wata

家族の話し




「ぜったいぽっぷこーんはキャラメルがいい!」
「はいはい。ポップコーンはキャラメルな。ジュースは?」
「りんご!このね!この可愛いこっぷのやつ!」
「ん。じゃあ買うから大人しくしてろ」
「はいっ」

そう言って先程まで散々メニューに悩んでギャンギャン叫んでいた小さい女の子は
嘘みたいにピタっとおとなしくなり会計をする男性の足にくっついて離れない。
そうしないと怒られるから怖がっているとかでもなく、自発的に。
レジのお姉さんはその光景を見るのは初めてだったので驚いたが
何度か目撃している先輩いわく、
それがあの人達の普通なのですぐに慣れるとのこと。

「やっぱここのポップコーン美味いよな」
「おいちい〜甘い〜大好き〜」
「美味しいからって踊るな。転んだら危ないだろ。ポップコーンこぼすぞ」
「やだ」
「じゃ大人しくしろ。今回はママも来てんだ、何かあったら怖いぞぉ〜」
「わああ。ママにおこられる?かわいいこっぷ……」
「そんな訳…あ。でも、このシリーズのスーベニアカップこれで8個目だもんなぁ。
流石にユカりん怒るか…いや、黙って9個目にしときゃバレないだろ」
「大丈夫かな」
「大丈夫。俺が保証してやる。ゆっくり飲んで休憩したら次は乗り物でも攻めるか」
「うん!」

何時もは渉と一緒に日帰りで遊びに行っている遊園地。でも今回はなんと
パパとママも一緒に1泊する。そんな夢みたいなお出かけに当然前日の夜
司は眠れなかったので、今回は不参加の真守に英語の絵本を読んでもらった。
お土産をいっぱい買ってくるから!と朝もちゃんと起きて家を出た。


「夢のボッタクリ王国……」
「ユカリさん!?」

デートを楽しんでねと言われて司と別ルートで遊んでいた百香里と総司。
それほど乗り物に興味があるわけではないので目についたグッズ売り場へ。
のんびり眺める総司、恐ろしいくらい鋭い視線で品物をチェックする百香里。

「この980円のうち何割がキャラクター著作権料で持っていかれ」
「ユカリさん?」
「……ほんとかわいいぐっずですね」
「ユカリさん。あの。言うてることとお顔が全然合ってないんですけど」

夢の国に行くと自然とお財布が緩んでつい高額なものを買ってしまう。
司もそうで何時もは我慢できるのにここに来て帰ってきたら巨大なヌイグルミを
抱いていたなんてことは珍しくない。
だから百香里もなにかしら欲しがるかと総司的には期待していたのだが。

現実的な彼女にはここは逆効果だったかもしれない。

「私だって総司さんとお付き合いしてる頃とかデートに遊園地期待してました」
「え。ほ、ほんまに!?てっきりスーパー巡ってるほうが好きなんかと」
「だって19歳の女の子ですよ?傷つくなぁ」
「そ、そうやよね。堪忍してな。これからはいっぱい遊園地行こな。年パスとか買う?」
「司が持ってる毎日いくわけでもないのにフザけた値段のあのカードですか?」
「し、辛辣ぅ〜」

一瞬百香里の顔が般若になったが買い与えたのは渉なので爆発はしなかった。
それでもくすぶってはいるようだけど、司が喜んでいるので口出しもしていない。
もし総司が勝手に与えていたらどうなっていたのだろうか。想像するのも怖い。

「買い物以外で元を取りたいけど私絶叫系って好きじゃないんですよね。総司さんは?」
「そうやね。どっちかっていうと好きかも」
「意外です」
「絶叫でもお化けが出るんは無理やねんな」
「丁度いい乗り物がありますよ」
「恐怖と血肉の地獄って書いてる?あれ?ユカリさん?俺の話し聞いてくれてた?」
「座ってるだけでいいんだから大丈夫ですって。目を閉じていれば終了」
「そ、そんな初デートの女の子みたい……」
「初デートで地獄へ連れて行かれたら私だったら別れます」
「俺も嫌や……ていうか本気ですかほんまに!?ほんまに入るん?」
「まさか妻一人で行かせるような根性のない男じゃないですよね私の旦那さまは」
「……目、閉じてるけど、ええかなぁ」

