「松前君。本当に生徒会長に立候補しないの?貴方なら今回も確実なのに」
「確実かどうかはわからないけど。もしやると決まったら忙しくなるから」

松前家の長男として所謂エリートコースをテンプレートに則って突き進み
難なく名門中学に入学した。来年は高校進学だが何処を選ぼうと余裕だと誰もが言う。
周囲には同じような立場の学友も多くて勉強会や食事会も多いけれど、
こちらもやる気になるようなライバルと言えるほどの相手は居ないのが残念。

「そっか。これから更に忙しいものね」
「じゃあ、また明日」

女子の視線も多くて何かと個人情報を聞かれるが特に嫌がらず笑顔で答えている。
だから誰かと付き合ってるとか彼女が居るとか、そんな噂が何時も流れるけれど。
肝心な所では一線引いて距離をとっていた。

「おかえりなさいませ、総吾様」
「遅れてすみません。急いで司のもとへ。彼女を置いといたらすぐ買い食いする」
「はい」

通学は車。専用の人を雇って姉と一緒に運んでもらっている。痛い出費と思いきや、
金持ちの子どもは狙われやすいから安全のためと言われて
何時もは何かと渋る母親が即決した。
しばらくして、待ち合わせ場所でぽつんと立っている姉発見。

「な。なに?総ちゃん。お姉ちゃんの顔をジロジロと見て」
「買い食いをしたね」
「うっ」
「したね?」
「……はい」
「しょうがないな。ママに内緒にする代わりにママのお手伝いをしよう」
「はい」

車に乗ってきた司を見るやすぐにピンときた。というよりも甘いチョコの匂いがした。
苦笑いしてごまかそうとする姉に自然とつられて自分も笑っていた。
もとよりそんな怒る気もない。相手もその辺はわかっているのだろうけど。

「もうすぐママの誕生日だしプレゼント考えないとね」
「私ちゃんと考えてるよ。じゃじゃん」
「くまのぬいぐるみ?それは君が欲しい物じゃないの?」
「あ。違った。こっちこっち。これを肩にかけるだけでマッサージするんだって」
「へえ」

司が見せたのはファッション誌の1ページ。丁寧にそこだけ切ったらしい。
商品説明と取り扱い店舗、そしてお値段が書いてあった。

「今度はちゃんと貯金もしたからね。……半々しよう」
「そんな高くないのに半分しか貯められなかったんだ」
「なかったんだぁ」
「良いんじゃない。半分出す」
「よかったー!総ちゃんにだめって言われたらピンチだった」
「敢えて突き放してあげてもいいけど?」
「総ちゃん」
「お姉ちゃんをからかうのは良くないね。ごめん。じゃあ、何時買いに行く?」
「明日はどう?ママにはちょっとだけ遅くなるって言っておいて」
「わかった。僕も何かしら理由をつけるよ」
「可愛い包装してもらおうね」
「父さんはケーキを用意するかな。忘れるなんて凡ミスはしないだろうし」
「うん。美味しいの用意するわ!って言ってた。ご飯も作るんだって」
「そうなんだ。怪我しなかったらいいね」

そこら辺はまったく興味なさそうに流して熱心に商品説明を読む総吾。
家につくまで司はあれこれ自分なりの誕生日プランを語っていた。

「お帰りなさい。ご飯もう出来るからね」

帰宅するとママが台所で忙しそうに夕飯の準備中。
子どもたちはまずは手洗いうがいをして部屋着に着替えてから向かう。
どんなに忙しくても空腹でもずっと変わらない儀式のようなもの。

「父さんは?車あったよね」
「着替えてる所。総ちゃん何かお父さんに用事?」
「高校の事とか。相談がしたいと思って。父さんの母校だし」
「そう。寝室に居ると思うけど」
「後で聞く。大した事じゃないんだ」

向かうと既に司が居てせっせとママの手伝いをしていた。それから父親も降りてきて、
4人でいただきますをしてからのご飯。総吾は自分からはそこまで話をしないが、
何時も元気いっぱいの司が居るから話題は事欠かず食卓は明るい。

「でねママ。今度友達と食べ放題チャレンジしに行きたいの」
「元を取れとは言わないけど、お皿に乗せたからにはきちんと食べきりなさい。
気分であれこれ取ってすぐお腹いっぱいってパパに食べてもらおうとするんだから」
「パパも行く?」
「んふっ。お、お父ちゃんか?ケーキバイキングはちょっとなぁ」
「こら。食べてもらう前提にしないの」

なんて会話をして、食後の片付けを司と一緒にやるからとママを開放する。
何時もそうしていることなので姉弟は疑問を持たない。
ママだけにさせる訳にはいかないからと一緒にゴミ捨てもするし、買い物も行く。
なにせ1人1個までという制限が付く商品がママの狙いだから。

