世界


「1回くらいおじさんの仕事場行って見たいかも」
「面白いものは何もないと思うけど」

本を探す亜美。その様子を休憩用に置いてあるソファに座り見ている雅臣。
ここは短大の図書館ではなく叔父さんの膨大な書物が納まっている書庫。
レポートの資料になりそうなものをこうして漁っている。

「別に笑いを期待してるわけじゃないですから」

驚かせようとこっそり大学へ行ってドア開けたら見知らぬ女が居て
今まさに浮気してる最中でしたみたいなシチュエーションなら
もしかしたら笑ってしまうかもしれない。で、その後は。

「君今すごく怖いこと想像してない?」
「え?別に。ちょっとおじさんの頭の形が変わったくらいで」
「恐ろしいにも程がある」

ゾッとした顔をする雅臣に亜美は何か思い当たるふしでも?とニコリ。

「今度連れてってくださいね。おじさんの助手さんにも会いたいし」
「そんな理由で私が連れて行くとでも?」
「いいじゃないですか。ご挨拶するくらい」

何でまたこんな偏屈で勝手なおじさんの助手なんてものに志願したのか
或いは上司に言われて渋々なったのか。どちらにしろすぐに辞めたりしないで
長く勤められるその人に大変興味があった。あとビジュアル的にも。

「挨拶なんて必要ない」
「うわ。何か感じ悪い」
「悪くて結構だ」

そんな気持ちを見透かされているのか不機嫌な物言いになる雅臣。
助手は男。それも自分よりも若い。まだ結婚もしていない彼女募集中らしい。
亜美から興味を持ち男に近づくのも男が彼女に近づくのもどっちとも嫌。

「じゃあ短大のあのお嬢さまにご挨拶しようかなぁ」
「お嬢さま?」
「教授の助手さんでしょう?綺麗で巨乳な」

やんわり断わられても何かと手伝いをしているらしい女性。
たまに教授の部屋に行くと彼女が資料を片付けていたりする。
楽しそうに会話していたりして。亜美は正直面白くない。

「君挨拶好きだね」
「やっぱり話するなら男の方がいいか。今度行きますね」
「そうやって私を怒らせるのは君の悪い所だよ」
「すいやせんねぇ。性分みたいです」

あの女性の事を思い出してちょっと感情的になりすぎたろうか。
亜美は視線を本棚から逸らしそっと叔父さんを見る。
彼はポケットをごそごそと漁り大学から支給された携帯を取り出す。

「彼には辞めてもらおう」
「ちょっちょっと!辞めさせるのは横暴でしょ!」
「確かに横暴だ。でも、君がそうさせたんだよ」
「わ、私!?」
「君が異性に興味を持つのは仕方がないとしてもやはり私は」
「もういい。いいから携帯を仕舞いなさい」

自分が挨拶しようとしただけで助手が辞めさせられるとか気分が悪すぎる。
こんな偏屈で勝手で、そして子どもみたいな人が上司だなんて。やっぱり助手は
精神的にも凄い人なんだろう。亜美は見学を諦めて本を選ぶ作業に戻った。


「買い物に行くの」
「何か買って来て欲しいものがあったら言ってくださいね」

本選びも一段落ついた所で夕飯の買い物に出る時間になった。
部屋を出て買い物バッグを台所で持ってきて叔父さんの部屋へ。
何をするにも彼に声をかけていかないと後が面倒だから。

「特には。気をつけてね」
「はい。じゃあ行って来ます」

夕飯のメニューを考えながら外に出る。久しぶりにカレーを食べたいような。
叔父さんは渋い顔をするだろうけど。そこはお構いなしに突き進む。
ほぼメニューが固まって気分よくスーパーへ歩き出す亜美。

「すみませんちょっとよろしいですか」
「え?」

暫く歩いた所で突然何処からか呼び止められ足を止める。
その人は停まっていた車から降りてきて亜美に名刺を渡した。弁護士らしい。
そんな職業の人と関わりあう事なんて今までなかったのに。全く知らない人。

「貴方は今大野さんのお宅から出てきたように見えましたが」
「はい。そう、ですけど。それが何か」
「申し送れましたが私は大野家の弁護士をさせていただいておりまして」
「……」