オーバーリアクションを受付の女性に笑われながらも地獄の口へと足を踏み入れる。
百香里は絶叫系は嫌いといいながらこういう絶叫は好きなのか。
あるいは興味がなくても意地で乗り物に乗って元を取ろうとしているのか。
確かに座っているだけで自動的に移動してくれてワーワーいうだけで済むけれど。
総司は座るなり百香里を見る。彼女は微塵も怖がっている様子はない。

「殺人事件が起こったというロッジへ行くそうですよ。何でですかね?」
「…暇なんちゃう?」
「うわ。先がすごく真っ暗ですね、向こうで赤い光が見えますけど」
「あ。あかん。もう僕は何もみれません僕はもう何も聞けません」

小型の二人乗りカートに乗り込みさっそく目の前が暗くおどろどろしい音楽。
百香里は目を開けていて周囲をみようとキョロキョロするが総司はすでに
ギュッと目を閉じて震えている。
何処からか風がふいて、なんとなく中の温度が低くなっているきもする。

「わ!びっくりした。総司さん今のみました?いきなり女の人の頭が」
「何もみたくないので何も教えてくれなくていいんです僕は怖いのが嫌いなんですっ」
「司とホラー特集とかみてるのに?」
「あれはお家でテレビ越しで司がおるから」
「私が居るじゃないですか」
「そ、そうやけど。実際に体験するとなるとほんま怖い」
「そんなぎゅっと目を閉じてるとチューしちゃいますよ」
「え。して……」

くれるん?と言う前に軽くチュッとされました。

「最後くらい目を開けて一緒にきゃーって言ってください。デートだから」
「はいっ」

勇気が湧いてきたので目を開けて、最後襲いかかってくるお化けに
奥さん以上に大絶叫しながらも無事生還。

「子ども向けかと思ってたけど面白かったですね。こういうの他にもあるのかな」
「もう二度と頭が飛んでくるんは嫌です」
「何か飲み物でも買ってきましょうか」
「俺が行くで待っとって。その間にユカリちゃんは司と連絡とって、昼の時間もあるし」
「渉さんが予約してくれてるんですよね。司と何時も遊んでくれてるから手慣れてます」
「せやねん。お父ちゃんは不利や」
「まあまあ」

総司が飲み物を買いに席を立った所で百香里は司に連絡を取る。
今何処に居るのかとか。楽しんでいるのかとか。他愛もない事だけど、
それでも娘はいっぱい返事を送ってくれる。何度も来ていても
子どもはまだ乗れないものも多いのにそれでも楽しくてしょうがないみたいだ。

「見てみユカリちゃん。これ可愛いコップ」
「司が集めてるコップですね。これ、柄は違うけど。同じキャラの9個か10個はある」
「あ。そうなん。……失敗したかな」
「これは私のですよね?ならまだ1個なのでセーフです」
「良かった」
「休憩したら総司さんが好きなものに乗りましょう」
「何がええかなぁ」
「今更ですが。総司さんにエスコートしてもらわなきゃ」
「カッコつけようとすると失敗するでここは自然に行きます」
「はい」
「ほんで夜はユカリちゃんに乗」
「あ。司から写真来ましたね」

キャラクターの可愛い帽子は持参したもの。
それを司だけでなく渉もかぶっているのは彼も浮かれているからか。

「可愛いなあ」
「私よりも?」
「え。いやー。ユカリちゃんはお色気要素のある可愛い子やで」
「下心のあるお返事ですね」
「そらもちろん。男やから」
「さっきは散々叫んで私の手を握りしめてましたけど」
「……ハイ」
「総司さんとデートしてるとずるいって思うことがあるんです」
「何?」
「貴方と出会う前の方がまだ歴史は長いじゃないですか。
だから、弟さんたちが知ってる長男としての総司さんとか……、色々。
2人きりで遊んでるとたまに総司さん素になって言葉が戻るから」
「そ、そう?別に演じとるわけやないし嘘もついてへんよ?ほんまに」
「それは分かってます」

