理想の相手


双子たちが去った屋敷。何処へ行っても静かで埃っぽく薄暗い。
少し前まではこれが普通だったのに。
可愛くないし憎まれ口をたたかれて腹もたったがそれでも居なくなると寂しい。

「……」

亜美は劇的に減った洗濯物を眺めながらため息。でも、
いい歳した叔父さんの醜い嫉妬とやらでボロボロにされるよりはいいだろうか。
付き合うようになってからは特にその傾向が強くなったように思う。
乱暴にされるのは嫌だけど、でもあの人は亜美を自分のものだとは言わない。
ただ、自分は亜美のものであるとやたら主張したがる。

「ここにいた」
「何ですか?」
「今日だけど何処か行きたい場所はある?無ければ私の部屋でゆっくりしない?」 


亜美からしたらいきなり始まった叔父と姪の関係。
ただでさえ歳の差とか価値観の違いとか付き合うのに課題は残るし、
身内と恋愛という一線をこえるのにためらいが無かったわけではないけれど。

「せっかくの休日だっていうのに
貴方と過ごす前提ですね」
「……あ。……ごめん。亜美だって友達と遊ぶよね」

ちょっと言っただけで物凄く寂しい顔をする彼を1人にしたくない。
私が居なきゃいけない。ううん。側に居てあげたい。
そう素直に思っているから。

「もし予定がある時は事前にご報告しますから」
「…じゃあ」
「何して過ごします?あ。やらしい事は抜きで。そこはきっちりさせていただきます」
「音楽でも聴きながら…」
「お昼ねするには早すぎやしませんかね」
「だね」

亜美の返事に嬉しそうな顔をする。実際予定は無い。
友人たちは由香を除いてみんな受験の準備を始めているから何処かピリピリ。
まだ早いと思うけど、彼らが目指す大学というものはよほどレベルが高いようで。
気軽に遊ぼうよなんて言えない。由香はすぐに飛びつくけど。
洗濯を済ませたら次は掃除にとりかかる。珍しく雅臣も手伝って早く終わった。


「ねえ。おじさん」
「なに?」
「やっぱり女子大生って魅力的?」

先に部屋に行ってもらい自分はお茶の準備を持って行ってから入る。
膝に座ると何をされるか分かったものではないので隣に座って身をゆだねる。
肩を抱かれながらふとそんな質問をしてみた。
最近知った彼の職場はなんと大学。

「おかしな事を聞くんだね。別に女子大生が好きだから大学で働いているわけ
ではないよ?何であろうと、自分が良いと思うもの以外は特に何も思わないよ」
「亜美ちゃん以外はどうでもいいという事ですね」
「なんだ、分かってるんだ」
「じゃあ次何を言うかもわかってますよね」
「……、嬉しい?」
「キモい」

良い事言ったつもりだったのに、すんなり酷いこと返してくれるのだから。
可愛いような、可愛くないような。いや、やっぱり可愛い…ような。
複雑な思いを胸に亜美の頭にキスする。金曜日覚えおいてね、と心の中で呟いて。

「亜美は家に居た頃は休日何をしてたの」
「屁こいて寝てました」
「一日中?お尻痛くならない?」
「ここは笑う所なんですよ。もう。つまんないおっさん」
「じゃあ、本当はどうしてたの」

特に何をする事もなく肩を抱かれながらクッキーを食べる亜美。
昼からは何処かへ出かけないと本当に一日中昼寝タイムになりそうだ。
そんなんじゃ夜眠れなくなるし。営業は金曜日のみ、そこは絶対に譲れない。

「昼前に起きてきて、昼ごはんたべて。遊びに行かない日は家でごろごろ」
「そう」
「あ。今心の中で屁こいて寝てるのと大差ないなって思ったでしょ」
「うん」

即答したら即効で張り手が顔に飛んできた。

「おじさんなりの冗談ですよね」
「分かってるなら頬を打たないで」
「ごめんなさいは?」
「…ごめんなさい」

ちゃんと謝らせてから叩いたのとは逆の頬に軽くキスする。

「じゃいい」
「…唇がいいな」

そのまま唇へ移動。最初は確かめるくらいの軽いものをしていたのだが、
段々本気になってきたのか隣に座る亜美を抱きかかえ膝に座らせた。
また叩かれるかと思ったが抵抗はなく雅臣の首に手を回す。

「お昼どうしましょうか」
「君が楽な方でいいよ」
「はい!はい!おすし!おすし!最近駅前に回転寿司屋さんが出来たとかで」
「君本当に寿司が好きだね?で、そこに行きたいの?」
「無理にとは言いません」

と、いいつつもにこにこと笑いながら見つめてくる。

「…まあ、いいけど」
「やった」

亜美に強請られては断われないと分かっているからだろうか。

「少し早めにでようか、開店したばかりでは人も多いだろうし」
「はい。嬉しいからサービスしちゃいます」
「どんな?」
「時間まで好き放題」
「いいね」

軽くキスすると亜美が悪戯っぽく言う。早めに出るとしても時間はまだたっぷりとある。
それまで好きにしていいのだろうか。とりあえず服の上から胸に触ってみる。
彼女からの抵抗はない。今度は両手で掴んで鷲掴む。

「それだけでいいんですか?」
「いや、ほら。亜美の事だから下手な所を触って叩かれるのは嫌だし」
「おじさんも分かってるじゃないですか。スカートに手入れたら頭突きする予定でした」
「……だよね」

亜美が金曜日じゃないのにえっちなことさせてくれるわけない。
胸を揉んでいた手を離して抱き寄せる。これくらいはいいだろう。

「雅臣さん」
「なに」
「また素直じゃなくなっちゃいました」
「そうみたいだね」

また雅臣の首に手を回し耳元で呟く。暫くそのままのんびりと過ごし、
昼が近づいて寿司への欲望がおさえられなくなったのかそろそろ行きましょうと言って
余所行きの服に着替える為に自室に戻っていった。恋愛ごと以外では実に素直な少女。
苦笑しながらも自分も遅いと怒られないように準備をして玄関で待つ。



おわり


2008/10/12