家族の話し
「マモ。このおっきなにんじん欲しい」
「ん?司、人参食べられるようになったのか?」
「この前ようちえんでウサギさんに会いにいったの。
そしたらね美味しそうにもりもりたべてた」
「見てたら自分も食べたくなったのか。まあ、いいか。メモにはないが買おう」
「ママおこる?」
「人参食べてえらいって褒めてくれるよ」
休日に司を伴ってスーパーにやってきた真守。
何時もはママと一緒にお出かけするけれど珍しい組み合わせ。
百香里にお買い物メモを貰ってソレを見ながら商品を購入。
渉のようにこっちのほうが良いからと指示を無視して高級な物は買わない。
「今日のお夕飯なんですかぁ」
「ん?んー。そうだな。メモの内容からして……肉じゃが?カレー?」
「わあ!」
「或いは寿司」
「す、すし……?」
「ごめん今のは冗談だ。そんな真剣な顔で驚かないでくれ」
思いの外びっくりした顔をするので真守は慌てて訂正してカートを押す。
司は歩かせると何処へともなく動き回って1人では心配なので
カートに付随しているかわいいキャラクターの椅子に座らせている。
最初はそれが恥ずかしかったけれど今ではもう慣れたもの。
「マモもお酒のむの。司はね、もっともっと大きくならないとだめなんだって」
「渉は平日も何も関係なく飲むからな。話をしないといけないな」
「飲めるようになったら皆でパーティするの」
「悪くない。羽目を外さないようにきちんと自分の管理はするんだぞ。
大人になるということはパパやママに言われなくても出来るようになる事だ」
「……ママいないとおきがえできない」
「少しずつ出来るようになる」
「パパも子どもなの?パパいっつも朝ママにお着がえぇって言ってる」
「そうだな。パパは子どもだ」
弟だけでなく兄にも一言物申す必要がある。真守は軽いため息をした。
ガチガチに縛るつもりはないけれどやはり子どもの教育は気を使う。
おおらかと言えば聞こえが良いが、それが行き過ぎると取り返しがつかない。
引き返す方法を知らずにそのまま拗らせた大人が3名現に居るのだから。
「司ちゃんだ!」
「未百合ちゃん!」
司にオレンジジュースを買ってやろうと移動していると小さな女の子が駆け寄ってくる。
どうやら同じ幼稚園のお友達らしい。彼女はカートには乗っていない。
お友達登場でテンションが上った司は今にも飛び出していきそう。だが真守がブロック。
「司ちゃんのパパさんだーパパさん背たっかーい!みゆのパパより高いぃー」
「パパじゃなくておじさんだよ」
「オジサン?」
叔父という位置があまりわからない様子で首を傾げる少女。
「ほらみゆ勝手に居なくなったら駄目って言ったでしょ」
「ママ司ちゃん」
「あー。どうも。何時も遊んでもらってありがとうございますー」
「い、いえ。こちらこそ」
「しゅごいあたま」
「司」
遅れて彼女のママがやってくるがパッと見た感じ姉妹でも通じそうな雰囲気。
義姉も若いのだが向こうが落ち着いている雰囲気に対してこちらは現役というか。
女性誌の表紙にあるような流行のファッション、
茶髪にうっすら赤い色が混じってそれを団子にして、顔は白く唇がやけに赤い。
真守が今まで出会うどのタイプとも違ったのでつい仕事モードに顔が切り替わった。
とりあえず無難に返す時はこうなるらしい。無意識に。
幾つかの当たり障りのない会話をしてバイバイする。
「……マモ。だいじょうぶ?」
「ん。ん。もちろん。……仕事モードになってた?」
「なってたよ。司もちょっとびっくりしたもん。頭ソフトクリーム」
「はは。ごめん。僕はまだうまく会話できない」
兄ならそつなくこなし、弟もきっと無難にやり過ごせるだろうに。