「生徒会長は1回やれば十分だ」
「ん?」
「片付けは終了。君は宿題を頑張って。僕は父さんに話がある」
「しゅくだい……嫌な事思い出しちゃった」
「あるんだったら早く済ませないと。君の好きなドラマが始まるよ」
「がんばります」

司が自室へ戻り、片付けが終わったとママに報告したら先程のこともあって
話があるそうですよと席を移動してくれた。どうやら2人きりにしてくれるらしい。
ママの代わりに座ると若干お隣の空気が冷えた気がしたが気にしない。

「お、…お父ちゃん何かしましたやろか」
「何か身に覚えが?」
「いいえ?なにも?365日クリーンな生活してますし」
「なら息子相手に怯える必要はない」
「ないです」
「お話というのは。僕、お小遣いほしいんです。理由は分かりますよね」
「なんぼほど?」
「司に渡しているのと同じくらい。僕の口座に振り込んでおいてもらっていいですか」
「それはええけども、足りるか?高校生なったら何かと必要やないの?
司かて毎月半ばくらいにはもう足りへん足りへんてピーピー言うてるのに」
「僕は交友関係広くないし部活動もしない。必要な時に必要な分だけあれば良いから」
「はあ。そうか」
「ママの誕生日に遅刻するという失態だけはしないでね。したら家には入れないと思って」
「承知しておりますっ」

お前の睨む顔が怒った時のユカリちゃんにそっくり。とよく父親に言われる。
でも怒られた時がないから確かめようがない。司に聞いたら「ちょっと似てる」と返された。
そのせいだろうか?ちょっと不機嫌になると姉も父と同じように若干怖がった顔をする。

「……そんな怖い顔してるのかな」

自分はそんな怖がらせようとか脅すようなつもりはない、姉に関しては。
風呂場で自分の顔をまじまじと眺めるが特にどうということはなく感じて。
両親どちらにもそれなりに似ていると思う。それくらい。


「総ちゃん背が高いから大人に見られるね」
「だからって未成年にこんなもの渡す?バカじゃないの」
「まあまあ」

翌日、学校を終えて司と合流してママのプレゼントを買いに繁華街へ。
制服でウロウロすると面倒だからとブレザーを脱いで私服を着ていたら
やたらと女性に捕まり風俗系の名刺やらティッシュを貰う。隣に司が居ても構わず。
すぐさまゴミ箱に捨てて、利用価値の有るティッシュだけ抜いてかばんに入れた。

「そんな老けてるのかな」
「違うって。雰囲気がね、大人っぽいから。私が年齢より子どもに見られるように」
「つまり僕の言動は子供っぽくないって事?」
「えっと。あの、……うぅーん」
「自覚はあるけどね」
「もう。総ちゃん」
「僕まだ中学生だから。義務教育中の子どもだから。許して」

若干嘘くさい笑みを向けると司はちょっと戸惑った顔をしたが、すぐ笑い返した。
そんな事をしている間に販売店へと到着して商品を確保。値段の確認。
実際に触れてみて本当にコレをプレゼントにしてもいいかの確認を行う。

「松前君?」
「あ」
「こんばんは。……もしかしてデート中?彼女さん?可愛いぃ」

じっくり確認して購入を決めた所でクラスメイトと鉢合わせ。

「姉だよ」
「あ。お姉さん。はじめまして」
「お友達?」
「クラスメイト。ほら、この前のパーティにも来てたよね」
「……あ。ああ」

姉は完全に忘れてる顔をするがそこはスルーしておいて。

「こういうの買うんだ。意外」
「お母さんの誕生日なんです。ね。総吾」
「うん」
「へえ。仲良しだね。うちは両親ともに忙しいからケーキ買うくらいだけど」
「お医者様だと時間を作るのは大変だよね」
「まあおかげでこっちは自由に出来るけど。そっか。お姉さんか。良いこと聞いた」
「ん?」
「じゃあ、また明日。学校でね」

クラスメイトはニコニコと笑ってその場から去っていった。

「司。ぽかんとしてないでレジへ行ってきて」
「あ。うん。行ってくる」

あまりの突然の出来事に司はぼんやりしていたが、総吾が肩を優しく揺らしたら
目覚めたようにハッとして商品を持ってレジへ向かった。
お金は既に彼女に渡している。きっとプレゼント用の可愛いラッピングを選ぶ。
そういう感覚は自分にはわからないから、姉に任せるのが最適。

「君、モデルとか興味ない?」
「ありません」
「もったいないよ。背も高いし顔も綺麗。君、結構遠くから見てたけどそれでも映えるよね」
「モデルには興味は無いので立ち去ってもらえますか。さもないと警察を呼びます」

