〜正月SSのあとの松前家〜


机の上に乗せられたのは年賀状の束。それも山のように積み重なり見上げるくらい。
殆どが総司というか会社に送られたものだが中には友人や親戚からのものもある。
ということで。松前家のお正月恒例行事が始まろうとしている。

「ママ。今年のお年玉はがき何通当たるかな」
「これだけあるんだもの。また一杯当たるわね」
「司はお菓子の詰め合わせがいい!」

着替えた百香里と子どもたちはせっせとハガキを仕分ける。
最初はこれも家政婦さんたちが機械的にしてくれていたのだが、
お年玉ハガキをチェックしたいのと自分で確認したいというのがあって
渋い顔をされたがこれも百香里がやることになった。

「またお菓子?総ちゃんは何がいい?」
「僕は特に希望無し。そうだママ。宝くじも買ったでしょ」
「そうなの。お友達に誘われてついつい。でも当たったらいいなぁって」

総司や子どもたちも手伝ってくれるから何が当たるか喋っている間に終わる。

「ママお小遣いないの?僕のお年玉使っていいよ」
「そ、そうなの?司のもあげるママごめんなさいっ」
「そうじゃなくて。やっぱり夢って持ちたいじゃない」
「夢」
「当たったら皆で美味しい物食べて温泉なんかいいなあって思って。
それで、ちょっと贅沢して靴なんかかっちゃったりして…後は貯金」
「それが夢なの?だったらいつでも行けるよママ」
「総ちゃん総ちゃん。そこはいいねーって言ってあげるとこだよ」
「そうか。ごめんねママ。いいね」
「あ、ありがとう…」

夢について語るとどうも熱くなる百香里だが子どもたちは冷静だった。
それくらい松前家の生活に慣れているこということで。悪くは無い。
けど。やっぱり百香里としてはそれがちょっぴり寂しい。

「話ししてたら長なってしもた。俺も手伝うで」
「総司さん」
「あれ。どないしたん?悲しそうな顔して」

子どもたちに任せて席をたつ百香里。その廊下で総司と出くわす。
取引先のえらいさんからの電話が幾つかかかってきてその応対に追われていた。
疲れたような顔をしていたが百香里の顔を見て心配そうにかけよってきた。

「私、やっぱり孤立してるかも」
「ええっ!?ま、またオバヤン等が」
「そうじゃないんです。ないけど。寂しいぃいいいっ」
「え。え。え!?」

その胸に飛び込んでギュッと抱きつく。総司は驚いた顔。

「…私が慣れなきゃいけないのに」

松前百香里になってもう何年も経つのに。
理由を話さずただ無言で顔を埋める百香里の頭を撫でる総司。

「困った子やね。せやけどユカリちゃんは真面目さんやで家の事で悩む事も多いやろ。堪忍したってな」
「…すいません。もう大丈夫です。総司さんが居てくれたら落ち着きました」
「そうか。ほな一緒に戻ってハガキしよか」
「今年も山のように来てますよ」
「そんな要らんのやけどなあ。まあええわ。今年はなんぼ当たるかな」
「楽しみ。あ。私飲み物用意しようと思って来たんです。総司さん先に行っててください」
「分かった」

顔を見上げる百香里はもうさっきまでの不安は見えない。何時もの明るい笑みだ。
歳を重ねてもまだまだ彼女は若くて可愛くてそして弾けそうなくらいの元気一杯。
総司も釣られるように笑うと百香里は少し頬を赤らめる。何時もそうだ。

「…総司さんの笑顔好きです」
「そうか」

嬉しいからそのまま顔を近づけてキスする。

「ん…総司さん…舌は駄目」
「可愛い事言うんやもん」

可愛い嫁をもっともっと欲しくなるというものだ。

「仕事始めに全社員の前で新年の挨拶するんですよね」
「そ、それ今言うか!?」
「楽しみですね。頑張ってくださいね」
「…意地悪」
「では頼みましたよパパ」

だが嫁の方が上手。やんわり回避して台所へ去っていく。
総司はガックリしながらも子どもたちのいる部屋へ。
そして毎年の事ながらハガキの山を見てうんざりするのだった。

