お預け

「ということだから。戻るのは9日になる」
「はあ」
「家に戻っていてくれてもいいしここを使ってくれてもいい」
「はあ」
「戸締りはちゃんとするんだよ」
「はあ」

亜美が何時ものように夕飯の準備をしていたら叔父さんがやってきて。
知り合いの誰かさんが亡くなったから通夜に葬式にその他諸々に出ると言われた。
その人とは大学時代に懇意にしてもらっていて欠席は出来ないとのこと。
しかもその人はかなり遠くに住んでいるらしい。よって余裕を見て帰ってくるという。

「何時にも増して締りの無い返事だね」
「毎回しまりが無いみたいな言い方しないでください蹴りますよ」

興味がさほど無いらしく料理しながらの返事。

「君は言う前に既に行動にしているよね。痛いよ」
「軽くドツいただけじゃないですか大げさな」
「これで軽いの?とにかく、暴力に訴える行動は程度が知れるから辞めたほうがいい」
「そうですね。死ね」
「痛いっ」

出張で居ない日もあるから特に彼が居なくて不便とか寂しいとかはない。
この広いお屋敷を独り占めできるのなら寧ろ歓迎。家には帰らないでおこう。
それとも亜矢や正志を呼んできょうだいでバカ騒ぎしてもいいかもしれない。
何かやらかしたら片付けるのは亜美だけど。

「じゃあ何時もみたいにカバン準備しときますね」
「頼むよ」

煩い主の居ない3日間。どう過ごそうか考えるだけでも楽しい。
夕飯を終えて片づけをしながら色々とプランを練ってみる亜美。
ここはやはり家族を呼んで思いっきり羽を伸ばすのが1番か。
下手な旅館に泊まるよりここに居たほうが豪華だし。庭もある。

「あ。喪服とか数珠とかいりますね。何処にあります?」
「こっちだよ」

出発は明日の昼。講義を終えてからその足で行くらしい。
慌しく叔父さんの部屋のクローゼットを漁って持っていくものの準備。
出張の時も亜美が準備するからもう慣れたものだ。こんなの自分でしたらいいと思うし
実際出来るのだがどうも彼は亜美に世話を焼いてもらいたいらしい。面倒な人。

「こんなスペースあったんだ」
「殆ど使わないからね。確かこの辺りにあったはずだ」

叔父さんの部屋の中にある収納スペース。ドアをあけると意外に広い。
家政婦として働いて長い亜美でもここは気づかなかった。
2人入ってちょうどいいくらい。叔父さんはごそごそと棚を漁る。

「そうだ。居ない間でもおじさんの部屋入ってもいいですか。
ネットするだけなんで何も弄るつもりないんですけど」
「構わないよ」
「あと、家族とか呼んでもいいですか」
「自由に使っていいから」
「寂しくなったら電話していい?」
「え?3日でかい?待ってるよ。…さ、これで準備はいいかな」

どちらも暗い部屋に置いてあって使う事がなかったから少し埃っぽい。数珠は磨き
喪服はハンガーにかけて干すことに。後は亜美に任せたといい叔父さんは風呂へ。
明日は忙しくなりそうだから早めに寝る気らしい。通りで酒も飲まなかったわけだ。
亜美はカバンに着替え等を詰め込んで彼の机に置いた。


「シャンプーかえたんですよ。気づきました?」
「みたいだね。匂いが違う」

そして追いかけるように自分も風呂へ。体と頭を洗ってから湯船に浸かる。
彼の膝に座り見つめあう形にして身を寄せる。亜美は甘える姿勢。

「何ですか」

そのまま叔父さんの頬にキスしたら彼は困った顔。

「明日は長距離運転しなくてはいけないから。今日はもう寝たいんだ」
「なにそれ。人の都合は構わず襲ってくるくせに」
「君とセックスをしたら寝不足は間違いない。そんな状態で運転するのは危険だ」
「そんなにするからでしょ。適当に終わったらそれで」
「終わる自信なんてない」
「真面目な顔して変態な事を…。でも、運転するなら仕方ないか」