店は健康グッズだらけだったのであまり興味がなくてちょっと外に出たらすぐこれ。
モデル、俳優、男女問わずで金持ちの愛人。子ども相手に大人からよく声をかけられるが、
今回は怪しいスーツの男。本当にモデルを探しているのかも不明。
視界に入れたくない、興味無い。だけど相手はしつこくつきまとってくる。

「じゃあさっきの彼女も一緒に」

父親や叔父たちとちがって鬱陶しい大人を黙らせるには自分はまだ弱いから。

「これ以上の話は我々が聞かせて貰いますので」
「どうぞこちらへ」
「え。な。なに?なにあんたらどっから」

屈強な大人に追っ払ってもらうのが一番楽。男は腕を捕まれ奥へ引っ込む。

「総ちゃん?今の人たち」
「酔っぱらいの喧嘩みたい。人が多い所なのに怖いね。急いで戻ろう」
「ええ。わかった」

この存在を知っているのは契約を代行してもらった父親と、こちらから話した叔父だけ。
ママも姉も知らない。知らせるつもりもない。
司を連れて足早に繁華街を抜けて待たせていた車に乗り込む。あとは帰宅のみ。

「……」
「どうしたの?元気ないね。さっきの子に見られて恥ずかしかったとか」
「何が恥ずかしいの?ママのプレゼント選んでたのが?」
「それも、お姉ちゃんと」
「だから?何も恥ずかしくない。司と買い物するのは楽しいから行くんだよ」
「じゃあ」
「どうしたらもっとうまく人を動かせるんだろうかって何時も思うんだ。
僕ってどうも見た目から舐められるみたいで。馬鹿にされないようにしたいのに。
やっぱりまだコドモだからかな。
大人になれば良いのかな。それまでじっと待っているしかないのかな」

これは恥ずかしいという気持ちじゃない、純粋な苛立ち。不満。
いくら大人びて見えると言われても何時もいつも馬鹿にされる気がする。
すごく優しそうとか、顔が綺麗とか、取り巻きの女子は何時も言うけれど。

「そんなに人のことばっかり考えて疲れない?自分のことも考えなきゃ」
「例えば?」
「そうだな。好きな子と流行りの場所でデートするとかオシャレな格好してみるとか?
あとは美味しいもの食べたり。まあ、総ちゃんの周りの子も塾とか忙しいだろうけど。
今の子とかそこまで急いでる感じじゃなかったし、きっと総ちゃんのことが好」
「司が好きだよ」
「え」
「もちろんママも。父さんは、好きというより尊敬かな。
僕の見た目が良いという事は分かってるし。ママの料理は美味しい。
家族で外食をするのも良い気分転換になる。不満なんてない」
「それもいいけど。彼女とか友達と旅行とか」
「あぁ哀しい。僕を友達がいない寂しい奴だとお姉ちゃんが苛める……」

そう言ってわざとらしく窓に視線を向けて泣くふり。

「ごめんね。私がお家のこと全然何もできてないし、頭もそんな良くないし。
代わりに総ちゃんにはいっぱい背負ってもらってると思うから。心配なの」
「僕は何時も君に助けられてる。司が悩むことなんてお小遣いの残りくらいだよ」
「総吾」
「あと大事な目標をそんなネガティブに捉えるの本当に止めてほしいな。
ママもだけど。一緒に家を守ろう。誰一人欠けることのない、僕らの家をさ」
「まず何したら良い?」
「今まで通りで良いんだよ。何の心配もしないでいいから。僕を信じて」
「わかった。でも、困った時は一緒に頑張ろうね。1人で無理しない事だけ約束ね」
「うん」

帰宅すると司の部屋にママへのプレゼントを隠して何もなかったように
いつものように着替えてリビングに向かうとご飯の準備が出来ていていい香り。
今日は皆が大好きな料理が出されるようだ。司のテンションは高い。

「今日も元気やなあ」
「本当に。おかずであれだけ元気になれる司が羨ましい」
「ユカリちゃん、元気ないん?」
「また1つ歳をとります。気にしないって思いつつ、案外気にしてます」
「そんなん言うの?歳なら俺のがよほど気にしてますわ」
「こうなったらプレゼントが唯一の希望ですから、期待してますからね。あ。な。た」
「可愛いぃなあぁもう。覚悟しといてな」
「子どもたちも考えてくれてるんでしょうね。嬉しい。ほんと、良い家族です」
「あ。うん。良い家族ね。ほんまに」
「なにかありました?」
「いえいえいえいえ何もないですっ皆いい子ですっ」


おわり


2019/08/06