大野家の弁護士。それで何となく察した。
まだ何も言われていないがあまり友好的な人とは思えない。
怯えるような怒るような視線を向ける亜美だが弁護士は動じない。

「少しお時間を頂ければと」
「すいませんけど無理です。忙しいから」
「お逃げになるということは何か聞かれて疚しいことでも?」
「貴方のおかげでタイムセール逃したら何処へ訴えたらいいんですか?警察?」
「勝気なお嬢さんだ」
「話をしたいなら高級菓子折りの1つでも持ってきてくださいね。それじゃさよなら」

亜美も勢いで押し切って早足で逃げスーパーにかけこむ。
叔父さんに電話しようかとも思ったがそれはあの弁護士に読まれていそうで。
大野家の事は殆ど知らないけれど。でも、あまり良いものではないのは分かる。


『亜美?今何処に居るの?あまりにも遅いから心配で』
「今家なんです」
『家?何かあった?』
「そうじゃないんですけど」

まっすぐに屋敷に帰るのが怖くて家に避難した。あの弁護士が待っていそうで。
叔父さんに連絡しなければいけないのにどう言ったら良いか分からず
まごまごしているうちに向こうからかかってきた。

『じゃあどうしたの?』
「……あの」

自分の家の事になると叔父さんは冷静ではいられない。
それに亜美が絡んでくるとなお更。安易に想像出来る。
彼が悲しそうに苦しみそして怒る姿は見たくない。

『亜美?』
「疲れて休んでただけです。もう少ししたら帰りますから」
『…そう、迎えに行こうか?』
「大丈夫ですから。それじゃ」

電話を一方的に終わらせて深くため息。このまま帰らなかったら
それはそれでまた相手を心配させる。けど、帰ったらどうやって話をしようか。
彼を極力怒らせないように説明のするなんて難しい。

「どうしたの?また喧嘩しちゃった?」
「お母さん」
「喧嘩するほど仲がいいって言うじゃない」
「喧嘩したんじゃないよ。あのね、…おじさんの家の弁護士って人が来て」
「何か言われた?」
「何も聞きたくないから逃げた。けど、逃げるって事は疚しいことがあるんじゃないかって」
「まあ酷い言い方」

正直な所ちょっと胸が痛い。疚しい事だとは思ってないけど
叔父さんとの関係は他人には言えない事だ。
もしかしてそういうのも見透かされてるんだろうかあの弁護士に。

「私はいいの。でも、このことをおじさんが知ったら悲しむだろうなって」
「亜美」
「どうして放っといてくれないのかな、おじさんの事。お金がそんなに大事?
貧乏でも家族が元気ならそれでいいじゃん。何で人を傷つけるんだろ」
「貴方の言う通りね。でも、それに気づけない人もいる。悲しいけど。
だからって亜美までそんな悲しい顔をしていたら誰が雅臣さんを支えるの?」
「……」
「傷つくかもしれないけど、彼に話しなさい。隠されている方がもっと傷つくから」
「…わかった」
「肉じゃが作ったからもって行きなさい」
「うん」

母と話をして少し落ち着いた。気持ちも固まった。
土産にタッパに入った肉じゃがを貰い家を出る。
もう暗いから父が送ると言ってくれたけど断わって。
屋敷までの夜道を歩くのはもうなれた。

「亜美」

屋敷の前に人影。なんとなくそんな気はしていたけど
近づいてみたらやはり叔父さんで心配そうな顔。
言葉をかわすよりも先に中へ入る。左右確認してから。

「お母さんに肉じゃが貰いました。美味しいですよ」
「そうだね」
「あの。手離してもらわないと動けないんですけど」

まずは腹ごしらえをしようと台所に立ったのだが。よほど心配していたらしく
後ろから抱きついたまま剥がれてくれない叔父さん。

「君が何も連絡をしてくれないから。心配したんだよ」
「すいません」
「帰ってきてくれてよかった」
「お話があるんですけど」
「え?…何だい?」

亜美はその手をギュッと握って覚悟を決めた。
そんな改まって言われるお話とはどんなものなのだろう。
良い話にしては彼女の態度が気になる。じゃあ、もしかして。
雅臣は複雑そうな顔をしたが亜美には見えていない。

