あんまり変わらない?日々3


「お待ちください、社長」
「本日の営業時間はとどこーりなく終了しておりますんで。後は専務さんにでも言うて」
「いえ、あの。お電話が」
「ああ。そんなん居らんって言うてかまん」
「宜しいのですか?奥様からで」
「はよ言わんかい!」

堂々と帰ればいいものを何となく気を使ってこっそりと廊下に出たら秘書がいて内心ビビる。
千陽ではないから怒られたりしないはずだけど、やはり反射的に怖い。だが百香里からの電話と聞いて
急いで部屋に戻り受話器を取った。携帯にかけてこないのはもしや仕事中だと思っているからか。

『あ、あの。その。お仕事中ごめんなさい』
「ええねん。もう帰るし。ナニナニ?何かお使い?なんでも言うてぇな」
『司が総ちゃんと一緒に渉さんのお家に泊まりに行きたいって言い出して』
「ほう」
『行き成りは失礼だから電話して聞いてみたらって言ったらあっという間にお泊りが決まっちゃって』
「ほうほう」
『それで。その報告に。で、今、私、1人なんです…よね……』

寂しそうな複雑そうな声の百香里。本人もそこまで簡単にいくとは思ってなかったらしい。
電話1本で速攻で渉が迎えに来て司と総吾を連れて行ってしまった。今でも目一杯遊んでくれるのは
母親としては嬉しいのだがやはり子どもたちが居なくなった巨大なお城はとても寂しいのだろう。
だから総司に「早く帰ってきて欲しいな」と言いたいのかもしれない。はっきりと言葉にはせずとも。

「そうか。ほな久しぶりにデートしよ。ほんで映画でも観に行こか」
『でもお疲れじゃ』
「そんなん気にせんと。迎えに行くで待っといてな」
『はい』

そんな彼女がいじらしく愛しくて。ニヤニヤしながら会社を出た。
心なしか彼女の声も嬉しそうに聞こえた。

「この歳になると夕飯はうどんくらいが丁度ええなあ…」
「え。ごめんなさい。つい司たちに合わせちゃって。総司さんには重かったですか?」

家の前で待っていた彼女と合流して街へ繰り出す。でもその前に夕飯。
向かったのはレストランではなく安くて早くておいしいセルフうどん屋さん。
2人にとって思い出のあるとても懐かしい場所でもあり自然と入ってしまう場所。

「あ。いや。重いちゅうか。昔ほど食えんもんでなあ」
「……」
「よし。今の無し。うどんなんか味気ないわ何か揚げもん追加してくるめっさ食うでぇ〜」
「私、もっとちゃんと栄養とか勉強して料理作ります。総司さんの好みもありますし」
「そんな気ばってくれんでもええよほんまに。からあげめっさ好き」
「友達が言ってました。浮気されないように料理の腕を磨くんだって。それで彼氏の胃袋を掴むんだそうです。
だから、私も頑張ります。それに総司さんの健康面もサポートしないといけないと思うし…」
「胃袋なあ。俺はもう魂ごとユカリちゃんに掴まれてるけどな」
「魂って。私そんな怖い人じゃないです」
「そうくるか」

実に安上がりな食事を済ませると目的地である映画館へと向かう。
事前に携帯で調べておいた時間に合わせたから上映前の映画が多く。
どれにしようか迷う余裕もあった。

「選択肢が多いのも逆に大変ですよねえ」
「全米が泣いた実話の感動作やって」
「総司さん好きですか?私そういうの眠くなるんですよね」
「この恋愛もんは?若い子に絶大な人気を誇る漫画の映画化らしいで」
「ふふっ…総司さんって結構乙女ですね」
「ほなこの恐怖と戦慄の血みどろハイテンションホラーアクションコメディは?」
「大人2枚お願します」
「はやっ」

チケットと飲み物を購入し指定されたシアターへと入る。
他にも客はポツポツとまばらに居たが平日の夜とあってかなり少なめ。
他の感動巨編やら恋愛ものにはそこそこ人は居たようだが。
百香里は気にせず総司の肩に体を預け甘えていた。

