そのあと


「パパ。ママ怒っちゃったの?ぷんぷん?」
「プンプン所か大噴火や」
「だいふんかしちゃったの」
「しちゃったの」

何時になくしょんぼりしているパパの隣に座ってヨシヨシと頭を撫でてあげる司。
総司にありがとうと言われて嬉しそうにニコっと笑って返すけれど。ママが怒ると怖いのは
司もパパも知っている。だからそんな事は今まで殆ど無かった。司が知る限りでは。

「…いっしょにごめんなさいしてあげる」
「優しいなあ司は。せやけど、ええねん」
「ママ怒ったままでいいの?」
「ただ謝るんやなくて話し合いで何とかせんならん事もあるんや」
「わかんない」

難しい事は理解できない。司は興味なさげに返事してパパの膝に座る。
すっぽり入ってしまうとすぐに抱きしめてくれた。

「司はきょうだいの名前何がええと思う?」
「女の子だったらエリーがいい!男の子だったらジョンかなあぁ」
「ジョン…」
「今ね司が1番好きなあにめのイケメンキャラ」
「俺かユカリちゃんにどっちに似ても顔はええやろな」
「司もいいかな」
「司はママに似て可愛いよ。次も女の子がええなあって思うんやけど」

百香里はそうは思っていなくてもうすっかり男の子を生む気でいる。
そして今からもう名前を考え始めていた。男なら松前家次期当主となる。
名づけるのならばやはり現当主である総司となったのだが。そこでもめた。

「司はどっちでもいい。どっちでも家族だもん」
「そうやな」
「ママに似たらきれいになるね!」
「パパに似たらイケメンやで」
「……」
「何でそこは黙るん?司。それはどういう意味やの?ん?」
「い…いけめん…だと…思うよ?」
「幼い子どもに無理やり言わせるのはどうかと思います」
「真守おったんかい!」

何か物凄く恥かしい会話を聞かれた気がする。総司は少し声を荒げる。
それに驚いたのか司は真守の所へ飛び出して逃げてしまった。

「義姉さんとちゃんと話をしてください、僕は司と散歩でもいきます」
「うん。行く」
「話はする。やけどお父ちゃんかて結構…、いや、多少はイケメン要素あるやろ?な?な?」
「…あるって言ってあげてくれるか司」
「わかった。あるよパパ!いっぱいあるよ!」
「そんな丸聞こえで言われても虚しいだけやないか。もうええ散歩いっておいで」

さっきよりもさらにしょぼくれた父を残し司は真守と散歩に出て行く。
残った総司はウジウジしても仕方ないと立ち上がり百香里のいる寝室へ。
怒って閉じこもってしまった奥さん。でも部屋のカギは開いていた。

「……」
「ユカリちゃん。話し、出来るか。調子はどうや」
「良くないです」
「病院いくか」
「行きません。少し休めばいいので」
「そうか」

ベッドに座っているそっけない返事の奥様。でも総司はその隣に座る。

「…馬鹿みたいだって思いましたよね」
「思ってへん」
「私は何でもいいけど、でも、やっぱり子どもにはちゃんとしたものを与えてあげたくて。
といっても私は貴方のようには出来ない。何も残してあげられないから。だから、つい」

自分の過去を恥じるつもりはない。でも子どもには自分と同じようにはしてほしくないと思う。
比べて総司の方がいいと思うくらい松前家に嫁いで染まっているという事なのだろうか。
お金だけがいいとは思っていないけれど。でもあったほうがいいのは確か。
子どもが絡むと考え方がブレてくる。これには明確な正解なんてないのかもしれない。

「……」
「名前くらいで意地をはるなんて私くらいでしょうね。ははは」
「何も可笑しい話やない」
「……ごめんなさい」

今度は百香里がしょぼんと俯いてしまう。
総司はすかさずその肩を抱いた。下心のない優しい抱擁。

「怒ってもないよ。ほんま一生懸命やなって関心してた。そんな子笑ったらバチあたるわ」
「総司さん」
「その一生懸命さを理解してやれんかったんは悪かった。けどな、やっぱり恥かしいわ。
総って。司と合わせたら総司なるやん。どんだけ自分好きなんこの親って思われるやろ?」
「でもすっきりしていい名前だって思ったんです」
「やったら漢字かえようや」
「でもそれじゃ意味が無いです。総でないと」