「ここじゃ何ですから移動しましょう」
「わかった」

何時になく真面目な雰囲気で会話も殆どなくて、
どうしたものかと思いながら亜美に手を引かれて連れてこられたのは
何故か風呂場。家政婦さんがお湯を沸かすからまだ浴槽は空っぽ。

「お湯がたまるまで体でも洗いましょうか」
「…亜美?」
「先にご主人さまのお体洗いましょうか。なんちゃって」

話が読めない雅臣だが勢いで脱がされ椅子に座らされる。
亜美も脱いで目の前に座る。手には泡のついたスポンジ。

「ちょっと待って。話があるんだろう?まずはそれを聞きたい」
「しながらもでも」
「気が気でないんだ、早く教えて欲しい」
「…はい」

楽しい話題なら亜美の性格上こんなもったいぶらない。
風呂場に連れてきたのだってもしかしたらご機嫌を取るためかも
それくらいのマイナスな話なんて本当は聞きたくないけど、無視もできない。
亜美はスポンジを置いて雅臣の膝に跨った。彼の首に手を巻いて。

「それで?」

雅臣も亜美の腰を引き寄せギュッと抱きしめる。

「買い物行く時、男の人に呼び止められたんです」
「……」
「その人は大野家の弁護士だと言ってました。名刺も貰いました」
「君に何かした?」
「話がしたいと言われたけど断わりました。そしたら疚しい事があるのかって」
「そう、…ごめんね。許してほしい。もう君の元へは行かせないから」

雅臣は納得した様子で亜美をギュッと抱きしめる。
恐れていた話題ではなかったけれど、それでも十分に衝撃的な事だ。
亜美にあの家の者が近づく。危惧していたのにどこかで大丈夫だろうと
妙な自信を持って楽観視していた自分が許せない。

「雅臣さんが謝る事ないよ。…悪いのはあっちでしょ」
「私が原因である事に違いはない」
「…そんな顔しないで」

怒ってるような、悲しんでるような。辛そうで。見たくない顔。
亜美が思っていた通りの表情をする叔父さん。でも全然笑えない。

「……」
「私が貴方を支えるんだから。で、私が辛い時は助けてもらうんだもん」
「そうだね。君に支えてもらってる。何時も」

無くなってしまったらもう立てないんじゃないかと思うくらい大事な支え。

「キスしたくない?」
「したい」
「…じゃあして。いっぱい」

抱きついてその耳元で甘く囁く亜美。誘われるままに向かい合うと
後はもう言葉もなくキスをする。唇に吸い付いて舌を絡めて。
亜美の鼻から抜けるような甘ったるい声が色っぽい。

「…亜美」
「あ…ぁん」

仕草だけでなく体も女性らしく肉感的になってきた亜美。
首筋に舌を這わせながらお尻を撫でまわすと感じてしまうようで
顔を赤らめ腰をくねらせながら控えめな喘ぎ声を出す。
それがまた雅臣の中にある亜美への激しい独占欲をそそる。

「横暴でも何でもいい…誰にも渡さない」
「それは私の事?それともおっぱいの話し?」

豊満な胸に顔をうめての宣言に亜美はちょっと笑う。

「亜美の事だよ」
「ですよね」

あまりにも愛しそうに胸を愛撫するからたまに疑うけど。今もそう。
胸に吸い付いて中々離れない。手も器用にお尻と胸を撫でて揉んで。
亜美は吸い易いように中腰になり彼の頭を優しく抱きしめ好きなようにさせてやる。

「……」
「電話鳴ってますね。いいんですか?お仕事関係かも」
「後でまたかけなおしたらいい」

隣の脱衣室から聞こえる携帯の着信音。最初は初期設定のままの
シンプルな音楽だったが亜美が弄って別の曲になっている。

「助手さんだったり」
「…そんなに気になる?」
「いえ別に」
「出てもいいけど私はつづけるよ。電話しながらセックスしたいなら」
「全然興味ないんでまずはこっちに集中してください教授」
「私もそれがいいと思うよ」

目がマジだった。こういう時の叔父さんは冗談が通じない。本気で
携帯片手にえっちなんてされたらたまらない。そんな趣味は無い。
暫く携帯は鳴っていたが諦めたのか静かになる。

「ぁっ…ぁん…ああぁん」

かわりに亜美の潤んだソコを指で愛撫するクチャクチャという水音が響く。
中腰で雅臣の膝が真ん中にあって足を固定され閉じられない。
腰をガクガクさせながら雅臣に抱きつく。