「ふふ。そんなギュってしなくても。総司さん可愛い」
「こ、こんなん…笑えるか?おもろいか?首ポーンしたで今」
「映画じゃないですか」
「え、映画やけど…あああああ今度は両手バーンしたぁああ」
「あはははは」
「えええええ…」
「あ。足が」
「や、やめてぇえ」

プルプルと震える総司を宥めながらも無事に映画は終わり。
劇場を後にすると隣で大きなため息が聞こえた。
明るい所で見るとちょっと涙目になっている夫が可愛い。
居ないのについ癖で子どもたちへの土産を購入してから家路についた。


「総司さんの好みってどんなのかな」
「ユカリちゃん」
「料理のです」
「んー。好き嫌い殆ど無いし、あんま深く考えた事ないんやけど」

家に帰るがいつもならある子どもたちの賑わいがないと寂しい。主に司が1人で騒いでいるのだが。
今頃渉と梨香の部屋で迷惑をかけてないといいがと百香里は不安になってみたりするけれど、
冷静な総吾がストッパーになってくれているはずだから問題はないだろう。風呂を沸かして総司と入る。
前のマンションも足を伸ばせるほど広かったけれど今の家の風呂は規模が違う。
まるで旅館のような大きさで司が泳ぐのに夢中になりすぎて結果のぼせた事がある。

「私も好き嫌いないし。味も食べられたらいい派なので。こだわりがないんですよね」
「食べもんの有り難味が分かってるからな」
「それはもう痛いほど。でも、あんまりにもひもじい思いはさせたくないんですよね子どもたちには。
これってやっぱり親バカですよね…だからつい子どもが好きなコッテリしたものに走っちゃう」
「子どもにはええもん食わしたい。親やったら当然の気持ちちゃうん?」

百香里を膝に座らせる総司。そんな彼の髪を撫でてギュッと抱きつくと抱き返された。

「でもいつかは巣立ってしまう」
「寂しい?」
「少し。でも、総司さんは何処にも逃しませんからね。胃袋を掴んで引っ張り出してやります」
「はははそうそう胃袋……ん?あれ?なんか俺エグイ事されてへん?」
「ずっと一緒ですよ?総司さん」

向かい合うと軽く唇を合わせる百香里。

「あかん。ここやと司の二の舞なりそや。あがろ」
「ふふ。はい」

のぼせた娘にお説教しておいて自分たちまでのぼせたら立つ瀬が無い。
総司は苦笑しながら言うと百香里を抱き上げて風呂場から出る。
脱衣所でスルかと思ったがここでは我慢して。寝室に移動。

「あっ…そんなとこくすぐったらあかんて…仕返しや」
「んっぁあ。…ふふっ…ん…っ」
「これ…あかんて…悪い子やね」

誰も居ない広いお屋敷。子どもたちの居ない夫婦2人だけの世界で開放感があったのか
何時になく積極的な百香里。歳を重ねた所為か昔よりも甘えるのが上手になった気がする。
最初は恥かしがったり無関心そうだったえっちやイヤラシさも開花してきた。
貪欲に総司の体を求める百香里に若さを感じながらもそれに溺れていく。

「…コッチでも…総司さんを…離しません」
「ほんまに。えっちなお口やね。ほんま可愛い」

百香里に口で奉仕してもらいながら彼女の頭を撫でる。
見つめるとやはりまだ恥かしさが残るようで目を逸らす。
けれど舌使いも伺うような上目遣いも上手くなった。

「…ん」
「お尻はこっち」
「はい」
「あ。そや。…めっちゃヤラシイ音たてて吸ったろ」
「総司さん聞こえてます」

冷たい視線を浴びながらも柔らかく白く形のいいお尻が目の前に来る。
鷲掴みして激しく揉みしだいてやりたい衝動にかられるけれどそれをすると百香里が
見せた事ないくらいの鬼の形相で怒るのでしない。そこまで行くにはもう少し時間がかかりそう。
お尻を優しく撫でると少し開かせて柔らかでピンクな部分にそっと優しく吸いつく。舌も這わせて。