可愛らしいカップを眺めながら百香里はちょっとさみしげに笑う。

「ユカリちゃんに寂しい思いをさせて堪忍してな」
「そこも分かって一緒に居るんです。でも偶には愚痴らせて」
「うん」
「次はどんな乗り物に乗りましょうか」
「刺激控えめな大人しいやつがええなあ」
「じゃあアレかな」
「あの、めっっちゃ高い所から人が落ちてますけど????」

実は乗り物は何でもいける口でからかって遊ばれている気がしてきた。
けれど、彼女いわく遊園地にはほぼ行ったことがないのでほぼ初体験。
案外行けると気づいたのは最後の方。とのこと。


「ママ!パパ!」
「元気で可愛いウサギさんや」
「おなかすいた」

予約したお店の前で集合。少し早めに来たら司たちも同じくらい。
司は元気いっぱいに走ってパパに抱っこしてもらう。
彼女からはキャラメルの甘い香りがした。

「渉さん。お疲れ様です、司大丈夫でした?」
「ああ。全然。ここにはよく来るし慣れてるからさ」
「帽子取ったんですね?似合ってたのに」
「どーしてもっていうからあの時だけかぶっただけ。良いから入ろ」
「それやったら俺が」
「腐るだろうが。良いから入れ」
「えっ」
「パパおなかしゅいたー!早くーーー!」
「総司さん。行きますよー」
「え。え。……えぇっ」

傷ついたパパを他所に3名はさっさと入店。いつもの席へ。
バイキング方式なので手ほどきを司からしてもらい各自好きなものをお皿へ。
ママが居るので何時もみたいにバランス無視のチョコ三昧は控えめな司。

「ママたこやき〜」
「たくさん持ってきたね。かなり熱そうだからちゃんとフーフーして」
「うん。はいユズー」
「俺かよ。……今日はほらママが居るからママに頼め」
「お父ちゃんが」
「司じぶんでやる」
「な、なんで!?」
「なんとなく」
「なんとなく…」

しょんぼりするパパを他所に司は自分でフーフーしてたこ焼きを美味しそうに食べる。
口にソースが付いたらすぐママが拭いてくれて。すごく嬉しそう。ご飯は大人ほどは食べずに
でもすぐデザートのコーナーへ行き大好物のチョコワッフルをゲット。

「総司さん飲み物持ってきましたよ」
「ありがとう」
「総司さん」
「分かってる。落ち込んでもしゃぁないって。司と普段からもっといっぱい遊んだらんと。
遊園地ももっと一緒に行かんと。このままやと」
「そうじゃないです」
「え?というと……?」
「ここお幾らすると思ってるんです?」
「はっ」

ちらっと自分の皿を見ると殆どサラダばかり。これは、不味い。
渉は賢くデザート二皿目の司について行って居ない。

「司だってもっと食べてますよ?アナタ。アナタは、一家の柱ですものね」
「ハ、ハイ。ソウデスッ」
「じゃあもっと頂けますよね?単価が高そうなのとか。普段食べられないものとか」
「い、行ってきますっ」

食後のコーヒーかと思えば温かいお茶。総司は再びお皿を持って高カロリーなものを
選んで戻ってくる。食べられない程ではないけれどそれなりにもういい感じに膨れた腹。
だが愛しい可愛い、若い元気な奥さんがニコニコとこっちをじーっと見つめていて逃さない。

「いっぱい食べてくださいね」
「はい」
「元気だしてくれないと今夜は頑張るんですもんね」
「はい。あの。腹痛で倒れない程度に食べますんで堪忍してください」
「堪忍してあげますから。ふふ。ほんと総司さんの困り顔可愛い…」
「気に入って貰えて光栄です……」


おわり


2021/02/09