自分はビジネス抜きでの気さくな会話というのがどうにも難しい。
堅苦しいテンプレートな抑揚のない、そんなツマラナイ会話誰もしたくない。
「だいじょうぶだよマモ。ぜんぜん怖くなかったもん」
「そうか。なら良かった」
「おなか空いてきたぁあ」
「急いで帰ろう。司のご機嫌を損ねたら大変だ」
「うーーーー」
「あまり宜しくはないが、ポテト買って食べるか」
「食べる!」
結局真守も司に甘いので強くは出られない部分もある。
会計を済ませ、帰りにフライドポテトを買って2人で分けて食べた。
司はご機嫌。内緒にしようと言うと後ろめたくなるので何も言わず。
「お帰りなさい。お疲れ様でした真守さん。司もいい子にしてた?」
「してた!」
「してましたよ。あと、メモにある品物は欠品なく全部揃えました」
「ありがとうございます」
帰宅して台所へ向かうと百香里が笑顔で出迎えて抱きついた司の頭を撫でる。
彼女に買ってきな品物と残りのお釣りを渡して。
「あと。その。つい我慢出来ずに買い食いをしてしまいました」
「しましましたぁ」
素直に報告。
「動いたらお腹空きますよね。わかります。夕飯まではまだ時間はありますから
それまでにはちゃんとお腹を空かせててくださいね」
「はい」
「はぁい」
「因みにどれくらい食べたの司」
「ポテトはんぶんこした」
「それだけ?」
「うん」
「多かったですか?」
「いえいえ。パパとお出かけしたら2人で美味しいパンケーキ食べて帰ってきたり
渉さんとちょっとお散歩で2人で美味しいクレープ食べてきたりするから。全然。全然」
「義姉さんも食べてくださいね……」
顔は笑っているけれどこれは確実に怒っているヤツ。
「そうですね。総司さんとデートする時はパンケーキ食べたいですね」
「そうしてください」
金額のことではなくて待遇で怒ってるということは真守でも分かる。
司だけを集中して甘やかすのはあまり良くない。
今度買い物に出たら義姉にケーキでも買ってこようと決めた。
「ママは頭の色かえないの?」
「ん?んー。興味がないわけじゃないんだけどね。はえて来るたびに色を
変えるのが面倒だから。美容院へ行くのも大変だしね」
「そっかぁ」
「司は色変えてみる?確かエリザちゃんは茶髪だったっけ」
「今はね赤い色っぽくなってる。司は何色がいいかなぁ」
「そーいうの家は禁止」
「渉さん。帰ってきてたんですか。おかえりなさ」
「禁止。司の髪色はコレでいいの。コレで正解なの」
「ユズだって茶色だよぉ」
「髪痛むし小学校上がったらすぐ戻さないと行けないし。とにかく。俺は反対」
「俺も司は今のままで十分やと思うけどなぁ」
「パパおかえりなさい」
リビングに次々入ってくる渉と総司。
非常に珍しい組み合わせで休みの日だというのに会社へ行っていた。
「そうですか?じゃあ。大人になるまで我慢しようか」
「これもぉ?司いっぱい我慢するのいやぁ」
「代わりに好きなモン買ってやる」
「じゃいい!」
「こら司。渉さんもそんな甘やかさないでください」
「とにかく。染めるのは無し」
ストレスを貯めてそうな渉は機嫌悪そうに部屋へ戻る。
「司、渉のお着替え手伝ったって」
「はぁい!」
なので司を派遣してご機嫌とり。恐らく戻る頃にはいつもの渉。
「堪忍してな。明日は一日イチャイチャしてよな」
「そうですよ。パンケーキにクレープに映画にお買い物」
「なんでもします」
「私もいっぱい甘やかしてくれないとグレますからね」
「それも見てみたいような。あ。いや。やめとこ。着替えてきます」
「はい」
「……手伝ってくれても」
「頑張って」
「はい」
おわり