「坊なにしとんの」
「データベースを作成してる所。後でなん等が当たったか分かりやすいでしょ」
「えらい言葉しっとんなあ。お前ほんま小学生か?」

席につくとなにやらパソコンに入力している息子。
百香里に言うと怒られるがやはり誰に似たかイマイチわかり難いクールな子。

「ねえねえパパ」
「何や司」
「ママにはお年玉ないの?」
「え?ママお年玉欲しいって?」
「内緒なんだけどね。靴が欲しいんだって」
「そうか。初めて聞いたわ。ほな買いに行かんならんね」
「司ママの欲しい靴知ってる!スーパーの2階にあるウォーキングシューズ!茶色!」
「…えらい実用的な靴が欲しいんやね」

可愛いとか綺麗とかそんなものとは無縁。見かけよりも使いかって。安ければなおよし。
この巨大なお城から自転車に乗って激安スーパーへかけこむ百香里らしいけど。
でもそれくらい買えるだけのお金は預けている。自由にしてくれていいのに。

「ママは不思議。欲しければすぐ手に入るのにどうして安くて手間の掛かるものばかりに行くのか」
「んー。それがママらしさっちゅうか。生きがいちゅうか。本人が好きでしとることやでな」

総吾はキーボードを打つ手をとめて不思議そうな顔をして父親に問いかける。
子どもの自分でもこの家がどれだけ裕福なのか分かっているのに。
まさか大人の母親が知らないわけでもないだろう。父は母に甘い。分からない。

「司もいっつもお手伝いするよ。1人2個までの卵とかトイレットペーパーとか!」
「僕も」
「そうか。2人ともママのお手伝いしてるんやな。ええ子や」
「当然だよ。ママは大変だから。ね、司」
「うん。大変。だからお手伝いするのはふつーだよ」
「ああ、なんか俺めっさ泣きそうやわ」

彼女が孤立していると不安に思うことなどない。子どもたちはママが大好きだ。

「いい大人が、それも男が子どもの前で泣くのは示しがつかないし恥かしいからやめたほうがいいよ」
「な、なんや。お父ちゃんには厳しいなあ坊は」
「普通だよ。ねえ司」
「そうそう。ふつーふつー」
「そうか?」

2人して温度差を感じるんですが。総司は拗ねてみるが子供たちはスルーして作業にかかる。
何か今度はこっちが落ち込みそうなんですけど。後で百香里に慰めてもらおう。飲み物を持って戻ってきた
百香里がドアを開けると落ち込んでいる夫と何か楽しそうに喋っている娘たち。それですぐに察した。

「創設者の名前なんか付けたでお父ちゃんに冷たい感じになってんとちゃうか」
「総吾は優しくていい子です。私たちの子どもじゃないですか」
「…せやけど」
「まさかまだ疑って」
「ないないないない!ユカリちゃんは俺としかえっちしてへん。分かってるで怒らんで」
「じゃあ一緒に作業してください。…じゃないと泣きますよ」
「泣いたらあかん。あかん。ユカリちゃんは笑顔でないとあかん」

総司の隣に座って寄り添ってやるとすぐに元気を取り戻してくれた。子どもたちも慣れたもので
作業はもう終盤に差し掛かっていた。地味で楽しいばかりではないがそれでも家族の思い出にはなるから
家政婦たちからその仕事を奪ってしまった百香里だがきっとこれでよかったのだと思っている。


「あーあ。宝くじは結局今年も300円が1枚か…」
「また来年やね」
「はい。夢は大事ですから」
「せやせや。夢は大事や。初売りに命かけるユカリちゃんも可愛い」
「このチェックしたもの全部ゲットが目標です。あと子ども服!今年も絶対負けません!」
「ママかっこいい!」
「ほんま…男前やなあ」

おわり


2013/01/01