運転中に何かあったら嫌だ。しかも寝不足の原因がえっちのし過ぎとか。
そんな死因なんて叔父さんも辛いだろうし。自分も辛い。というか恥かしすぎる。
ギュッとくっ付いていた亜美だがそれとなく離れる。でも完全には離れたくない。
普段はサバサバとしていてもたまには甘えたい時がある。
それが今だったのに、つくづくタイミングが悪い。

「君が何時までも元気だから余計に」
「その話はいいから。…じゃあ、せめてキスだけでもしてもいいでしょ?」
「少しだよ?あまり長いとその気になってしまう」
「もう半分くらいその気な癖に」

もう1度向かい合って叔父さんの頬に手を沿えそっとキスする。
舌を入れず、ただ吸い付くようなものを。彼は亜美を抱きしめた。

「悩む所だ」
「眉間しわ寄せてまで悩むことですか?でも。今夜は我慢しましょう」
「言いながら執拗にキスをするのはやめてくれないか」
「ふふ。…あ。もう…駄目ですよ」
「君が望むようなスマートな男はここには居ないからね」

抱きしめていた手がお尻を撫でて亜美の下半身へ伸び愛撫を始める。
唇は亜美の首筋に吸い付いて。まだ本格的な激しいものではないが
それでも十分に感じてしまい甘い声を漏らした。

「雅臣さん……だ、だめ。やっぱだめ!」
「君が誘ってくれたのに」
「これで雅臣さん死んだら私辛い。色んな意味で」
「物騒な表現だね。君らしいけど」
「ということで。大人しく待ってます」
「分かったよ」
「とかいいながら尻をなでるな」

お互いに熱いものを体に秘めながら風呂から上がり各部屋に戻る。
今一緒に居たらそのままベッドで最後までいってしまいそうな気がして。
気持ちに任せて彼の部屋に行ってしまおうか、このまま我慢しようか。
どうしようか考えている間に亜美はぐっすりと寝てしまった。

「忘れ物はないですね。それじゃ、お気をつけて」
「何かあったら電話してね」
「はい」

翌朝大学へ向か叔父さんを珍しく見送る。このままもう今日は戻ってこない。
3日くらいならよくあるし寂しいなんて気持ちは持っていないのだが、
何となく見送りという行為は寂しく感じてしまうから不思議だ。


「おおおお!ひろい!ひろい!」
「正志走り回らないでここはグラウンドじゃないんだから」
「庭で遊んでもいい?サッカーボール持って来た!」
「いいけど物壊すんじゃないよ?弁償できる金ないんだから」
「そこは俺も分かってる。亜矢も行かないか」
「行く」

メールで連絡を取り放課後を待って妹弟を屋敷に呼んだ。母は遠慮して来ない。
母親が違うとはいえ、弟の方が裕福というのは兄として複雑な気持ちになるらしい。
その弟からしたら家族に囲まれて幸せな兄というのは羨ましいらしいけれど。
上手くいかないものだねと母に言ったらそうねと笑って返された。

「夕飯は何がいい?姉ちゃんが作ってあげる」

叔父さんの居ない間2人はここに泊まる。遊びに来る事はあっても
お泊りは初めてで嬉しそう。普段は狭い家で窮屈な思いをしているが
この広いスペースで楽しげな2人を見るのは姉として嬉しい。

「俺ラーメンでいい」
「亜矢も」
「あんたらね。お姉さまの手料理が食べたいんでしょう?ねえ?」
「食べたくない。腹壊す」
「…正志、ちょっとツラかしな」
「亜矢!姉ちゃんに殺される!」
「あんたね。中学生になって小学生に助けを求めるな」

ぎゃあぎゃあと騒いでも広いからお隣さんに注意されたりしない。
亜美と雅臣の生活でそんな騒ぎまわることなんてないけれど、
そこに正志と亜矢が加わると走り回ったり叫んだり怒鳴ったり大笑いしたり。
いっきに明るくなって、ただ大きなお屋敷ではなくて人の住む家になった気がする。
本来の主からしたらとても騒がしくて住める家ではないだろうけど。

