彼と彼ら



「どうした。元気ないな」
「なんかね……元気でないの。せっかくユズと御飯食べる日なのに」

離れても月に1回は買い物したり夕飯を一緒に食べる約束をしている渉と司。
小学生、中学生、そして高校生になった今でもそれは続いていて、気に入っている
可愛いキャラのイベントがあれば一緒に遊園地も行く。

前から約束していた日で美味しいハンバーグを食べる予定。だけど、
待ち合わせ場所にやってきた司は浮かない顔。

「彼氏と喧嘩したとか言ったらお前の皿に人参山程入れるからな」
「そんなんじゃない」
「でもお前そういう顔だぞ」
「……そうなの?うーん。彼氏居ないけどな」
「とにかく。店行こう。腹減ったし予約した時間もあるし」
「うん。美味しいハンバーグー」

やっとニッコリと笑って夕方の街を歩く。
渉もあの場に居たので恐らくあの男の話なのだろう。
なんだか知らないが偉い先生の息子らしい、司のお友達。

その話には触れないで違う話題をしてレストランに到着。

「お前が飲めるようになったらワインで乾杯だな」
「あとちょっとだよ」
「というわけで今日も俺は水だ。お前は?オレンジ?」
「オレンジ!……と、いうとお子様扱いなので。大人っぽく紅茶」
「砂糖を山盛りミルクドボドボ入れるんだよなぁ」
「もちろ……入れないもん。ちょっとだけです」

席についてメニューを二人で見るけれど高いお店の小難しい説明が苦手なので
司の注文も渉が代わりにしてくれる。ちびっこ時代からの風習だからか、彼女の好みや
食べ切れるグラム数もきちんと把握しているのでそれはもう的確に。

「無理に大人ぶることないんだぞ」
「でも私がいつまでも子どもっぽいと総ちゃんに迷惑かけるし。
パパもママもずーっと私を心配して……悪い」
「なにか言われたか?」
「ううん。皆優しいから言わない」
「ただ優しいからじゃなくて。そういうお前が好きだから変わってほしくないだけだ。
きっちりしてて冷徹で腹が黒いのは総吾だけで十分」
「総ちゃんと逆だったら良かったのにな。私が妹で」
「あーーー。それはない。最初に俺たちの元へ来たのがお前だから意味がある」

そんな会話をしていくうちにスープ、サラダ、ライスにメイン登場。
目を輝かせながら司はナイフとフォークを上手に使ってハンバーグを食べる。
渉もそれを眺めつつ食べ始めた。

「今日はお家はカレーなんだって」
「ユカりんの作るカレーはマジで美味い。明日顔だしたら残ってるかな」
「ママに明日食べたいから残してって言ってるからきっと残ってるよ」
「ん。じゃ俺も行こ。ママに伝えといて」
「うん!」
「ほら。人参食えよ」
「だって」
「大人なら食える」
「……ぅうん。食べるっ」

苦手なものも頑張って食べて。ワインを飲んでいる気分で紅茶を頂き。学校のことや
家での失敗談、忘れてはいけないミドリの成長記録など。
あとはズバッと「何時梨香ちゃんと結婚するの?」という質問にのらりと答える。

「ふぃー。食った食った」
「食べたぁ」
「まだ時間あるしお前が好きな店でも適当にみてくか」
「うん。もうすぐママの誕生日だからね。なにか良いものないか探さなきゃ」
「そりゃお前。米とかスポンジとか洗剤だろ」
「ママにもっとオシャレしてほしいからお洋服とかカバンとか良いねって総ちゃんと話してる」
「何だまた小遣い使い切ったか?」
「残してるもん。でもそんな多くないけど」

お店を出てお口がスッキリするキャンディを司から貰って一緒に食べる。

「なんで小遣いを貰ってない総吾のほうがプレゼントに余裕があるんだ?」
「わかんない」
「まあとにかく。服とかカバン見に行こう。俺も選ぶの手伝ってやる」
「ユズのセンスはお下品にセクシーすぎてママが可哀想!って総ちゃん言ってた」
「はあ?ンだよあのガキまた人を馬鹿にして」
「そうだね。もっとユズのことわかってほしい。ユズは意外に清楚なのが好き」
「って、梨香が言った?」
「梨香ちゃんはねー日々研究してるんだよユズを」
「お前に愚痴ってるだけだろ。……恐ろしい方向にひん曲がってきたな」

苦笑すらでない顔になりつつも司がいつも見ているお店へ。
ここでママの服やカバンを買うにはあまりにも若すぎるけれど。
かといってあまりにもハイブランドになると手が出ない。