「とても魅力的な姿だよ」
「…えぇ?」

耳元で囁かれ何の事かと彼の視線を追いかけて振り返った。そこには
壁に設置されている中くらいの鏡があって。お湯を溜めていて少し曇っているが
おおむね綺麗に見える。雅臣にすがり付いてお尻を突き出す自分の後姿。

「見えるかい?私も興奮してる」
「え?あ。…せ、セクハラっ」

自分の痴態にちょっと興奮しながらも誘導されるように視線を自分の尻の下へ
そこには硬く反り返る男性のモノが。顔が真っ赤になり視線を鏡から逸らす。

「そろそろ慣れてくれると私としては嬉しいんだけど」
「何をやらそうとしてるか知りませんけど次見せたらぶん殴る」
「愛してくれてるよね?」
「愛とソレは別物です。変態。このド変態」
「……認めたら」
「認めたら逮捕だ」

胸で愛撫するくらいが限度。未だにそれ以上が出来ない。
諦めたのかキスをして避妊具をとりにいったん席をたつ。
といっても傍に置いてあるからすぐに戻ってきた。
風呂場に置いてあるなんて何回風呂場でえっちしてるのやら。

「どうしたの亜美」
「人の事言えないような気がしただけです」
「え?」

案外自分も変態の部類なんだろうか。ショック。

「あ…ん」

気を取り直し座っている雅臣の元へ。ゆっくりと腰をおろし
先ほど見たモノが自分の中へ入って行くのを感じる。完全に収まってから
ぎゅっと雅臣に抱きついて自分から腰を動かす。激しいくらい。

「っ…今日は…また、凄いね」
「いや?」
「…悪くない」

何時もと違い積極的な彼女。雅臣は少々驚いた様子だが視線を鏡に向ける。
そこには腰をクネクネさせて動く亜美の後姿。弾力があって白いお尻の間から
見えるのは柔らかなピンクの壁に揉まれ刺激される自分のモノ。

「また鏡見てる」
「食いつかれてるみたいだ」
「ぁん。…バケモノですか私は…」
「だとしても私以外を食べてはいけないよ」
「誰が食うかンなもん!アホか!」
「…そんなに激しくされるともたない…」
「えっい、いや…私も…一緒にっ」

ちょっと脱線しながらも抱きしめあってなんとか果てる。
自分から動いたら思いのほか疲れた。汗だくで雅臣の胸に収まる。
もう身動きが取れない。このままお風呂に入って暖まってのんびりと

「よし」
「え。な。なんですか。つか何このポーズ!嫌な予感すんですけど!」

するはずなのに。
何故か雅臣の膝に座ったまま鏡が見える正面を向かされて。
先が読めたので抵抗したいけど疲れて本領発揮できない。

「ああ、これだと胸に触れやすい」
「ちょっと!彼女を労わろうって気はないんですか!」
「君は大丈夫」

何処をどう判断して大丈夫だと?駄目だめまいがする。
嬉しそうに後ろから胸を揉んでくる叔父さんに抵抗をやめ身を任せる。
鏡には果てたばかりのソコが丸見えで。未だにビクビクと痙攣している。
自分の体だが亜美は直視できず視線を逸らす。お湯は止めてくれたらしい。

「…雅臣さん」
「ん?」
「私たちって…本当はこんな事しちゃいけないの?」
「……」
「駄目って言われてももうしたけど」
「そうだね」
「これからもするけど」

2人で居るとそうでもないけど外に出るとチラつく叔父と姪であることの枷。
今までそれを深く感じたこともなく過ごしてきたから分からなかった。
けど、今は少し考える。あの弁護士の所為だろうか。

「君が望んでくれるなら、私はそれに甘えるだけだ」
「…貴方が好きなんだもん。愛してるんだもん。仕方ないよね」
「嬉しいよ。…ありがとう」
「でもおじさんのこーいう空気読まないとこは嫌だ」
「え?何が?」