「おじちゃん今なにしてるのかな」
「車の中じゃない?到着するの夜らしいから」
「そっか。…おじちゃん疲れてないかな」
「大丈夫でしょう。昨日は早く寝てたから」

夕飯の準備を亜矢としながら叔父さんの話をする。
彼の身の心配をする亜矢は本当に優しい妹だ。

「この前おじちゃんにね、亜矢の事好きって聞いたら好きって言ってくれたの」
「亜矢。おじちゃんが不自然に近づいてきたら警報ブザー鳴らしてキンタマ蹴りなさい」
「お姉ちゃん顔怖い」
「大丈夫。亜矢はお姉ちゃんが守るからね」

あの野朗帰ったら殴る。亜美は野菜を握り締めたまま目標をたてた。
夕飯は亜矢が手伝ってくれたおかげが黒くもならず味も美味しかった。
正志は亜矢が食べるまで半信半疑だったが美味いと褒めてくれて。
バカにするなとお姉ちゃんの鉄拳制裁を喰らった。

「おじちゃん金持ちでいいよなあ。うちももうちょっとあったらな」
「じゃあ、正志。バイトでもする?」
「新聞配達したいけど俺朝弱いんだよな」
「だねえ」

食後の片づけを終えて一息つこうとしたらテレビの音が漏れて。
隣の部屋に行って見ると正志がソファに寝転んでアニメを観ていた。
中学生になったとはいえまだまだ幼くて母親に甘えて妹に弱い。

「でも俺絶対バイトする。で。母ちゃんに肉いっぱい食べてもらう」
「肉ってあんたの好物でしょうが」
「いいんだ。肉は元気になるから」
「ま、あんたも家の為に頑張る訳だね。えらいえらい」
「当たり前だ。俺、長男だぞ」
「……正志」
「あーーー肉の話ししたら肉食べたい。…姉ちゃん肉」
「バカ」

でもちょっとは成長したらしい。姉としては嬉しい限り。
家とちがう風呂の大きさに大興奮しながら1日目は終わった。
やはり1人に1部屋というのは嬉しいらしい。
亜矢はまだ寂しいからと亜美の部屋に来て一緒に眠ったけれど。

「俺もここで暮らしたい」
「駄目だよ。正志が居ないとお母さんなんかあったらどうするの」
「そか。そうだな」

あっという間の3日間。妹も弟も思ったより暴れまわることは無く。
むしろゴミだしとか掃除を手伝ってくれて平和に過ごせた。
たぶん母親に叔父さんに迷惑をかけてはいけないと言われているのだろう。

「いつでも遊びに来たらいいって。おじさん歓迎してるって言ってたから」

亜美も2人が来てくれて寂しいなんて思う暇もなかった。

「うん」
「おじちゃんまだ帰ってこない?」
「夜になるから」
「そっかぁ」
「亜矢が心配してたって言っとくからね」
「うん!」

暗くなる前に家に帰る2人を見送ってやっと1人きりになる。
叔父さんが戻るのは夜。夕方違いがたぶんまだ帰ってこない。
夕飯は食べてくると思うから自分の分だけ用意して食べて。
お風呂も待たなくていいだろう。さっさと済ませてしまう。
戸締りをして叔父さんの部屋で何気なくネットをして。

「…雅臣さんそろそろかな」

何度も時計を見て携帯を眺めて彼のベッドに寝転ぶ。
このままここで寝てしまおうか。うとうととし始める亜美。

「亜美」
「…ん」

眠りに落ちる手前で肩を揺らす手。

「ただいま」

薄ぼんやりとした意識の中叔父さんの顔を確認しただけでまた眠りへ。
ろくに会話もできないで眠ってしまったのは時間も遅いし仕方がない。その後
どうなったのか分からないが翌朝目が覚めると叔父さんに抱きしめられていた。


「ちょっ…ちょっと…何やってんですか」
「起きてこないから起こしてあげようと思ってね」
「今日講義昼からなんで」
「知ってるよ」

まどろみの中妙に肌寒いと思ったら下着姿になっている自分。
そしてそんな自分に覆いかぶさっている叔父さん。これはどういうことか。
寝ぼけた頭で考えなくてもすぐにわかった。

「朝から何やる気出しちゃってるんですか恥かしい中年男が」
「我慢させたのは君だよ」
「そ、そんなマジで来なくても。…自分でやりゃいいでしょう」
「だからこうして自分から来たんだけどね。君は気分屋だから」

