あんまり変わらない?日々2
「誰がお父さんやねんドアホが」
「だからって怒鳴るのはよくないですよ。ちょっと勘違いしただけなんだし。
きっと私が子どもっぽいというかその、安っぽい格好してるからそれで」
「仏の顔かて3度までやのに俺は今日8回は堪えたったんやで」
「総司さん」
久しぶりの休日。家族で遊びに行こうと出かけたはいいが
どうにも百香里と一緒に居ると総司はお父さんに見えてしまうらしい。
子どもたちと一緒だと今度は若いお爺ちゃん?冗談じゃない。
ついには間違えてきた店員に怒鳴る。父親じゃない夫だと。
「…こんな調子でこの先もいくんやろなあ」
重ねる歳は同じ1つでもその重さが違う。結婚した時点で既にいい歳だったけれど。
頭では理解できてもいざそれに直面すると何とも言えない焦燥感にかられる総司。
隣に居る百香里はまだまだ若く女としてもこれからだというのに。少し前まではそんな感情を
なんとか百香里に隠せる程度に落ち着いていたが最近は小さな事でも苛立ってしまう。
「そんな顔しないで今日は久しぶりに家族で遊ぶんですからね」
「お爺ちゃんとか言われたら俺泣いてええ?」
「分かりました。次総司さんを傷つけたら私が代わりに怒鳴っておきます」
「そ、そんなんあかん。あかんで?ユカリちゃんは…そんなんせんでええの」
「ママ。はやくいこ」
トイレから出てきた司と彼女が迷子にならないように傍で待っていた総吾。
2人は両親の元へかけよって4人揃った所でアウトレットモールへ。
ただいまバーゲン中で持参したチラシには赤ペンで丸印が沢山ついている。
司も自分の好きなブランドの服を買いたくてチェックしていてウズウズ。
「ママ。司は何時もの店にすぐ行きたいみたいだから僕が連れて行くね」
「総ちゃんが?でも迷子になるかもしれないからママたちと一緒に」
「大丈夫。地図は読めるよ。時間と待ち合わせ場所を予め決めておいてそこに集合ね」
「…で、でも。ママ総ちゃんの服も」
「ママの選んだ服ならなんだっていいよ」
「でも」
「心配はいらない。携帯もあるしね。パパと2人で楽しんで」
「総ちゃん」
「じゃ」
今にも飛び出していきそうな司を連れて総吾は去っていく。
子ども2人で行かせるのは不安だけど、妙に説得力のある息子に押されて。
百香里としても欲しい服を先に奪われては困るという不安もあって足早に移動。
まずはサイズ変化の激しい子ども服を狙う。司は自分で買うようだけど。
「最近の子ども服はえらい派手やねえ」
「そうですね。総司さんはどんな服着てたんですか?」
「覚えてへんなあ。用意された服きてただけやし」
「ブレザーにネクタイ…あ、蝶ネクタイ?」
「流石にそんな漫画みたいな格好してへんて」
「ふふ。でも可愛い。総ちゃんに着せてみようかなぁ」
「確かに坊なら似合いそうやな」
チェックしたものを無事カゴに入れてご満悦の百香里。そんな彼女を見てまた幸せそうな総司。
2人で買い物なんて本当に久しぶり。子ども服の次は大人の服。
といってもまずは総司で最後が百香里。自分のものには特にこだわりがない。
「総司さんってずっとサイズ変わらないですよね。実は私ちょっと太ったんですよね。見習わないと」
「そうか?ユカリちゃんはめっさ可愛いで分からんわ」
「いくら自転車こいでも足が太くなるだけだし。やっぱりおやつ食べすぎてるんでしょうね…あーあ」
「そんなため息つかんと。せや。2人で運動したらええやん」
「そっか。テニスしましょ。また教えてください」
「そっちかいな」
「何を考えてたんですか?もう。…あ。あれいいな。60パーオフ!」
あちこち歩いてまわっていつの間にか両手にショップの袋。
流石に疲れて少し休憩しようとベンチに座った。
「あぁしんど」
「何か飲み物買ってきますね」
「ええよ俺が行くでユカリちゃん荷物みとって」
「でも」
「座っとき」
「…はい」
総司に任せ少し息を吐いて落ち着いた。
いくらアウトレットのバーゲンでもこれだけ買ったら意味ないかも。
苦笑しながらも家族の分ならいいだろうと自分を納得させる。
「おらんで心配したで」
「ごめんなさい」
「あの服がええの?」
総司が戻るとその場に百香里の姿は無くてトイレかとキョロキョロ見渡すと彼女は居た。
ベンチ傍のお店を外から眺める。その視線の先には品のあるワンピース。
何時もはゆったり着られる服ばかり選んでいるのに。
「いえ。あの。今度子どもたちの授業参観があって。どんな格好したらいいかなって」
「試着してみる?」