人が真面目に喋ってるのにせっせとおっぱいを揉むな。
当たり前のように揉むな。せめてその時だけでも手を下ろせ。
そう文句を言ったら渋々下ろした。けど。

「あぁっ…だ、だめ…いや…見えちゃうっ」
「すぐ見えなくなるよ」

亜美の足を掴み大きく股開かせた。鏡の前で隠すものもなく全開になったソコへ
フタをするように雅臣の硬く熱いモノがゆっくりと入ってきて。

「あぁっ」

果ててそんな経ってないのにまた甘い声が漏れる亜美。
確かに自分の恥かしい場所は隠れたけど接合部丸見えで恥かしさ倍増。
つい手を伸ばしその部分を隠すが下から打ち付けられるたびに体が震え
手が動いてチラチラとソコが見えてしまって卑猥。

「隠す事はないよ」
「は…ぁん…あぁあ…いや…いやっ…ぁ」

それでも頭を振って嫌がる亜美。

「君はこの動きが好きだったね」
「あぁああっ」
「ならこういうのも好きかい?」
「そ、そんな…しないで…っ」

雅臣は突き上げるスピードをかえたりネチネチと責め追い詰めていく。
隠したい恥かしいなんて気持ちを捨てさせるように。
途中何度か果てたがそれでも容赦しない。
そしていつの間にかソコを隠していた亜美の手は雅臣に縋りつく。

「ここは私と君だけの世界だ。誰にも邪魔はさせない」
「あ…ぁああ…ふたり…だけ」
「そうだよ」
「…雅臣さん」

とろんとした瞳で見つめてくる亜美。

「愛してる亜美」

そんな汗ばむ頬にキスをすると亜美は少し大人しくなり、
雅臣はゆっくりと彼女の湿った陰毛を掻き分け淫核を軽く摘んだ。
まさかの攻撃に亜美は大きく仰け反り苦しそうな顔。

「…もう…空気…よめ…っ」
「またタイミング間違えたかな。ごめん」
「…でも…いい。続き、しよ」
「そうしよう」

今は深いことを考えずイチャついてやろうと吹っ切れてしまった亜美。
風呂場からは2人の喘ぐ声と絡み合う音ばかりが響いて。
もう一度携帯に電話がかかってきていることに気づかなかった。



『きょーーーーーじゅーー僕に恨みとかあるんですかーーー!』
「あるって言ったら君怒る?」
『えええ!?冗談だったのに…』

長い長い風呂から上がって亜美の母が作った美味しい夕食も済ませ
自室に戻った雅臣。携帯の着信履歴には助手の文字。
メールも『電話ください』と1件。面倒だなと思いながらも電話をかけてみる。
亜美はお茶を淹れる為に台所。行かせておいてよかった。

「それで。何かあった?」
『やっぱり忘れてましたね。今夜は東城教授と学部長とそのご家族でお食事会』
「あ、痛い。痛いなぁ急激にお腹が痛い」
『そんな古臭い手を…』
「私は急な腹痛でお休みするから。君言っておいて」
『せめてもうちょっと嘘って分かり難い理由にしてもらえませんかね』
「腹痛を馬鹿にしてはいけないよ殿山君。あ、痛い。いたたたた」
『貴方が僕を馬鹿にしているような気がするのは気のせいですか』
「気のせいだろうね」
『……ああそうですかすいませんね』

そんな約束した覚えはないようなあるような。けど手帳を確認する気も起こらない。
全てを助手に押し付けると電話を切ってソファに座る。いい所でノックの音。
亜美がお茶をもって入ってきた。

「電話よかったんですか」
「聞いてた?」
「なんか邪魔したら悪いかと思って。痛い痛いとか言ってませんでした?」

本当は少し前に来ていたけど叔父さんは電話しているみたいで
先ほどの電話もあってちょっと廊下で待っていた。
仕事の邪魔かもしれないし、大野家の人かもしれないから。慎重に。

「ちょっとした打ち合わせだよ、痛いなんて言った覚えがないけど」
「あやしい」
「そんなに私の顔を覗き込むと続きがしたいのかと思うよ?」
「じゃあもっと見ちゃおう」
「いいの」
「冗談に決まってるだろーがぶん殴るぞおっさん」
「あいたっ…亜美もう殴ってる」
「すいませんついうっかり」

そう笑いながらも目の奥が笑ってないのはちょっと調子に乗って
やりすぎたからだろうか。恐る恐る肩を抱いてみたら
睨まれたが拳骨は飛んでこなかった。


おわり


2010/09/15