「松前さんじゃない。……っと。彼氏と買い物?」

そんな店に居るからか同級生らしき女の子と出くわした。
少し離れた所で違うものを見ている渉をちらっと見て控えめな声で聞いてくる。

「違うよ。叔父さん」
「あ。そ。そうなんだ。……うわぁ。かっこいいね叔父さん。
総吾君もかなりイケメンだし。すごい家系」
「……そうかな」
「今度お家にお邪魔させてよ。ね!」

そんな仲がいい訳でもないけれど。返事をしきれないまま彼女は去っていく。

「なあ司見ろよこのぽよぽよりんごって知らない間に結婚して子どもが居るぞ」
「らんらんりんごちゃん?子どもじゃないよ友達だよ」
「マジか。こんな小さい友達か」
「私的にはこっちのどすこいマッスル君がいい」
「お前。こんな筋肉質なおにぎり何処が可愛いんだよ」
「ママもお気に入り」
「……いい母娘だな」

ママのプレゼントに買おうとしたら止められたのでここでは見るだけで終了。
新作は可愛いし買いたいと思うものも多かったがこれ以上部屋を圧迫したら
総吾に呆れられる。ママには怒られる。
パパは何も言わないけれど。

「お友達でいるぶんにはいいんだって」
「ふうん。何だよ突然」

帰りの車内。黙っていた司が突然切り出す。

「太郎君のお父さんは偉い先生なんだって。それでお家もすごい立派なんだって。
お友達でいるぶんはいいけどそれ以上になるのはダメなんだって」
「……」
「よくわからない」
「わかってるんだろ。だからずっと辛そうな顔をする」

パパが真面目な顔で言った。いつもの冗談めいた感じじゃなくて。
ちょっと怖いと思ったけれど、でも真剣なんだと思ってきちんと最後まで聞いた。
お友達でいるぶんには問題はない。という短い言葉にどれだけの含みがあるのか。

分かる。けど分かりたくない。

「……」
「お前を愛してるよ。世界一可愛い姪だ。お前の願いなら何でも叶えてやりたい。
それは二番目のやつもそうだし。父親になったらそれこそ自分の命なんて投げ捨てるさ。
だから意地悪だとか家の事とか関係なく、お前を守りたいからそう言ったんだ」
「私を守る?何から?何もされてないよ」
「それが守ってるって事だ。お前はずっと守られてきた。これからも守ってやる」
「たよりないから?総ちゃんみたいにできないし」
「あいつが特殊なだけ。お前は普通の女の子だ。ママにそっくりで太陽みたいなさ。
そこが良いんだろ。お前が弟みたいに冷たくなったら俺はどうしたらいいんだよ」
「ユズは甘えん坊サンだもんねー」
「それも梨香に聞いたか?」
「えへへへへへ」
「変な笑い方すんなよこっちまで笑えてくるだろー」

その場は笑ってごまかして。でも、相手にもきっとバレている。
家に帰ると渉は面倒だからと挨拶はしないでそのまま帰っていった。

「お帰りなさい」
「ただいま総ちゃん。パパとママは?」
「リビングでゆっくりしてる」

玄関に入ると総吾がお出迎え。
一緒に行こうよと毎回誘うけれど一度も来たことがない。

「ママへのプレゼント候補いっぱい見てきたからまた一緒に見にこうね」
「うん。ねえ、司。元気だして」
「え?」
「父さんと話をしてから元気がない。父さん自身もだけど、それは別にどうでもいい。
司が元気がないとなんだか弟の僕も元気が出ないから」
「ごめんね総ちゃん。自分でもわからないけど、なんとなく気分が上がらない」

自分でもどう表現したら良いのかわからない。この重たい気持ち。
心配をかけたくはないけれど。

「無理に自分を作ることないから。司は司だから」
「……うん」
「こういう時どうしたらいいか参考書には乗ってないから不便だね」
「一緒にゲームしよう。パパとママも誘って」
「人生ゲーム?あれはいつも僕が一人勝ちするからなぁ」
「今度は負けません。さあパパとママの所行こう!」
「いいよ。僕も手加減してあげないから」
「あれで!?」
「当然だよ。……覚悟してね」

ニコリと微笑む顔がそれはもう怖い。その後。家族で人生ゲームをした

「坊?お父ちゃんそんな嫌い?なんでうちの株ばっかり」
「では更に借金しましょうか。さ、どうぞ」
「えー」
「よし!じゃあ私がパパを救う!」
「おお」
「と見せかけてアタック」
「ユカリちゃんー!ユカリちゃんだけは僕の味方やよね」
「……あと子ども10本くらいほしい」
「いくらなんでも子どもを本で数えたらあかんて」
「50ドル」
「ドルもだめ」


おわり


2020/02/25