2人で寄り道してくるとの申請があったので何時もなら帰宅している時間でも
子どもたちはまだ帰らない。百香里は何時もより少しのんびりめに夕飯の準備中。
のはずだったのに、
何時もより早く帰宅した人が居たので結局はいつもどおり。

「ユカリ様」
「びっくりした。……何が欲しいんです?総司さん」

作業に集中していたら突然後ろに居たので驚いた。
何の連絡もなく早めの帰宅をして着替えも済ませてきた総司。

「僕らの部屋をもっと快適にしたいんですけども」
「具体的に」
「畳を止めてフローリングにしてベッドにしたい」
「えぇー。和の雰囲気が素敵で気に入ってるのに」
「布団やと一緒に寝る時大変やん。もう司も一緒に寝ようて言う歳ちゃうし」
「そんなに一緒がいい?」
「冷たい事言わんで。寂しい」

そっと後ろから百香里を抱きしめて甘える仕草。

「私だって寂しい。最近一緒に居られる時間が少ない。デートも足りないし」
「俺もずっとユカリちゃんと一緒に居りたい」
「んー。ずっとはいいです私も忙しいから」
「現実的な所も好き」
「総司さんがどうしてもっていうなら良いですよ。ベッドにしても」
「内装とかユカリちゃんの好みに合わせる」
「私に任せたら独房が出来上がります」
「プロに相談してみるわ」
「それがいいですね。あと夕飯のお手伝いもお願いします」
「喜んで」

その後、子どもたちが帰宅すると楽しげな両親の声。
最近家族での会話が少ないと感じていたから司は嬉しそうにして、
総吾も珍しく機嫌の良い笑みを見せる。

「そうだ。この際他の部屋もいくつか改装しましょう」
「ええの?」

子どもたちは着替えに部屋へ。その間に配膳中、ふと立ち止まる百香里。
極力自力でなんとかして出費を減らそうとする彼女が最初から業者に頼るなんて。

「改装というよりは修繕のほうが近いかな。
歴史があるだけに古くなった箇所は危ないので替えていかないと」
「そんな危ない箇所あるんやったらすぐに直してもらわんとあかんね」
「実はこの前自分でなんとか出来るかも?と思ってトンカチで叩いたら壁に穴が」
「ユカリさん!?」
「それを見ていた司が私が怪我をしたと勘違いして慌てて駆け寄ろうとして
転んで床の一部にヒビが」
「2人とも怪我は無いよな?何そのコントみたいなん……」

もうすでに自力は試している所が百香里らしい。これは早急にプロにおまかせして
直してもらわないと更に家に穴があいて司は転んで最後は怪我人が出る。


「私も部屋をかえたい。パパに聞いてみよう」
「どんな風に?」
「半分はみどりのスペースにする。これでみどりがどれだけ成長しても」
「みどりに罪はないけど、生臭い部屋に住むのは健康上良くないし彼にも嫌われるよ」
「……みどり臭い?」
「僕は慣れているから良いけど、他の人にはかなり臭いね」

弟と一緒に夕飯の片付けをしながら改装の話を聞いて想像をふくらませる司。
彼女の部屋もこの家に引っ越すと決まった時に本人の希望を多いに取り入れた
可愛らしい部屋に改装をしている。こちらはすでに和室から洋室に変更済。
総吾の部屋は彼の希望通り手を加えずそのままでシンプル。

「そっか」
「みどりには別荘もあるしね」
「総ちゃんは部屋を飾らないの?写真も家族の一枚だけだよ」
「司が飾りすぎなだけ。家族に友達にみどりに、トミーくんだっけ?壁が足りない」
「皆に囲まれてるみたいで明るい気分になるから」

小学生のイメージする可愛い部屋から今は高校生らしい可愛い部屋に憧れ中。
溢れるほどあった玩具たちは寄付したり従姉妹にあげたりして殆ど無い。
ずっと気に入っている一部だけ残して代わりに写真が増えた。
一番多いのはやはり家族の写真。もちろんカメのみどりも家族なので写真は多い。

「そんな寂しがりやじゃ知ってる人が誰も居ない所に行くなんてできそうにないね」
「何時までも同じ所で一緒に居てくれるとは思ってない。けど、みどりとはずっと一緒」
「過保護なママだ」
「駄目なママかな」
「君が居ないとみどりは死ぬからそれくらいが良いかもね」
「大丈夫だよ。パパもママも総ちゃんも居るから」
「僕も道連れ?」
「そうだよ」
「小さい緑色のお姉さんって所か」

片付けを終えてリビングに顔を出すとパパとママが何やら相談中。
司が近づいていって部屋を改装したいと言うとすんなりと承認され、
どんな風にしたいか纏めたら教えてほしいと言われた。

「お友達を呼んでお話が出来てみどりと遊べて」
「こっそり買ってきたおやつを隠せるスペースがある」
「そうそう。分かってるね総ちゃん」
「僕が分かってるならママも分かってるよ」
「だよね」

さっそく総吾の部屋で真っ白な紙にペンを走らせて部屋のイメージ。
自分だけだと非現実なものにしかならないから、と。
財力とスペースが十分あるせいか早速彼女のイメージが暴走し始めている。

