家族の話し
百香里の同窓会。ギリギリまで出席するか迷っていたけど。
行きたくない訳じゃないようなので総司が何も気にするなと言って
参加することとなった。
「本当に大丈夫でしょうか」
「大人が3人もおれば問題ないって」
「でも皆して司には甘いし。欲しがってもすぐ買い与えないように。
ご飯もあの子が食べたがるものにするのはいいけど食べ切れる量で」
「はいはい」
よそ行きのワンピースにお化粧、カバンも旦那さまからのプレゼントされたいいヤツ。
出発の時間は迫っているものの彼女は心配の方が大きいようでソワソワしている。
「あの子弾丸みたいに走っていくからお出かけするなら注意してくださいね」
「気をつけます。時間迫ってるし行っておいで」
「連絡くださいね。じゃあ、行ってきます」
「楽しんできて」
百香里に軽いキスをして玄関からやっと送り出せた。
よほど信頼が無いのか。いや、たしかに甘やかしてはいるけれど。
「パパぁママ…いっちゃった?」
「行ったよ」
一緒に送り出す!と意気込んでいた司だが寝坊して今来た。
パジャマ姿でちょっと寝ぼけたようすでヨロヨロとパパの足に捕まる。
「まま…ぁ」
「大丈夫。お昼ごはん食べて帰ってくるから。すぐやよ」
「お土産はけーきがいい」
「ママに連絡いれとこか」
司を抱っこしてリビングまで運んでくると朝食の準備が出来ていた。
コーヒーは冷めてしまうのでご自分で。司には牛乳。
ここの男たちはすっかりその辺のルーティーンは理解していて作業も早い。
「凄いねぐせだな」
「ゆずもねぐせ」
遅れて起きてきたのは渉。事情は理解しているので彼も自分でコーヒーをいれる。
「ご飯食べたらお出かけしよか。司が楽しい所って何処やろな」
「こうえん!お菓子もってって遊ぶ」
「遊ぶってもお前相手がオッサンじゃろくに遊べないだろ。遊園地とかにしとけば?」
「パパ…あそべないの?」
「遊ぶに決まってるやろ。大丈夫やって。ほな、弁当もって行こか」
「うん」
「公園なあ。子どもはいいよなそういうので満足して」
「今日はデートか?えらいのんびりしとるけど」
「違うけど。適当にパチンコでも行く予定」
「じゃあ一緒にいこぉ」
「えぇー」
「いこぉよぉ」
ねえねえと渉の手を引っ張る小さな手。
「お前のお供は良いけど。オッサンと一緒はなあ」
「何や兄さんと一緒でもええやんか」
「二度と言うなキモいんだよ」
「ゆずぅ」
「分ったよ。ついてってやるから服引っ張るな。
こーいう時に限って居ないんだよな真ん中の奴」
仕事で夜遅いことが多かった次男は家に戻るより近場のホテルで眠ることを選択。
よって帰宅時間は不明。
司のお願いには勝てず。渋々一緒に公園へ行くことになった渉。
どうせなら買ったお弁当でなくて自分で用意しようと総司は朝食の片付けをすると
冷蔵庫を開けて何ならチェックをし始める。
お着替えをまだ一人では出来ない司の手伝いをする渉。
ついでに自分も着替えて顔を洗って。
「パパぁ」
「ん?」
「司はんどいっちがいい」
「はんどいっちなぁ。パンあったやろか」
「俺のは良いから自分等の分だけ用意したら」
「何や渉。おにぎりがええんか」
「オッサンの握った米なんか食うか」
「はい!」
「ガキンチョも衛生面が怪しいから却下」
何とかありあわせのもので食事も準備してお出かけの用意は整う。
百香里に行き先と予定を連絡したら彼女からも今会場について
同級生の女の子たちと挨拶をしている所だと返ってきた。
「ママのお友達頭が金色だった」
「えらい派手に染めてたなぁ。若いなぁ」
「おい日焼け止め忘れてる」
「ああ」
「おめーじゃねえ。司、こい。塗ってやる」
「うん」
ママへの連絡も終えて3人で家を出る。
パパの車に乗って少し遠いけど広くて自然もいっぱいな公園へ。
日曜日とあって他にも家族連れは多い。デートもちらほら。
「一定の距離を保てよ」
「なんで?」
「野郎同士で歩いてて変だろうが」
「何処が?司もおるし弟やん」
「他人は分からないだろ」
「分かるて。そっくりなイケメン兄弟やもんな」
「このクソ……、ああもういい。とにかく距離を保てよ」
思ってたより人が多いのを見て急にソワソワする渉。
司が近づいて抱っこするのは良いようだけど総司が近づくのは
嫌みたいで近づくと離れる。
無理に近づく事もないので言われたとおりに一定の距離を
保って公園を歩き。
「司。この辺にしよか。シート敷くで」