「ええ具合にヤラシイな…」
「ん…ぁあ…総司…さん?」
「ああ。堪忍。指増やそな」
「あんっ」

何度目かの百香里の絶頂を見てから彼女を寝かせ正常位で中へと入る。
既に息もたえだえな彼女だがそれでもしっかり総司の首に手を回す。

「俺こそユカリちゃんに捨てられんようせんとな」
「ん…変な事言わないでください」
「これでも焦ってるんやで。ユカリちゃんますます可愛いなるし俺はおっさんつうよりじいさん寄りになってくるし」
「こんながっしり抱きしめられたら何処にもいけません。行く気もないけど」
「せやで。もうこんなガッチ…リしたまま俺イキそう…ユカリちゃんそんな締めてわざとやろ?」
「まだまだダメ。我慢してもっと動いて総司さん」

余裕の無さそうな総司を見つめるうっとりとした百香里。
その何とも言えない誘惑的な視線に促されるように総司は彼女の足を掴み上げ。
更に彼女の奥へと腰を沈めると色っぽく快楽に顔を歪ませ一段と締め付けがキツくなった。

「っ…百香里っ」
「あっぁああっ」

打ち付けるたびに百香里の体が弓なりに跳ね総司の背にギュッと爪をたてる。
そんなに爪が長くないから跡は残らないけれど。やはり赤くなって後で後悔。
興奮している今はそれすらも心地よくて。深く熱く何度も絶頂を迎えて果てた。

「手足パーンなって胃袋ビヨヨーンってなる夢見た」
「面白そうな夢…じゃなかった、怖かったですね」
「やから今日は会社」
「許しません」
「…はい」
「日々のお仕事をちゃんと頑張ってるパパだからこそ子どもたちは大好きだし尊敬するんです。
私だって真面目に頑張ってる総司さんを思い浮かべてここで帰りを待ってるんですから」
「そうか。そうやな。お父ちゃんがしっかりせんとな!」
「はい。ということで。この胸の手をどけてください」
「だってかわいいもん」
「どけてください」
「はい」

朝になると百香里は母の顔になり嫁の顔になり女の顔はひっこんでしまう。厳しく言われて渋々起き
会社に行く準備。子どもたちは渉に送ってもらい学校へ行く。朝も2人きりと喜んだのもつかの間。
ロボットのような家政婦たちが既に居てテキパキ動き回る。百香里が冷たくなるのも
彼女たちの視線があって松前家長男の妻であらねばならぬという気持ちがあるからだろう。

「行ってらっしゃい」
「愛してますぅのちゅーは?」
「総司さん」
「ここにちょうだい」

硬くなる百香里の表情を絆すように総司は自分の唇を指差しておどけて見せる。
彼女は暫し恥かしそうにしていたが1歩前に出て軽いキスをくれた。

「あ…愛してます。…気をつけて」
「ほんま可愛い」

彼女を寂しくさせないように何処へも行かせないように守らなければ。
強い意志とともにそのまま押し倒したくなる衝動を堪え総司は家を出た。



「でな?俺はユカリちゃんとの慎ましくも楽しい老後を」
「残念ですが総吾が成人するまで隠居は無理でしょうね」
「ええええ」
「子は親の背を見て育つといいます。基礎は僕の元で学べてもやはり兄さんを見たほうがいい」
「堅物野朗になるのもアレだけど。こんな変なおっさんになっちまってもいいのかよ」
「総吾は聡明な子だ。必要なものと不必要なものをちゃんと分けられる」
「ああ。なるほど確かにそういうのはしっかり見てそうだな」
「何やろ。あんまり嬉しい台詞とちゃうような」
「気のせいですよ。社会人として不必要な部分が結構あるというだけで」
「何やそうなんかい。はははは。……泣いてもええか?」

おわり


2013/02/14