「なに」
「パパが分かってくれなくって」
「……、それは大変だろうけど何で俺の横に座る」
「太郎君もちょっと関係する」

お昼休み。ママが作ってくれる美味しいお弁当を持って司は学校の裏庭へ。
殆どが教室で食べる子ばかりだけど温かい今の時期は外で食べる場合も多い。
ベンチがあったりしてそこに女子グループが楽しそうにお食事中。
でも司はそこへは行かないで1人影でパンを齧っていた男子生徒の隣に座る。

「何かやったか?会ったことも無いんだけど」
「そこだよ。パパが太郎君を調べようと探偵さんを雇うとかしてて。それがママにバレて怒られ
ちゃって。私も加わって止めてって言ってるのに止めてくれないから。喧嘩になっちゃって」
「……前から思ってたけど。お前の家族ってちょっと変わってる」
「そうかな」

お弁当を広げてパクパク食べはじめる司。パパは殆ど謝るばかりでママが終始お怒り。
娘を信じていないのかと。聞けばいいのに大金を使おうなんて無駄をしてと。実は今朝もまだ
ちょっとご機嫌はよくなくてパパが一生懸命ご機嫌をとっていた。そういう場面を見るのも
娘としてはとても辛かったりして。
弟はあまり興味がない様子で止める事も加勢もせずに大人しくしていたけれど。

「どうせあれだろ。お嬢様に悪い虫が付かないようにとかいう」
「パパと同じこという」
「金持ちってのはいつもそうだ。貧乏人を小馬鹿にしてる」
「太郎君」
「言っとくけどお前が勝手に俺に付いてくるだけでお前を追いかけたことなんてないからな」
「……ごめんなさい」
「そんな顔するなよ。来るなとは言ってない。だろ」
「司を泣かせたな!許さんぞお前」
「いきなり出てくるな亀博士」
「美月ちゃん」

司が俯いてしまった所にもうひとりの仲間が加わり3人でランチ。
彼女はお気に入りだというカメの形のお弁当箱。

「お父さんに挨拶してきなよ坂井君」
「何で」
「私は既にご挨拶したよ。あのパパさんは娘がそれはもう可愛いの。金持ちだからとか
貧乏だからとか関係なく、父親って娘に近寄る男は全部虫だし」
「美月ちゃんの所も?」
「私がまだ小学生の頃。エイプリルフールに父さんに彼氏がデキたっていったら連れてこいって
殺虫剤と包丁もってきたから嘘ですって泣きながら謝ったくらいには大事にされてる」
「お前の親父さんって昔自衛隊の……、彼氏殺されるな」
「パパは怖いことはしないよ。たぶん。泣いちゃう」

こういう時強いのはママだ。何時でもママが前に立ってパパを守る。
弟に怒られた時なんかは実際にママの後ろに隠れて怯えていたくらい。

「何て挨拶するんだ。俺は松前と友達という意識はない」
「え……そうなの?太郎君」
「嘘でしょ?一緒に試験勉強したし遊園地行ったじゃん。トミーの見合いも付き合ってくれたじゃん」
「お前らが付き合えって言うから付き合っただけだ」
「そうなの?無理させてた?ごめんね」
「まさかこんな付き合いの良い他人が居たとは思わなかった」
「……。冗談だ。お前らと居ると世界は平和だなって思うよ」
「え?」
「そう?」

ツッコミ不在の昼食を終えて後は美月が持ってきたタブレットで彼女の愛亀である
トミーの今の様子を眺める。リアルタイムで見れるカメラを買ったそうで、
司も非常に気になる所だが欲しかった服とお菓子とCDで今月はまだ始まったばかり
なのにもう金欠。

「アルバイトしたいって言ったらいつもママは賛成してくれるのにパパは駄目っていう」
「超のつく令嬢なんだしパパから黒いカードもらっちゃえばいいじゃん」
「そんな恐ろしいことをしたらママに怒られてオヤツ抜きにされて最悪おしりペンペンされる」
「司のママってマジでヤバい。あんな若くってキレイなのに」
「怒ったら怖いんだよ。こっそりお客さん用のクッキーを3枚食べたらすぐバレちゃって
30分くらいずーーっと怒られて罰として廊下のお掃除したんだもんっ」
「血の気が引くような恐ろしい罰だっ」
「なあ。お前ら高校生だよな。特殊な薬で大人になった幼稚園児じゃないよな」
「坂井君今そういう漫画読んでるの?えっちぃ」
「え。えっちな漫画っ!?まだ18歳じゃないよっ」
「……平和だな日本って」

坂井は無視をキメて再び読んでいた本に視線を向ける。

「太郎君。だめだよ」
「ほら。小説」

少しして美月がお昼寝タイムに入ってしまったので司はそっと起さないように
寝かせてあげて、坂井の本を興味深げに眺める。彼の手には古典文学。

「うわ。文字がいっぱい」

難しい文字の羅列に拒否反応らしく顔をそらした。

「お前とあの弟が同じ両親から生まれたとは思えない」
「会う人皆に言われてる」
「どういう両親か見てみたい気もする」
「パパもママも優しくて温かいよ」
「お前を見てると悪い人間じゃないんだろうと思ってた。でもあの弟を見てたら
よくわからなくなったけどな」
「それもよく言われる。でも総吾は私なんかよりもずっと優秀で責任感が強いの。
ずっと続いてきた家と会社を守ろうって本気で考えてる。もっとこどものころから」
「気を張ってるようには見えなかったけど。そういう顔なんだろうな」
「私なんてお気楽でいいねって。何も悩みなんか無いんでしょうって」
「あるんだ」
「いっぱいあるよ。悩むこといっぱい。でも答えは自分で考えださないといけないもんね」
「……そうだな」

松前家の娘としてやらなければいけないこととか。その前に1人の女の子としての決断。
将来を見据えてお勉強もしないといけないし趣味も減らしたくはない。
難しい話をしてもすぐ眠くなってしまって、それを相談すると確実に渉は大笑いする。

「総吾みたいになれたらいいのにな。頑張って真似してみようかな」
「それは誰も望まない。弟も望まない。……俺も嫌だ」
「だめか」
「自然体で行けばいい。お前はいつもそうだ。警戒心もないが偏見もない」
「……」
「半分は褒めた」
「……、ありがとう」
「亀博士と3人ならいい。ただ挨拶じゃなくて、お前の家を見に行くていうならな」
「ありがとう。パパも太郎君を見たら納得すると思う」
「俺は何もしてないのに勝手に納得されてないのが納得できないけどな」

実物を見ればパパも想像であれこれ怒ったり泣いたりしないですむだろう。
そうしたらママを困らせないですむし、家族が混乱しないですむ。

「お友達って紹介してもいい?」
「……いいよ」
「良かった」
「彼氏候補でいいのに」
「美月ちゃん」
「勝手に言ってろ」

隠している感じがして自分もちょっと嫌だったから。これで少しは楽になる?

「彼氏か」
「……居ないだろ」
「まだね」
「気になる奴が出来たとか」
「かも」
「相当平和な奴なんだろうな」
「かもね」
「同じクラス?他所の奴?」
「あーのーねー!君らそういう歯がゆい会話しないでもう一気にやったれ!」
「なにを?」
「何だいきなり。でかい声だすな」
「……だめだこりゃ」



おわり


2019/11/18