「真守。俺は引退する。家族でハワイに移住する」
「そうですか。では溜まっている仕事をこなしましょう」
「司が例の男を連れて家に来る」
「……。日時は」
「日曜日の10時。昼飯食べる」
「僕も行きましょうか」
「俺の代わりに会うてほしいっ」
「それは流石に無理です」

朝から明らかに顔色が悪く挙動も変だった社長。
真守が声をかけるとどうやらついに司が男子を家に連れてくるらしい。
彼女の行動は松前家にとって最重要事項と言っても良い。

嫁が怒ってちょっとだけ口を聞いてくれなかっただけで一週間ふさぎ込んだ社長。
それが司の問題になるとどうなるか。
いつもいい子で不安になるようなことは今までなかったけれど。

心が遠くへ飛んでいったまま夜を迎えて帰宅する。

「おかえりパパ」
「あ。うん。……うん。ただいま」
「泣かないでパパ」

玄関を開けると司がお出迎えしてくれたけれど。
あまりに動揺しているので心配した司が慌ててママを連れてきた。

「総司さん。玄関で何してるんですか」
「ユカリちゃん。俺、会社辞めて家族でハワイ行く」
「辞めないし行きません」
「家族で移住する」
「しない」
「耐えられん」
「耐えて。今回はお友達を紹介してくれるだけなんですからね」
「……ユカリちゃんは何も思わんの?」
「どんな子なのかなってドキドキしてます」
「……」
「不満そうな顔をして」

ママが手を引いてリビングに連れてくるがそこでもあまり元気はない。
司は心配そうに寄り添うけれど、ママはご飯の準備に向かい。
息子に関してはあまり興味のない様子。

「パパ」
「大丈夫。大丈夫やから。ご飯食べよか」
「うん」
「司ハワイ好きやろ?皆で移住せえへん?」
「……はわい」
「父さん。まずはママに了解を得てください。僕らはその後」
「そうやな。わかった。……はあー」

だが重い一声にがっくりとして着替えるために一旦部屋へ戻った。

「パパが落ち込んでる」
「仕方ないよ。それは通過儀礼というもので、君のせいじゃない」
「……総ちゃん」
「そうよ司。ママいっぱい料理作っておもてなしするからね」
「ありがとう。パパとお話してくる」
「気にすることないのに」

司はその後を追いかける。

「パパ」
「ん」

かなり落ち込んだ様子でベッドに座っているパパの隣に座った。

「ずっと一緒にいるから寂しくないよ。だから落ち込まないで」
「お父ちゃんは司や総吾の幸せを大事に思ってんやけどな。
司はいつか家から離れるとわかっててもなぁ。寂しい。ほんま、寂しい」
「唯ちゃんも離れたもんね。寂しいね」
「最初に唯がお父ちゃんから離れていって。寂しぃて辛かった。
それからユカリちゃんに出会って寂しくなくなって。……今はまた少し寂しい」
「……パパ」
「連れてくる子は男前か?」
「かっこいいよ」
「そうか。……わかった。楽しみやな」

司の頭を撫でて一緒にリビングへ向かい少し遅れたけれど夕食タイム。
落ち込んでいるパパを気遣って司が他愛もない会話をした。

夕食後、お茶を飲んでいる所に総司の携帯が鳴って相手を見て別室へ移動。

『おい聞いたぞマジなのか。どういう奴か身辺調査はしたんだろうな』
「名前もまだ聞いてへんから調べようもない」
『わかった。俺も参加する。真ん中の奴も行くんだろ。俺も見る』
「渉。……、わかった」

日時を教えてリビングへ戻ると子どもたちはおらず百香里がいた。

「渉さん?それとも真守さん?」
「渉」
「2人とも参加するんでしょう?しょうがないですね。彼氏を紹介するわけじゃないのに」
「あの子が家に呼びたいと思うほどには仲良しの男の子や」
「いずれはいい人と手をつないでここを出ていきます。それは止められない。
でも、あの子はパパもママも弟も大好きだから。週イチで遊びに来ますよ」
「わかってる。わかってる。けど。……父親は複雑やねん」
「父が生きていたら同じように悩んで苦しんだんでしょうね」
「殴られたかもな」
「だからって貴方たちは殴らないでくださいね?」
「こらえる」

その隣りに座って甘えるように彼女を抱き寄せて頬にキスをした。



「あんなに落ち込んだパパ初めてかも」
「程度は違っても父親なんて皆そういうものだよ」
「彼氏じゃないよ」

司は不安そうな顔で総吾の元へ。弟は冷静に塾のテキストを開いていた。

「気にしすぎ。君は好きな人ができて付き合うとなったら隠せる人間じゃない。
今のうちに免疫をつけさせるという意味でも大事なことだよ」
「総ちゃんは彼女できたら紹介する?」
「僕はきちんと選んで紹介しないと。後継者だからね。2人を安心させられる相手じゃないと」
「そうなの?好きだからじゃなくて?」
「もちろん愛情は大事だよ。でもそれと同じくらい家に相応しいかどうかも重要なんだ」
「家に相応しいっていうと……ママみたいな人?」
「そうだな。ママみたいに芯があって強い人は理想的だね」
「ねえねえ。彼女できたら一番に教えて」
「良いけど。なんで?」
「お姉ちゃんがチェックしてあげる!」
「ふーん。わかった。じゃあ。教える。けど君もすぐ教えてね」
「いいよ」
「まあ、君の場合はどうせ太郎サンだろうけど」
「そ。そんなんじゃないもん。……まだ」

おわり


2019/12/17