「私があの服を着ても無理してるようにしか見えないと思うんです。不相応というか」
流石にもう社長夫人という言葉にはもうなれた。家政婦さんたちの奥様という呼び方にも。
だけど中身は百香里のまま。総司が誤解されるのもきっと自分が不相応だからだ。
彼の隣に立つのはきっとあんな綺麗な服を着こなせるような。なんて僻んだことを考える。
そんなものは夫婦には関係ないと分かっているのに。
「試してみよ。そう自分が思い込んでるだけかもしれんで」
「…やっぱり前からある服で行きます」
「試着はタダや。よっしゃ行こ」
「そ、総司さんっ」
百香里の手を引いて店内へ入る総司。
まだオドオドしている様子の彼女を他所に店員に言って試着させてもらう。
普段なら見向きもしないであろうハイブランドのお店。アウトレットでもお高い。
試着室へ案内され総司に押し込まれるようにあっという間に押し込められる。
「……」
「似合いません…よね」
「そうか。気づかんかった」
「え?」
恐る恐る試着した姿を総司に見せてみる。彼はなぜか驚いた顔をした。
「ユカリちゃんこんな大人っぽい服も似合うようになったんや」
「え?」
「めっさ綺麗や。大人の女っちゅうか…子どもやと思ってたわけやないけど、うん。ええ女や」
「ちょ、ちょっと待ってまだダメっ」
嬉しそうな顔して試着室に入ってこようとする総司をなんとか押し返す。
「似合ってる。これで授業参観でたらいちゃん綺麗なママやで」
「そ、そうですか?変じゃないですか?」
「自分が思ってるよりも大人になっとるんやから」
「そ、そうですよね。私も30ですし。これくらい……ん?…13万?え?見間違い?えっといちじゅうひゃくせん…」
「せやな。これに合う飾りもほしい所やなあ靴もこの際」
「……い、いいです。いいです。いらないです」
「そんな遠慮せんと」
「13万あったらジム通いたいです」
「そんな泣きそうな顔せんでも。せやけど戻すんは惜しい。買うわ」
「総司さん」
「ええの。俺の我侭や。…な、百香里」
総司の笑顔に押される形で百香里は服を買ってもらう。ついでにと靴も。
このままでは一式買い揃えられそうなので早々とその店を出た。
ちょっとした好奇心で覗き込んだお店。まさかこんなあっけなく買うことになるなんて。
まだ心臓がドキドキしている。こんなに緊張するのは掃除機を買い換えた時以来か。
「ママみてみて!可愛い服でしょ!」
「うん。可愛い」
「ママと御そろいがいいなって思ったの。だから、はい!ママ!」
「え?でもママ…サイズ入らないかも…」
待ち合わせ場所に行くと既に子どもたちは待っていた。
ちゃんと欲しいものが買えたようで嬉しそうな司。
疲れた様子で百香里が持たせたお茶を飲んでいる総吾。
「こっちはね大人用のフリーサイズ!」
「そう。でもいいの?司のお小遣いなのにママの服まで」
「いいの。これ着てまた姉妹みたいですねって言われるの!」
「あれはお世辞…、ありがとう。またこれ着てお買い物行こうね」
「うん」
母の日でもないのにプレゼントなんて嬉しい。ちょっとジンとする百香里。
「なあなあパパにはないん?」
「パパにはこれ!」
「おお!あるやん〜って…何やこれ」
「余ったお金でクジを引いたらあたったの。でも司欲しくないから」
「…カ…カピパラさん歯ブラシ。お父ちゃん口臭い?」
「わかんない」
「…そうか。まあ。可愛いし会社で使うかなあ」
ママとの温度差に泣きたくなるのはもう慣れてしまった。
司に貰った歯ブラシをポケットに入れて一家は帰宅する。
それぞれが欲しいものをお得に買えてご満悦。
「パパ」
「ん。何や」
「これ僕から」
「おお!やっぱり坊は分かって……ん?何やこれ」
「靴下」
「……足臭い?」
冗談めかしたり一ミリも笑いもしないで去っていく息子。
総司は静に靴下をポケットにしまった。
「総司さんどうしたんですかそんな隅っこで」
「なんとなく」
「せっかくのお休みなんですから。2人で過ごしません?」
「子どもらは?」
「おやつ食べてます。私は我慢することにしました」
「一緒に食べてきたらええのに」
「ダメです。…これ以上太ったらあの服着れないかもしれないし」
「そんな気にせんでも」
「するんです。総司さんにこれからも…可愛いって…言ってもらいたいですから」
「可愛い事言うて。ほな可愛い奥さんと可愛いコトを」
「あ。いけない。洗濯物取り込まないと!」
「逃げるんも可愛い」
「総司さんも手伝ってください」
「はーい」
おわり