買い物
世間様からみて一緒に居て違和感がないのは若い渉。
落ち着きすぎている真守とは兄妹のように見られてしまい、
総司と一緒に歩いていたら若めの父親と思われる。司と一緒でも。
それで何度旦那様はご機嫌ななめになっただろう。
お互いに分かってはいた事だけど。
「言っとくけど服のセンスをあんたに文句言われる筋合い無いからな」
「何怒ってるんですか?」
「ジロジロ見てくるから。また俺の格好に文句言いたいのかと思って」
「文句なんて言ってないじゃないですか。渉さんって意外に繊細なんですね」
「ほらほらーそういう無神経な言い方する。分かってないよなぁ」
「そうですか?総司さんはそんな怒りませんけど」
百香里からするとそれを苦だと思ったことはない。大事な家族だからというのもあるし。
総司や真守は司と同じように甘やかして持ち上げてくれるから、居心地はとても良い。
逆に小難しい事ばっかりいう渉と一緒の方がちょっとだけ疲れたりして。
ワガママはいけませんと娘に言いつつ、実は自分もそれなりにワガママ。
「あんたはもう少しオブラートを学んでよ」
「お、おぶ?……高学歴の嫌味ですね」
「あのね」
「ははは。冗談ですって。そんなプリプリしてるとそんな顔なっちゃいますよ」
「ハイハイ」
そんな事は些細な問題。ずっと自分が欲しかった暖かな家庭の大事な一員。
笑う百香里に釣られるように苦笑いを返す渉。
今日は珍しい2人で街からは少し離れた大型スーパーへとやってきた。
「梨香さんも一緒に来たら良かったのに」
「園児がいても文句言う女だ。義姉なんて居たらそれこそ大噴火で煩い」
「私も司もそんな騒いでました?すいません」
デートのお誘いは休みに入る度にあるそうなので、今日もきっと誘われていたはず。
昨日の夜にそれとなく聞いてみてOKだったから何も言わず朝出発したけれど。
最近は百香里に文句を言わず、司に愚痴っているらしいから。
「司にこれ以上何も言わないでいいから。あんたも気にしないでいいよ、俺らなんて」
「将来義理の妹になる、かもしれない人ですから。仲良くしておかないと」
「どうでもいいよ。さっさと買い物して帰ろう」
目的地はたとえセールでも元の物価が高いので利用することはなかった場所。
だけど今回は目的がある。期間限定で一部の店だけにしか売られないお菓子。
ちょっと高い。けど、やっぱり娘が欲しがるものは手に入れてあげたい。
あとイベント中で数量限定で卵が半額。他にも半額多数。
レシートを持っていけばボックスティッシュプレゼントはとても魅力的。
朝イチダッシュしたかったので朝忙しかった旦那様でなく、渉にお願いした。
「広いお店ですねぇ。2階は本屋や散髪も出来るみたいです」
「必要なもの先に確保しないと。手に入らないと来た意味ないよ」
「そうですね」
広い駐車場に車をとめて、足早に必要なものを全てゲット。
事前にチラシで確認していたものの他にも安いものは無いか見て。
結局幾つか買い物を追加でして終了。
高いものしか無いと思っていたが、タイミングさえ合えばお得だった。
遠いから普段遣いはしないが休日に旦那様と娘と一緒に来るにはいい。
「なあ。良いだろ?」
「駄目です」
「自分で買うんだし」
「駄目」
「ユカりん」
「これで何個目なんです。せめて今あるの全部使い切ってからにしてください」
「飾ってるだけでも可愛いだろ?誤飲するような歳じゃないし」
帰り際、入り口近くに発見した女性向けの可愛らしい雑貨のお店。
吸い込まれていったのは百香里ではなくて、渉。その手には可愛らしい
アイスの形の入浴剤。
「この前のミルクティ風呂は真守さんが困ってたじゃないですか」
「これはチョコアイスだから困らないだろ」
「どういう理屈なんです?」
「だからー」
平行線の会話をする側で若い女性の笑い声が聞こえた。
視線を向けると店員さんがこっちをみて笑っている。
「あ。すみません。凄い仲のいいご夫婦だと思って」
目があって、申し訳なさそうにしながらも顔はニコニコ。
「この入浴剤は人気なんだろ?子どもだって喜ぶよな」
「はい。お子様の大好きなチョコの甘い香りがほのかにします。お肌にも優しいです」
「だって。あのジジイどもにもこういう癒やしは必要だから。な。買おう」
「買いましょう奥様。今2個買っていただくと30パーセントオフです」
「もう……」
結局チョコアイスとバニラアイスを購入。彼は義理の弟だと言うと驚かれた。
欲しいものが買えて嬉しそうにしている渉。
今日はチョコレート風呂で真守が苦い顔をするのだろう。
総司は基本何も言わない。百香里が怒ったりしない限りは好き放題。
兄さんは甘すぎるんだと何時もそれで真守に怒られているけれど。
「お帰りなさいママ。ゆず」
渉と袋を抱えて帰宅すると玄関で司が待っていた。
「お留守番出来た?パパの言うことちゃんと聞いた?」
「きいた!パパとお部屋のおそうじした!」
「良い子の司にははい。お菓子」
「ありがとうママ!!」
お菓子を受け取るとぴょんぴょん跳ねて大喜び。
「良かったな」
「ゆず一緒にたべよっ」
「残しといて。俺はまず休みたいから。パパやママと食べろ」
「今日はありがとうございます渉さん。助かりました」
「あぁ。まあ。たまにはね」
渉は荷物を台所に置いたら自室へと入っていった。
百香里はそれらを仕舞い。司と総司のもとへ。
真守は先程でかけて居ないらしい。
「ユカリちゃんお帰り。欲しいもんは買えた?」
「パパ見て!」
「おー。良かったなぁ」
「司の部屋の掃除は大変だったんじゃないですか?
山ほどオモチャやらぬいぐるみあるから」
「そやねん。家がない子も多いで箱か棚を買わんとな」
「まだまだ終わりそうにないですね」
司の部屋で休憩中の総司。
子ども用の可愛い花柄座布団に座っているのが面白い。
その隣に座ると司が甘えるように真ん中に座った。
「お昼寝の時間やったんやね」
「寝かせてあげないと」
でもすぐにうつらうつらして、こてんとパパに寄りかかって寝る司。
「パパとママも一緒にお昼寝するのアリやよね?」
「ママはお仕事がまだあるので、パパお願いします」
「ハイ」
総司が抱き上げてベッドへ寝かせ、添い寝。
それを横目に百香里は洗濯物を取り込んだり、夕飯の下準備を始めたり。
仮眠をとって寝ぼけ眼の渉がのっそりと起きてきてビールを飲んだり。
「義姉さん!義姉さん大変だ風呂が黒い」
「今日はチョコレート風呂なんです」
「……ぁあ」
夜になると、戻ってきた真守が風呂場から真顔でこっちへ向かってきたり。
「甘い香りがするのも大人の男性ぽくて女性ウケすると思います」
「……」
「ちなみに次はバニラです」
「……分かりました」
おわり