松前家の長男が代々受け継ぐという字。
絶対に欲しいと主張する百香里とそんなものどうでもいいと言う総司。
それで今朝も喧嘩になってしまって。でも百香里に強く出られない総司は
結局言われっぱなしになってガックリと落ち込んでいた。

「それに拘らんでええて。俺の代から無しにする。よし決まり!な!もうジョンでもええわ」
「ジョン?」
「とにかく。ユカリちゃんは気にせんと出産すること。後でなんぼでもなるわ」
「予定日は来週ですよ?もうすぐですよ?あっという間ですよ?」
「ええから。いざとなったら俺がパパパパ!と解決したるがな」
「…信じていいんですね?分かりました。じゃあ、この件はもう総司さんにお任せします」
「それがええ」
「司は?」
「真守と散歩いったわ」

そんなパパママの様子を見ていた司はさぞかし心配していただろう。
怒っているママは怖いし落ち込んでいるパパは可哀想。
彼女が帰ってきたら百香里はきっと優しく迎えてくれるだろう。

「じゃあ総司さんと2人きりだ」
「ユカリちゃん?」

何て総司が考えていたらいつの間にか百香里の手が総司の太ももにあった。
そして視線は悪戯っ子のようなそれでいて誘うような色っぽいもので。

「仲直りにえっちしましょ」
「ま、ま、ま待ち!待ち!そんなお腹で」
「激しいのでなければ大丈夫ですって」
「あかんて」
「……じゃあいいです。寝ます。おやすみなさい」

ちょっと怒った顔をしてベッドに入ってしまう百香里。
慌てて同じようにベッドに入ってそっぽを向く彼女を抱きしめる総司。

「ユカリちゃん。なあなあ。怒らんで?なあ?」
「プンです」
「何その可愛いの。司のマネか?」
「……このまま抱きしめててください」
「うん」

言われるままに彼女を抱きしめて頭や耳、頬にキスする。
それで多少は機嫌が良くなったのか百香里は向かい合って寝てくれて。
今度はちゃんとその唇にキスする。深くしっかりと。

「…総司さん」
「ユカリちゃんにも残したいもんが山ほどあるんや」
「え」
「可愛いんは子どもらだけやないんやから当たり前やろ」
「……でも私は」

そんな残して欲しいものなんてないしただいっしょに居られたらそれで。
子どもへ残したいものが自分の事になると
途端に寂しい気持ちになってしまうから余計に嫌だ。

「そんな顔せんと。ほら。もっとちゅーしよや」
「はい」
「せやな、もっと違うところにもちゅーしたろかなあ」
「……」
「あ。顔真っ赤にしてほんま可愛いなあ」

気まずそうな百香里を他所に総司は唇だけでなく色んな所にキスをしていく。
顔や首筋、手も。あとは。

「ん…ぁ…あぁん」
「ゆっくりしよな。ゆっくり」
「で…でも…ソコ焦らすのは…ダメですぅ…はぁあ…ぁん」
「だって可愛いんやもん」
「…もぅ…ううう…」

丁寧にキスされて久しぶりに触れ合えた夫婦は司が帰ってくる頃にはすっかり仲直り。
そんな両親の様子を見て安堵した様子の司。土産のケーキを見せると百香里はお茶をいれてくれた。
途中真守と出かけていた渉も戻ってきて結局みんなでのティータイム。

「ママ」
「なに?」
「司はママに似てるからきれいになるよね!」
「どうしたの急に。司はママよりパパに似てるんじゃない?」
「……え」
「そんな世界が終わったような顔せんといて!」

司の反応に傷ついた!と泣くそぶりを見せる総司。ケラケラ笑う渉。苦笑する真守。
何も知らない百香里は不思議そうな顔をする。

「どうしたんですか行き成り大きな声だして」
「おっさんになると僻みっぽくなるってマジなんだな」
「渉。それは言いすぎだ」
「そうですよ。お2人とも総司さんとそっくりじゃないですか。いいな兄弟似てて。私はあんまり似てなくて」
「……」
「……」
「あ、あれ?どうしました?」
「こうなるて分かってたから全然悲しないわ。ユカリちゃんお茶おかわり」
「はい。どうぞ」


おわり


2013/01/02

だいぶお待たせいたしました。リクエスト最後の「松前家のその後」をUP!
リクありがとうございます。