなら司にやれ」

司にはモリモリお菓子を買ってくる。それはその何倍も笑顔で喜んでくれるから。
だがこちらはどれだけ奮発したって生意気で笑顔一つ見せず、
毎回毎回ピリピリとした空気になるから。

そして今回も。また険悪な空気。


「マモ。マモ。どうしよう」

お菓子の袋を抱えて司は同じように家に遊びに来ていた真守に声をかける。

「あれも恒例行事みたいなものだ。ほっとけばいい。それより司、今年は何の仮装をするんだ?」
「えへへへ。お楽しみです」
「ということは去年とは違うわけだな」
「うん!マモ。来年はマモの赤ちゃんも参加できるよね」
「そうだな。徐々に参加できるようになるかな」
「女の子だったらね、お揃いでミイラになるんだよ」
「ミイラか。……そうか、ミイラ好きだったなお前は」
「うん!はっぴはろうぃーんー。あ。かぼちゃに顔を書かなきゃ」

飾り付けもやらなきゃ!とあちこち走り回る司。転ぶなよと声をかけて苦笑する真守。
その側ではまだなにやら嫌味の言い合いをしている二人。
あれはあれで実は仲が良いんじゃないだろうかと真守は思っている。
なんて言えば絶対全力で否定するだろうけど。


「そういえば兄さんは何処だ?」

仕事は終わっているし、こういう時はいの一番で帰る社長様はいったい。
特に用事があったわけではないけれど嫁のそばにも居ないし
司の飾り付けも手伝っていないのが気になって家を探索してみる。

「……ハロウィンってことでユカリちゃんも許してくれるはずや」

あっさり見つかる兄。その手には不穏な布切れ。

「兄さん。なんですかこんな所で」
「うおお!……真守か。驚かせんといて」
「その破廉恥な衣装、まさか義姉さんに」
「今年こそ俺だけのやらしい魔女になってくれるはずなんや!」
「……」
「あ。ま、まってや!なんで無言で襖しめんねん!真守!おい!
ユカリちゃんにいうたらあかんで!?これは夜に雰囲気で押し通すんやから」


おわり

2016/12/05 ハロウィン前のWEB拍手SSSを加筆修正しました。