「僕ももう少し高校生らしい部屋にしないと。彼女を呼ぶってなったときに白けられるかも」
「彼女いるの?」
「そういう日が来たらの話だよ」

姉のイメージ図を時折チェックしてさり気なくママの予想する予算的に不味そうなもの
は消したりして修正する総吾。

「ママとも相談してるんだけど、総ちゃんの彼女」
「どういう相談?僕が女の子を連れてくるなんて許せないからイジワルしちゃうって?」
「まさか。ママも私もそんな事しない。大歓迎。……だけど頭のいい会話が出来ないから、
いっそ留守ですって嘘ついちゃおうかって。パパだけ置いといたらいいよねって」
「僕と父親しか居ない家なんて相手がかなり気を使うと思うよ」
「みどりもいる」
「確かに僕の周りは司の友達とは違う世界の人が多いけどカメとは話せないよ」

最初から目指しているものが違うから総吾の周囲には未来の政治家や医者、弁護士。
あるいは海外での活躍も視野にいれている野心家が多い。それは男女関係なく。
松前総吾だと知っていて近づいてくる女子も多く、
そういう子は見た目に多大なる自信のある子ばかりで駆け引き上手な頭脳もある。

「お姉ちゃんがふつーだったらがっかりさせないかな。ママもね、それで一緒に考えてたの。
もし会うときが来たらどうしたら良いかなって」
「彼女が僕の家族をチェックするの?こういう場合は逆でしょ?」
「何を見るの?総ちゃんが選んだ人なのに」

母親と姉は普通であることが悪いかのように何処かで不安がって怯えている。
それは、過去に散々その手の連中に陰口をされたり直接嫌なことを言われたからだ。

何故貴方のような人がここに居るのか?
どういう手を使ったのかと、馬鹿にして笑いながら。

「僕が何が一番嫌いか分かる?」
「なに?ピーマンとか……じゃないもんね」
「他人の一方的な干渉。きちんとお互いに見て評価しあえるなら
どんな悪評でも受け入れる。だけどそうじゃないヤツは多い。多すぎる」
「……」
「司も少しは覚えてるよね。ママを堂々と罵り馬鹿にした連中や君に意地悪をして笑った子。
どんな昔の話でも僕は顔も名前も全部覚えてる。……役立てるのはもう少し先だけど」
「総ちゃん?」
「家族を大事にできない人は選ばないから安心して。でも、アテもない僕より司の方が心配。
太郎さんだっけ?彼を部屋に呼べるようにしないとね」
「呼べないよパパが怒るもん」
「居ない間に呼べばいい」
「そんなコソコソするみたいなの良くない」
「連れ去ってくれるような王子様を探すの?君が攫われたら嫌だな、僕は」
「私もやだ…」
「それじゃ一生お城ぐらしだねお姫様」

苦笑する総吾に司も笑って返して、新しい部屋のイメージを図にした。
さっそくパパとママに見せようとリビングに行くとママだけ。
またお仕事の電話かと思ったら風呂の準備をしに行ったらしい。

「可愛い部屋になりそうね」
「ママたちの部屋も可愛くなる?」
「プロにおまかせするの。ママは司みたいに想像力が無いから」
「任せちゃうの?でも、パパとママが楽しいって思える家にしなきゃ」
「ママは家族と床と壁と屋根があれば十分。こんな豪邸は不相応なんだけど、
司と総吾に引き継いで行ってもらうものだから。あちこち変えるより修繕をしていく」

松前家の所有する財産は計り知れない。この家も価値が高いが他にも沢山。
お金だけが全てではないが、子どもたちの未来をずっと先まで明るくしてあげたい。
ただ母親である自分が子どもたちに残せるものは何もないのが寂しい所。

「将来、総ちゃんが結婚しちゃったら私の部屋は無くなっちゃう?」
「それまでに王子様を射止めていれば貴方には新しいお城がある」
「だめだったら?」
「どうしよう?」
「何があってもみどりのお家と別荘は確保する。総ちゃんにお願いしてくるっ」

図をママに託して再び弟の部屋へと向かうお姉ちゃんは本気だ。

「司待ってまだ先の……、でもないか。私だって20歳だもんな」
「何が20歳なん?」

入れ替わりに総司が戻ってきて百香里の隣に座る。

「司が20歳で結婚する可能性だってあるってことです。例えば19歳の夏頃に連れてくるとか」
「ユカリちゃんは可愛いだけやなくて20歳でもしっかりした大人の女性やったけど、
司は幾つになってもまだまだ甘えん坊のお子様や。将来の事なんて分からん」
「そこまでお子様じゃないですよ。……たぶん」
「社会経験を積ませて、まずはお友達からや」
「そっか。私、ほんと若かったんですね。今なら母やお義姉さんの言ってたことが分かる」
「後悔?」
「それは一切してないって言ったでしょう?ただ、私達はたとえあの子が20歳で
王子様を見つけてもお城に閉じ込めることは出来ない」
「お義兄さんの気持ちが痛いほど分かってしまう歳になったって事なんやね」
「そういう事」


おわり


2019/08/26