そう言って亜美の頬にキスをする。あの時のお返しとばかりに。

「今したら昼に終わります?」
「終わって欲しいなら、努力する」
「……、終わらないで」
「嬉しいよ」

了解を得て嬉しそうに亜美の唇を奪う。
今度はちゃんと舌を絡め深いもので。

「雅臣さ…ぁ…ん」
「亜美」

キスの合間に漏れる声は何処か色っぽく。

「亜矢に手ぇ出したらテメエぜってぇ許さねぇからなロリコン野朗」
「君何処から声だしてるの」

まるでおっさんのようなドスの利いた声は背筋を凍らせた。

「…ん」
「好きだよ亜美」
「愛してるって言わないと駄目」
「そうだね。愛してる」

それでもめげずに亜美にキスして。彼女から抱き返されやっと了承を得る。
彼女はちょっと素直じゃないからこうして態度で気持ちを教えてもらう。
完全に服を脱がせ裸になる。恥かしいからカーテンを閉めて電気も消して。

「あ…ん…ぁっ」

亜美の股を押し広げ顔をソコへ埋める。舌でやさしく上下するだけで悶える体。

「君も私を待っててくれた?」
「…当たり前でしょ」
「そうか。よかった」

亜美の体を嬉しそうに堪能していた雅臣だがやはり我慢できずすぐに中へ。
煽っておいてのお預けで3日も我慢したのだ。これで終わるとはお互い思っていない。
ひとたび始まるともう夢中になって終わりが見えないなんて、
我ながら変態なんじゃないかと後で冷静になって恥かしくなる亜美だが。

「あっあっあぁんっ」
「そんな…いいかい」
「ぁ…いいっ」
「…嬉しいよ」

でもその時はそれしか考えられない。しがみ付いて喘いで。

「ぁん」
「動いてくれるのかい」

仕舞いには自分で上に乗り腰を振る。まだ上手ではないけど。
叔父さんとの回数を重ねるたびに大胆になる気がする。
そしてまた大きくなってしまった胸が揺れるたび下で嬉しそうな顔をする彼。
しまいには手を伸ばし乱暴に揉み始める。亜美が胸に弱いと知っているから余計。
荒くされるのは嫌なのにその方が感じるなんていやな性癖。

「も、もう…」
「こうされるのは嫌だった?」
「…すけべ」
「諦めるんだね。さ、もっと動いて。私が動こうか?ほら」
「あっん…あ…あぁ」



亜矢に無事に帰ったと連絡が出来たのは結局お昼を大幅に過ぎた頃。
心配してくれていたようで叔父さんの声を聞いて嬉しそうにしていた。
そんな無邪気さを他所に亜美は空腹すぎて目に付くもの全て平らげる。
レトルトのカレーもラーメンも土産に貰った饅頭もなにもかも。

「亜矢ちゃんたちに渡す土産は食べないでね」
「分かってますよ」
「電話待ってたんだよ。君からの」
「亜矢も正志も居たんで全然寂しくなかったんです」
「きょうだいか。いいね」

何処か寂しげに言う叔父さん。冗談でなく本当に待っていたのか。

「じゃあお父さんと旅行でもします?」
「兄さんと?男2人で旅行してもね」
「確かにムサイ…或いはそういう関係の」
「やめてくれないか。寒気がするよ」
「じゃあ私も……、やめとこ」
「どうして?」
「雅臣さんのことだからやらしいことする」

3日お預けであの調子なのだから際どいところで酷い目にあうかもしれない。
それを自制できるかも怪しいし。そんなハラハラは要らない。
今のこの関係だってナイショで苦労しているのに。

「皆と行けば大丈夫だよ」
「どういう意味で大丈夫なんですか」
「部屋を分ければ。ね?」
「いっときますけど、お母さんに手だしたら殺す。亜矢に手出したらぶっ殺す」
「だからどうしてそういう発想になるの?さっきまで私たち」
「正志なら許す」
「いや、それもどうなんだろう」
「冗談ですから」
「でないと困るよ」

おわり

2011/12/11