「うん」
木陰のちょうどよいスペースを確保するとレジャーシートを敷いて
荷物をおく。
「ったりぃな」
「ゆず一緒にぶらんこ行こ」
「俺?……そうだな。ここで突っ立ってるよりは良いか」
「だっしゅ!」
「走るな転ぶだろ。ほら転んだ」
「……ふぎゃ」
遊びたい!と元気いっぱいの司を連れて遊具のある場所まで移動。
総司は荷物を見るからと残った。結局来ないんだな。と。
距離をおけといった手前文句は言えなかった。
司と遊ぶ分には別にどう見られようが関係ない。
親子と思われても構わない。
「ほらあんま挑戦すんな。落ちたら痛いぞ」
「降りられないこわい」
「お前な」
大人でも遊べそうな大きい滑り台。タコの形でテンションが上って登ったものの、
いざ降りる時に怖くなったらしく座って泣きそうな顔の司。
他の子も来るし迷惑なる前にと渉も滑り台に登り一緒に滑り降りた。
「タコさんおもしろいね」
「ケツが汚れないかだけ心配だな」
「もういっかい!」
「お前一人じゃ怖いんだろ」
「もういっかい!」
「一回だけな」
言わないけど、ちょっとおもしろい気がして司と二度滑った。
もうそろそろ戻ってお昼にしようかという所で司がトイレに行きたがり
近くにあったトイレへ。
「手伝ってもらってありがとうございます。助かりました」
「いえいえ。ちょっとドアが開けにくかったみたいですね。
管理人さんに声をかけておきます」
司が一人でトイレができるかというと家ではできる。でも外は場所による。
百香里が居たら一緒に入れるけど男だから無理なわけで。
真守が毎回ハラハラすると言っていた意味がよく分かった。
時間がかかった上に泣き声がしたから思わず女子トイレに入ろうと
思った所で若いママさんと一緒に司が出てきた。
どうやらトイレは出来たけど扉が開かなくて怖くて泣いたらしい。
「ありがとうございます」
「怖かったね。もうお父さんいるから大丈夫だからね。
きちんとお礼が言えるなんて偉い娘さんですね」
「いやぁこの子は」
「大丈夫か?」
「パパ」
様子を見に来たらしい総司が顔を出すと司はギュッとパパの元へ。
ママさんは総司と渉の顔を交互に見て。
「あ。あ。はい。……それじゃ。楽しんでくださいね」
「どうもお世話かけました」
若干ニヤッとした顔で去っていったような気がした。
「何や?」
「あ。ああ。トイレでちょっとトラブってあのひとに助けてもらった」
「そうか。ちゃんとお礼言うべきやったな」
「良いからさっさと戻ろう。腹減ったろ」
「へった」
「よっしゃ。戻ろな」
ここに3人で居るのは危険。渉はそそくさとその場から移動する。
司は遊び疲れたようでパパに抱っこしてもらって。
「ママからでんわは」
「電話はないけど司がいい子にしとるかってメールは来てたよ」
「いい子してたもん」
「そう返事しといたから。好きなん食べ。渉もほら。
オッサンが握った飯が嫌やったらパンあるよ。パン」
「ああ」
「おいちい」
「そうか。ようけ食べ」
お手製サンドイッチを子ども用に小さく切ったものを食べる司。
総司は大人サイズ。渉は家にあった他のパン。とコーヒー、ジュース。
「食ったら俺寝るからあんた司と遊んで来いよ」
「せやね。お父ちゃんと遊ぼか」
「うん……ぅん」
「いや。これはもう昼寝モードだな」
かじったパンを手にうつらうつら。
あれだけ走って遊んで笑ってエネルギーもきれるか。
「お昼寝の準備せんとね。司のタオルケット持って来といてよかった」
「出かける度にユカりんが背負ってるもんな。他にも司の為の荷物持ってるのに」
「俺が持つって言うても司になにかあった時にすぐ動いてもらわんとあかんからって」
「ユカりんのが俊敏に動けそうだけどな」
「ははは。せやね。……おっと。パンは後で食べよな」
こてんと寝てしまった司からパンを取って寝かせるとタオルケットをかける。
「俺も寝よう」
渉はその隣にごろんと寝転んだ。彼の分のブランケットは無かったが
司が温かいので丁度いいらしい。
「写真おくったろ」
総司はそんな穏やかなお昼寝顔をスマホで撮影して百香里に送った。
「可愛い寝顔ですよね。おくってもらってからずっと見てる」
「ほんまに」
「渉さんも可愛い寝顔ですね」
「撮ったの本人には内緒やで?絶対怒るから」
「はい」
「真守にも見せたんやけど。笑っとったわ」
「でしょうね。今度は皆で行きましょうね」
おわり